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【ICU初心者に寄り添う】ノルアドとバソプレシン、どちらから減らすのが良い?【敗血症性ショック】

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敗血症性ショックからの離脱期、ノルエピネフリンとバソプレシンはどちらから先に減量すべき?

敗血症性ショックの治療では、ノルエピネフリン(Norepinephrine: 以下NAd)とバソプレシン(Vasopressin: 以下VP)を併用するケースが多々ありますよね。

ところが、患者さんの血圧が安定してきて「そろそろ昇圧剤を減らしていこう」となったとき、どちらから先に減量するかは意外と悩ましい問題です。

最近の研究では、NAdを先に減量し、その後でVPを減量するほうが低血圧の発生リスクを抑えられるというデータが続々報告されています。

今回の記事では、参考文献の内容を踏まえつつ、NAd先行減量の有用性と具体的な手順のポイントについてまとめました。

研修医の先生方が「なるほど!」と思えるようなエビデンスや実際のプロトコールを紹介しますので、ぜひ最後まで読んでみてください。

1.敗血症性ショックの循環作動薬についての総論

敗血症性ショックでは、感染源コントロール十分な輸液負荷を経たうえで、NAdを第一選択として血圧維持を図るのが一般的です。

必要に応じてVPの追加やステロイド投与も検討します。

ですが、回復期になった患者さんで昇圧剤を抜いていくとき、どちらを先に減らせばよいかは施設によって方針が異なる場合もあります。

 

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2.NAd先行減量が推奨されるエビデンス

2-1.Hammondらのシステマティックレビュー・個別患者データメタアナリシス

Hammondらは、敗血症性ショックから回復しつつある患者において、NAdとVPのどちらを先に減量するかを比較したシステマティックレビューと個別患者データ(IPD)メタアナリシスを行いました<sup>1</sup>。結果は以下のとおりです。

  • NAdを先に減量した場合の方が、臨床的に有意な低血圧の発生率が有意に低下
  • オッズ比0.22(95%信頼区間0.07-0.68)と報告され、これは明らかにVP先行減量より安全性が高いことを示唆

2-2.JeonらのDOVSS試験(Prospective Randomized Trial)

Jeonらが実施したDOVSS(Discontinuation Order of Vasopressors in Septic Shock)試験では、VPとNAdのどちらを先に減量・中止するかで低血圧の発生率を比較しました<sup>2</sup>。

  • NAd先行減量群での低血圧発生率:22.5%
  • VP先行減量群での低血圧発生率:68.4%

この差は統計学的にも非常に有意(p<0.001)であり、NAdを先に減らす方が安全であるという強い根拠とされています。

2-3.Musallamらの研究

Musallamらの研究でも、NAd先行減量とVP先行減量の比較が行われ、VPを先に切ると低血圧が増えたという結果が報告されました<sup>3</sup>。

  • NAd先行減量群での低血圧発生率:28.6%
  • VP先行減量群での低血圧発生率:62.2%(p=0.004)

これらの研究を踏まえ、ガイドラインでも「NAdを先に減量し、その後にVPを減量するプロトコール」が強く推奨されています。施設ごとのプロトコールに多少の差異はあるものの、基本的な考え方としては「NAd先行減量」が主流となっています。

3.具体的な減量ステップのイメージ

では、実際にどのような流れでNAdとVPを減らしていくのか、イメージしてみましょう。これまでの参考文献を参考にしたうえでのあくまで一例ですが、以下のようなプロトコールが考えられます(各施設のプロトコールがある場合はそちらを参考にしてください)

  1. NAd先行減量を開始
    • たとえば、NAdが0.2γ(=0.2μg/kg/min)をキープしていたところから、循環動態が安定していれば0.1γに落とす
    • 数時間~半日ほど血圧や循環評価(MAP、尿量、乳酸値など)を観察し、問題がなければさらにNAdを微量に調整していく
    • 最終的にNAdがごく少量(例:0.05γ以下)になった時点で切るか、あるいはさらに慎重に微調整
  2. VPの減量をスタート
    • 通常、VPは0.02~0.04U/min程度で定率投与されることが多い
    • NAdをほぼ中止あるいは極微量にした段階で、VPを0.04U/min → 0.02U/minへ下げる
    • 数時間~半日観察して問題なければ0.01U/minまたは中止
  3. ステロイドの減量も検討
    • 敗血症性ショックの回復期にステロイド(例:ヒドロコルチゾン200mg/day相当)を投与している場合、昇圧剤をオフにできるようになった段階でステロイドも減量を検討
    • ステロイド減量方法は施設ごとに異なるため、施設プロトコールに従うことが望ましい

もちろん、患者さんの状態により調整頻度や投与量は変化します。

個人的には、ICUなどの集中治療の病床から一般病床への転床の際、バソプレシンを持続投与することに慣れていないケースも多いため嫌がられるというケースは多く経験しました…そのため、施設の状況に合わせて、循環動態がある程度安定していれば、ノルアドレナリンを残して先にバソプレシンを減らすというのも十分選択肢となりうると考えています。

重要なのは、VP先行で落とすと血圧が急降下するリスクが高いという点を常に意識することです。

4.まとめ:低血圧を回避しつつ安全に離脱する

  • NAdを先に減量することで、VPを先に減量する場合よりも明らかに低血圧の発生率が低減
  • 複数の研究(Hammondら、Jeonら、Musallamらなど)で示唆されているため、エビデンスは比較的確立している
  • ただし、患者の状態(心機能や電解質バランスなど)を見ながら、決して急激に落とさないことも大切
  • ステロイドの減量タイミングについてはガイドラインや施設の方針を参照

この記事を読んで「なるほど、NAdを先に減らすほうが安全なのね!」と思っていただければ幸いです。

ガイドラインをしっかり頭に入れつつ、実臨床では患者さん個々の状態をみながら柔軟に調整していきましょう。

 

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5.参考文献

  • Hammond DA, Sacha GL, Bissell BD, et al.
    Effects of Norepinephrine and Vasopressin Discontinuation Order in the Recovery Phase of Septic Shock: A Systematic Review and Individual Patient Data Meta-Analysis.
    Pharmacotherapy. 2019;39(5):544-552. doi:10.1002/phar.2265
  • Jeon K, Song JU, Chung CR, Yang JH, Suh GY.
    Incidence of Hypotension According to the Discontinuation Order of Vasopressors in the Management of Septic Shock: A Prospective Randomized Trial (DOVSS).
    Critical Care. 2018;22(1):131. doi:10.1186/s13054-018-2034-9
  • Musallam N, Altshuler D, Merchan C, et al.
    Evaluating Vasopressor Discontinuation Strategies in Patients With Septic Shock on Concomitant Norepinephrine and Vasopressin Infusions.
    The Annals of Pharmacotherapy. 2018;52(8):733-739. doi:10.1177/1060028018765187

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