今回の記事のターゲットは、若手医師、看護師、救命救急士などの医療従事者の方です。
みなさん、授業などでBLSやACLSについて聞いたり学んだりしたことがありますか?
特に医学生の先生方は、BLSはOSCEでも学習していることと思います。
では、その両者の違い、明確に説明できるでしょうか…?
そして、それら2つについて学ぶことのできるシミュレーションコース、ICLSは知っていますか?
ICLSのコースを受講できない病院もあるので、意外と知らない方も多いかもしれないと思い今回の記事を作成しました。
ICLSってそもそも何のこと?
BLS・ACLS・ICLSそれぞれの違いっていったい何なの?
コース受講にどんなメリットがあるの?
上記のような疑問に関して、今回は
BLS、ACLS、ICLSの概要+それぞれの受講コースとコース認定の取得メリット
を説明していきます。
日本救急医学会公認のICLSインストラクターとして日々活動させていただいている目線から、徹底的に解説させていただきました。
要点のみを先に早く知りたいという方々のために、まずは結論や要点を冒頭にまとめました。
【本記事の結論・要点まとめ】
【BLSとは】
●医療従事者でなくてもだれでも実践することができる、心肺停止の判断と蘇生行為のこと
●心肺停止症例において胸骨圧迫・人工呼吸・AEDを用いた除細動を実施する
●窒息など心肺停止の危険がある状態への介入についても学ぶ
【ACLSとは】
●BLSに加えて専門的な医療知識やスキルを用いて心肺蘇生を行うこと
●心肺停止に加えて、循環動態が不安定な不整脈をはじめとする症例への適切な介入方法も含まれる
【BLSとACLSの違い】
●BLSの受講対象は一般市民、ACLSの受講対象は医療従事者
●ACLSでは薬剤投与や気管挿管などの専門的な医療知識やスキルも合わせて学ぶ
【ICLSとは】
●ICLSは、日本救急医学会が主催する、JRCのガイドラインに準拠した医療従事者のための心肺蘇生に特化したトレーニングコース
●特に「突然の心停止に対する最初の10分間の対応と適切なチーム蘇生」を習得することを目標としている
【ICLSとACLSの違い】
●運営母体が日本かアメリカで異なる
●ICLSは心肺停止に特化した内容となっており、ACLSは不整脈など心肺停止以外の心血管系や中枢神経系の急性疾患も扱う
●ACLSの方が教育方法や指導法含めガイドラインを正確に準拠している印象がある(私見)
●ICLSの方が各施設の現状や物品、準備薬剤に応じて臨機応変に指導内容を変更しつつ実践しているところも多く、より柔軟な教育を提供している傾向がある(私見)
それぞれについて以下に詳しく説明していますので、興味がある方ぜひ最後まで読んでみていただければ幸いです。
BLSやALSなど、心肺蘇生法についてより臨床の時間軸に沿って解説した書籍を執筆させていただきました。
ガイドラインだけでは学べない、臨床現場で悩ましいポイントを徹底解説しています。
興味がある方は是非ご一読を👇
1.BLSとは?
【BLS(Basic Life Support)】
●突然に発生した心停止、あるいは心停止に至る可能性が高い
気道異物による窒息に対して、まず行われる救命処置のこと
●医療従事者に限らず、誰でも行える心肺蘇生法
①迅速・円滑な応援要請/通報
②基本的な蘇生処置(医療用具を要さない)
・気道確保 ・人工呼吸 ・胸骨圧迫
③AEDの使用
参考) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC)
BLSとは、Basic Life Supportの略称で、心肺停止または呼吸停止に対する一次救命処置のことです。
みなさんも、高校生の時や自動車学校などで実習を受けた方も多いのではないでしょうか。
専門的な器具や薬品などを使う必要のないBLSは、正しい知識と適切な処置の仕方さえ知っていれば誰でも行うことができるというのが最大の特徴です。
後述するALSは二次救命処置、ACLSは二次心肺蘇生法と呼ばれる救命処置のことであり、BLSとは違うので注意しましょう。
BLSにおける心肺停止の判断や、適切な治療介入の具体的な流れについては以下の通りです。
【BLS(一時救命処置)の方法】
1、周囲の安全を確認し、緊急通報とAED(自動除細動器)を要請します。
2、倒れている方が呼吸をしていない、あるいは正常な呼吸でない場合は、胸骨圧迫(毎分100~120回で、少なくとも圧迫の深さは5cm以上で6cmを超えないで行い、完全な胸郭の戻りを得る)から始め、30回の胸骨圧迫の後、気道確保、人工呼吸(鼻を押さえ胸が上がる程度に息を2回吹き込み)をします。
3、人工呼吸が終わったら胸骨圧迫再開で、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返します。
4、AEDがきたら、胸にパッドを装着します。ショックの必要性はAEDが判断するので、音声ガイダンスに従って使用します。
5、AEDが自己解析し、指示されれば除細動実施ボタンを押し、直ちにCPRを再開します。
6、ショック後2分のCPR後再びAEDの自己解析にしたがい、電気ショック、心肺蘇生(CPR)を繰り返します。
参考) 「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC)
ちなみに、BLSは心肺停止症例だけでなく、気道異物による窒息なども対象としています。
例えば小児が誤って異物を飲み込んで窒息してしまった場合など、心停止の危険があるケースの対応も学んでいくことになります。
救急診療の基本的な概念として、心停止に対して適切に対応できるスキルを身に着けることは非常に大切な一方で、心停止が切迫した状況に陥った患者さんを心停止させないというマインドは同じくらい重要なのです。
これを機会にぜひ覚えておいてくださいね。
最後に、BLSについて簡単にまとめてみました。
【BLSとは】
●医療従事者でなくてもだれでも実践することができる、心肺停止の判断と蘇生行為のこと
●心肺停止症例において胸骨圧迫・人工呼吸・AEDを用いた除細動を実施する
●窒息など心肺停止の危険がある状態への介入についても学ぶ
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2.ACLSとは?
【ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)】
●BLS のみでは蘇生が得られない時の二次救命処置のこと
●日常的に蘇生に従事する者が中心となって行う
高度な救命処置も含まれる
①確実な気道確保 ②心電図波形解析
③電気ショック ④静脈路確保
⑤薬剤投与 ⑥蘇生後の管理
ACLSとは、Advanced Cardiovascular Life Supportの略称で二次心肺蘇生法のことです。一般的に二次救命処置とも呼ばれます。
基本のCPR(気道確保・人工呼吸・心臓マッサージ)と共に、気管挿管などの確実な気道確保と高濃度酸素投与、電気的除細動、静脈路確保と薬物投与を主体とした手技によりなされる高度な処置です。
蘇生行為の中に、医療従事者による専門的な介入も含まれているのがBLSとの最大の違いです。
そのため、ACLS講習の対象は基本的に医療従事者となります。
また、「ACLSの対象は心肺停止患者だけではない」というのもACLSの大きな特徴です。
心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2020 (AHA:アメリカ心臓協会)には二次救命処置を適用するにあたって鍵となる原理ということで以下のように書かれています。
【心肺停止前後期】
ECCはもはや心肺停止患者のみに焦点を当てるものではない。救急医療プロバイダーは心停止状態のみに対象を狭めることは不可能である。・・・ (中略)
最初の治療者がこの心停止前後期や心停止前期の重要な時間に適切に治療を実施できれば、完全な心肺停止期状態に陥るのを防ぐことができる。
よって、ACLSでは、以下のことも学ぶ必要があります。
・急性冠症候群
・急性肺水腫、低血圧、ショック
・症状のある徐脈
・安定した、または不安定な頻脈
・急性虚血性脳卒中
・蘇生後における脈拍、調律、心機能の障害
BLSと同様に、心肺停止に陥らないよう重症症例へ適切に介入することは非常に大切なのですね。救急診療において非常に重要な、心血管系や中枢神経系の急性疾患を網羅的に学ぶことができるのがメリットです。
余談ですが、このような項目が追加されたことによってACLSが何の略称なのかが変化しています。
以前はAdvanced Cardiac(心臓) Life Supportの略称だったのですが、Advanced Cardiovascular(心血管) Life Supportの名称に変わりました。
豆知識として使ってください◎
最後に、ACLSについてと、BLSとの違いについて簡単にまとめました。
【ACLSとは】
●BLSに加えて専門的な医療知識やスキルを用いて心肺蘇生を行うこと
●心肺停止に加えて、循環動態が不安定な不整脈をはじめとする症例への適切な介入方法も含まれる
【BLSとACLSの違い】
●BLSの受講対象は一般市民、ACLSの受講対象は医療従事者
●ACLSでは薬剤投与や気管挿管などの専門的な医療知識やスキルも合わせて学ぶ
3、ICLSとは
ICLSは、日本救急医学会が主催する、JRCのガイドラインに準拠した医療従事者のための蘇生トレーニングコースです。
ICLSとはImmediate Cardiac Life Supportの頭文字を取った略語で、ACLSとの違いは心停止に即座に対応することに特化していることです。
ICLSは、特に「突然の心停止に対する最初の10分間の対応と適切なチーム蘇生」を習得することを目標としています。
講義室での講義はほとんど行わず、実技実習を中心としたコースを開催している施設が多いのが特徴です。
受講者は少人数のグループに分かれて実際に即したシミュレーション実習を繰り返し、約1日をかけて蘇生のために必要な技術や蘇生現場でのチーム医療を身につけます。
また、ICLSはILCORに準拠した、救急医学会が主催してるプロバイダーコースというのも特徴です。
ILCOR(国際蘇生連絡委員会)というのは、世界中の心肺蘇生に関するエビデンスを集めてより良いガイドラインを作成したり、各国のガイドライン作成を支援している組織です。
アジアの心肺蘇生の団体であるRCAの中にJRCは含まれ、ICLSはJRCに準拠した
日本救急医学会主催のトレーニングコースであることを再確認しておきましょう。
一定の基準を満たしたコースに対して「コース認定」を行っていて、コースの指導者(インストラクター)を養成するためのワークショップ開催や、指導者の学会認定も行っています。
コースの対象者は以下の人です。
【コース対象者】
・医師
・看護師
・救急救命士
・歯科医師
・臨床検査技師
・医学部学生
医学部学生も対象となっているので、このブログを読んでくれている勉強熱心な学生さんもぜひ受講してみてくださいね。
ここまでの解説で疑問に感じた方もいるかと思いますが、このICLSと前述したACLSは何が異なるのでしょうか?
端的に言うと、運営母体が日本かアメリカと違うこと、ICLSは心肺停止に特化した内容となっていることの2点であるといえるでしょう。
あと、ICLSインストラクターである自分の個人的な視点から見ると、ACLSのほうが教育方法や指導法含めガイドラインを正確に準拠している印象があります。
一方で、ICLSは各施設の現状や物品、準備薬剤に応じて臨機応変に指導内容を変更しつつ実践しているところも多く、より柔軟な教育を提供しているイメージがあります。
どちらのほうが優れているということは一切ありませんので、あくまでこれらの傾向があるということを知っておくとよいかもしれませんね。
最後にICLSと、ICLSとACLSの違いについて端的にまとめましたので参考にしてみてください。
【ICLSとは】
●ICLSは、日本救急医学会が主催する、JRCのガイドラインに準拠した医療従事者のための心肺蘇生に特化したトレーニングコース
●特に「突然の心停止に対する最初の10分間の対応と適切なチーム蘇生」を習得することを目標としている
【ICLSとACLSの違い】
●運営母体が日本かアメリカで異なる
●ICLSは心肺停止に特化した内容となっており、ACLSは不整脈など心肺停止以外の心血管系や中枢神経系の急性疾患も扱う
●ACLSの方が教育方法や指導法含めガイドラインを正確に準拠している印象がある(私見)
●ICLSの方が各施設の現状や物品、準備薬剤に応じて臨機応変に指導内容を変更しつつ実践しているところも多く、より柔軟な教育を提供している傾向がある(私見)
4、BLSコースとその受講メリット
BLSが必要な場面に遭遇したとき、知識があっても恐怖心からためらいを感じたり、実践することって難しいですよね。
僕も医学生の時に突然目の前で家族が倒れたという場面に遭遇したことがあるのですが、少しパニックになってしまいました。
僕が呼吸と脈を確認している間に、もう一人の家族が救急要請してくれて、とても助かったのを覚え得ています。
本当にBLSが必要な時にしっかりと実践できるよう、実技を中心としたトレーニングを繰り返し行うことで、必要な技術を身体で覚えることが大切です!
日本ACLS協会に、AHA(American Heart Association:アメリカ心臓協会)のガイドライン2015(G 2015)に準拠したコースがあります。
一般の方向け:「ハートセイバー CPR AEDコース」
医療従事者向け:「HeartCode®BLS」、「BLSプロバイダーコース」
インストラクター養成コース:「BLSインストラクターエッセンシャルコース」
BLS講習によって一次救命処置を実際に行うことのできる人口を拡大して、人工呼吸も含めたCPRやAED操作方法が普及していってほしいですね。
5、ACLSコースとその受講メリット
AHA(アメリカ心臓協会:American Heart Association)のACLSは、救命救急や循環器領域を専門とする多くの医師や看護師に不可欠な技術です。
AHA ACLSプロバイダーコースは、様々な認定医、専門医制度で必須の資格要件にもなっています。
質の高いCPR(BLS)の重要さと、一丸となって蘇生という目標に向かって活動することが強調されており、医師・歯科医師・看護師はもちろん、それ以外の医療従事者にとっても有用なコースです。
こちらも、日本ACLS協会に、AHA(American Heart Association:アメリカ心臓協会)のガイドライン2015に準拠したコースがあります。
認定医や専門医制度で使われるコース:二次救命処置ACLSプロバイダー
小児に対する二次救命処置:PALSプロバイダー
一般の方向け:ハートセイバー
インストラクター要請コース:ACLSインストラクター
自分の進路や興味にあわせてぜひ受講してみてくださいね。
6、ICLSコースとその受講メリット
ICLSコースの一般目標と行動目標は次のようになっています。
【コースの一般目標】
突然の心停止に対して最初の10分間の適切なチーム蘇生を習得する
【コースの行動目標】
・蘇生を始める必要性を判断でき、行動に移すことができる
・BLS(一次救命処置)に習熟する
・AED(自動体外式除細動器)を安全に操作できる
・心停止時の4つの心電図波形を診断できる
・除細動の適応を判断できる
・電気ショックを安全かつ確実に行なうことができる
・状況と自分の技能に応じた気道管理法を選択し実施できる
・気道が確実に確保できているかどうかを判断できる
・状況に応じて適切な薬剤を適切な方法で投与できる
・治療可能な心停止の原因を知り、原因検索を行動にできる
心停止はどの医療機関のどの部署においても起こりうるもので、いったん発生すれば蘇生を開始するまで少しの猶予もありません。
まさに「Immediate(すぐに、間髪をおかない)」な処置が必要となります。
ICLSコースでは、あらゆる医療者が身につけておくべき、蘇生の基本的事項を習得できるようになっています。
また、2021年1月から2月末にかけてのコース受講者数は2579人、累計では450208人が受講しています。
これだけ多くの医療従事者が受講しているコースなので、ぜひ興味を持った方は受講してみてください。
BLSやALSなど、心肺蘇生法についてより臨床の時間軸に沿って解説した書籍を執筆させていただきました。
ガイドラインだけでは学べない、臨床現場で悩ましいポイントを徹底解説しています。
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引用:
「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC)
日本救急医学会ICLS https://www.icls-web.com/index.html
日本ACLS協会 https://acls.or.jp/