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バンコマイシンの正しい投与量調整【トラフ値・腎機能・投与速度】

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今回は、臨床や医学の勉強をしていて感じる疑問の一つ、

グリコペプチド系抗菌薬のバンコマイシンの正しい投与量調整法についてまとめました。

これはまさに初期研修医時代に、自分自身が悩んで勉強した内容です。

おそらく、バンコマイシンを使い慣れていないすべての医師にとって役立つ内容だと思いますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

1.バンコマイシンとTDMについて

VCM バンコマイシン バンコマイシン® バンコマイシン散®

●グリコペプチド系に該当するグラム陽性菌用抗菌薬
●MRSAに対する第1選択薬
●投与時には、トラフ測定を行う必要がある

バンコマイシンはMRSAの第一選択として臨床でもよく使用されると思います。

MRSAによるカテーテル関連血流感染症(CRBSI)や術後創部感染、骨髄炎などに対して用いるケースが代表的でしょうか。その他MRSAはlate onset VAPの起因菌にもなることが多いため、肺炎の治療に用いられることもありますね。

また、Enterococcusのうちfeciumはβラクタム系の抗菌薬への感受性がないため、バンコマイシン投与が第一選択となります。

薬剤初期投与量については成書を読むと書いてある一方で、そのあとの調整については悩ましいことも多いです。

そんな時に有用なのがTDM測定です。以下、TDMガイドラインのうち重要だと感じた要点をまとめました。

4日以上バンコマイシン(VCM)治療を行う可能性のある場合にTDMを実施する

VCM 高用量投与例、重症感染症例、腎機能障害例(透析も含む)、肥満または低体重患者、分布容積が予測困難な特殊病態症例では当初よりTDMを計画する

すなわち、MRSA保菌者の術前抗菌薬として単回投与する場合など、すべてのバンコマイシン投与例に関してトラフ値測定やTDMを実施する必要はないということです。

まずこの点を勘違いしている方が多いので、注意しておきましょう。

2.トラフ値を参考にした投与計画

●バンコマイシン投与下でのTDMが必要な症例ではトラフ値を測定する
※ルーチンでのピーク値測定は推奨しない

●腎機能正常で 1 日 2 回投与の場合、定常状態に達していると考えられる4-5 回投与直前(3日目)にTDMを行う

●腎機能低下時には半減期延長 により3日目でも定常状態に達していない症例があり、トラフ値過小評価の危険性を考慮する

初回TDM後は1週間に1回のTDM実施を推奨

●トラフ値は投与前30分以内に採血を実施。Cpeakを測定する場合には、組織分布が完了した時点における血中濃度とし、点滴終了後1-2時間で採血を行う

目標トラフ値は10-20 µg/mLに設定する

※トラフ値20 µg/mL以上は腎毒性の発現が高率

●菌血症、心内膜炎、骨髄炎、髄膜炎、肺炎(院内肺炎、医療・介護関連肺炎)、 重症皮膚軟部組織感染において、良好な臨床効果を得るためのトラフ値は 15-20 µg/mLを推奨

バンコマイシンの投与計画に関連するトラフ値の要点を上にまとめました。

ポイントとしては測定するタイミングと、目標トラフ値の設計でしょう。

私自身が普段診療にあたっている想定症例としては、ICU入室中の敗血症症例といった重症例であることが多いため、基本的には15-20 µg/mLで設計することが多いです。

そして、トラフ値や腎機能を参考にしつつ、腎障害の懸念があれば早期に感受性結果を参考にしつつテイコプラニンなどの他の抗菌薬への変更が必要になる場合もありますので、尿量の推移や日々の採血結果はしっかりと確認しておきましょう。

また、血液透析中の症例の場合は、トラフ値15-20µg/mLを達成するために、次の透析が1日後なら15mg/kg、2日後なら25mg/kg、3日後なら35mg/kgを投与することを検討します4)。

3.バンコマイシンの初期投与量

●初期投与設計(投与方法;投与量、投与間隔)腎機能正常例においては

1 回 15-20 mg/kg(実測体重)を 12 時間毎に投与

基本的に1 日 4gを上限とし、血中濃度の観点からも持続投与は推奨されていないことに注意しましょう。

【Vancomycin infusion reactionに注意!】

バンコマイシンを急速投与すると、ヒスタミン遊離によって頚部、顔面、躯幹皮膚の血管拡張による発赤、掻痒と低血圧が惹起されることがあります。

これはVancomycin infusion reactionと呼ばれるバンコマイシン急速投与に伴う副作用のひとつです。

なお、以前呼ばれていたレッドマン症候群や、レッドネック症候群と呼ぶことは近年は避けられる傾向にあるので、知っておくとよいかと思います(2023.7.23に読者の方にご指摘いただき修正加筆  Up To Date 参照)

Vancomycin infusion reactionを回避するために、1gでは点滴時間は1時間を超える必要があり、それ以上使用時には500 mgあたり30分以上を目安に投与時間を延長するようにしましょう。

トラフ値 15-20 µg/mLを目標値とした場合の安全性に関する報告は限られておりますので、状態が安定している患者さんの初回投与は、通常投与量、またはトラフ値10-15 µg/mLを目標とした投与設計にて行うのが無難かもしれません。

重篤な感染症や前述の複雑性感染の場合は、15-20 µg/mLを狙った 投与設計が必要なこともありますが、患者状態の腎機能状態を十分把握し、腎毒性のリスクをふまえて投与量を決定することが大切です。

また、重篤な感染症や前述の複雑性感染症の場合は、早期に治療域まで血中濃度を上げるため、初回のみローディングドーズ 25-30 mg/kgで投与することも考慮されます。

4.引用文献

1)日本化学療法学会抗菌薬 TDM ガイドライン作成委員会編 抗菌薬TDMガイドライン Executive summary

2) 公益社団法人日本化学療法学会 一般社団法人日本TDM学会編 抗菌薬TDMガイドライン2016

3)サンフォード感染症治療ガイド2020

4)CID2011 15;53(2):124-9

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