入院患者さんが突然頻脈性不整脈に…これって…VT?
失神で搬送されたこの患者さん、この心電図で帰宅させていいのかな…?
救急科専攻医である私が普段ERやICUでの勤務中に感じることは、心電図の所見によって治療方針やdispositionが変わることが往々にしてあるということです。
治療方針を変える手がかりとなる、大切な検査のうちの一つである心電図検査からの所見。
しかし、心電図の読影は個人的にも決して得意分野ではなく、心電図の読影を“体系的に学ぶ”機会を得ることができたのは、循環器内科ローテーションの期間だけです。
治療方針を左右することもある心電図ですから、改めてしっかりと学び知識をアップデートしたいと思い、私は医師4年目の冬に心電図検定2級を受験しました。
私自身の体験談を踏まえ、心電図検定2級を若手医師が習得することのメリットや、具体的な勉強方法を紹介させていただきます。
この記事を執筆するにあたって、様々な心電図検定の勉強法について記された記事を読んでみました。
しかし医師以外のスタッフの方々の勉強法であったり、医学生や初期研修医の記事がほとんどでした。
専攻医の立場で受験する人はかなり稀なのかもしれません。
そのため、“非循環器内科の専攻医の目線”から書かれた勉強方法は、“医師としての考え方・見え方”を反映させてお伝えできると思い、需要があるのではないかと思いこの記事を執筆してみることにしました。
心電図検定2級を受けようか迷われている先生方や、心電図検定2級に興味をお持ちの先生方の役に立てば幸いです。
1.心電図検定とは?2級の受験資格・難易度とは
医療系のSNSを見ていると、頻繁に登場する心電図検定という単語。
普段の職場の同期やスタッフから心電図検定について聞いたことがなかったので、私自身がその存在を知ったのもSNSでした。
最近こそ知名度も上がってきたものの、まだまだ広くは知られていない心電図検定。
まずは、心電図検定と、それぞれの級の難易度について簡単に解説していきたいと思います。
心電図検定は、日本不整脈心電学会によって、一年に一回実施されており、難易度は1〜4級まで準備されています。
そのコンセプトは、「心電図を学ぶ機会と喜びを分かち合う場を作る」という事です。
検定内容は“心電図を正確に判読する能力“ということなので、心電図検定の勉強をすることで心電図の判読精度を向上させることが期待できます。
普段の診察の際も役に立つ知識を得ることができる、実務上のメリットが大きく見込まれる資格と言えるかと思います。
以下が各級の難易度、ターゲット層についてです。
心電図検定4級
心電図の基礎的な判読力を有するもの
循環器勤務数年のメディカルプロフェッショナル、心電図に興味のある医学生など
心電図検定3級
心電図の基礎〜中等度の判読力を有するもの
一般臨床医、循環器勤務メディカルプロフェッショナル
心電図検定2級
心電図の中等度~高度な判読力を有するもの
一般循環器医、循環器勤務ベテランメディカルプロフェッショナル
心電図検定1級
心電図の高度な判読力を有するもの
循環器専門医、心電図に深く精通したメディカルプロフェッショナル
【日本不整脈心電学会公式HPより】
2.心電図検定2級を受けたきっかけ
先ほど述べた通り、私は医師4年目の冬に心電図検定2級を受験し合格しました。まずは、私が心電図検定2級を受けたきっかけについてお話しさせていただければと思います。
私自身、普段の診療の際、心電図の所見の解釈に悩むことが多く自分なりのアセスメントが不十分なまま専門科にコンサルトする機会が何度かありました。
加えて、自分の力不足を感じる機会がありました。
例えば、心筋梗塞を疑う重症患者さんが搬送され、バイタルサインが不安定なとき、救急科専攻医である私はABCの安定に特化しつつ専門科の先生にすぐにコンサルトすることになります。
しかし、「コンサルトしている間にも判読が十分にできれば、先回りの準備ができるのではないか」と後悔したことがあったのです。
そのような経験から、心電図についていろいろと書籍を集めていざ勉強しようとしましたが、その範囲は膨大であり、日々の業務に忙殺された状態では緊張感をもって学ぶことができませんでした…。
そんなとき、これまでUSMLEやFP3級などの資格試験のための学習をしてきたことをふと思い出しました。
試験勉強中は、あらゆる隙間時間を使って効率よく集中して学ぶことができていたのでした。
私の性格上、“ある程度追い込まれなければ本腰を入れて勉強することはできない”と感じたため、心電図検定を受験することを決意しました。
とはいえ、先ほど上で説明したように調べてみると心電図検定1級はかなりの勉強時間が必要で、当時業務が忙しかったため、まずは2級を受験してみることにしました。
資格試験を通じて体系的に物事を学ぶのが私は好きです。FPについて興味がある方はこちらの記事を参考にしてみてください👇
3.具体的な勉強期間・勉強方法
様々な心電図検定の勉強法について記された記事を読んでみましたが、医師以外のスタッフの方々の勉強法や医学生や初期研修医の記事がほとんどでした。
専攻医の立場で受験する人はかなり稀なのかもしれません。
だからこそ、専門医の立場で受験した私の経験が参考になれば嬉しく思います。
心電図検定の準備にあてよう、と思っていた勉強時間は1か月でしたが、かなり他のタスクに追い込まれてしまったため、結局は3週間程度となりました。
一方、忙しいとはいえ、直前の詰め込みで勉強して合格しても意味がないと思い、ある程度余裕をもって勉強できる期間を設定しました。
というのも、“最終目標は今後の人生に役立つ知識をしっかりと学んで、行える診断・医療の質の向上に役立てること”であり“資格を習得することだけに特化しても意味はない”という思いがあったからです。
心電図に関しては、今までの知識や臨床経験からある程度基礎的な内容は理解できていると思っていました。
そのため、合格のためにはまずは公式の問題集を繰り返し解いて、間違えた内容やわからない知識に関しては専門書で解説を読んで知識を埋めていく方針としました。
様々な方々の合格体験記を見ていると、医学生など心電図の基礎に関してもまだ不安のある方は、入門書から読み進めるのが良いかと思いました。
参考までに、私が心電図の入門書として最もおすすめの一冊を紹介した記事をはっておきますので、チェックしてみてください👇
①メインの問題集『改訂3版 心電図検定公式問題集&ガイド』
どの勉強法の記事を読んでも必ず一番おすすめされている一冊です。
実際、会場でもこの本を持っている人が大多数でした。
何といっても学会の公式問題集なので、心電図検定の概要や問題の難易度をつかむのにはうってつけと言えます。
基本的には、この一冊を完全に理解したうえで、周辺知識を肉付けしていくというのが最もオーソドックスな学習方法でしょう。
【基本情報】
タイトル:心電図検定公式問題集&ガイド
著者:日本不整脈心電学会・心電図検定委員会
出版社:メディカ出版
発行年月日:2018/4/5
【ターゲット層】心電図検定を受ける医師・医療関係者
【推定読了期間】10時間程度
②専門書『心電図の読み方パーフェクトマニュアル』
次は専門書の紹介です。
様々な記事を読んだうえで、ほとんどすべての記事でおすすめされていたのがこの一冊です。たくさんの実物大心電図を見ながら、診断のポイントと不整脈の原因について学ぶことができます。
私自身、心電図の電気生理学的な知識はほとんど学生時代で抜け落ちてしまったため(そもそも学習していなかったのかもしれませんが…)、なぜ脚ブロックがこのような形になるのか、電気軸の概念など含め基本的な知識が曖昧になっていました。
心電図の判読は経験上慣れてきたけど、私と同じように基本が曖昧になっている方々も多いのではないでしょうか。
そのような原理・基本については、この本の総論を読むことで自分の知識がかなり整理されたと感じました。
またこの本では、基本の波形から様々な病態が複合的に絡み合ったことで生じる応用の心電図波形まで紹介されているので、とても勉強になります。
一方で、かなりのボリュームであるため通読するというよりは、公式問題集で学習する中でわからない問題や波形について調べる辞書として用いる方が効率がよいかもしれません。
1級は受験したことがないのでわかりませんが、2級に限っていえばこの本と公式問題集をそろえるだけで医学書は十分だと感じました。
【基本情報】
タイトル:心電図の読み方パーフェクトマニュアル
著者: 渡辺重行
出版社:羊土社
発行年月日:2017/6/5
【ターゲット層】心電図についての知識を原理から知りたい人・実践的な症例ベースの心電図を勉強したい人
【推定読了期間】12時間程度
③Youtube『心電図マイスターチャンネル』
今回の学習にあたり、移動時間やお風呂の時間に視聴させていただいたYoutube学習教材の中でも、特におすすめの2つのチャンネルを紹介させていただきます。
1つ目が心電図マイスターチャンネルです。
心電図マイスターを習得されている循環器内科医の先生によるチャンネルで、心電図検定に特化したチャンネルとなっています。
心電図検定を勉強し始めた方は、一度は見たことがあるのではないでしょうか。
このチャンネルで個人的に特におすすめなのが、心電図ドリルや復元問題です。
特に、高度な知識を求められる1級を受験したいと思っている方々にとっては非常に有益な動画だと感じました。
私自身は、今回は2級の受験であったため視聴していない動画も多くあるのですが、今後もし1級を受験する場合には大いに参考にさせて頂きたい内容だと感じました。
④Youtube『Dr. Kihei Yoneyama心臓のお医者さん』
Dr. Kihei Yoneyama心臓のお医者さん – YouTube
2つ目が「Dr. Kihei Yoneyama心臓のお医者さんチャンネル」です。
循環器内科専門医の、実臨床での思考回路を言語化しつつ、初期研修医とたくさんの心電図を判読していく動画がたくさんアップロードされています。
どの心電図の動画もおすすめなのですが、中でも「心電図検定対策の前編・後編」ではひたすらたくさんの心電図を読み進めていく4時間となっているので、心電図判読の実践を積みたい方には特におすすめです。
私は外勤バイトに送迎してもらう移動時間はこの動画を見ると決めて、ひたすら学習に充てていました。
やはり、外勤に送迎してもらえるというのは時間的なメリットが非常に高いと感じた瞬間でした…
若手医師が外勤バイトを始める際に確認しておくべきことに関してまとめています👇
それはさておき、この動画では早期再分極やwide QRSの頻脈のVTの見抜き方など、実践的な動画もたくさん投稿されています。
講義してくださる先生も非常にポジティブで話も面白いので、興味がある方はぜひ見てみてくださいね。
4.受験日当日に必要なもの・受験結果
受験会場は全国の主要な都道府県で開催されています。自分の住んでいるところから直近の会場は例年どこになっているか確認しておき、移動時間を確認しておきましょう。
おすすめする準備物品はこちらです。
1.ディバイダー
2.定規
3.筆記用具
4.時計
5.上着
6.飲み物など
なお禁止されているものは、スマホ、心電図スケールです。
中でも、設問によってはマス目が薄くなっているものもありましたので、客観的に心拍数やPQ間隔を評価しやすいディバイダーは持参しておくことをおすすめします(個人的に体感では1-2割程度の問題はマス目が見にくいと感じました)。
受験して感じたのは、受験生は私と同年代の20代後半が多いなということでした。
余談ですが、皆さん私服で受験されていたので職種はわかりませんが、心電図について真剣に学んだ医療従事者が自分の住む地域にもこんなにたくさんいるのだと思い、少し感動したことを覚えています。
試験の時間は90分でした。体感的には焦らず解いても半分くらいは時間が余ったので、勉強の時に時間を意識して問題を解く必要はなかったと感じました。
手ごたえとしては、50問あるうちの6-7割は確実に正答したと感じた問題があり、残りは2択で迷ったという感触です。
結果発表は、まずはオンラインで公開され約1か月後でした。その1か月後に郵送で合格通知とバッジが届きました。結果はAランク(9割以上)の得点率でした。
嬉しいことに、バッチがハート型(心臓)で可愛いです笑
5.心電図検定2級取得後、今感じているメリット
心電図について体系的に、緊張感をもって学習できることが一番のメリットだと感じました。
初期研修や後期研修中は、何かと時間がないことを言い訳に日々の業務に直結する医学以外の自己研鑽をさぼりがちになりますよね。
しかし、資格試験のようにタイムリミットや目標があるほうが個人的にはしっかり勉強ができるため、今回の心電図試験を受けたことで心電図についての体系的な学びを得ることができ、良かったと思います。
実臨床でも、これまでなら漠然とした理由で済ませていた心電図所見も、しっかりと根拠を持って判読できるようになったと実感できています。
個人的には、AVRTとAVNRTを見分けることができて、コンサルした後循環器内科の上級医に「よくわかったね!」とほめてもらえたのがうれしかったです。
まとめ
今回は、“専攻医が取得して感じた心電図検定2級のメリットと勉強法”について、心電図検定2級を受けようか迷っている先生方や、心電図検定2興味がある先生方に向けて解説しました。
この記事を読み、先生方の心電図の勉強をする機会に繋がり、ひいては医療の質の向上につながれば、一人の医師として非常に嬉しく思います。
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