今回は
薬剤熱を疑うべき特徴は?
という疑問についてまとめました。
発熱の鑑別として常に考えておかないといけないにもかかわらず、意外と忘れがちな薬剤熱…
発熱の鑑別に有名な、熱型や比較的三原則、皮疹について、実際にはどれほどの相関があるのでしょうか?
1.ポイント
比較的徐脈
比較的元気
比較的CRP低値●薬剤熱の熱型や、内服後の発熱のタイミングは様々(平均は8.7日程度)
(ただし、24時間以内に解熱する場合もある1]2])●皮疹があれば薬剤熱の可能性が高まる(ないからといって否定はできない)3]
●薬剤熱において感度および特異度の高い検査値・検査所見は存在せず、薬剤中止後の解熱をもって診断確定となる1]2]
2.解説
今回の要点は上記のまとめの通りですが、以下解説をさせていただければと思います。
そもそも薬剤熱とは、薬剤により引き起こされる発熱のことであると定義されます。
特異的な所見がないため診断が難しく、原因と思われる薬剤の中止により解熱した場合に薬剤熱と考えますので、薬剤熱を疑った時には、まずは不要な薬剤を中止して、解熱するかどうか経過を見るのが妥当な対応でしょう。
薬剤熱をきたしやすい薬剤について知っておくことで、より選択的に休薬する薬剤を選ぶことができます👇
鑑別のために行う検査所見では、末梢血白血球、ESR、CRPなどの炎症反応検査が上昇をみることもあります。
ここで、発熱の鑑別を考える上で薬剤熱の特徴として有名な、比較的三原則を見てみましょう。
比較的徐脈: 発熱に対して脈拍が相対的に低い状態を指し、薬剤熱の一つの特徴といわれます4]。
比較的元気: 高熱があっても全身状態は良好なことが多いです。
比較的CRP低値: ただし、当てはまらない症例も多いと報告されています(興味がある方は以下の記事を参考にしてみてください)。

また、薬剤熱の熱型や、内服後の発熱のタイミングは様々ですが、
平均は8.7日程度といわれています。一方で、薬剤中止後24時間以内に解熱することが多いという報告もあります1]2]。
さらに、皮疹があれば薬剤熱の可能性が高まるといわれますが3]、ないからといって否定はできないので注意が必要です。
このように判断に悩むことの多い薬剤熱ですが、下記のように症例報告のレビューからも、典型的な熱型や皮疹の有無だけで診断を行うことは難しいとされています5]。
薬剤熱について体系的な分析が行われていないため、この臨床症状について公表されている特徴の妥当性を検証する手段がなかった。
1959年から1986年の間にダラスの2つの病院に入院した45人の患者の51エピソード、および1966年から1986年の間に英語文献に報告された97エピソードの臨床的特徴をレビューした。
【結果】
●少数の症例では相対的徐脈が認められた。
●特徴的な発熱パターンは見られなかった
●薬物治療開始から発熱までのラグタイムは大きく変化した
●発疹や好酸球症との関連はまれであった
●薬物熱と全身性エリテマトーデス、アトピー、女性の性、または高齢との関連は明らかではなかった
結局は、薬剤熱において感度および特異度の高い検査値・検査所見は存在せず、薬剤中止後の解熱をもって診断確定となるというのが結論になります。
常に感染症との鑑別を考えながら診断を行っていくということですね。
薬剤熱はあくまで除外診断であると心得ましょう◎
3.引用、参考文献
(1) Official American Thoracic Society/Centers for Disease Control and Prevention/Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guidelines: Treatment of Drug-Susceptible Tuberculosis.
Nahid P, Dorman SE, Alipanah N, et al.
Clinical Infectious Diseases. 2016;63(7):e147-e195. doi:10.1093/cid/ciw376.
(2) Drug Fever.
Patel RA, Gallagher JC.
Pharmacotherapy. 2010;30(1):57-69. doi:10.1592/phco.30.1.57.
(3) Drug Fever.
Johnson DH, Cunha BA.
Infect Dis Clin North Am. 1996;10(1):85-91. doi:10.1016/s0891-5520(05)70287-7.
(4) A Retrospective Analysis of Drug Fever Diagnosed During Infectious Disease Consultation.
Yaita K, Sakai Y, Masunaga K, Watanabe H.
Intern Med. 2016;55(6):605-8. doi:10.2169/internalmedicine.55.5740.
(5) Drug fever: a critical appraisal of conventional concepts. An analysis of 51 episodes in two Dallas hospitals and 97 episodes reported in the English literature.
Mackowiak PA, LeMaistre CF, Schuhardt VT, et al.
Ann Intern Med. 1987 May.
(6) 医学書院 第2792号 レジデントのための日々の疑問に答える感染症入門セミナー〔 第5回 〕原因不明の発熱が持続するとき:特に薬剤熱の考えかた
大野博司
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