【疑問】
今回は、臨床や医学の勉強をしていて感じる疑問の一つ、
どうして糖尿病になると発癌リスクが高くなるのか?
についてまとめました。
当たり前だと感じていることの一つではありますが、後輩に聞かれると意外と答えられない質問の1つではないでしょうか?
1.糖尿病患者さんと日本人一般の平均寿命
●糖尿病患者の死因は日本人一般の死因に比べて脳血管疾患と心疾患、悪性新生物(癌)の比率が高い
まず糖尿病患者と日本人一般の平均寿命について考えます。
日本人の平均寿命はどんどん長くなってきている一方で、同様に糖尿病患者の平均寿命も医学の進歩によってどんどん延びて来ています。
しかし、いつの時代でも変わらず、男女ともに糖尿病患者では約10歳平均寿命が短いことがよく知られています。この原因は、糖尿病患者は種々の合併症によって早死にであることがひとつでありますが、日本人一般に比べてその死因に癌の比率が高いことが疫学研究でわかってきました。
虚血性心疾患と脳卒中の合併が糖尿病で増えることは容易に想像できるのですが、死因割合では糖尿病患者において癌の増加のほうが、大きく寄与することがわかっています。
日本人の一般平均寿命と糖尿病患者の平均死亡時年齢
引用)国民衛生の動向・厚生指針 1981, 1991, 2001
2.糖尿病と発癌リスク
世界における糖尿病の癌罹患リスクについての研究を統合した解析によると、
大腸、肝臓、膵臓、乳房、子宮体における癌のリスクは増大することがわかっています。
一方、前立腺がんについては発癌のリスクが下がっていることがわかっています。
糖尿病と癌罹患リスク-世界における複数の研究を統合した解析
Lancet. 2010 Jun 26;375(9733):2201-2.
3.どうして糖尿病になると発癌リスクが高くなるのか?
さて、いよいよ今回の記事のメインテーマについてです。
発癌リスクの上昇についてのシェーマを用いて解説したいと思います。
引用)下瀬川 徹: 医学のあゆみ, 237(7) 675-678, 2011
まず、インスリン抵抗性が増大すると、糖尿病を発症し高インスリン状態となります。
そして肥満を伴う糖尿病では、高インスリン血症を呈する期間が病初期に続きます。
高インスリン血症は直接的に、またIGF結合タンパクの産生を強力に抑制することによって血中の活性型遊離IGF1を増加させることによって、細胞増殖を促し、膵癌の発生に影響していると考えられています。
1)血中インスリン濃度の高値
2型糖尿病では、インスリン抵抗性増加に伴う血中のインスリン濃度の上昇があり、血中の過剰なインスリンは発癌に関与する可能性がある。治療に伴うインスリン投与は発癌リスクを上昇させない。
2)血糖値の高値
高血糖そのものによる酸化ストレスが発癌に関与する。
3)炎症
2型糖尿病では、無症状だが全身に慢性的な炎症が起きており、発癌のリスクとなる。
4.参考医学ノート
みなさまのリアクションが今後の記事を書くモチベーションになります!