学習

【ER 初心者に寄り添う】ピットフォールの多い 急性アルコール中毒

【対象のおすすめ読者】
ICUローテ中の研修医の先生方
ICUやHCUなど急性期病棟で勤務する看護師の皆さま
集中治療ローテ中の専攻医の先生方

これらの方々には、ぜひ読んでいただきたい内容です。明日から実践できるアクションプラン看護師さん向けのコラムもありますので、最後までお付き合いくださいね!

急性アルコール中毒は罠がたくさん!

「国家試験では学ぶ機会が少ないのに、働き出すと意外と多く遭遇する…」

そんな代表的な病態のひとつが急性アルコール中毒です。救急やICU、HCUの現場では、意識障害の原因として“まずは除外しておきたい”存在でもありますし、合併する外傷や精神疾患など多面的に注意が必要です。

本記事では様々な知見を踏まえながら、急性アルコール中毒のポイントをわかりやすくまとめてみました。毎日のケアや診療にぜひお役立ていただければと思います。

1.ポイント

  • 意識障害の原因としての急性アルコール中毒はあくまで除外診断
  • 血中濃度200mg/dL以下の場合は他の意識障害の原因を検索
  • 外傷検索は必須。特に脊椎損傷に注意!

実際にはアルコール臭の有無だけで油断してしまい、他の意識障害を見逃すケースがあるのも事実です。「アルコール中毒かも…」という疑いで終わらせず、他の重大な疾患や外傷合併を念頭に置いてアセスメントしましょう。

2.疫学

1日5合を10年間以上飲酒する場合は大酒家と呼ばれ、日本国内では200万人以上いると推定されています。もっとも、個人差は大きく、一般的な教科書では1日1合(またはビール大瓶1本)が適量とされることが多いです。

【論文引用】
暴言・暴力などの迷惑行為のあった16例のうち14例は男性であり、平均年齢は36.2±17.4歳と若く、血中エタノール濃度は253.9±85.3mg/dLと高い傾向にあった。急性アルコール中毒は時として重大な転帰をたどることもあり、また、医療従事者にも被害を及ぼすことのある病態である。日常的に多く遭遇する症例であり、適切な対処を院内共通の認識とする必要がある。

このように高血中エタノール濃度を示す若い患者さんも多く、行動の制御がきかない状態から暴力などが問題化することもあります。

3.症状

★アルコール依存症らしい3つの所見

  • アルコール臭
  • 嘔吐
  • 眼球結膜充血

これらがそろわない意識障害例では、急性アルコール中毒以外の原因を考え直す必要があります。
一方で、大量飲酒後であっても嘔吐などを認めない方もおり、症状だけで断定するのは危険です。

4.原因

  • 多量飲酒をする飲み会があった(特に12月、3月は多い傾向)
  • 背景に精神疾患があることも多い(アルコール依存症・薬物依存症・うつ病など)

実際に急性アルコール中毒をきっかけに、うつ病や自殺企図が発覚するケースもあるので、精神科的評価を視野に入れておくとよいでしょう。

5.除外診断・注意すべき合併症

  • 低血糖
  • ビタミンB1欠乏
  • アルコール性ケトアシドーシス(AKA)
  • 肝性脳症
  • 頭部外傷
  • 頸椎損傷
  • 細菌性髄膜炎
  • 大酒家突然死症候群

AKAはアルコール関連で救急外来に受診する患者の約13%に隠れているとも言われ(5)、AG開大性代謝性アシドーシスがあれば尿ケトンが陰性でも血中ケトン体測定を考慮します。

また、大酒家突然死症候群は平均52歳で発症し、原因として肝不全や消化管出血、ビタミンB1欠乏、AKA、交通事故・外傷などが挙げられます。

6.問診・診察のポイント

  • 飲酒歴の聴取は必須!
    大酒家は飲酒量をごまかすこともあり、家族や友人からの情報収集が大切です。アルコール多飲かどうかでビタミン投与など治療方針が大きく変わることも。
  • アルコール関連の外傷を慎重に対応!
    意識障害のため頸椎損傷などが見落とされやすいので、疑わしい場合はネックカラー固定を行いましょう。
  • 項部正中の圧痛と麻痺を必ずチェック
    アルコール関連の転倒は頸椎損傷のリスクが高いため、触診と神経症状確認は徹底してください。
  • うつ病の併発確認
    教科書的には自殺企図の有無を必ず問診し、カルテに記載することが推奨されています。
  • 意識障害の評価は時間経過を意識しながら何度も行う
    外傷とアルコール依存症による意識障害の鑑別には、GCSのEyeスコアや繰り返しの神経学的観察が有用とする報告もあります。

7.検査

【推定アルコール血中濃度】

浸透圧ギャップ×4.6
=(実際の浸透圧-計算上の浸透圧)×4.6
  • 血中濃度が**>400mg/dL**の場合、再発・再搬送率(約25%)が高く、薬剤併用の可能性も含め注意が必要
  • 数値はあくまで目安であり、他の薬物影響を常に考慮しましょう

8.治療

  • 脱水所見があれば外液投与
  • ビタミンB1投与を忘れずに
  • アルコール大量飲酒ではビタミン欠乏が多いため、意識障害の背景にウェルニッケ脳症が潜む可能性も考慮します。

明日から実践できるアクションプラン(まとめ)

  1. 急性アルコール中毒を常に除外診断として考える
    • 意識障害すべてをアルコールのせいにせず、合併症や他疾患を広く疑う姿勢を持つ。
  2. 外傷チェックを徹底
    • 頸椎損傷や頭部外傷の可能性を見逃さないよう、ネックカラー固定や画像検査を積極的に。
  3. ビタミンB1の早期投与を検討
    • 重症例や長期飲酒歴がある場合は特に、ウェルニッケ脳症対策のためビタミンB1を優先。
  4. 再発予防や社会資源の活用も視野に
    • 背景にうつ病や薬物依存があるなら、精神科連携やソーシャルワークを通じてサポートを検討。

看護師さん向けコラム:明日から実践できるポイント

  1. アルコール臭だけに頼らない観察
    • 「飲んでいない」と言い張る患者さんでも、実は飲酒歴ありというケースは珍しくありません。周囲からの情報収集も欠かさずに。
  2. 転倒や外傷のリスクを常に念頭に
    • 「ちょっと酔っているだけ」と思っていたら頸椎損傷を見落としていた…という事がないよう、まずは安全確保を優先しましょう。
  3. 意識レベルの変化はこまめにチェック
    • 急激な意識悪化は低血糖や頭部外傷、他の中枢神経疾患が隠れている可能性も。定期的な声かけと神経学的所見の観察が大切です。
  4. 暴言や暴力対応はチームで連携
    • 医療従事者への被害リスクもあるため、病棟全体で情報共有を。安全管理マニュアルや警備の協力体制を整備しておきましょう。

9.引用・参考文献

  1. Ann Epidemiol. 2005 Sep;15(8):590-7
  2. 【ストレス関連疾患の合併症状】うつ病の除外診断と併存疾患(解説/特集)
    Author:竹内 武昭
    Source: 心身医学 (0385-0307)60巻1号 Page44-49(2020.01)
  3. Arukoru Kenkyuto Yakubutu Ison.1993 Jun;28(3):95-119
  4. ERに搬入された急性アルコール中毒患者の検討(原著論文)
    Author:田中 拓
    Source: 日本臨床救急医学会雑誌 (1345-0581)18巻4号 Page585-590(2015.08)
  5. 急性アルコール中毒の臨床的特徴とエタノール血中濃度の推定(原著論文)
    Author:上田 剛士
    Source: 洛和会病院医学雑誌 (1341-1845)25巻 Page45-49(2014.08)
  6. Afshar M1. Injured patients with very high blood alcohol concentrations.
    Injury. 2016 Jan;47(1):83-8. doi: 10.1016/j.injury.2015.10.063. Epub 2015 Oct 31.
    PMID: 26556488
  7. 「それって本当に急性アルコール中毒?」FBグループ三銃士 公開スライド

 

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