救急外来での診察で避けては通れない外傷患者さんへの対応についてまとめます。
今回は、外傷患者の気道(A)・呼吸(B)への評価と介入についてです。
日本の外傷診療のスタンダードである、JATECのガイドラインを中心に論文や公開されている教育スライドを用いて解説していきます。
JATECコースは、外傷診療に必要な知識と救急処置を、模擬診療を介して学習いただくトレーニングコースのこと。
JTCR(日本外傷診療研究機構)では、「外傷初期診療ガイドライン」で示した標準的な診療が実践できるよう「JATECコース」を開催しています。
1.まず外傷全般において大切なこと
●JATECの基本に沿った、ABCDEアプローチが何よりも最優先される。
A:airway
B:breathing
C:circulation
D:disfunction of CNS
E:Exposure and environmental control
●救急隊からの連絡はMISTに沿って聴取
M:mechanism
I:injury
S:sign
T:treatment
●外傷診療の基本 必ずこの3つの観点に分けて
内因的疾患・症候⇒外傷⇒主訴以外の部位・主訴・生理学的変化
外傷診療においては、まず何よりもABCDEアプローチが最優先されます。
これは、外傷患者に致死的なバイタルの変化が起きていないかを素早く正確に評価する方法で、Primary Surveyとも呼ばれることがあります。
救急隊からの連絡については、上記のMISTを中心に情報収集します。
特にバイタルに変化をきたすような症状や所見がないかを聴取します。
墜落外傷、ハンドル外傷などエピソードで重症外傷と推察されるキーワードは聞き逃さないようにすべきです。
※救急隊からの現場での情報は大変有用ですが、搬送中に状態が変わることも往々にしてあるので参考にしつつも鵜呑みにはしないようにしましょう。
最後に、外傷患者さんを診療していると外傷部位にばかり目が行きますが、そもそもなぜこの部位を受受傷したのか、内因性の原因がないかも念頭に置いて診察をしていきましょう。
2.循環(C)
●評価項目と方法はSHOCK&FIX-Cで暗記
●Cの問題があれば初期輸液は急いで細胞外液2Lを投与開始。
※ここでBP安定すればtransiet-responder。輸血で安定するのはnon-responder
※初期輸液のアルブミン製剤は予後を悪くする(BMJ,316:961-964, 1998)
※生理食塩水の高クロール性アシドーシスに注意
●しかし、積極的な大量輸液は希釈性凝固異常をきたしむしろ出血を助長することも
●基本的に1Lの輸液に反応がなければ以下を考慮
・輸血
・挿管
・止血の確認(外出血はないか?)
3.血圧の概算方法
●脈の触知による収縮期血圧推定はあくまでも参考値
橈骨A:80mmHg以上
大腿A:70mmHg以上
頸A:60mmHg以上
●小児の正常血圧下限は70+(年齢×2)mmHgで概算
4.permissive hypotensionとは?
低血圧をきょゆするという概念のこと。
特に穿通外傷の際には、橈骨動脈が振れる限りにおいては積極的な輸血を控えるほうが良いとの報告も
(Lancet,357:385-387,2001)
5.頻脈じゃない≠循環安定
●出血多量でも頻脈にならない!注意すべき患者さんの特徴
・妊婦
・高齢者
・スポーツ選手
・低体温
・βブロッカー内服
6.輸血の適応について
●輸血のリスク評価(Baker,J.B Type and crossmatch of the trauma patient. J Trauma,50:878-881,2001)
①sBP90mmHg未満(RR:6.07)
②HR120bpm以上(RR:2.05)
③GCS8≦(RR:3.25)
④ハイリスク患者群(鎖骨中線より内側の胸部外傷、びまん性圧痛を伴う腹部外傷、同乗者の死亡、車外に放り出された、体幹への刺創・銃創)(RR:3.12)
【輸血必要性のスコアリング(参考に)】
Trauma Associate severe hemorrhage(TASH)スコアAssessment of Blood consumption(ABC)スコアTraumatic Bleeding Severity Score(TBSS)
7.引用文献
BMJ,316:961-964, 1998
Lancet,357:385-387,2001
Baker,J.B Type and crossmatch of the trauma patient. J Trauma,50:878-881,2001
外傷初期診療ガイドラインJATEC改訂第5版
林 寛之 :ステップビヨンドレジデント 3 外傷・外科診療のツボ編
Antaa公開スライド:【初期研修医向け】ER(救急外来)/整形外科セミナー 藤井達也
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