今回は救急外来、ICUで最も多く出会う電解質異常の一つである低Na血症についてまとめました。
特に重症例では、初療が今後の患者さん神経学的に予後に関わることも往々にしてあるのでしっかりと知っておくことが肝要です。
1.ポイント
●低Na=Na欠乏とは限らない。細胞外液量を判断して原因の鑑別を行う
重症なのか(意識障害他バイタルに影響を及ぼす)それ以外なのかでアプローチは大きく異なる
●重度の低Naは3%NSが第一選択(ODSに注意)
●緊急治療以外は、低Naの原因に基づいて治療を行う
●NaCl 1g=Na 17mEq これだけは絶対暗記
2.疫学
●ICU入室中の患者で最も多くみられる電解質異常の一つ
●精神病(psychosis)の患者に多い。一時間に400-600ml
の水を飲むこともある。1)
3.症状
軽症から重症まで様々な症状を呈する
〈軽症〉
自覚症状がないことが多い
歩行の不安定性・注意力低下がみられる
⇒転倒のリスクが高まる
〈中等症〉
吐き気・嘔吐・見当識障害
〈重症〉
意識障害・昏睡・けいれん
循環や呼吸状態の異常をきたす
4.原因・種類
●原因はNaの取り込み不足または体液貯留によるものが多い2)
●体液量、Na量を合わせて大きく3つに分類するとわかりやすい(必ずしもすべて分類できるとは限らないが…)
5.除外診断・注意すべき合併症
●脳浮腫・脳ヘルニア
血漿が低浸透圧になり、脳細胞に水が流入して容量が増大
頭蓋内のスペースは頭蓋骨に囲まれているため圧排される
●ODS(治療に伴う合併症)
6.検査
●尿比重
多尿の主訴がある場合特に有用
尿比重 1.007 以下なら水利尿、1.025 以上なら浸透圧利尿が考えられる。正確を期すなら尿浸透圧を測定する。
尿浸透圧が 290mOsm/kg 以下なら水利尿が、それ以上なら浸 透圧利尿が多尿の主因とみなしてよい。
血漿浸透圧= 2×Na(mEq/l)+血糖値(mg/dl)/18+UN(mg/dl)/2.8
7.治療
●重症(意識障害を伴う)の緊急治療は高張食塩水(3%NS)を用いた補正をおこなう。3)ただし、ODSに注意(ボーラス投与)
●軽症ないし無症状の場合は病型を判断する。
・体液増加型:水・Na制限 利尿薬
・体液量正常型:水制限
・体液量減少型:Na補充
●ODSを避けるため補正は24hで10mEq/L未満
48hで18mEq/L未満
●血清Naの補正ではなく、症状の改善に主眼を置く
●3%NSはボーラス投与
より細かい治療方針はUpToDateのアルゴリズム参照(慢性か急性なのかも重要であるとわかる)
9.引用、参考文献
1)Roles of arginine vasopressin and atrial natriuretic peptide in polydipsia-hyponatremia of schizophrenic patients.
Kawai N,Psychiatry Res. 2001 Feb;101(1):39-45.
2)Rose BD, Post TW. Clinical Physiology of Acid-Base and Electrolyte Disorders, 5th ed, McGraw-Hill, New York 2001. p.699
3)Nephrol Dial Transplant. 2014 Apr;29 Suppl 2:i1-i39. doi: 10.1093/ndt/gfu040. Epub 2014 Feb 25.
Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia.
Spasovski G
UpToDate 成人の低Na血症の治療
門川俊明:電解質輸液塾
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