今回は外傷診療においても診療に当たる頻度が高い、骨性マレットについてまとめました!
非専門科の医師や看護師がどのように対応すべきかについてもわかりやすくまとめています。
少しでも興味を持っていただけると幸いです。
骨性マレット変形とは?
指先への強い衝撃やボールの直撃などによって、末節骨の一部が骨折し、DIP関節が伸展できなくなる外傷を「骨性槌指(マレット変形)」と呼びます。
伸筋腱自体が断裂した場合は「腱性マレット変形」、末節骨の骨折を伴う場合は「骨性マレット変形」として区別されます(1)。
1.マレット変形の基本と診断
ボールが指先に当たるなどして突き指が起こり、DIP関節の伸展障害が生じる。屈曲は可能で、他動的には伸展できる。
- 腱性槌指:伸筋腱が末節骨付着部で断裂したケース。
- 骨性槌指:末節骨の骨折(裂離骨折、関節内骨折、亜脱臼を伴う場合あり)を伴うケース。
- X線所見で末節骨付着部の骨折片やDIP関節の亜脱臼が確認できる(図6,7 など)。
2.治療の選択肢:保存療法と手術
腱性槌指の場合は、原則として保存療法(アルフェンス固定など)を行うのが基本です。
3か月程度経過していてもまずは保存を試みるケースが多いとされています。
一方、骨性槌指では、骨片の転位が整復できない場合や亜脱臼を伴う場合、骨片が関節内に大きく及ぶ場合などには、手術的治療が選択されます(1)。
手術療法の考え方
かつてはDIP関節に直接切開を加え小さな骨片を整復固定する方法も行われましたが、骨片が小さいケースでは操作が難しく合併症も多く報告されていました。
1988年、石黒ら(1)が報告した新たな経皮的鋼線刺入固定術(石黒法)は、シンプルで良好な成績を示し、瞬く間に広く普及しました。
その後、一部でDIP関節伸展制限が生じやすいとの指摘もあり、伸展位固定や骨片への直接K-wire刺入などの改良型(石黒変法)も提唱されています(2-4)。
石黒法(原法)による骨性槌指の手術法と後療法
1.石黒法(原法)の手術手技
- DIP関節を屈曲位にして骨片を掌側へ移動させる。
- 末節骨の骨片を背側から0.9~1.1 mmのK-wire(Kirschner鋼線)で貫き、中節骨遠位端~掌側骨皮質へ刺入(ブロックワイヤー)(図2,3)。
- C-wire(Zimmer Biomet社製)など、しなりの少ない鋼線が使いやすい。
- ブロックワイヤーに骨片が押し返されるようにしつつDIP関節を伸展し、骨折部を密着整復する(図3)。
- 末節骨側方から0.9~1.1 mmのK-wireを刺入してDIP関節を仮固定する(図4)。背側から1本、側方から1本の計2本を使用することが多い。
- ワイヤー先端は短く切り、先端がガーゼや包帯に引っかからないようソフラチュールなどを巻く(図5)。背側から刺入したブロックワイヤーは、あまり短く切りすぎるとブロック効果が失われるため注意が必要。
屈曲位固定と伸展位固定
石黒法(原法)ではDIP関節を屈曲位固定することが多いですが、近年では伸展位固定でも良好な成績が得られる報告もあり、一概にどちらが優れているとは言い切れません(5)。
「ブロックワイヤーが骨片をしっかり支えており、関節面の適合が良好になる」という点が最重要であり、それさえできれば屈曲位・伸展位どちらの固定でも良好なアウトカムが期待できます。
2.後療法
鋼線の抜去時期は目安として4~5週。骨片が小さい場合や裂離骨折片の場合、長め(約12週)の固定を要するケースもあります。
抜去後はDIP関節の自動・他動運動を開始し、伸展不全が認められる場合は装具やアルフェンスシーネでDIP関節を伸展位に保持します。
リハビリ中に伸展不良が出現する場合、夜間のみ装具固定を継続するなど、伸展位の保持と運動療法のバランスをとっていきます。
PIP関節の屈曲訓練を積極的に行うことが、伸展機構(外在筋・内在筋)のバランス維持に有効とされています(5)。
石黒法以外の方法:フックプレートやスクリュー固定
骨性マレット指に対しては、フックプレート(6)やスクリュー固定などの術式も存在します。
陳旧例や骨片が大きいケース、掌側亜脱臼を伴うケースなどでは、これらの術式を検討する場合があります。
ただし、新鮮例に対してはまず石黒法(あるいは石黒変法)をマスターし、適用例を増やしていくのが望ましいでしょう。
まとめ
- 腱性槌指は保存療法が基本。骨性槌指は骨折片の大きさや転位、DIP関節亜脱臼の有無などを考慮して手術を選択する。
- 石黒法(原法)は比較的簡便で良好な成績を得やすく、まずは新鮮例を適応として習熟するのがおすすめ。
- 屈曲位固定・伸展位固定いずれも可能だが、ブロックワイヤーにより骨片をしっかり整復することが肝要。
- 陳旧例や特殊例では、フックプレート・スクリュー固定など他の術式を検討する。
DIP関節のわずかな可動域制限や変形でも、患者さんの日常生活の質を大きく損なう場合があります。
指先の機能をいかに回復させるかは手外科治療の重要なポイントです。
非専門科としては、まずは特徴的な身体所見を見抜いて、陳旧例に移行する前に単なる突き指として対応せず、適切に専門科にコンサルトできるようになりましょう。
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参考文献
(1) 石黒隆ほか.骨片を伴ったmallet finger に対するclosed reduction の新法.日手会誌.5,1988,444-7.
(2) 萩原弘晃ほか.骨性マレット変形に対する石黒法および石黒変法:伸展位固定の検討.日手会誌.29,2013,768-70.
(3) 能登公俊ほか.当院における石黒法およびその変法を用いた骨性mallet finger の治療成績.日手会誌.31,2014,219-21.
(4) 中島太輔ほか.骨性マレット指に対する経皮的ピンニング手術時のDIP関節固定角度の検討.日手会誌.36,2020,487-90.
(5) 古川泰弘ほか.骨性mallet fingerに対する石黒法の治療経験:DIP関節の固定角度による比較.日手会誌.19,2002,64-8.
(6) Teoh LC, et al. Mallet fractures: a novel approach to internal fixation using a hook plate. J Hand Surg Eur Vol. 32, 2007, 24-30.