血液ガス分析(ABG)は、複合した病態や特殊な原因が絡むと一気に難易度が上がり、「結局どう解釈すればいいの?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
ここでは、教科書や基礎セミナーではあまりカバーされない“解釈に困る”シチュエーションを例に、ステップ解析を軸とした実践的なポイントをまとめました。
看護師・研修医の方々が明日からすぐに使えるアクションプランもご紹介します。
【対象のおすすめ読者】
ERローテ中の研修医の先生方ERで勤務する看護師の皆さま
そしてERローテ中の専攻医の先生方
これらの方々には、ぜひ読んでいただきたい内容です。
明日から実践できるアクションプランや看護師さん向けのコラムもありますので、最後までお付き合いくださいね!
1.複合病態を、短時間で読み切れない…
「複数の酸塩基異常が混在すると、ステップ解析に時間がかかりすぎる…」
◆よくある悩み
- 一次性のアシドーシス・アルカローシスが複数入り混じっているケースで、ステップ解析法が追いつかない。
- 教科書的な計算だけでは解釈がスムーズに進まない。
◆アクションプラン
- ステップ解析を確実に身につける
- pH → pCO2 → HCO3^-(またはTCO2) → Anion Gap という基本の流れを、一つひとつ必ず踏む。
- 日常から、シンプルな症例でもこのステップを反復練習し、時間短縮を図る。
- 病歴・身体所見への意識を高める
- 嘔吐があれば代謝性アルカローシス、下痢があればAG非開大性の代謝性アシドーシスなど、特徴的なエピソードを念頭に置いておく(1)。
- ビタミンB1欠乏(乳酸アシドーシス)やサリチル酸中毒(呼吸性アルカローシス+代謝性アシドーシス)など、あまり遭遇しない病態ほどあらかじめ知識として準備。
- 最初は複数回チェックでもOK
- 慣れないうちは短時間で解釈しきれないのは当然。患者さんの状態が落ち着いていれば再度血ガスを採取して確認しても構わない。
- 時間をかけてでも「確かな解釈」を目指すほうが、長期的には診療の質向上に繋がる。
2.病歴・内服歴からつなげられないときはどうする?
「原因不明のAG開大性代謝性アシドーシスを見つけたけど、病歴が乏しくて解釈に自信がない…」
「コツコツ計算しても複合があると、何が本当の原因か分からなくなる…」
◆よくある悩み
- 初期診療の段階では、患者さんの詳細な病歴や内服歴がわからないこともある。
- 代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスが同時に存在、あるいは代謝性アルカローシスと呼吸性アシドーシスが混在、などパターンは多岐にわたる。
- 既往歴や生活背景がつかめないまま、強引に解釈をまとめてしまい、見落としを招くリスクがある。
◆アクションプラン
- 「保留する」姿勢も大切
- 血ガス解析でAG開大性代謝性アシドーシスなどを見つけても、「なぜ?」を即断せずに「可能性あり」と保留しておく。
- 無理に「糖尿病性ケトアシドーシスに違いない!」と断定してしまうと、ほかの中毒や敗血症を見逃す恐れ。
- 鑑別リストを“網羅的”に考える
- 中毒(サリチル酸、メタノール、エチレングリコールなど)や尿毒症、敗血症、乳酸アシドーシスなどを一旦リストアップ。
- それをもとに追加問診・身体所見チェック(薬物の匂い、瞳孔所見、家族からの情報など)を積極的に行う。
- 救急隊・家族へのヒアリング
- 意識障害で本人から話を聞けない場合は、救急隊や家族への問診が鍵。
- もし部屋にあった薬や異物などの情報を得られれば、中毒性疾患の可能性を高められる。
3.複合病態を見抜くコツは、エピソード+身体所見
- 特徴的なエピソードに敏感になる
- 嘔吐:代謝性アルカローシス
- 下痢:AG非開大性代謝性アシドーシス
- 高熱・ケトン体産生を伴う疾患:乳酸アシドーシス or ケトアシドーシス
- サリチル酸中毒:呼吸性アルカローシス + 代謝性アシドーシス
- アルコール多飲 + ビタミンB1欠乏:乳酸アシドーシス
- 身体診察でヒントを探す
- 呼吸パターン(過換気なのか、抑制されているのか)
- 皮膚の状態(冷汗、チアノーゼなど)
- 匂い(アルコールや薬品、アセトン臭)
- 嘔吐物・排泄物の確認(出血や下痢など)
4.明日から実践したい「時間短縮&見逃し防止」テクニック
- “メモ”を用意する
- ステップ解析の項目を記入するチェックリストを常備。看護師さんなら、採血オーダーと同時に渡される血ガス結果をチェックリストに沿って即メモ。
- 研修医は、スマホメモやメモ帳にpH、pCO2、HCO3^-、AGなど計算結果を逐一書き込む。
- 早期に「AG開大 or 非開大」を決める
- Anion Gap(AG)さえ早期に把握してしまえば、代謝性アシドーシスかどうかを絞れる。
- AGが開大していれば中毒や乳酸アシドーシスなどに警戒、非開大なら下痢やRTAなど想起。
- “保留して動く”マインド
- 解釈がすぐに確定できなくても、可能性を残したまま「問診する」「身体所見を再度とる」のステップを徹底。
- 分からないなりに「何が分からないのか」を明確化しておくことが大切。
5.まとめ
複合病態の血液ガス解析で苦戦するのは、誰もが通る道です。
むしろ「難しい」と感じることが、知識を深める絶好の機会と考えてみましょう。
pH、pCO2、HCO3^-、Anion Gapなどのステップ解析を繰り返し使い、病歴や身体所見とリンクさせる作業を習慣化できれば、徐々に解釈スピードと的確さが増していきます。
迷ったら一度“保留”して追加の情報を取りに行く姿勢が大切です。
嘔吐や下痢などの消化器症状を手がかりに複合病態を発見できることも多いので、慌てず、着実にアセスメントを深めてください。
血液ガス解釈は最初は難しく感じますが、一歩ずつ知識を身につければ、複合病態にも対応できるようになります。
迷ったときは保留し、追加の問診や再検査を行いながら落ち着いて情報を集めましょう。
あせらず学びを続ければ、毎日の診療での強い味方になりますよ。
血液ガス分析の解釈や、ERでの身体診察について、わかりやすく学べる一冊を執筆しました。
興味がある方はこちらから是非試し読みしてみてくださいね▼
この記事を読んで参考になった方、面白いと思ってくださった方は
今後も定期的に記事を更新していきますので
各種SNSの登録よろしくお願いいたします!
各種SNSでのコンテンツ配信を定期的に配信!
この中でしか見られない限定動画配信もしています◎
日々のスキマ時間に気軽に見ることができるので、興味があれば是非登録していただければ幸いです!
コチラのボタンをタップ!👇
みなさまのリアクションが今後の記事を書くモチベーションになります!
参考文献
みんなの救命救急科