今回は、臨床や医学の勉強をしていて感じる疑問の一つ、
肝硬変患者さんへの利尿薬投与第一選択とその具体的な治療法
についてまとめました。
肝硬変患者さんは腹水のコントロールに難渋することが多いですよね…
今回は肝硬変の体液管理において重要な役割を担う利尿薬について、肝硬変治療ガイドラインを中心に書いています。
1.なぜ肝硬変では腹水が貯留するのか?
肝硬変では
①低アルブミンによる有効循環血液量の減少
②交感神経系の亢進(PAAS系の亢進)
③血管作動性物質の異常
の結果腹水が貯留する
そもそも、なぜ肝硬変では腹水が貯留するのでしょうか?
肝硬変では上記のポイントにまとめたような要因の結果、腎血流量の低下や腎内血流分布異常とともに、尿細管でのNa・水再吸収亢進がおこります。簡単に言うと血管内の水分が血管外に漏れ出てしまうから、腎臓では血管内に水分を保とうとして再吸収が亢進するということです。
しかも、肝硬変患者さんの肝臓では肝臓でのタンパク合成能が低下しているため、体内のアルブミンも減少しています。なので、吸収した水分はアルブミンがひきつけることが出来ないため残念ながら血管内にとどめることはできず、血管外のスペースに漏れ出てしまう(腹水となってしまう!)のです。
<アルブミンの働き>
①脂肪酸、ホルモン、薬物など様々な物質を運搬する
②血管内の水分保持作用
血管内に水分を取り込み、水分が血管の外へ漏れ出るのを防ぐ
ちなみに、肝硬変患者さんの腹水の中でも難治性腹水という言葉は従来より内科的治療に 難渋する腹水に対して漠然と用いられてきましたが、近年治療法の進歩をふまえたうえで厳密 な定義が提唱されました。1)
すなわち,内科的治療により軽減できない、あるいは早期再発を防止できない中等量以上の腹水を難治性腹水とし、これをさらに利尿剤抵抗性(diuretic-resistent)腹水と利尿
剤不耐性(diuretic-intractable)腹水に分類しています。
2.利尿薬の第一選択は?
●第一選択薬は抗アルドステロン作用を持つ利尿薬
アルダクトン・スピロノラクトン
腹水の原因であるRAAS系の亢進をストップするため!
●食塩摂取制限と大量の利尿剤治療
具体的投与量:スピロノラクトン 400mg+フロセミド 160mg
では、腹水が貯留してしまった肝硬変患者さんへの治療はどのように進めていったらよいのでしょうか?
ここで重要なのは腹水発症時においてはアルドステロン(副腎皮質ホルモン) 分泌が亢進しているので、抗アルドステロン薬を投与してアルドステロンの作用を阻害することです。
そのため抗アルドステロン薬であるアルダクトンが第一選択薬となります。
単独で十分な効果が得られない場合は、利尿効果がより強いラシックスを併用します。
併用の場合、アルダクトン:ラシックス=2.5:1の割合で使用し、連用する場合は電解質異常に注意が必要です。定期的に採血検査を施行しましょう。
また、それでも治療抵抗性の時は抗ADH作用を期待したトルバプタンも併用を検討します。
また、低アルブミンによる血管外漏出についても治療は必要ですね。
血液中のアルブミン濃度3.5g/dL以下の時は、アミノバクト、リーバクト、アミノレバン
といった、アルブミンの原料であるアミノ酸の補給が大切です。
また、血液中のアルブミン濃度2.5g/dL以下の時は、アルブミンを補う点滴も有用です。
最後に、肝硬変患者さん腹水コントロールのガイドラインのフローチャートを紹介しておきますね。
肝硬変といった難治性病態の薬剤の使用法について興味がある方はコチラをチェック👇
3.引用文献
2)日本消化器病学会 肝硬変診療ガイドライン 2015(改訂第 2 版)
Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Liver Cirrhosis 2015(2nd Edition
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