📩 4月セミナーの深掘り記事①
2026年4月のQラボリアルタイムセミナーで、前野先生(Qラボメンバー・救急科専門医)からいただいたコメントが、現場の知恵が詰まったとても学び深いものでした。
吐血ショック症例の到着前準備とSALAD法を中心に、こちらに記事として深掘りしていきますね。
この記事を開いてくださった方は、4月のリアルタイムセミナーに参加してくださった方かもしれませんし、当日参加できずにアーカイブで追いかけてくださっている方かもしれません。
あるいは、「気管挿管の準備って、結局のところ何をどこまでやればいいの?」と悩んでいる若手の先生かもしれませんね。
どの立場であっても、今回の前野先生のコメントは、現場のリアルな知恵が詰まっていて、聞いていて学びの多い時間でした。
「自分一人ではやらない」 前野先生の最初の一言
症例1(50代男性・吐血ショック)のディスカッションで、前野先生からいただいたコメントの最初の一言は、こちらでした。
💬 前野先生のコメント
「もしロクロニウムを使うなら、ブリディオンもセットで準備します。あと、自分一人ではやらない。うちは一人当直なので、麻酔科を一人呼んで、状況によっては上の先生も呼びます。」
「一人ではやらない」── このフレーズ、ぐっとくるんですよね。
気管挿管って、つい「自分でなんとかしよう」と思ってしまうじゃないですか。特に若手の先生だと、「上の先生を呼ぶのは申し訳ない」とか「これくらいなら自分でできるかも」と思ってしまう。でも、吐血ショックのような重症例では、その”なんとかなるかも”という判断が、患者さんの予後を左右することがあるんですよね。
💡 ブリディオンとロクロニウムをセットで考える理由
ロクロニウムを投与すると、約90秒で全身の筋弛緩が完成します。でも、もし挿管できなかったら? マスク換気もできなかったら?
ブリディオン(スガマデクス)は、ロクロニウムの作用を特異的に拮抗する薬剤で、16mg/kgの投与で深い筋弛緩からも数分以内に回復させられると報告されています(Lee C, et al. Anesthesiology. 2009;110:1020-1025)。
「戻れる選択肢を持っておく」というのは、CICOを回避するうえでの大きな保険になります。
到着前15分でできることを、すべて並べる
ここからが、前野先生のコメントで一番印象に残ったところです。症例1で「救急隊から到着15分前に連絡が入った」という設定で、到着前にできる準備を細かく挙げてくださいました。
📋 前野先生流・到着前15分の準備リスト
- 消化器内科にコール(緊急内視鏡の体制確保)
- 緊急輸血の発注(来院時点で輸血が手元にある状態を作る)
- 麻酔科を呼ぶ(一人ではやらない原則)
- ノルアドレナリン or フェニレフリンのボーラス・持続投与の準備
- 外科的気道確保のキットを開けて隣に置く
- HFT(high-flow oxygen therapy)の準備(前酸素化用)
- 意識下挿管の選択肢を残す(薬剤が間に合わない場合)
「来院時点で輸血が手元にある状態を作る」── これ、大切なんですよね。
消化管出血による出血性ショックの患者さんでは、massive transfusion protocol(MTP)を発動するかどうかが予後を分けるという報告が複数あります。British Journal of Surgeryのレビューでも、MTPの早期発動により28日死亡率が有意に低下することが示されています(Cantle PM, et al. Br J Surg. 2017;104:1745-1755)。
気管挿管の薬剤を入れる前に、すでに昇圧剤と輸血が手元にある状態を作っておく。これだけで、挿管後の血圧低下に対応するスピードが、ぐっと変わってくるんですよね。
SALAD法という”小技”
症例1のディスカッションで、もう一つ前野先生から共有してもらったのがSALAD法(Suction Assisted Laryngoscopy and Airway Decontamination)でした。
💬 前野先生のコメント
「喉頭鏡を持ちつつ、空いている方の手で、吸引をかけながら喉頭展開を進める方法ですね。声門のところに吸引カテーテルを置いたまま、なんとか見えたところでチューブを入れていく感じです。」
SALAD法は、もともと米国の救急医療チームが提唱したテクニックで、大量の出血や嘔吐物がある場面での挿管成功率を上げることが報告されています(DuCanto J, et al. JEMS. 2017;42:32-37)。
📊 SALAD法のポイント
- ヤンカー(硬い吸引チューブ)を継続的に使用する
- 喉頭展開と吸引を同時並行で行う
- 食道内に吸引カテーテルを留置することで、嘔吐物の流入を防ぎながら視野を確保
これってね、いわゆる「教科書には載っていない小技」なんですよね。でも、こういう小技をいくつ知っているかで、現場の対応力って変わってくるんです。
僕自身、現場で「血液で視野が真っ赤になって何も見えない」という場面を経験したことがあります。そのときは結局マッキントッシュに切り替えてなんとかしましたが、もしSALAD法を知っていたら、あの数十秒のロスはなかったかもしれない。前野先生のコメントを聞きながら、そんなことを考えていました。
HFTで前酸素化、フェニレフリンで血圧を支える
もう一つ、前野先生のコメントで印象的だったのが、到着前にHFT(高流量酸素療法)を準備するという発想です。
気管挿管の前の前酸素化は、大切なステップなんですよね。3分間しっかり酸素化できるかどうかで、無呼吸時の安全な時間(safe apnea time)が大きく変わってきます。Lancet Respiratory Medicineの報告では、ICUでの挿管時にHFNC(high-flow nasal cannula)を併用することで、低酸素血症の発生率が低下することが示されています(Frat JP, et al. Lancet Respir Med. 2019;7:303-312)。
そして、フェニレフリンを使うかノルアドレナリンを使うかという選択も、地域によって文化の違いがあって、面白いところでした。
💡 吹き出し|あつし
「うちの施設では、ノルアドレナリン1mgを生食20mLで希釈して、1〜2mLずつショットしながら使うことが多いんだ。前野先生はフェニレフリンを使われるみたいで、麻酔科ベースの先生はやっぱりフェニレフリン文化なんだなって思ったよ。どちらも一長一短だから、自分の施設の文化に合わせて慣れておくといいよ。」
「一人ではやらない」が、なぜ”原則”になりうるのか
今回の前野先生のコメントを聴きながら、「一人ではやらない」というフレーズが、なぜ”原則”になりうるのかを改めて考えていました。
救急の現場って、つい「自分がやらなきゃ」と思ってしまうじゃないですか。特に当直帯で、上の先生は寝ている時間に、「これくらいで起こすのは申し訳ない」と思ってしまう。でも、その”申し訳なさ”は、患者さんを守る判断とは別物なんですよね。
むしろ、上の先生に来てもらえれば、自分はマスク換気だけに集中できる。挿管自体は上の先生にお願いできる。そうすれば、自分は患者さんの全体管理(昇圧剤の調整、家族への説明、次の手の準備)に意識を向けられる。役割分担ができれば、できることが増えるんですよね。
✅ 前野先生コメントの学びまとめ
- ロクロニウムを使うならブリディオンとセットで準備する
- 一人でやらない。麻酔科・上級医を呼ぶハードルを下げる
- 到着前15分で、できることをすべて並べる(コール・輸血・薬剤・物品)
- SALAD法を知っておくと、出血・嘔吐の場面での選択肢が増える
- HFT・NPPVでの前酸素化が、安全な無呼吸時間を伸ばしてくれる
- 意識下挿管・外科的気道確保の選択肢を、常にプランCとして持っておく
ディスカッションが学びを深める
今回のセミナー、僕一人で話していたら、ここまで深い学びにはならなかったと思うんですよね。前野先生がコメントで参加してくださったからこそ、参加者の皆さんと一緒に「現場のリアル」を共有できる時間になりました。
Qラボのいいところって、こうやってメンバー同士でディスカッションができるところだと思うんです。来月以降のセミナーでも、ぜひ皆さんからのコメントや質問をいただきながら、一緒に学びを深めていけたらと思います。
どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
「自分の施設では、到着前にこんな準備をしている」「SALAD法、聞いたことなかった」「フェニレフリンとノルアド、どっちを使う文化?」── こういうやり取りを、よかったらマシュマロやオープンチャットでシェアしてもらえたら嬉しいです。
前野先生、貴重なコメントをありがとうございました。次回のセミナーも、ぜひまた皆さんからのコメントをお待ちしています◎
参考文献
Lee C, et al. Reversal of profound rocuronium-induced blockade with sugammadex: a randomized comparison with neostigmine. Anesthesiology. 2009;110:1020-1025.
Cantle PM, et al. Damage control resuscitation across the phases of major injury care. Br J Surg. 2017;104:1745-1755.
DuCanto J, et al. Manual of suction assisted laryngoscopy airway decontamination (SALAD) techniques. JEMS. 2017;42:32-37.
Frat JP, et al. Non-invasive ventilation versus high-flow nasal cannula oxygen therapy with apnoeic oxygenation for preoxygenation before intubation of patients with acute hypoxaemic respiratory failure: a randomised, multicentre, open-label trial. Lancet Respir Med. 2019;7:303-312.





