Qラボ

悩ましい気管挿管時の薬剤投与量と、辿り着いた1の法則

「並線のどこになるんだろう」── 内科医が

📩 4月セミナーの深掘り記事②

2026年4月のQラボリアルタイムセミナーで、東京ベイ・腎臓内科の平井先生からいただいたご質問が、大切なポイントを突いていて。気管挿管時の薬剤投与量の考え方を、改めて深掘りしていきますね。

この記事を開いてくださった方は、内科ベースで挿管の経験があまり多くない先生かもしれませんし、救急外来でローテーション中で、薬剤投与量に自信がない研修医の先生かもしれません。あるいは、ICUで重症管理に携わる看護師さんで、「先生が指示する薬剤の量って、どうやって決めているんだろう?」と思っていた方かもしれませんね。

どの立場であっても、平井先生のご質問は、救急ベースではない医療者が抱えやすい悩みを、わかりやすく言葉にしてくださったものでした。


平井先生からのご質問

💬 平井先生(東京ベイ・腎臓内科)からのご質問

「私、内科なのでほとんど挿管の経験は研修医以来あまりなくて、片手で数える程度なんですね。薬剤について、体重がパッと見ただけではよくわからないということもあると思うんです。広島大学で使われているセットや、急ぎの場面のときに、どういう投与量でやっているかを教えていただけると助かります。」

このご質問、いいポイントを突いてくださっていて。

気管挿管の薬剤投与量って、教科書を見ると「ミダゾラム 0.1〜0.3mg/kg」「プロポフォール 1〜2.5mg/kg」「ロクロニウム 0.6〜1.2mg/kg」のように、幅で書かれているんですよね。でも、急いでいる場面で「この患者さんは並線のどこなんだろう?」と迷っている時間はない。

平井先生の言葉を借りるなら、「結局◎~△mg/kgのどこになるんだろう、っていう感覚が全然まだつかめていなかった」。これは、挿管経験が少ない先生方の多くが感じている本音だと思うんです。


僕が辿り着いた”1の法則”

そんな悩みに対して、僕が今のところ落ち着いている考え方が、「1の法則」です。

💡 1の法則 ── すべての薬剤を per kg 1mg(または0.1mg)で覚える

体重50kg の患者さん → だいたい “50” を基準に

  • ケタミン:1mg/kg → 体重50kgなら 50mg
  • ロクロニウム:1mg/kg → 体重50kgなら 50mg
  • ミダゾラム:0.1mg/kg → 体重50kgなら 5mg
  • プロポフォール:1mg/kg → 体重50kgなら 50mg(少なめスタート)
  • フェンタニル:1µg/kg → 体重50kgなら 50µg

これね、教科書に書いてある量からすると、少なめから始める量になっています。それでいいんです。むしろ、それが安全につながります。

💡 なぜ”少なめから”がいいのか

  • 足りなければ足せる。でも、入れすぎたものは引けない
  • 救急外来の挿管は、血圧が下がりやすい状況が多い
  • ショック患者さんでは、教科書通りの量を入れると挿管直後に心停止してしまうリスクがある
  • 「足りない」と感じたときに追加で対応するほうが、結果的に安全なことが多い

体重がわからないとき、どう見積もるか

平井先生のご質問のなかで、もうひとつ大事なポイントが「体重がパッと見ただけではよくわからない」というところでした。

救急外来で運ばれてくる患者さんって、ご家族もいなかったり、本人が答えられる状態じゃなかったりして、体重がわからないことが多いんですよね。

そんなとき、僕が普段使っている考え方は、「だいたい50kgベースで考える」ということです。

💡 

「救急外来で患者さんを見る経験が増えてくると、なんとなく『この方だいたい何キロかな』って当たるようになってくるんだ。最初はわからなくて当たり前。でも、毎回見るたびに頭の中で当てっこしてみると、不思議と勘が育っていくんだよ。」

もちろん、本当に体格に差がある場合(高度肥満・小柄な高齢女性など)は、見た目で調整します。でも、一般的な体格の成人なら、50kgを基準に少なめから始めて、足りなければ足す。これでだいたいうまくいきます。


薬剤選択の”血圧視点”

もうひとつ、薬剤選択で大切なのが「血圧をどれだけ下げるか」という視点です。

📊 薬剤別・血圧低下の実感(個人的な印象)

薬剤 血圧低下 使いどころ
プロポフォール かなり下がる 高血圧で血圧を下げたい場面(くも膜下出血など)
ミダゾラム 下がる(プロポよりはマシ) 血圧が比較的保たれている場面
ケタミン 下がりにくい ショック・敗血症・吐血など、血圧を維持したい場面
フェンタニル けっこう下がる 鎮痛が必要な場面(外傷・術後)

ケタミンが救急外来で重宝されるのは、まさにこの”血圧が下がりにくい”という特徴のためなんですよね。

2014年にAnnals of Pharmacotherapyに掲載されたレビューでも、ケタミンは血行動態を維持しやすいことが報告されています(Stollings JL, et al. Ann Pharmacother. 2014;48:62-76)。特に敗血症性ショックの患者さんでは、エトミデートとの比較でケタミンのほうが血圧低下が少ないという研究もあります(Jabre P, et al. Lancet. 2009;374:293-300)。

だから僕は、「ショックの患者さんなら迷わずケタミン1mg/kg一択」という形で覚えています。考えることを減らせば、その分だけ他のこと(モニター・物品・人員配置)に意識を向けられるんですよね。


「シンプルに考える」が、なぜ大事なのか

平井先生がコメントの最後で、こうおっしゃっていました。

💬 平井先生のコメント(最後の一言)

「すごくシンプルに考えなきゃいけない場面というのが、挿管ってあんまり遭遇しないのかなとは思うので、教科書のいくつからいくつみたいな並線のどこになるんだろうという感覚が全然まだつかめていなかったので、少なめからっていうアドバイスいただけて、すごい心強いなと思いました。」

この「シンプルに考える」というところ、大切なんですよね。

気管挿管の場面って、考えることが多いんです。リスク評価(LEMON / MOANS / HOP)、物品準備(SOAP MD)、薬剤選択、体位、人員配置、プランB・C…。これを全部、教科書通りに「並線のどこか」で計算していたら、頭が回らなくなります。

📋 シンプルに考えるための”省力化”ルール

  • 体重:見た目で50kgベース、極端な人だけ調整
  • 薬剤量:1の法則(per kg 1mgまたは0.1mg)で統一
  • 薬剤選択:ショックならケタミン一択
  • 筋弛緩:ロクロニウム1mg/kg、ブリディオンとセットで準備
  • 初手の喉頭鏡:ビデオ喉頭鏡を基本にしつつ、マッキントッシュも横に

こうやって”考えること”を減らすと、その分だけ本当に大事な”判断”にエネルギーを使えるようになるんですよね。患者さんの全体像、家族への配慮、次のプラン…そういうところに頭を使いたいから、薬剤量はシンプルにルール化しておく。これが僕なりの答えです。


内科医こそ、挿管の薬剤を学ぶ価値がある

平井先生は腎臓内科の先生で、「挿管の経験はあまりない」とおっしゃっていました。でも、こうやって質問してくださったこと自体が、価値のあることだなと思うんです。

内科医として病棟で患者さんを診ているとき、急変で気管挿管が必要になる場面って、必ずあるんですよね。そんなとき、自分が直接挿管しなくても、「なぜこの薬剤を選ぶのか」「なぜこの量なのか」を理解していると、急変の現場でできることが格段に増えます。

💡 

「直接挿管しなくても、ケタミンを取りに行ける。ノルアドを希釈して準備できる。ラリンゲルマスクの場所を知っている。これだけでも、急変対応のチームの中で、価値のあるポジションになるんだ。”挿管する人”じゃなくて、”挿管をサポートする人”としての視点で、ぜひ今日のセミナーを振り返ってみてほしいな。」


「シンプルに、少なめから」が育てる安全性

今回の平井先生のご質問を通じて、僕自身も改めて「シンプルに、少なめから」という考え方の大切さを実感しました。

気管挿管は、怖い手技です。でも、怖いからこそ、考え方をシンプルにして、迷う時間を減らして、判断に使える余白を作っておく。そして、足りないと思ったときに足せる柔軟性を残しておく。

この積み重ねが、患者さんを守る安全性につながっていくんじゃないかなと思っています。


どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

「自分の施設では、こんな投与量でやっている」「研修医のとき、薬剤量で迷った経験がある」「内科だけど、急変対応で気管挿管に立ち会うことがあって…」── そんな経験談を、よかったらマシュマロやオープンチャットでシェアしてください。

平井先生、貴重なご質問をありがとうございました。普段直接挿管しない立場からのご質問だからこそ、僕自身も自分の言葉で整理する機会になりました。皆さんからのご質問、いつでもお待ちしています◎


参考文献

Jabre P, et al. Etomidate versus ketamine for rapid sequence intubation in acutely ill patients: a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2009;374:293-300.

Stollings JL, et al. Rapid-sequence intubation: a review of the process and considerations when choosing medications. Ann Pharmacother. 2014;48:62-76.

Sivilotti ML, et al. Does the sedative agent facilitate emergency rapid sequence intubation? Acad Emerg Med. 2003;10:612-620.