📩 この記事のきっかけ
先日、「敗血症性ショックの患者さんに対するVA-ECMO」が所属施設で議題になりました。
分布異常性ショックと敗血症性心筋症では適応がまったく異なるという話から、流量管理・昇圧薬・急性期評価まで、調べたことをまとめたいと思います。
敗血症性ショックの患者さんを目の前にしたとき、「VA-ECMOを回すべきか」と悩んだ経験がある方は少なくないんじゃないかなと思います。
小児では国際的なガイドラインでも推奨されていますが、成人ではまだ議論が続いている領域なんですよね。でも、最近の報告を見ると、適応を正しく選べば、成人でもVA-ECMOが生存率を大きく改善しうることが示されてきています。
今回は、カンファレンスでの議論と最新のエビデンスをもとに、臨床で意識したいポイントを整理してみます。
「敗血症性ショック」でも、病態によって適応が変わる
まず押さえておきたいのは、敗血症性ショックといっても、一括りにはできないということです。
💡 敗血症性ショックの2つの病態
| 病態 | VA-ECMO適応 | 理由 |
|---|---|---|
| 分布異常性ショックが主体 | 推奨度は低い | 末梢血管抵抗低下が主な問題であり、ポンプ機能は保たれている |
| 敗血症性心筋症 | 良い適応 | 心筋抑制による心原性ショックが加わっており、循環補助が有効 |
敗血症性心筋症(sepsis-induced cardiomyopathy)は、敗血症に伴う一過性の心筋抑制で、重症の場合は心原性ショックを合併します。この状態では、いくら昇圧薬を増やしてもポンプ自体が動いていないので、機械的な循環補助が必要になることがあるんですよね。
ELSO(体外生命維持機構)の公式書籍であるRed Bookにも、敗血症性ショックに対するVA-ECMOの記載があり、敗血症性心筋症は適応として認められています。
VA-ECMO導入の目安 ── LVEFと乳酸値
では、具体的にどういう患者さんでVA-ECMOを考えるのか。一般的な目安として以下が挙げられます。
📋 VA-ECMO導入の目安(一般論)
成人:
- LVEF < 35%
- Lactate > 4 mmol/L
小児:
- エピネフリン換算 0.8〜1.0 μg/kg/min 以上
- Inotrope score 80〜100 以上
LVEFによる判断の目安:
- 30%以下: ほぼ確実にVA-ECMOを行う
- 40%以上: 通常は行わない
- 30〜40%: グレーゾーン(総合的に判断)
ただし、ここで注意が必要なのは、敗血症では末梢血管抵抗が低下しているため、LVEFが見かけ上高く出やすいということです。Hyperdynamic phaseでは、一見LVEFが良く見えても、すでに循環が破綻していることがあります。
LVEF単独ではなく、全身の循環破綻を総合的に見て判断することが最も重要ですね。
2つの重要な研究
敗血症性ショックに対するVA-ECMOのエビデンスとして、特に参考になる2つの研究を紹介します。
Bréchot et al. Lancet 2020(多施設国際コホート研究)
✅ 研究の概要と結果
- デザイン: 後方視的多施設国際コホート研究
- 対象: 敗血症性心筋症によるショック患者(VA-ECMO群 82名 vs 非ECMO対照群 130名)
- 適格基準: CI ≦ 3 L/min/m²またはLVEF ≦ 35%、かつInotrope score ≧ 75またはLac ≧ 4
- 結果: 90日生存率はVA-ECMO群で有意に高かった(60% vs 25%、p<0.0001)
- 傾向スコア調整後も生存改善は維持(51% vs 14%、調整RR 0.57、p=0.0029)
- VA-ECMO群は、対照群よりも重症だった(CI 1.5 vs 2.2、LVEF 17% vs 27%)にもかかわらず、生存が改善
重症度がより高いVA-ECMO群の方が生存率が高い、というのは非常にインパクトのある結果ですよね。
もちろん後方視的研究なので交絡因子の影響は否定できませんが、適切に選ばれた患者群では大きなベネフィットがある可能性を示唆しています。
Ling et al. Crit Care 2021(システマティックレビュー・メタ解析)
✅ 研究の概要と結果
- デザイン: システマティックレビュー+個人レベルデータによるメタ回帰分析
- 対象: 14の観察研究、計468名の成人敗血症性ショック患者
- 結果: プール生存率は36.4%(95% CI: 23.6-50.1%)
- LVEF < 20%の患者: 生存率 62.0%(95% CI: 51.6-72.0%)
- LVEF > 35%の患者: 生存率 32.1%(p=0.05で有意差あり)
- 地域差あり: 欧州 61.0% vs アジア 19.5%
ここで特に注目すべきは、LVEF < 20%のように重度の心筋抑制がある患者ほど、VA-ECMOの生存率が高かったという点です。
つまり、「心筋症で心収縮が抑制されている=VA-ECMOで心臓を休ませるメリットが大きい」ということなんですよね。
逆に、LVEFが保たれている(=分布異常性ショックが主体)の場合は、VA-ECMOのベネフィットが限定的であるということも示唆されています。
ECMO流量管理 ── 「total flow」からGoal-directedへ
ECMOの流量設定については、以前よく使われていた「total flow」「full flow」という考え方は、今はあまり使われなくなってきています。
現在は、酸素消費量を意識したGoal-directedな管理が基本です。
💡 ECMO流量管理のゴール
Lactate < 2 / SvO2 65〜70%↑ / MAP ≧ 65mmHg
- 高齢者・高血圧患者ではMAP 70〜75mmHg以上を目標にすることも
- 敗血症では分布異常性ショックも合併するため、症例によってはかなり高流量が必要になることもある
昇圧薬の考え方
敗血症性心筋症でVA-ECMOを導入した場合、ノルアドレナリン(NAd)をどう扱うかは意外と意見が分かれるポイントです。
NAdは後負荷を増大させるため、心臓にとってはあまり良くない可能性があるんですよね。
ただし、ECMO flowだけでMAP 65mmHg以上を安定して維持できない場合もあるので、施設ごとに対応は異なります。
📊 昇圧薬の使い方(施設ごとの対応)
- ECMO開始後、NAdを完全にオフにする施設
- 0.1 μg/kg/min程度まで減量して少量併用する施設
- 共通点: NAdを高用量で使うことはない
MAP不足時の対応:
- NAdを増量するのではなく、バソプレシン 0.03 U/minを併用
- バソプレシンはβ作用がほぼなく、心筋に対しては比較的保護的
- 敗血症では相対的なバソプレシン欠乏が存在するとされ、早めの併用は理にかなっている
VA-ECMO+Impella時のドブタミンは?
VA-ECMOにImpellaを併用した症例で、急性期からドブタミンを使用しているケースを見かけることがあります。
「絶対にやってはいけない」というわけではありませんが、一般的にはあまり推奨されていない使い方なんですよね。
急性期はできるだけ心筋を休ませることが重要で、ドブタミンは心収縮力を高める一方で心筋酸素消費量を増やしてしまいます。
⚠️ ドブタミン使用の注意点
- 急性期は心筋を休ませることが原則 → ドブタミンは基本的に非推奨
- 例外: 大動脈弁がまったく開かない、脈圧がほとんど出ない場合
- 使用する場合でも2〜3 μg/kg/min程度にとどめる
急性期の評価
敗血症性ショックでVA-ECMOを導入した後、急性期にはさまざまな要因が重なって「何が起きているのか分かりにくい」フェーズが出てきます。
ECMOフロー不足なのか、末梢の酸素利用障害なのか、ボリューム不足なのか。
このような状況を鑑別するために、Lactateに加えてCO2 gapとSvO2を組み合わせる評価が便利です。
📋 Lactate+CO2 gap+SvO2による病態鑑別
| Lactate | CO2 gap | SvO2 | 病態 | 対応 |
|---|---|---|---|---|
| ↑ | ↑ | ↓ | 典型的low-flow shock(DO2不足) | ECMO flow↑ |
| ↑ | → | ↑ | 酸素利用障害(酸素はあるが使えない) | 敗血症治療継続、過剰な昇圧を避ける |
| ↑ | ↑ | →/↑ | 隠れlow-flow(最も見逃しやすい。flow不足+利用障害の混在) | 右心不全・末梢血管拡張・高PEEP・低体温・シバリングなど原因検索 |
| → | → | ↓ | 需要過多 or 軽度供給不足 | 鎮静・輸血・呼吸器調整など |
🚨 CO2 gapとSvO2の読み方
- CO2 gap(Pv-aCO2 gap): 中心静脈血と動脈血のCO2分圧の差。正常 < 6 mmHg。高値 → CO低下・組織灌流障害。血流がCO2を十分に洗い流せているかの指標
- SvO2: 低値 → DO2不足。高値 → 酸素利用障害(またはシャント)
- SvO2はECMO回路のフローセンサーを送血側→脱血側に付け替えるだけで測定可能(測定後は必ず送血側に戻す)
CO2 gapは普段ルーチンでは使っていない項目かもしれませんが、ECMO管理中に「何が起きているのか分からない」と感じたときに、一度試してみる価値がありますね。
抗凝固・止血管理の注意点
敗血症性ショックではDICを合併することが多く、抗凝固管理が悩ましいところです。
✅ 抗凝固・止血管理のポイント
- APTTだけでなく、ACTや抗Xa活性を併せて評価(ただし日本では抗Xa活性のルーチン測定は保険適用外)
- フィブリノゲン ≧ 200 mg/dLを目標
- 血小板 ≧ 5〜8万/μLを目標
- 溶血は死亡リスクが約6倍に上昇 → なるべく太いカニューラを使用して溶血を予防
- 敗血症性心筋症では、心筋梗塞と異なり太いカニューラを選択する方が安全
どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
敗血症性ショックに対するVA-ECMOは、まだ「やるかやらないか」で意見が分かれる領域だと思います。でも、敗血症性心筋症という病態を正しく認識し、適応を絞ることで、生存率を大きく改善できる可能性があることが示されてきています。
皆さんの施設では、敗血症性ショックでVA-ECMOを導入した経験はありますか?導入の判断で迷ったこと、導入後の管理で工夫していることがあれば、ぜひオープンチャットやマシュマロで教えてください。
参考文献:
- Bréchot N, et al. Venoarterial extracorporeal membrane oxygenation to rescue sepsis-induced cardiogenic shock: a retrospective, multicentre, international cohort study. Lancet. 2020;396:545-52.
- Ling RR, et al. Venoarterial extracorporeal membrane oxygenation as mechanical circulatory support in adult septic shock: a systematic review and meta-analysis with individual participant data meta-regression analysis. Crit Care. 2021;25:246.





