
今回は、ICUの入院患者さんで治療で遭遇することの多い
人工呼吸器関連肺炎(VAP)についてまとめました。
出会うことが多い分感覚的に抗菌薬を選ぶことも多かったので、今回色々と改めて文献を見て勉強し直しました。日々の診療の参考にしていただけたら幸いです。
人工呼吸器関連肺炎(VAP)
1.ポイント
●VAPの定義を曖昧にしない
●発症時期によって起因菌は異なる
●各施設ごとの検出菌のデータをもとに抗菌薬を選択する
●VAPは予防が何よりも大事
2.定義・疫学
人工呼吸開始後48時間以降に発症した肺炎のこと
発生率:1.3例/1000患者・日1)
致死率:6~30%→ICUでの院内感染として最多2)
※VAEとVAP

2013年にCDCで提唱された定義によると、VAPとはVAE、つまり人工呼吸器に関連する合併症という概念の中の一部である3)
【人工呼吸器関連イベント(VAE)】4)
酸素化悪化の前後2日以内に,下記のいずれかを満たす
①検体の培養で,下記基準以上の陽性,またはそれに準じた半定量結果を示す
・ 気管内吸引物 ≧105CFU/mL
・ 肺胞洗浄 ≧104CFU/mL
・ 肺組織 ≧104CFU/g
・ 保護検体ブラシ≧103CFU/mL
②Geckler 5群の膿性分泌物があり,かつ以下の検体からの培養陽性
喀痰,気管内吸引物,肺胞洗浄,肺組織,保護検体ブラシ
③以下の検査のいずれかが陽性
・ 胸水培養
・ 肺組織病理検査
・ レジオネラ検査
・ 各種ウィルス検査
VAEはVAC、IVAC、possible VAPの3階層に分かれている。人工呼吸器下で2日以上安定している状態をベースラインとし、
●呼吸状態の増悪が2日以上続く状態=VAC
●さらに呼吸状態が増悪した日の前後2日で感染を疑う所見を呈する場合=IVAC
つまりVAPとは独立した概念ではなく、人工呼吸器に関連した合併症の中の1型ということである。
3.原因
口腔・咽頭内の微生物の誤嚥
気道における微生物の定着・増殖
気道上皮損傷による異物除去能力の低下
鎮静に伴う咽頭反射,咳反射の消失
気管チューブ内外におけるバイオフィルム形成
制酸薬投与による胃酸pHの上昇
4.診断
VAP診断のGold Standardは定まっておらず、臨床的にVAPと診断せざるを得ないのが現状である。
1例として成人肺炎診療ガイドライン2017に載っている基準としては
炎症反応および酸素化低下、画像所見の異常と膿性痰でVAPを疑い、さらに下気道分泌物の培養などで陽性となればVAPと診断される。5)
5.起因菌
発症時期が挿管後48-96時間以内のearly-onset VAPの起炎菌は一般的な市中肺炎の原因菌に似ているのに対し、発症時期が96時間以降のlate-onset VAPではEarly-onsetの起炎菌に加えて、緑膿菌や薬剤耐性菌の割合が増えてくる1),6)
☆Early-onset VAP
•挿管後,48-96時間以内に発症
•肺炎球菌
•MSSA
•インフルエンザ桿菌
•大腸菌
☆Late-onset VAP
•挿管後,96時間以降に発症
•Early-onsetの起炎菌
•緑膿菌
•薬剤耐性菌(MRSAなど)

6.治療
耐性菌リスクが高いと判断する項目は以下の通り7)
過去90日間に抗菌薬使用歴あり
入院後5日以上経過.特に7日以上ではリスクが高い
耐性菌の多い地域や病院からの転送
HCAP(医療関連肺炎)リスクがある
過去90日間に2日以上の入院歴あり
長期療養型施設に入所中
透析中
多剤耐性菌を持つ患者の家族
免疫抑制患者
【具体的な抗菌薬選択】8)
施設それぞれの検出される細菌の頻度と薬剤感受性を考慮し、それに沿った選択をすることである。
☆耐性菌を想定しない
•CTRX, ABPC/SBT etc.
☆耐性菌を想定する
CAZ,CFPM, PIPC/TAZ, カルバペネム系,VCM,LZD
+
ニューキノロン系, アミノグリコシド系
7.予防
②人工呼吸器を頻回に交換しない
③過鎮静を避け、適切な鎮静・鎮痛を図る
④人工呼吸器離脱が可能かを,毎日評価する
⑤患者を仰臥位で管理しない
8.引用、参考文献
2)Tablan OC, et al. Guideline for preventing health-care-associated pneymonia, 2003. MMWR 2004; 53(RR03): 1-36.
3)Centers for Disease Control, National Healthcare Safety Network. Device-associated Module: Ventilator Associated Protocol. January 2013 (www.cdc.gov/nhsn)
4)Centers for Disease Control, National Healthcare Safety Network. Device-associated Module: Ventilator Associated Protocol. January 2013 (www.cdc.gov/nhsn)
5)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編 『成人肺炎診療ガイドライン2017』 2017.
6)Grgurich PE, et al. Diagnosis of ventirator-associated pneumonia: controversies and working toward a gold standard. Curr Opin Infect Dis 2013; 26: 140-50.
7)Guidelines for the management of adults with hospital-acquired, ventilator-associated and healthcare-associated pneumonia. AM J Respir Crit Care Med 2005; 171: 388-416
8)志馬伸朗 編 『ICU感染制御を極める』 南江堂, 2017, p.10-28
9)『人工呼吸器関連肺炎予防バンドル 2010改訂版』 日本集中治療医学会 ICU機能評価委員会編
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