今回は、臨床で鑑別に上がりにくい粘液水腫についてまとめました。
原因不明のショックの鑑別として名前は聞いたことがある方も多いと思いますが、自分自身も理解が中途半端なことも多かったので勉強し直してみました。
粘液水腫(myxedema)
1.ポイント
●甲状腺ホルモンやTSHの値と重症度は相関しない
●徐脈+ショックの鑑別に必ず入れる
●どんな時もまずはABCアプローチ
●治療開始は臨床的に疑ったときから開始
2.定義
粘液水腫とは、重度の甲状腺機能低下症によって意識障害、低体温、その他の臓器不全を引き起こした状態のこと1)
3.疫学
【疫学】日本で数年で10数例(診断確実例)
【予後】死亡率は25-60%⇒内科的緊急疾患2)
4.症状
全身に多彩な症状をきたす
神経:意識障害
体温:低体温
呼吸:肺胞低換気
循環:ショック+徐脈
消化器:腹部膨満、腹痛、吐き気嘔吐
皮膚:non-pitting edema
採血所見では、低血糖、低ナトリウム血症が見られる。
5.原因
甲状腺ホルモン内服中止(または未治療)、低体温暴露、感染症によって誘発されることが多い。
6.診断基準
粘液水腫の診断にはスコアリングが有用。
〈Geanina Popoveniucらの診断基準〉
青木千枝:粘液水腫性昏睡の診断と治療
7.検査
・低Na、低血糖、貧血(正球性ー大球性)、高chol、高CPK、高LDH
8.具体的治療
●まずはABCの確保
●低体温は受動的外部復温で十分
※一気にあげると血圧が急激に下がることも
●低Na血症の治療
症状の有無、重症度に合わせて加療(低Na参照)
●ABG上の高CO2はは早く補正しすぎない
HCO3-の代償が追いつかないため代謝性アルカローシスになってしまう(acute on chronic)
●治療薬のまとめ4) 5)
診断もしくは疑った時点で 直ちに治療を開始する
①T4単独
初期投与:T4 200-500μg
維持量:T4 50-100μg/day
②T3、T4で治療
初期投与:T4 200-400μg T3 5-20μg
維持量:T4 50-100μg/day
T3 2.5-10μg/8h
教科書的には静脈投与を推奨(甲状腺機能低下で消化管機能低下があるから)
ステロイド:50mg/6h
※副腎不全の合併を疑い使用。疑いが晴れれば投与は必要なし
9.引用、参考文献
1)笠井貴久男:「粘液水腫性昏睡の診断基準と治療指針」作成委員会.日本甲状腺学会,2010
2)Wall CR: Myxedema coma: diagnosis and treatment. Am Fam Physician; 62 2485-2490,2000.
3)Geanina Popoveniuc:A Diagnostic scoring system for myxedema coma.Endocrine practice;20(8),2014
4)J Endocrinol. 2004 Feb;180(2):347-50.
Factors associated with mortality of patients with myxoedema coma: prospective study in 11 cases treated in a single institution.
Rodríguez I
5)Arch Intern Med. 1964 Jan;113:89-96.
TREATMENT OF MYXEDEMA COMA WITH INTRAVENOUS THYROXINE.
HOLVEY DN
青木千枝:粘液水腫性昏睡の診断と治療
田中竜馬:Dr.竜馬のやさしくわかる集中治療 内分泌・消化器編
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