【対象のおすすめ読者】
ERローテ中の研修医の先生方ER、脳神経内科で勤務する看護師の皆さま
そしてERローテ中の専攻医の先生方
これらの方々には、ぜひ読んでいただきたい内容です。
明日から実践できるアクションプランや看護師さん向けのコラムもありますので、最後までお付き合いくださいね!
細菌性髄膜炎は内科救急の“超”緊急対応!
「意識障害だけど原因が分からない… もしかして髄膜炎?」
「ルンバールのタイミング、迷うなあ…」
ICUやHCUでは日常的に、急性期の重症患者さんを多く診ます。その中で「髄膜炎」は、特に細菌性のものが疑われた場合、診断と治療にスピードが命です。
実際、来院から1時間以内に抗菌薬が投与されると、患者さんの生死を分ける大きな違いにつながるという報告があります(1)。
本記事では、ICUローテ中や急性期病棟で奮闘する皆さまに向けて、最新の知見(1)(2)(3)(4)を踏まえながら、「髄膜炎(特に細菌性髄膜炎)」への対応をわかりやすくまとめてみました。ぜひ、日々の実践にお役立てくださいね!
髄膜炎とは? ~ポイントと基本的な疫学~
■ 髄膜炎のポイント
- 内科的緊急事態! 素早い診断と素早い治療介入が必須。
- 診断の“ゴールドスタンダード”は腰椎穿刺(ルンバール)。
- 来院から1時間以内に抗菌薬投与を目標とする。
■ 疫学
日本では年間約3万人が髄膜炎を発症すると言われますが、そのうち細菌性のものはおよそ1500人程度と推定されています。
近年はワクチン普及の影響で減少傾向にあるものの、致死率や重篤な後遺症のリスクが高いため、ICUの現場では常に注意が必要です(1)(4)。
症状の特徴と早期発見のカギ
■ 典型的な三徴
「発熱」「項部硬直」「意識障害」の三徴が有名ですが、実際にすべて揃うのは4割以下。
それでも細菌性髄膜炎の約50%は24時間以内に症状が急速に進行するため、見逃しや先延ばしは禁物です。
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さらに皮疹(点状出血班や紫斑など)も、髄膜炎菌感染を強く示唆する大きなヒントになります(1)(2)。
■ 亜急性経過を見せる髄膜炎
癌性髄膜炎、結核性髄膜炎、クリプトコックス髄膜炎などは、6日以上かけて進行することが多いため、ICUだけでなく慢性期の入院患者さんにも注意が必要です(4)。
問診・診察:迷ったらまず「ルンバール」
「やっぱり腰椎穿刺、怖い… 頭部CTは先に撮る?」
そう思われる方も多いですが、髄膜炎の疑いが高い場合、最優先すべきは「腰椎穿刺」です。
ただし以下のような場合は、CT撮影を先行して頭蓋内病変のリスク評価を行いましょう(2)。
- 意識障害・けいれん
- 局所神経学的巣症状がある
- 乳頭浮腫が認められる
- 免疫抑制状態
■ 髄膜刺激症状
Jolt accentuation(首を2~3回/秒で左右に振った際の頭痛増悪)は、感度が高いとされています(Headache 1991;31:167-171)。
ただし、初期の細菌性髄膜炎では十分な再現性がない場合もあるため、結果にかかわらず髄液検査の実施を躊躇しないでください。
検査の要点:髄液検査と抗菌薬投与のタイミング
■ 髄液検査
- 髄液糖/血糖比が0.4以下なら、細菌性髄膜炎の特異度が非常に高い(約98%)。
- 多核球優位(Neu優位)は細菌性の疑いが高いが、発症後48時間以内の無菌性髄膜炎でも一時的にNeu優位になることも。
- 逆にLym優位でもListeriaは否定できず、注意が必要。
■ 抗菌薬投与のタイミング
血液培養や髄液採取はできるだけ抗菌薬投与前が理想です。
しかし、「頭部CTの順番待ち」など現実的な制約もある中で、治療の遅れは何よりリスクが高いため、迷ったら「まず抗菌薬」です(1)(4)。
具体的な治療:エンピリック治療がカギ
■ 一般成人へのエンピリック治療
- セフトリアキソン2 g IV 12時間ごと + バンコマイシン15–20 mg/kg IV 12時間ごと
- 50歳以上、アルコール多飲、免疫不全、妊娠中などでListeriaを疑う場合はアンピシリン2 g IV 4時間ごとを追加
■ 原因菌が判明後
- 髄膜炎菌 → ペニシリンG 200万単位点滴 4時間おき
- PSSP(ペニシリン感受性肺炎球菌)→ ペニシリンG 400万単位点滴 4時間おき
- 治療期間は一般的に14日間ほどIV投与継続
■ ステロイド併用
抗菌薬投与前または同時にデキサメタゾン(10 mg IV 6時間ごと,4日間)を行うと、特に肺炎球菌性髄膜炎で予後改善が期待されます(3)。
ただし新生児や外科的侵襲に併発した場合などはガイドラインに従い慎重に検討しましょう。
予防:髄膜炎菌疑いとワクチン
■ 髄膜炎菌が疑われる場合
原因不明の場合も含め、飛沫予防のために個室管理を行います。
濃厚接触者(家族や医療スタッフなど)には、シプロフロキサシン500 mg単回内服(米国ではリファンピシン)などの予防内服が推奨されるケースもあります(1)。
■ ワクチン接種
肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌b型(Hib)などのワクチンは、細菌性髄膜炎の発症を大幅に抑制すると期待されています(4)。
年齢や基礎疾患に応じて、助成制度が利用できる場合がありますので、患者さんの背景に合わせてぜひ検討を。
明日から実践できるアクションプラン(まとめ)

- 疑ったらすぐに腰椎穿刺を検討
- “前に頭部CT撮らなきゃ”と迷うケースでも、意識障害や巣症状、免疫抑制がなければ早期のルンバールを。
- 抗菌薬は可能な限り早く開始
- 髄液採取や培養前が理想ですが、「投与を待つリスク」>「培養前投与のリスク」という認識を。
- エンピリック治療+年齢・リスクに応じたカバーを
- 若年者でも適切なカバー範囲を理解し、Listeriaなど特殊な菌の可能性も忘れない。
- デキサメタゾン併用のタイミングを意識
- 特に肺炎球菌性髄膜炎では、投与時期が予後に大きく影響します。
看護師さん向けコラム:明日から実践できるポイント

- バイタルサインと神経学的変化の早期キャッチ
- ちょっとした表情変化やバイタルの乱れに気づいたら、すぐに報告を。髄膜炎は進行が早いです。
- 頭痛や項部硬直の確認
- 看護の合間での声かけ、「首に違和感ありませんか?」が早期発見につながります。
- 腰椎穿刺前後の管理
- 穿刺部位の止血や感染症状の有無をこまめに観察。患者さんの姿勢保持も安全確保に重要です。
- 飛沫予防と個室管理
- 髄膜炎菌が疑われる場合、手袋・マスク・ガウンの徹底を。患者さんや周囲を守る意識を持ちましょう。
おわりに
細菌性髄膜炎は、数ある救急疾患の中でも時間との勝負が求められる代表的な病態です。ICUで意識障害を見かけたとき、「まず髄膜炎を疑う」姿勢が患者さんの予後を左右します。
本記事を参考に、腰椎穿刺の実施タイミングや治療プロトコールをしっかり押さえておくと、いざというときに慌てず対応できるはずです。
参考文献
(1) Infectious Diseases Society of America. Practice guideline for the management of bacterial meningitis. Clin Infect Dis 2004; 1267-
(2) N Engl J Med 2001 Dec 13、Arch Intern Med 1999 Dec 13-27
(3) N Engl JMed 2002 Nov 14
(4)Hasbun R. Progress and Challenges in Bacterial Meningitis: A Review. JAMA. 2022 Dec 6;328(21):2147-2154. doi: 10.1001/jama.2022.20521. Erratum in: JAMA. 2023 Feb 14;329(6):515. doi: 10.1001/jama.2023.0570. PMID: 36472590.
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