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【ICU初心者に寄り添う】ショック患者のAラインとマンシェットの血圧差の疑問をまとめてみた

ショック時にカフとAラインで血圧が大きく食い違うのはなぜ?

過小評価を防ぐにはどうすればいい?

ダンピング(なまり)対策や測定部位選択のコツを含め、正確な血圧測定で治療を最適化する方法を解説します。研修医・看護師必見です!

ICUローテ中の研修医の先生方

ICUやHCUなど急性期病棟で勤務する看護師の皆さま

そして集中治療ローテ中の専攻医の先生方

これらの方々には、ぜひ読んでいただきたい内容です。

疑問その1:Aラインとマンシェットによる血圧測定の差異が患者の治療に与える影響は何か

ショック状態では血圧管理が非常に重要になります。しかしカフ(マンシェット)と動脈ライン(Aライン)による測定値が異なる場合、「どちらを信用すればいいの?」と悩むことが多いです。

まずは、この血圧測定の違いが治療にどう影響を及ぼすのか考えてみましょう。

1-1. 治療の精度向上

ショック状態の患者さんでは、カフによる血圧測定(NIBP)と動脈ラインによる侵襲的血圧測定(IABP)で差異が出やすいことが指摘されています。特に収縮期血圧(SBP)で顕著で、カフのほうがSBPを過小評価しがちです(1)。

過小評価された血圧に基づいて治療すると、本当はもっと低血圧なのに「まだ大丈夫」と判断してしまい、治療が遅れたり不十分になったりする恐れがあります。

1-2. 迅速な治療決定

動脈ラインを入れていると、リアルタイムで連続的に血圧を測定できます(2)

たとえば、ノルアドレナリンを始めとする循環作動薬を投与しているときに、血圧の微妙な変動をすぐにキャッチできるのは大きな利点です。

カフ測定だと定期的にしか数値を得られず、変動や急な下落を見逃す危険があります。

1-3. 臓器灌流の評価

ショック状態では、とにかく臓器灌流を確保することが重要です。

平均動脈圧(MAP)65 mmHg以上を目安に管理することが多いですが、NIBPだと誤差が大きくなりやすいため、侵襲的に測定するほうが信頼性が高いとされています(2)。

しっかりとMAPが維持できているかどうかで、腎機能や脳血流に直結した治療判断が必要になります(3)。

個人的には、臓器灌流を維持できているかどうかにはAガスの乳酸値の推移が非常に重要だと考えています。

【まとめ:疑問1のポイント】

  • ショック状態の患者さんでは、NIBPとIABPの差が思った以上に大きい場合がある。
  • 過小評価や見落としによる治療の遅れを防ぐため、リアルタイムで連続測定できる動脈ラインが有用。
  • 臓器灌流の指標としても侵襲的血圧測定がより信頼される。

 

疑問その2:Aラインの血圧とマンシェットで測定した血圧がショック時に乖離するのはなぜ?

疑問1では、「Aライン(動脈ライン)のほうが正確になりやすい」と説明しましたが、そもそもどうしてショック状態だと差が拡大するのでしょうか?

その理由を5つ挙げてみます。

2-1. 末梢血管抵抗の変化

ショック状態では、末梢血管が強く収縮します。

さらに血管収縮薬を使っていると、さらに末梢血管抵抗が高まります。

末梢の血圧は中央の血圧よりも低く測定されやすいため、マンシェット測定ではSBPがより低く表示されることがあると言われているのです(4)。

2-2. 測定部位の違い

動脈ラインが大腿動脈であれば比較的高めに、橈骨動脈なら少し低めに出やすいなど、部位によって数値が変わります(5)。

マンシェット測定は基本的に上腕ですが、上腕と末梢(橈骨・足など)の血圧差も無視できません。

ショック状態で末梢循環が障害されると、その差はさらに広がることがあります(6)。

2-3. カフ測定の限界(特にSBP)

マンシェット式の非侵襲的血圧測定(NIBP)は、Korotkoff音(コロトコフ音)を基準に収縮期/拡張期を推定しています。

解放タイミングの遅延などが原因で、特に収縮期血圧を過小評価しやすいと報告されています(7,8)。

ショック状態では一層測定タイミングがズレやすく、本来の血圧を捉えにくくなります。

2-4. リアルタイム測定かどうか

ショック状態では、血圧がめまぐるしく変動します。

マンシェットは断続的にしか測定しないため、一瞬の低下急激な変動を捉えられません(6,9)。

一方、Aラインは連続測定可能なため、リアルタイムでの数値を追跡できます。

2-5. 適切なダンピング(なまり)の確認

ここまでは、以下にAラインが血圧の測定に優れているかをお話しました。
しかし、Aラインを使う場合、カテーテルやチューブ内の圧波形が過度に増幅・減衰しないかをチェックする必要があります。

いわゆる“ダンピング(日本語ではなまりとも言う)”が起こると、実際の血圧より高く(または低く)表示されることがあります(12)。

ここまで文献をベースに解説してきましたが、

個人的にはこのダンピング頻度は結構高く、

なまりが原因でSBPが非常に低く測定されたためカテコラミンをたくさん使用したが、

マンシェットで血圧測定をするとMAPはかなり高い状態になっていた…

ということをよく経験します。

ダンピングが適切かどうかはフラッシュテストなどで確認しましょう。

コラム:Aラインの“ダンピング(なまり)”って何?

Aラインから測定される波形は、血液の圧力波がカテーテルやチューブを通ってトランスデューサーに伝わり、そこで電気信号に変換されて数値化されます。

このとき、カテーテルや配管の長さ・硬さ、気泡の有無などによって、**圧力波が本来の形よりも変形(歪み)して伝わることがあるのです。

過度に波形が丸く(なまり)なることを“オーバーダンピング”、逆に波形が尖りすぎて振動が大きいことを“アンダーダンピング”と呼びます。

オーバーダンピング時には収縮期血圧が低め、アンダーダンピング時には収縮期血圧が高めに表示される傾向があり、正確な血圧を把握できません。

フラッシュテスト(プルバックテスト)で波形がどのように振動し、収まるかを評価し、適切なダンピング状態を保つことが大事です。

 

【まとめ:疑問2のポイント】

  • 末梢血管の収縮や測定部位の違い、カフ測定の機序など、多くの要因が重なってショック時は差が広がる
  • とくにSBPの過小評価が起こりやすく、患者さんの状態を見誤るリスクが高まる。
  • 連続測定リアルタイムモニタリングができるAラインの利点を活かすことが大切。

疑問その3:ショック時の血圧測定の正確性を高めるための最適な方法は?

では、実際にショック状態の患者さんに対してどのように血圧測定を行うのが望ましいのでしょうか? 以下の4つのポイントが推奨されています。

3-1. 動脈ラインの使用

非侵襲的なカフ測定(NIBP)は手軽ですが、ショック状態では誤差が大きいことが繰り返し報告されています。

Surviving Sepsis Campaign(SSC 2021)のガイドラインでも、侵襲的血圧測定(Aライン)の使用を強く推奨しています(11)

とくに重症の敗血症ショックなどでは、IABP(Invasive Arterial Blood Pressure)で連続的にモニタリングしながら治療するのがベストです。

3-2. 適切なダンピング(なまり)の確認

Aラインを使う場合、カテーテルやチューブ内の圧波形が過度に増幅・減衰しないかをチェックする必要があります。

ダンピングが起こると、実際の血圧より高く(または低く)表示されることがあります

ダンピングが適切かどうかはフラッシュテストなどで確認しましょう。

3-3. 複数の測定値を平均化

カフで測定する場合、1回の測定値に頼りすぎるのは危険です。

複数回の測定値を取って平均を出すことで、極端な誤差を補正できます(13)

時間をおいて数回計測し、その平均を大まかな参考値にする方法は、

特に救急外来などですぐAラインを取れない場合に有用です。

3-4. カフ測定時は上腕が基本

「太ももや足首で測定している」という状況もありますが、上腕での測定がもっとも信頼性が高いとされます(14)。

ショック患者さんだと、足先や大腿部の血圧はさらに誤差が生じやすいです。

どうしても上腕が使えない場合は、その旨をチーム内で共有し、「通常よりも誤差が大きい可能性がある」ことを常に意識しておきましょう。

【まとめ:疑問3のポイント】

  1. Aラインを使用し、可能な限り侵襲的かつ連続的に血圧を測定する。
  2. Aラインの場合はダンピング状態を適切に評価・調整。
  3. カフしか使えないときは複数回測定の平均を取り、上腕を測定部位の基本とする。
  4. ショック時こそ、より正確な血圧測定を目指すことで、治療の質と患者さんの予後を向上させる。

おわりに

ここまで文献ベースで確認してみて、個人的にも臨床経験と一致するところは多かったですが、大切なのは差があったときにどのように管理するかということです。

両者に乖離があったときに、どちらをメインで管理するかは症例によって異なりますが、

個人的にはAガスのLacの推移を見て、

MAPが維持できているかを判断しつつ決定するのが現実的ではないかと思います。

マンシェットで管理するのか、Aラインの値で管理するのかを決定したら、一貫して診療をできるようチーム内で十分に情報共有するのが大切だと思います。

多くの場合、循環動態が改善してくれば両者の乖離は少なくなってくる印象があるので、日々どれくらい値が乖離しているかをチェックしてみてくださいね!

 

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参考文献

(1) Lehman LW, Saeed M, Talmor D, Mark R, Malhotra A.
Methods of Blood Pressure Measurement in the ICU.
Critical Care Medicine. 2013;41(1):34-40. doi:10.1097/CCM.0b013e318265ea46

(2) Evans L, Rhodes A, Alhazzani W, et al.
Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.
Critical Care Medicine. 2021;49(11):e1063-e1143. doi:10.1097/CCM.0000000000005337

(3) Keville MP, Gelmann D, Hollis G, et al.
Arterial or Cuff Pressure: Clinical Predictors Among Patients in Shock in a Critical Care Resuscitation Unit.
The American Journal of Emergency Medicine. 2021;46:109-115. doi:10.1016/j.ajem.2021.03.012

(4) Baran DA, Grines CL, Bailey S, et al.
SCAI Clinical Expert Consensus Statement on the Classification of Cardiogenic Shock: This Document Was Endorsed by the American College of Cardiology (ACC), the American Heart Association (AHA), the Society of Critical Care Medicine (SCCM), and the Society of Thoracic Surgeons (STS) in April 2019.
Catheterization and Cardiovascular Interventions. 2019;94(1):29-37. doi:10.1002/ccd.28329

(5) Kim WY, Jun JH, Huh JW, et al.
Radial to Femoral Arterial Blood Pressure Differences in Septic Shock Patients Receiving High-Dose Norepinephrine Therapy.
Shock. 2013;40(6):527-31. doi:10.1097/SHK.0000000000000064

(6) Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.
Critical Care Medicine. 2021;49(11):e1063-e1143. doi:10.1097/CCM.0000000000005337

(7) Wisanusattra H, Khwannimit B.
Agreements Between Mean Arterial Pressure From Radial and Femoral Artery Measurements in Refractory Shock Patients.
Scientific Reports. 2022;12(1):8825. doi:10.1038/s41598-022-12975-y

(8) Celler BG, Yong A, Rubenis I, et al.
Accurate Detection of Korotkoff Sounds Reveals Large Discrepancy Between Intra-Arterial Systolic Pressure and Simultaneous Noninvasive Measurement of Blood Pressure With Brachial Cuff Sphygmomanometry.
Journal of Hypertension. 2024;42(5):873-882. doi:10.1097/HJH.0000000000003651

(9) Celler BG, Yong A, Rubenis I, et al.
Comparison of Cuff Inflation and Cuff Deflation Brachial Sphygmomanometry With Intra-Arterial Blood Pressure as Reference.
Journal of Hypertension. 2024;42(6):968-976. doi:10.1097/HJH.0000000000003659

(10) Lehman LW, Saeed M, Talmor D, Mark R, Malhotra A.
Methods of Blood Pressure Measurement in the ICU.
Critical Care Medicine. 2013;41(1):34-40. doi:10.1097/CCM.0b013e318265ea46

(11) Evans L, Rhodes A, Alhazzani W, et al.
Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.
Critical Care Medicine. 2021;49(11):e1063-e1143. doi:10.1097/CCM.0000000000005337

(12) Joffe R, Duff J, Garcia Guerra G, Pugh J, Joffe AR.
The Accuracy of Blood Pressure Measured by Arterial Line and Non-Invasive Cuff in Critically Ill Children.
Critical Care. 2016;20(1):177. doi:10.1186/s13054-016-1354-x

(13) Lakhal K, Ehrmann S, Runge I, et al.
Tracking Hypotension and Dynamic Changes in Arterial Blood Pressure With Brachial Cuff Measurements.
Anesthesia and Analgesia. 2009;109(2):494-501. doi:10.1213/ane.0b013e3181a8d83a

(14) Lakhal K, Macq C, Ehrmann S, Boulain T, Capdevila X.
Noninvasive Monitoring of Blood Pressure in the Critically Ill: Reliability According to the Cuff Site (Arm, Thigh, or Ankle).
Critical Care Medicine. 2012;40(4):1207-13. doi:10.1097/CCM.0b013e31823dae42