外傷初期診療の目標は、防ぎ得た外傷死(PTD)を回避することです。
受傷1時間以内の蘇生処置が予後を左右するのです。
身体所見や検査を駆使して、早期にショックを認知して、迅速な治療を実施する必要があります。
今回は、その中でも外傷に起因したショックの原因検索に有用なFAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)を詳しく解説していきます。
実際の画像を用いて、FAST陽性か陰性かを判断するクイズもたくさん掲載していますので、学習に役立てていただければ幸いです◎
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以下、スライドの文章まとめです。URL等参考にしていただれば幸いです◎
また、各スライドの画像の動画は以下の引用文献から無料で見ることができます👇
Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
【ここだけは押さえる】外傷に伴う出血性ショック ”FAST”のまとめ
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外傷診療の目的 ●防ぎ得た外傷死(PTD)を回避する! PTD:Preventable Trauma Death 適切な蘇生処置が実施されず生じる外傷死 ●受傷1時間以内の蘇生処置が 予後を左右する! ●身体所見や検査を駆使して 迅速な診断と治療を! スライド画像)広島大学病院 演者作成
外傷死の3徴を防ぐ スライド画像)広島大学病院 演者作成 ●重症外傷において予後不良の原因となる3つの因子 凝固異常 低体温 代謝性 アシドーシス 引用)吉野篤人「damage control surgery(DCS),およびplanned reoperation 外傷処置」医学書院、2011年
循環の異常はSHOCKで評価 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 Skin(皮膚) Heart Rate(心拍数) Outer Bleeding(外出血) CRT/Consciousuness(意識) Ketsuatsu(血圧) スライド画像)広島大学病院 演者作成 バイタルサインのみでショックを判断しない
ショック≠血圧低値 バイタルサインのみでショックを判断しない スライド画像)広島大学病院 演者作成
出血源はMAPで検索 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 外傷によるショック患者は90%が出血性ショック MAPで出血源を確認し、早期に止血 この3か所からの出血の検索目的にX-p エコーを実施 Massive hemothorax(大量血胸) Abdominal hemorrage(腹腔内出血) Pelvic fracture(骨盤骨折)
今回は外傷に起因したショックの原因検索に有用な FAST を解説
FAST (Focused Assessment with Sonography for Trauma) ●外傷診療で心嚢・腹腔・胸腔の液体貯留 を評価する超音波検査方法 ●ショックの原因検索に有用 ➡心タンポナーデ・腹腔内出血・大量血胸 ●液体貯留があれば陽性 なければ陰性と判定 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集
FASTのメリット 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 ①どのような場所でも ②素早く ③循環動態に関わらず ④移動せずに ⑤非侵襄的に何度でも繰り返し ⑥比較的低コストで ⑦妊婦・小児にも実施可能
FASTの注意点 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 ●腹腔内液体貯留の検出率 感度74% 特異度98% ➡除外診断のツール× 繰り返し何度も実施! Netherton S, et al. CJEM. 2019 Nov;21(6):727-38. ●胸腹部に外力が加わっている可能性を否定できない場合 ショックでなくても実施
腹腔内出血のエコー評価 FAST 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4
FAST 心嚢 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●心窩部アプローチで観察 心尖部や胸骨左縁アプローチでもOK ●最初に心嚢を観察することで緊急処置を要する 心タンポナーデの診断が可能
FAST モリソン窩 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●肝臓と腎臓の境界であるモリソン窩の観察 ●プローブを扇状に振り くまなく観察 ●横隔膜下や肝臓の端を見逃しやすいので注意
FAST 右胸腔 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●モリソン窩を観察した部位から頭側にプローブを動かす ●大量血胸の有無のみを確認
FAST 脾臓周囲 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●やや背側から観察すると見やすい ●プローブを扇状に振り くまなく観察 ●脾臓と腎臓の間だけでなく脾臓の腹側背側も観察
FAST 左胸腔 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●脾臓は横隔膜に接しているため プローブをほとんど動かすことなく観察可能 ●大量血胸の有無のみを確認
FAST 膀胱周囲 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. Montoya J,et al. Eur J Trauma Emerg Surg. 42(2):119-26, 2016 スライド画像)広島大学病院 演者作成 1 2 3 4 ●前後左右にしっかりプローブを振る ●縦操作・横操作の両方で観察
心嚢 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
心嚢 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 心尖部周囲に少量の心のう水貯留あり
心嚢 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
心嚢 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 心臓周囲に大量の心のう水貯留あり
肝臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
肝臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 モリソン窩少量EFSあり
肝臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
肝臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 肝臓周囲 正常所見
肝臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
肝臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 肝損傷+血腫を伴う液体貯留あり
脾臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
脾臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 脾損傷+血腫を伴う液体貯留あり
脾臓周囲 FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成
FAST陽性?陰性? 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. スライド画像)広島大学病院 演者作成 脾腎境界 正常所見
肺エコーも気胸の診断に有用 引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 スライド画像)広島大学病院 演者作成 液体貯留と共に気胸の診断 ➡E-FAST(extended FAST) エコーによる外傷性気胸の診断精度 感度>80% 特異度>98% ※胸部X-p:感度40-50% 特異度99% 皮下気腫が存在する場合や著しい肥満患者では診断能⇩
Lung sliding 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. 呼吸に合わせて臓側と壁側胸膜が互いにスライド 正常所見
Lung sliding 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. ●所見があれば気胸は除外可能 ※感度は高いが非特異的な所見 ●lung slidingがなくなる病態 ➡気胸・無気肺・胸膜癒着など
スライド画像)広島大学病院 演者作成 A lines と lung point 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
スライド画像)広島大学病院 演者作成 A lines と lung point 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. A lines Lung point
スライド画像)広島大学病院 演者作成 A lines 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. ●正常所見 ●水平方向に繰り返し出現 基本的に胸膜とプローベの距離と等間隔に ●プローブの接地面より下は含気のある 正常な肺胞構造 ※気胸でもAlines見られることもあり
スライド画像)広島大学病院 演者作成 Lung point 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. ●壁側胸膜と臓側胸膜が接している部分と 離れている部分との境界 ●呼吸性に移動 ●気胸に対して高い特異度を示す
スライド画像)広島大学病院 演者作成 Lung point を M mode で比較 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. seashore sign 正常所見 barcode sign 気胸
スライド画像)広島大学病院 演者作成 多数の Bline は間質に異常をきたす疾患を考慮 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017.
スライド画像)広島大学病院 演者作成 多数の Bline 引用) Richards, J. R. & Mcgahan, J. P. Radiology 283(1), 2017. ●胸膜から垂直方向に延びる線 ●液体を多く含む空気に液体が接する箇所で見られる ●外傷の場合、代表的なのは肺挫傷
参考 骨盤骨折による大量出血 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集 骨盤骨折に伴う出血は後腹膜 ➡エコーでは評価できない! 不安定型の骨盤骨折があれば大量出血の可能性あり
Primary surveyでの骨盤X-p 引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 ●不安定型骨盤骨折の有無を評価 骨盤輪の前方部分と後方部分に転位を伴う骨折や靭帯損傷があり輪状構造に破綻を来している骨折 ※出血性ショックに至る危険がある骨折と認識 スライド画像)広島大学病院 演者作成
一般的な骨盤X-p読影方法を確認 引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 【全体】 1)正面性: 腰椎棘突起の位置 ① 2)対称性: 腸骨翼の大きさ ② 高さ ③ 【前方】 1)恥骨・坐骨骨折の有無 ④ 2)閉鎖孔の左右差 ⑤ 3)恥骨結合の幅 ⑥ ≧2.5cm離開→後方靭帯損傷 【後方】 1)腸骨骨折の有無 ⑦ 2)仙腸関節の幅、左右差 ⑧ 3)仙骨骨折の有無 ⑨ 4)L5横突起骨折の有無 ⑩ 【寛骨臼】 寛骨臼 ⑪ 1 8 5 3 2 10 9 7 6 4 11
外力方向で骨盤骨折を分類(Young-Burgess分類) 引用) 日本外傷学会外傷専門診療ガイドライン JETEC第2版 側方圧迫外力 LC 前後圧迫外力 APC 垂直剪断外力 VS
参考 外傷における出血量の推定 引用)Primary-care Trauma Life Support 元気になる外傷ケア集
参考 出血性ショックの治療フローチャート 引用) 日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン JATEC第6版 ショックの認知 スライド画像)広島大学病院 演者作成 入れて(輸血)-入れて(挿管)-止める(止血) 初期輸液 成人1L 小児20ml/kg 循環破綻 大腿動脈触知不可 徐脈・無気力 安定 不安定 responder Non responder Transient responder Secondary Surveyへ 大量輸液による希釈性凝固障害を避ける!!
参考 外傷後出血に対するトラネキサム酸 ●受傷後3時間以内の投与により出血死が1/3に ①1g NSに混注し10分で投与 ②1g NSに混注し8時間で投与 CRASH-2 collaborators, Roberts I, et al.Lancet. 26;377(9771):1096-101, 2011
Take home message ●外傷診療は時間との戦い!ショックの認知と 身体所見・X-p・エコーでの原因検索を! ●FASTは繰り返し何度でも実施するべし! ●骨盤骨折などに起因する後腹膜出血はエコーで 評価できないので注意!
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