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【ここだけ押さえる】微量元素(Fe・Zn・Cu・Mn・Se)欠乏症のまとめ

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今回は、ICU管理で時として問題になる、
微量元素(Fe・Zn・Cu・Mn・Se)欠乏についてまとめました。

マニアックなテーマではありますが、リスクの高い症例では可能性を考慮しつつ診療にあたる必要があります。
忘れたころに痛い目を見ることがないよう、一緒に学んでいきましょう。

1.ポイント

●微量元素欠乏が生じやすいリスク因子や栄養剤について意識する
●それぞれの欠乏症による疑わしい症状を知っておく
●微量元素欠乏の補正に有用な栄養剤や薬剤を把握しておく

2.微量元素とは?

微量元素とは、生体内含有量がFe(鉄)より少ない元素のことを指します。Fe以外では、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、I(ヨウ素)、Mn(マンガン)、Se(セレン)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)などが該当します。
これらの1日必要量は、厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準2020年版」6]で規定されており、男女差や年齢差はあるものの、18歳以上の必要量はおおよそ下記の通りです。

Fe 6.5~7.5mg

Zn 9~11mg

Cu 0.7~0.9mg

I 95~130μg

Mn 3.5~4.0mg

Se 20~35μg

Cr 10μg

Mo 20~30μg

一般的には、平均的な食事または病院食(常食)を摂取していれば、微量元素欠乏症は生じにくいとされています。

ただし、特定の臨床状況(例:高度熱傷、肥満手術後、腸不全、腎代替療法、がん、重症疾患、心臓手術など)では欠乏が頻繁に見られ、適切な補充が必要です。

こうした欠乏症は罹患率・死亡率の増加とも関連しているため1]、注意深く管理を行う必要があります。

3.リスク因子

では、どのようなときに微量元素欠乏症が起こるのでしょうか?

まずは、代表的な微量元素欠乏のリスク因子を以下にまとめてみました。

【微量元素欠乏のリスク因子】2]7]

●高齢者
●炎症性腸疾患
●消化管切除後
●肝機能障害
●腎疾患・透析
●薬剤(一部の抗菌薬やキレート剤)
●経腸栄養 → Fe、Zn、Cu、Se、Mnが低下しやすい

消化管からの吸収不良、肝機能障害、腎機能障害、透析、薬剤の影響など、多岐にわたります。

ICU管理において特に重要なのは、経腸栄養が行われている患者さんも微量元素欠乏のリスクが高い点です。栄養剤によっては微量元素の含有量やバランスが偏っている場合があり、Fe、Zn、Cu、Mn、Seが不足しがちと言われています。

(微量元素と経腸栄養に関する参考記事)

ただし、全ての入院患者に微量元素検査を行うのはコスト面や手間を考えても現実的ではありません。

したがって「リスク因子の存在を意識し、疑わしい症状が出現したら欠乏の可能性を考える」ことが実臨床の流れとなります。特に消化器系に問題を抱え、同じ栄養剤を長期的に投与されている高齢患者さんは注意が必要です。

【高齢者が微量元素欠乏になりやすい理由】
肉類など微量元素を多く含む食品の摂取量が減少しやすく、栄養状態の偏りが生じがちです。約5000人の血清Zn値を調査した報告3]では、60歳代の約50%が基準下限値未満であり、高齢になるにつれさらに低下していました。

4.各微量元素欠乏のまとめ

ここからは、経腸栄養を行っている患者さんで特に不足しがちなFe、Zn、Cu、Mn、Seの欠乏症状と検査・治療の目安を簡単にまとめます。

さらに、最近のエビデンス1-5]を踏まえた基礎と治療の概要もあわせて整理しました。


■ 微量元素欠乏症(鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン)の基本と治療

●基本
微量元素は体内の多くの重要な機能に関わる必須成分です。欠乏症は火傷、肥満手術、腸不全、腎代替療法、がん、重症疾患、心臓手術など特定の状況で頻繁に見られ、罹患率や死亡率の上昇と関連します1]
●鉄(Fe)
鉄欠乏症は最も多い栄養欠乏症で、低鉄摂取・出血・吸収不良・妊娠などが主な原因です。
治療は一般的に経口鉄剤が用いられますが、鉄を含むマルチミネラルタブレットも有用です2]
●亜鉛(Zn)
亜鉛欠乏症は皮膚発疹、脱毛、創傷治癒不全、味覚・嗅覚の変化などをきたします。
治療は1日30-50 mgの経口補充が推奨されていますが、高容量の亜鉛補充は銅欠乏を誘発するため注意が必要です3]

●銅(Cu)
銅欠乏は骨髄抑制(小球性貧血、白血球減少、汎血球減少)、神経学的変化(運動失調、神経障害)を招きます。
治療には2-4 mgを6日間静脈投与し、その後3-8 mg/日の経口投与などが推奨されます3]
●マンガン(Mn)

骨形成や代謝、抗酸化酵素の機能に関わり、長期の栄養療法中に欠乏しやすい要素です。
成人の推奨投与量は0.15-0.8 mg/日とされます4]
一方で過剰投与は脳への沈着が懸念されるため投与バランスに注意が必要です。

●セレン(Se)
セレン欠乏は心筋症、筋炎、脱毛、皮膚変化などを引き起こします。抗酸化作用があり、酸化ストレス軽減にも関与します。
治療には1日50-100 μgのセレン経口投与が推奨されます3], 5]。過剰補充はAKIや糖尿病、発がんリスク上昇との報告もあるため注意が必要です。


① Zn(亜鉛)欠乏

【症状】
・貧血、白血球減少などの血球減少
・口内炎や皮膚炎、脱毛
・創傷治癒遅延、褥瘡 など
【検査】 血清Zn↓、ALP↓
【治療】 1日30~50 mgの経口投与が推奨(日本では10~40mg程度の投与例あり)
【注意事項】 Zn補充過剰 → Cu欠乏を招く恐れ

② Cu(銅)欠乏

【症状】
・貧血、白血球減少など血球減少
・亜急性連合性脊髄変性症様の症状、末梢神経障害
・膀胱障害、小脳失調 など
【検査】 血清Cu↓、セルロプラスミン↓
【治療】 静脈投与 2-4 mg/日 ×6日 → その後3-8 mg/日の経口投与など3]
【注意事項】 胆汁排泄されるため、胆道閉塞時は補充禁忌

③ Se(セレン)欠乏

【症状】
・爪白色化・変形、皮膚炎、脱毛
・心筋症、虚血性心疾患、不整脈
・筋肉痛、筋力低下
【検査】 血清Se↓、CK↑
【治療】 1日50-100 μgの経口・静脈投与(重症時は100~500 μgまで)
【注意事項】 過剰投与はAKI、糖尿病、発がんリスク上昇5]

④ Mn(マンガン)欠乏

【症状】
・耐糖能異常、脂質代謝異常
・運動失調 など
【検査】 血清Mn↓
【治療】 成人で0.15~0.8 mg/日の補充4]
【注意事項】 過剰投与は脳へ沈着しパーキンソン症状を引き起こす可能性

⑤ Fe(鉄)欠乏

(記事冒頭で触れたとおり欠乏しやすいミネラル)
【症状】
・鉄欠乏性貧血(倦怠感、息切れ、めまい)
【検査】 フェリチン、トランスフェリン飽和度などで確認
【治療】 経口鉄剤が中心。出血リスクや腸管吸収不良がある場合は静脈製剤も検討2]

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5.参考文献

1) Zemrani B, Bines JE. Recent Insights Into Trace Element Deficiencies: Causes, Recognition and Correction.
Current Opinion in Gastroenterology. 2020;36(2):110-117. doi:10.1097/MOG.0000000000000612.

2) Bjørklund G, Aaseth J, Skalny AV, et al. Interactions of Iron With Manganese, Zinc, Chromium, and Selenium as Related to Prophylaxis and Treatment of Iron Deficiency.
Journal of Trace Elements in Medicine and Biology. 2017;41:41-53. doi:10.1016/j.jtemb.2017.02.005.

3) Lai JC, Tandon P, Bernal W, et al. Malnutrition, Frailty, and Sarcopenia in Patients With Cirrhosis: 2021 Practice Guidance by the American Association for the Study of Liver Diseases.
Hepatology (Baltimore, Md.). 2021;74(3):1611-1644. doi:10.1002/hep.32049.

4) Multitrace-5. Label via DailyMed.
Food and Drug Administration. Updated date: 2019-04-25.

5) Ikizler TA, Burrowes JD, Byham-Gray LD, et al. KDOQI Clinical Practice Guideline for Nutrition in CKD: 2020 Update.
American Journal of Kidney Diseases. 2020;76(3 Suppl 1):S1-S107. doi:10.1053/j.ajkd.2020.05.006.

6) 「日本人の食事摂取基準2020年版」策定検討会編 日本人の食事摂取基準2020年版 厚生労働省

7) Sassan P, et al. Overview of dietary trace elements.
UpToDate last updated: Jan 24, 2022.

8) 小渋陽一ら:長期経腸栄養高齢患者における血清微量元素レベルの検討と、 関連する症状及び臨床検査値の解析:Biomed Res Trace Elements11(2):190-203


 

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