【疑問】

今回は、臨床や医学の勉強をしていて感じる疑問の一つ、
ROSC後のTTM(体温管理療法)【目的と必要性について】
についてまとめました。
心肺蘇生を懸命に行い、ROSC(Return of Spontaneous Circulation)した後ホッと一息つくのではなく、その後の神経学的予後を考慮した管理をスムーズに行えるよう、理解を深めておきましょう◎
https://dancing-doctor.com/2021/04/24/bls-acls-icls/
1.体温管理療法(TTM)とは?
神経学的予後の改善を目指してOHCA蘇生後に患者の体温を管理する治療法
まず整理しておきたいのが、TTM(Targeted Temperature Management)の目的です。
TTMは心停止後の脳損傷を軽減するための重要な治療法で、広義には低酸素や外傷、出血などで損傷を受けた脳に対して脳保護作用や頭蓋内圧低下を狙って行われます。
初期の臨床試験では、軽度の治療的低体温(32-34℃)が神経学的転帰を改善することが示されました。
最近の研究では、厳密な体温管理(37.5℃以下)も同様に有効であることが明らかになっています1)2)。さらに、AHA(アメリカ心臓協会)の最新ガイドラインでは“温度管理”として、低体温管理・常温管理・発熱予防を含む広範なアプローチを推奨しています1)。
● TTMの具体的な目的
神経保護
低体温は、神経細胞の代謝率を低下させ、酸化ストレスや炎症反応を抑制することで脳損傷を軽減します3)。
発熱予防
発熱は神経学的転帰を悪化させるため、体温を37.5℃以下に維持することが重要です1)2)。
● TTMの実施において重要なポイント
目標温度
34-36℃の範囲で設定されることが多いですが、37.5℃以下の厳密な温度管理も有効とされています1)2)。
持続時間
通常24~48時間ほど行い、その後ゆっくりと再加温していきます1)2)。
こうした温度管理を行うことで、脳代謝を抑制し、虚血再灌流障害を軽減しようという狙いがあるわけですね。
TTMを行うことで得られるメリットとしては、
体温を1℃下げることで脳代謝を6~7%減少させられる
脳酸素消費量とATP消費を軽減できる
などが挙げられます。
また、頭部外傷後の脳圧管理を目的として施行されるケースもあります。

【目標体温による分類】
目標体温 名称
34–36℃ 平温療法(Normothermia)
32–34℃ Mild hypothermia(軽度低体温)
28–31℃ Moderate hypothermia(中等度低体温)
ROSC後に体温管理(TTM)を行うことで、非施行群に比較して有意に転帰が改善するという報告もあり4)、管理する目標体温は低体温による合併症リスクを考慮した上で設定されます。
具体的には、JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版5)では、深部体温32-36℃に少なくとも24時間保つことが推奨されていますし、AHAのガイドライン6)でも同様にROSC後のTTM実施が推奨されています。
2.なぜ心停止蘇生後の管理でTTMが推奨されるのか?
ここまで蘇生後の管理でTTMが重要視されている理由は、心停止後の患者の神経学的予後が非常に悪い傾向にあるためです。
院外心停止(OHCA)症例の神経学的予後について検証した論文7)では、
●目撃なし院外心停止(OHCA)…2.8%
●目撃あり院外心停止(OHCA)…4.3%
という衝撃的な数字が報告されています。
心停止蘇生後はほっと一息つくのではなく、いかに早期にTTMを行い、神経予後を改善するかが極めて重要。
日々の診療で常に意識しておきたいですね。
3.追加解説“ROSC”とは?
ROSC(Return of Spontaneous Circulation)についてもおさらいしておきます。
ROSCとは、心停止状態から脈が触れるようになり、自発的に自己心拍での循環が再開した状態を指す言葉です。
● ROSCと判断するタイミング
2分おきのリズムチェックの際に脈が触れを確認
心電図でsinus(洞調律)に見えても、PEA(無脈性電気活動)の可能性があります。
必ず実際の脈拍触知を確認しましょう。
体動だけでROSCと判断しない
体動があると勘違いすることもあります。
胸骨圧迫の中断時間を最小にするためにも、焦らず確実な指標で判断することが大切です。
4.引用文献
2023 American Heart Association Focused Update on Adult Advanced Cardiovascular Life Support: An Update to the American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care.
Perman SM, Elmer J, Maciel CB, et al.
Circulation. 2024;149(5):e254-e273. doi:10.1161/CIR.0000000000001194.
Temperature Management for Comatose Adult Survivors of Cardiac Arrest: A Science Advisory From the American Heart Association.
Perman SM, Bartos JA, Del Rios M, et al.
Circulation. 2023;148(12):982-988. doi:10.1161/CIR.0000000000001164.
Transient Global Ischemia-Induced Brain Inflammatory Cascades Attenuated by Targeted Temperature Management.
Hong DK, Park YS, Woo JS, et al.
International Journal of Molecular Sciences. 2021;22(10):5114. doi:10.3390/ijms22105114.
N Engl J Med. 2002;346:549-63.
「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」一般社団法人 日本蘇生協議会(JRC)
2020アメリカ心臓協会 CPRおよびECCのガイドライン
Kitamura T et al. Circulation. 2012;126:2834-43.
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