ERで見逃しやすい、踵骨骨折についてまとめました。
踵骨骨折
1.ポイント
●足部の骨折を迅速に治療しなかった場合は、長期の後遺障害を来すことがある
●最大10%がERでの初診で見逃される
●踵骨の骨折の10%に胸腰椎圧迫骨折を合併する
●踵骨骨折の徒手整復法に大本法があり、踵骨骨折の際はまず検討すべき
2.疫学
●足部の骨折の実に60%であり1)、若年男性に多い2)
●転落外傷、飛び降りで起こる足部の骨折は踵骨骨折が最も多く、次に距骨の骨折が多い
●診断されず、迅速に治療しなかった場合は、長期の長期の後遺障害を来すことがある。これらの骨折のうち、最大10%が救急診療部での初診で見逃される。
●踵骨骨折患者の10%には胸腰椎圧迫骨折がみられる。
3.症状・合併症
●ほとんどは圧迫骨折である受傷直後から、踵部への荷重が不能となる
●皮下出血、腫脹が著名であり局所の圧痛と足関節運動時の激痛を伴い、5~10%の症例でコンパートメント症候群が発生すると言われている
●動脈触知不良やCRTの延長があれば、緊急の減張切開を検討3)
●距骨の骨折では変形治癒や骨壊死の合併が多い
4.診察・検査
●診断に有効な検査はXp、時にCTであり、Xpを施行するかどうかはOttawa ankle rulesが有用である
【オタワ足関節ルール(Ottawa ankle rules)】
首の急性外傷における足部Xpの必要性を決定し、不必要なX-pを避けるためのスクリーニングのツール
☆足首の疼痛+A or Bの疼痛、または疼痛のため4歩以上歩行できない→足首X線
☆足部の疼痛+C or Dの疼痛、または疼痛のため4歩以上歩行できない→足X線
Xp側面像で踵骨隆起の上端と踵骨の上方頂点を結ぶ線でなす角
(Bohler角)の測定が重要となる
通常20~30°であるが、踵骨体部骨折があるとBohler角が20°以下となる
①Bohler角が20°未満である
②X線は陰性であるが臨床所見により踵骨骨折が示唆される
③骨折のさらなる詳細が必要である場合
→CTの検査が望ましい
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5.診断・治療方針
Xpで距骨の骨折は明らかであることが多いが骨片の転位を正確に見るにはCTが欠かせない
転位の度合いで右図のようなHawkins分類がなされている
Ⅲ型以降になると骨壊死の確率が30%~になるとも言われている。
転位のないⅠ型はギブス固定
転位ある場合は徒手整復は困難であり手術が必要。
6.具体的な治療
ADL不良の高齢者以外の患者では、腰椎麻酔下もしくは神経ブロック下で徒手整復(大本法)を早期施行することが望ましい
①患者を腹臥位にして膝を90°に屈曲
②両手で踵骨を包み込むようにして持ち、指を組み、左右の掌部
で踵骨を強く挟み付けて牽引
③内外反を繰り返しながら牽引を続ける
以上より陥没した関節面を修復し、圧壊した踵骨の全体像を戻す
その後ギブス固定、または手術へ
7.引用、参考文献
https://www.mdcalc.com/ottawa-ankle-rule
標準整形外科学
整形外科研修ノート
踵骨骨折の治療 大本秀幸
1)
Eiff MP, Hatch RL. Fracture Management for Primary Care, 3rd, Elsevier Saunders, Philiadelphia 2012.
2)
Sanders RW, Clare MP. Calcaneous fractures. In: Rockwood and Green’s Fractures in Adults, 7th, Bucholz, RW, Heckman JD, Court-Brown CM, Tornetta P (Eds), Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia 2010. p.2064.
3)
Principles of management of the severely traumatized foot and ankle.
Baumhauer JF, Manoli A 2nd
Instr Course Lect. 2002;51:159.(PMID:12064101)
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