Qラボ

挿管もできない…酸素化もできない時、どうする?

📩 今週ラストの限定記事

4月は「気道管理」を一つのテーマとして、評価・マスク換気・気管挿管と順を追って学んできました。

今週の締めくくりとして、日本麻酔科学会(JSA)の気道管理アルゴリズムをベースに、

最も怖い場面──CICO(Cannot Intubate, Cannot Oxygenate)への備え方を整理します。

救急外来で急変患者さんと向き合う若手の先生、手術室で麻酔導入を担当する研修医の方、あるいはICUで重症管理に携わる看護師さんであっても…

どの立場であっても、「挿管もできない、マスク換気も効かない」という状況は、一度は頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。

僕自身、救急医として何年も気道管理に携わってきましたが、CICOという言葉を思い浮かべるだけで、いまだに背中がスッと冷える感覚があります。

でも、怖いからこそ、きちんと準備しておきたいですね。


JSA気道管理アルゴリズム

日本麻酔科学会が2014年に発表した気道管理アルゴリズム(JSA-AMA)は、挿管困難に遭遇したときの意思決定を、色分けで直感的に示した優れたツールです(日本麻酔科学会. 麻酔. 2015;64:101-103)

📋 JSA-AMAの3つのプラン

  • 🟢 Plan A(グリーンゾーン):マスク換気と気管挿管。まずはここで決める
  • 🟡 Plan B(イエローゾーン):声門上器具(SGA)による換気確保。LMAやi-gelで酸素化を維持
  • 🔴 Plan C(レッドゾーン):外科的気道確保。輪状甲状間膜切開や穿刺

アルゴリズムの本質は、「1つの手技に固執しない」「早めに次のプランへ切り替える」という意思決定の軸を与えてくれることだと思うんです。

特に大切なのは、Plan AからBへ、BからCへ、いつ移るかを”あらかじめ決めておく”こと。現場で「もう1回やってみようかな…」と迷っているうちに、SpO₂はあっという間に落ちていきますよね。

CICOとは ── “最も避けたい”が”ゼロにはできない”事態

CICO(Cannot Intubate, Cannot Oxygenate)は、

「気管挿管も失敗し、マスク換気も声門上器具でも酸素化ができない」という、気道管理における最悪のシナリオです。

発生頻度は手術麻酔で5万〜20万例に1回程度と報告されていますが、ICUや救急の現場では頻度がもっと高いと考えられています。

英国のNAP4 auditでは、重大な気道関連合併症の約4分の1がICUや救急室で発生しており、死亡率も手術室に比べて高いと報告されました(Cook TM, et al. Br J Anaesth. 2011;106:617-642)。

💡 CICOで絶対に意識したいこと

  • 時間との勝負:無呼吸開始から不可逆的な脳障害までは数分
  • “あと1回”の挿管試行が致命的になる瞬間がある
  • Plan Cへの移行を躊躇しない覚悟を、導入前に決めておく

輪状甲状間膜切開 ── 「怖い」を越えるための準備

2015年にBritish Journal of Anaesthesiaに掲載されたDifficult Airway Society(DAS)ガイドラインは、CICOへの対応としてScalpel-Bougie-Tube法(メス・ブジー・チューブ法)を標準として推奨しました(Frerk C, et al. Br J Anaesth. 2015;115:827-848)

2025年に改訂されたDASガイドラインでは、垂直切開法が標準化されています(Ahmad I, et al. Br J Anaesth. 2026;136:283-307)。首が太くて輪状甲状間膜の位置が触れにくい患者さんでも、縦に切ってから横に広げる方が、解剖学的に迷いにくいという実践的な理由からなんですよね。

4月のリアルタイムセミナーでは、日本の外傷診療のガイドラインで推奨されている「輪状甲状間膜切開」について解説しようと思います。楽しみにしておいてくださいね。


CICOを防ぐために、今日からできること

✅ 挿管前に”声に出して”確認したいこと

  • Plan A・B・Cをチームで共有できているか
  • 声門上器具(LMA、i-gel)が手元に準備されているか
  • 輪状甲状間膜切開キットの場所と中身を知っているか
  • “あと1回”で切り替える基準(試行回数・SpO₂)を決めているか

CICOは「起きないことを祈る」場面ではなく、「起きたときに動けるように準備する」場面だと思うんです。アルゴリズムはあくまで地図にすぎません。現場で動くのは、僕たち一人ひとりです。


いよいよ明日は、リアルタイムセミナーですね。

4月に学んできた気道管理の知識を、明日のセミナーでは症例ベースで一緒に深めていきたいと思います。

「この患者さんだったら、どの薬剤をどれくらい使う?」「Plan BからCへ切り替えるタイミングは?」など、実際の現場で直面する意思決定を、皆さんと一緒にじっくり話し合えたら嬉しいです。

明日、お会いできるのを楽しみにしています◎


参考文献

Cook TM, et al. Major complications of airway management in the UK: results of the Fourth National Audit Project of the Royal College of Anaesthetists and the Difficult Airway Society. Part 2: intensive care and emergency departments. Br J Anaesth. 2011;106(5):632-642.

Frerk C, et al. Difficult Airway Society 2015 guidelines for management of unanticipated difficult intubation in adults. Br J Anaesth. 2015;115(6):827-848.

Ahmad I, et al. Difficult Airway Society guidelines for awake tracheal intubation and unanticipated difficult airway management in adults 2025. Br J Anaesth. 2026;136(2):283-307.

日本麻酔科学会気道管理ガイドライン作成ワーキンググループ. 日本麻酔科学会気道管理アルゴリズム(JSA-AMA). 麻酔. 2015;64(1):101-103.