「リハビリどうしたらいいですか?」
入院したらオーダーを出して、それで終わり。
最初の頃はそうだったかもしれません。でも、どの科に進んでも、リハビリとは無縁ではいられないんですよね。
ICU患者の筋肉は、驚くほど早く減っていく
2013年、ICU患者さんの筋肉をエコーで測定した研究があります(1)。
結果は衝撃的でした。
⚠️ ICU患者の筋肉萎縮
- 3日目から筋肉が萎縮し始める
- 7日目には15〜20%も筋肉が減少する
せっかく頑張って治療したのに、動けなくなる。立てなくなる。寝たきりになる。これが「ICU-AW(ICU-Acquired Weakness)」と呼ばれる問題です。
📋 どれくらいひどいのか?
| 状況 | 1日あたりの筋肉減少率 |
|---|---|
| ICU入室中の重症患者 | 約2% |
| 健常人の安静臥床 | 約0.4% |
| 宇宙飛行士(無重力) | 約0.03% |
ICUの患者さんは、宇宙飛行士の60倍以上のスピードで筋肉が減っていくんです(1)。
「早期リハビリは良いこと」…でも、やりすぎは危険
2022年、New England Journal of Medicineに衝撃的な論文が出ました(2)。
💡 TEAM試験の結果
早期に積極的に離床したら、180日目の生存日数が悪くなった
え?リハビリしたら予後が悪くなるの?
確かに、有意差はなかったものの、有害事象は増えていました。血圧変化、不整脈、酸素飽和度の低下など、確かにイメージが付きますよね。
でも、だからといって「リハビリしない方がいい」というわけではありません。
大切なのは、安全に、適切に行うことなんです。
大切なのは「開始基準」と「中止基準」を知ること
2023年、日本集中治療医学会から「重症患者リハビリテーションガイドライン」が出ています(3)。
昔は、ICUの患者さんはずっと寝ていました。それを「どんどんリハビリしましょう」とやってきた結果、「やりすぎじゃないか」という問題が出てきたんです。
だからこそ、安全に行うための基準を知ることが大切。
⚠️ 中止を考慮する指標(一例)
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 心拍数 | 40未満 または 130以上 |
| 収縮期血圧 | 90未満 または 180以上 |
| SpO₂ | 88%未満 |
| ノルアドレナリン | 0.1γ以上 |
| FiO₂ | 0.6以上 |
| 意識レベル | RASS -3以下 |
これはあくまで参考基準ですが、こういう項目があるということを知っておくだけでも違います(3)。
プロトコールを使って安全に進める
多くの病院(おそらく80%以上)には、急性期リハビリテーションのプロトコールがあると思います。
✅ プロトコールを使うと
- 身体機能が改善する
- 人工呼吸器装着期間が短くなる
- ICU滞在日数が短くなる
📋 離床のステップ
- 他動的関節運動(ROM):すべての始まり
- 端座位:床を離れる大きな一歩
- 立位:ベッドから離れる
- 歩行:社会復帰への道
まずはROM(関節可動域訓練)から
ベッドサイドで看護師さんが手足を動かしているのを見たことがありますか?
あれが「他動的関節運動」、通称ROMです。
✅ 他動的関節運動の効果
- 何もしないグループと比べて、筋力が改善
- サイトカインが分泌される
- 抗炎症作用がある
- 筋肉の萎縮を抑制する
まず動かす。そこからすべてが始まるんです(5)。
EMS(電気刺激療法)という選択肢
クリスティアーノ・ロナウドがCMで使っていた、あのブルブル震える機械。あれに似たものを医療で使う方法があります。
EMS(Electrical Muscle Stimulation)です(5)。
💡 なぜEMSが有効なのか
ベッド上で動けない人にこそ、他動的な電気刺激が有効なんじゃないか。
元気な人は自分で腹筋したり、バーベルを持ち上げたりすればいい。でも、鎮静がかかっている人、筋弛緩薬を使っている人、そもそも動けない人には、EMSという選択肢があります。
📋 EMSの研究結果
- 何もしなければ10%筋肉が萎縮する
- EMSを使うと2〜3%で済む
- ICU-AWの発症も減少傾向
2023年の重症患者リハビリテーションガイドラインでも、「ICU-AW予防のためにEMSを行うことを弱く推奨する」とされています(3)。
人工呼吸器装着中でも歩ける
2009年と2010年、パラダイムシフトとなる論文が出ました(4,6)。
📊 人工呼吸器の患者は歩けるんだ
それまでは「人工呼吸管理中はベッドで安静」が当たり前でした。批判もあったそうです。
でも、適切に行えば、挿管していても歩いて社会復帰を目指せるんです。
- VRを使ったリハビリ
- ゲーム(Wii Fitなど)を使ったモチベーション向上
- チルトベッドを使った立位練習
方法は無限大です。
72時間以内の離床が予後を改善する
栄養療法は48時間以内。では、リハビリは?
72時間以内の離床・積極的運動療法が推奨されています(3,6)。
✅ 72時間以内に離床できた患者さんでは
- 死亡率が減少
- 寝たきりの発生が減少
栄養とリハビリ、似ているんですよね。どちらも「早めに始める」ことが大切。
まとめ
✅ 急性期リハビリテーションのポイント
- ICU患者の筋肉は急速に萎縮する:宇宙飛行士の60倍以上のスピード
- 早期リハビリは大切、でもやりすぎは危険:安全に、適切に
- 開始基準・中止基準を知る:ガイドラインを活用
- ROM→端座位→立位→歩行:段階的に進める
- 72時間以内の離床:予後を改善する
引用文献
- Puthucheary ZA, et al. Acute skeletal muscle wasting in critical illness. JAMA. 2013;310(15):1591-1600. [PubMed]
- TEAM Study Investigators. Early Active Mobilization during Mechanical Ventilation in the ICU. N Engl J Med. 2022;387(19):1747-1758. [PubMed]
- 日本集中治療医学会. 重症患者リハビリテーションガイドライン. 2023.
- Needham DM, et al. Early physical medicine and rehabilitation for patients with acute respiratory failure. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(4):536-542. [PubMed]
- Fossat G, et al. Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults. JAMA. 2018;320(4):368-378. [PubMed]
- Schweickert WD, et al. Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients. Lancet. 2009;373(9678):1874-1882. [PubMed]
- 中西直人. 誰でもできる筋肉評価. 羊土社. 2023.
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どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
急性期リハビリテーションは、「とにかくやればいい」という時代から、「安全に、適切に」という時代に変わってきています。
開始基準と中止基準を知る。プロトコールに沿って進める。多職種で協力する。
理学療法士さん任せにするのではなく、医師も看護師も一緒に考える。そういうチーム医療が、患者さんの社会復帰につながるんだと思います。一緒に頑張りましょう。





