「ICUから退出できたのに、患者さんが立てなくなっている…」
重症患者さんがICUでの治療を乗り越えて一般病棟に戻ったとき、こんな場面に遭遇したことはありませんか?
これが「ICU-acquired weakness(ICU獲得性筋力低下)」です。命は助かったけれど、寝たきりになってしまう。そんな悲しい結果を防ぐために、早期リハビリテーションが注目されています(1,2)。
ICU-AWとは
ICU-acquired weakness(ICU-AW)は、ICU入室中に発症する、原因となる疾患以外では説明できない四肢の筋力低下です(1,2)。
⚠️ ICU-AWの特徴
- 発症頻度:ICU患者の25-50%に発症
- 発症時期:人工呼吸管理開始後、数日〜1週間で発症
- 症状:四肢の対称性筋力低下、深部腱反射低下
- 予後への影響:人工呼吸器離脱困難、長期入院、死亡率上昇
筋肉は1日で1-2%も萎縮すると言われています。ICUで1週間も安静にしていたら、10%以上の筋肉量が失われることになります(2)。
💡 臨床のコツ
「命を救う」だけでなく、「元の生活に戻れるように」することも私たちの大切な仕事です(1)。
なぜICU-AWが起きるのか
ICU-AWの発症にはさまざまな因子が関わっています(1,3)。
💡 ICU-AWのリスク因子
- 敗血症・全身性炎症反応:炎症性サイトカインによる筋障害
- 人工呼吸管理:横隔膜も萎縮する
- 長期臥床・不動:廃用性筋萎縮
- 高血糖:神経・筋障害を悪化させる
- ステロイド・筋弛緩薬:長期使用でリスク上昇
- 低栄養:蛋白分解が優位に
特に敗血症患者では、炎症によって直接筋肉が障害されるため、発症リスクが高くなります(3)。
早期リハビリテーションとは
ICU-AWを予防・軽減するために、「早期リハビリテーション」が推奨されています(2,4)。
✅ 早期リハビリテーションとは
- 定義:ICU入室後48時間以内に開始するリハビリテーション
- 内容:関節可動域訓練、座位練習、立位練習、歩行練習など
- 対象:人工呼吸器装着中の患者さんも対象
- チーム:医師、看護師、理学療法士、作業療法士の協働
「人工呼吸器が付いているから動かせない」は誤解です。
適切な評価のもと、挿管中でもリハビリは可能です(4)。
💡 臨床のコツ
「動ける状態になってから」ではなく、「動けるようにするために」リハビリを始めましょう(2)。
📚 もっと詳しく学びたい方へ
早期リハビリテーションの具体的な進め方、エビデンスを詳しく解説しています。
早期リハビリテーションの効果
早期リハビリテーションには、多くの効果が報告されています(2,4,5)。
📋 早期リハビリテーションの効果
- 人工呼吸器装着期間の短縮:離脱がスムーズに
- ICU滞在日数の短縮:早期回復
- せん妄の発症減少:覚醒・活動が改善
- 筋力・身体機能の維持:ADL低下を予防
- 退院時の歩行能力改善:自宅復帰率の向上
ただし、早期リハビリテーションにも注意点があります。過度な負荷は避け、患者さんの状態に合わせた介入が重要です(5)。
リハビリ開始の安全基準
早期リハビリテーションを安全に行うための基準を確認しましょう(4,5)。
✅ リハビリ開始の目安
- 呼吸:FiO₂ ≤ 0.6、PEEP ≤ 10cmH₂O
- 循環:昇圧剤の増量傾向がない、血圧安定
- 意識:鎮静が深すぎない(RASS -2以上が目安)
- その他:活動性出血がない、骨折の不安定性がない
⚠️ リハビリ中止・延期の基準
- 循環動態の悪化:血圧低下、不整脈の出現
- 呼吸状態の悪化:SpO₂低下、呼吸困難の増悪
- 意識レベルの変化:興奮、不穏
- 患者さんの訴え:強い疲労感、痛み
💡 臨床のコツ
「やらないリスク」と「やるリスク」のバランスを考え、できることから始めましょう(4)。
段階的なリハビリテーション
リハビリテーションは段階的に進めていきます(4)。
📋 リハビリの段階
- ベッド上での関節可動域訓練:拘縮予防
- ベッドアップ座位:起立性低血圧に注意
- 端座位:バランス訓練
- 立位練習:チルトテーブルや介助で
- 歩行練習:最終目標
人工呼吸器装着中でも、段階1〜4まで進められることが多いです(4)。
まとめ
✅ ICU-AWと早期リハビリのポイント
- ICU-AWはICU患者の25-50%に発症:「命は助かったけど動けない」を防ぐ
- 早期リハビリは48時間以内に開始:待っていては遅い
- 人工呼吸器装着中でもリハビリ可能:適切な評価のもとで
- チームアプローチが重要:医師・看護師・PT・OTの協働
- 栄養療法との併用:リハビリだけでは筋肉は増えない
引用文献
- Kress JP, Hall JB. ICU-acquired weakness and recovery from critical illness. N Engl J Med. 2014;370(17):1626-1635.
- Vanhorebeek I, Latronico N, Van den Berghe G. ICU-acquired weakness. Intensive Care Med. 2020;46(4):637-653.
- Puthucheary ZA, Rawal J, McPhail M, et al. Acute skeletal muscle wasting in critical illness. JAMA. 2013;310(15):1591-1600.
- Schweickert WD, Pohlman MC, Pohlman AS, et al. Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009;373(9678):1874-1882.
- Hodgson CL, Stiller K, Needham DM, et al. Expert consensus and recommendations on safety criteria for active mobilization of mechanically ventilated critically ill adults. Crit Care. 2014;18(6):658.
📚 早期リハビリテーションをもっと深く学ぶなら
ICU-AWの予防から、栄養療法との連携まで、実践的に解説しています。
🩺 ICU管理、もっと深く学びたい方へ
Qラボでは、ICU-AWの予防やリハビリテーションを症例ベースで一緒に学んでいます。
「この患者さん、リハビリ始められる?」そんな疑問を解決しましょう。





