ICU看護師さんからの大切な質問
先日の敗血症セミナーの後、ICU看護師さんから、こんな質問が届きました。
📩 看護師さんからの質問
「抗菌薬の持続投与は、”○時間で投与”の文言が書かれている場合で2時間以内の投与であれば滴下調整しながら手落としていることがほとんどです。
先日、下肢の壊死性筋炎で入院していた患者さんで、1日4回を投与していた抗菌薬を8mL/hで6時間毎交換の持続投与に切り替わったことがありました。
医師に聞いたところ、時間依存性の抗菌薬は血中濃度を維持するために持続投与が有用だからということを教えていただきました。
抗菌薬に関して、看護師として知っておいてほしいことがあれば今後知りたいです。」
とても重要な質問だと思ったんです。
ICUで働く看護師さんにとって、抗菌薬の投与方法は日常的に向き合う問題ですよね。でも、「なぜ持続投与なのか」「どの抗菌薬が対象なのか」を理解している方は、実は多くないんです。
この記事では、抗菌薬の持続投与の理論的背景と、看護師として知っておくべきポイントを、最新のエビデンスをもとに説明していきます。
抗菌薬には2つのタイプがある〜時間依存性と濃度依存性〜
まず、抗菌薬の効き方には、大きく分けて2つのタイプがあります。
📋 抗菌薬の分類
1. 時間依存性抗菌薬(Time-dependent)
血中濃度がMICを上回っている時間が大切
- 代表例:ベータラクタム系(ペニシリン、セフェム、カルバペネムなど)
- 効果の指標:Time above MIC(%TAM)
2. 濃度依存性抗菌薬(Concentration-dependent)
血中濃度のピーク値が大切
- 代表例:アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)、ニューキノロン系
- 効果の指標:Cmax/MIC、AUC/MIC
つまり、時間依存性の抗菌薬は「長く効かせる」ことが大事で、濃度依存性の抗菌薬は「高く効かせる」ことが大事なんです。
ベータラクタム系はなぜ持続投与が有効なのか?
質問にあった「時間依存性の抗菌薬は血中濃度を維持するために持続投与が有用」というのは、まさにこの理論に基づいています。
🧪 Time above MIC(%TAM)とは?
ベータラクタム系抗菌薬は、血中濃度がMIC(最小発育阻止濃度)を上回っている時間が、殺菌効果と相関します。
理想的には、投与間隔の40-70%以上の時間、血中濃度がMICを上回っていることが望ましいとされています。
💡 間欠投与 vs 持続投与
間欠投与(1日4回など)
- 投与直後は血中濃度が高い
- 時間とともに濃度が下がる
- 次の投与までに、MICを下回る時間ができる
持続投与(ポンプで24時間投与)
- 血中濃度が一定に保たれる
- 常にMICを上回る濃度を維持できる
- Time above MICが最大化される
つまり、持続投与は、「常に効いている状態」を作ることができるんです。
エビデンスは何を示しているのか?
「理論的にはわかったけど、実際に効果はあるの?」
そう思われるかもしれません。実際、この分野では多くの研究が行われています。
📊 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021
2021年に発表された敗血症診療ガイドラインでは、重症敗血症・敗血症性ショックにおいて、ベータラクタム系抗菌薬の持続投与または延長投与を推奨しています(弱い推奨)。
📚 主要な研究
Abdul-Aziz et al. (Intensive Care Med, 2020)
対象:重症感染症患者におけるベータラクタム系抗菌薬
結果:持続投与により、薬物動態学的/薬力学的目標達成率が改善
Dulhunty et al. (Intensive Care Med, 2015) – BLING II trial
対象:重症敗血症患者432名
介入:ベータラクタム系抗菌薬の持続投与 vs 間欠投与
結果:90日死亡率に有意差なし(ただし、薬物動態学的目標達成率は持続投与で有意に高い)
研究結果は一部矛盾していますが、重要なのは、重症感染症においては持続投与が薬物動態学的に優れているということです。
なぜ全ての患者で持続投与しないのか?〜人的リソースの問題〜
「じゃあ、全員に持続投与すればいいんじゃないの?」
そう思うかもしれません。でも、現実はそう単純ではないんです。
⚖️ 費用対効果と人的リソース
抗菌薬を持続投与するには:
🔧 持続投与に必要なもの
- 輸液ポンプ
- 6-8時間ごとの薬剤交換(薬剤の安定性による)
- 看護師の準備・交換作業
- 薬剤師による調製
- ルート確保
つまり、スタッフの時間的・人的リソースがかなり必要なんです。
すべてのベータラクタム系抗菌薬を持続投与すれば、治療効果は高いかもしれません。でも、人的リソースがそれに見合っていないと考える施設もあります。
だからこそ、多くの施設では、敗血症性ショックのような重症感染症に限定して、持続投与を行っているんですね。
看護師として知っておくべきこと
では、看護師として、抗菌薬投与について何を知っておくべきでしょうか。
✅ 看護師が押さえるべきポイント
1. 時間依存性 vs 濃度依存性を理解する
ベータラクタム系(ペニシリン、セフェム、カルバペネム):時間依存性 → 持続投与が有効
アミノグリコシド系、ニューキノロン系:濃度依存性 → 1日1回の高用量投与が有効
2. 持続投与の目的を理解する
「血中濃度を一定に保つ」ことで、Time above MICを最大化し、殺菌効果を高める。
3. 薬剤の安定性を意識する
多くのベータラクタム系抗菌薬は、溶解後の安定性が限られている(6-8時間程度)。だからこそ、定期的な薬剤交換が必要。
4. 重症度に応じた投与方法の違いを理解する
軽症〜中等症:間欠投与で十分
重症敗血症性ショック:持続投与を検討
5. ポンプ管理の重要性
持続投与では、流量設定、ルート確保、定期交換が正確に行われることが治療効果に直結する。
具体例:どんな抗菌薬が持続投与されるのか?
実際の臨床で、持続投与されることが多い抗菌薬を挙げてみます。
💊 持続投与される代表的な抗菌薬
- ピペラシリン/タゾバクタム(ゾシン)
- メロペネム(メロペン)
- セフェピム(マキシピーム)
- セフタジジム
これらは、重症敗血症性ショックのような重症感染症で使用されることが多い抗菌薬です。
まとめ
抗菌薬の持続投与、理解できたでしょうか。
✨ この記事のポイント
- 抗菌薬には時間依存性と濃度依存性がある
- ベータラクタム系は時間依存性
- Time above MICが大切
- 持続投与で血中濃度を一定に保つ
- 重症敗血症では持続投与が有効
- 持続投与には人的リソースが必要
- 全症例では行われない
- 重症度に応じて判断
- 薬剤の安定性に注意
- 6-8時間ごとの交換が必要
- 看護師としてポンプ管理を正確に
ICU看護師として、抗菌薬の投与方法の理論的背景を理解することで、「なぜこの患者さんは持続投与なのか」が見えてきます。
それが、より質の高い看護につながるはずです。
参考文献
- Evans L, Rhodes A, Alhazzani W, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Crit Care Med. 2021;49(11):e1063-e1143.
- Abdul-Aziz MH, Alffenaar JC, Bassetti M, et al. Antimicrobial therapeutic drug monitoring in critically ill adult patients: a Position Paper. Intensive Care Med. 2020;46(6):1127-1153.
- Dulhunty JM, Roberts JA, Davis JS, et al. A Multicenter Randomized Trial of Continuous versus Intermittent β-Lactam Infusion in Severe Sepsis. Am J Respir Crit Care Med. 2015;192(11):1298-1305.
- Roberts JA, Abdul-Aziz MH, Lipman J, et al. Individualised antibiotic dosing for patients who are critically ill: challenges and potential solutions. Lancet Infect Dis. 2014;14(6):498-509.





