【疑問】
今回は、USMLEの勉強をしていて感じる疑問の一つ、
薬剤耐性マラリアが出現する機序とは?
についてまとめました。
USMLEの勉強をしている日本人医学生や医師にとって、日本国家試験の勉強としてはあまり触れてこなかったであろう原虫感染症マラリア。
一方でUSMLEの感染症分野においては一つのヤマともいえるかなりhigh yieldなトピックなのでしっかり勉強しておいた方がいいです!
この記事ではマラリアの基本を理解した上での、薬剤耐性を持つ理由について文献を使って説明していきます◎
※USMLE受験に際して学ぶべき、マラリアの基本的知識については以下の動画がよくまとまっています。興味がある方は是非一度ご覧ください👇
Malaria | Osmosis Study Video
1.薬剤耐性マラリアが出現する機序とは
●抗マラリア薬に耐性を持つマラリア原虫の出現が問題になっている
●抗マラリア薬に対する耐性の原因としてPfCRT(Plasmodium falciparum chloroquine resistance transporter)タンパク質が知られている
●PfCRTはクロロキンの他に、アミノ酸やポリアミン等の栄養物質を輸送するトランスポーターである
マラリアは現在でも全世界で年間2億人が感染し、60万人以上の死者を出す、3大感染症の一つです。近年は抗マラリア薬に耐性を持つマラリア原虫の出現が問題になっています。
中でもクロロキン耐性のマラリアは1900年代後半から急激に増えてきており、赤道直下のエリアを中心とした世界各地に広まっていろことが問題となっています。
クロロキン耐性のマラリアの治療薬について、USMLEでも出題されることが多かったのはこれだけ世界でマラリアに苦しむ方々がいらっしゃるからなんですね。
日本の視点だけでマラリアの勉強をしては気づけないこともあるので、世界的な医療問題を知るという目的でもUSMLEの受験勉強は有用であるといえるかもしれません…!
クロロキン等の抗マラリア薬に対する耐性の原因としてPfCRT(Plasmodium falciparum chloroquine resistance transporter)タンパク質が多きな鍵を握っていることは知られていましたが、このタンパク質についての解析はこれまであまり進んできていませんでした。
そんな中、2015年に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森山芳則教授、表弘志准教授、自然生命科学研究支援センターの樹下成信助教らの研究グループは、PfCRTを大腸菌に大量に作らせ、精製することで、その機能を測定する事に世界で初めて成功しました1)。
本システムを用いて働きを調べたところ、
PfCRTがクロロキンやベラパミル等の薬物を輸送するとともに、アミノ酸やポリアミン等の栄養物質を輸送するトランスポーターである事がわかりました。
アミノ酸はマラリア原虫が生きていくために必須な栄養素です。PfCRTがいかに大切なトランスポーターであるかがご理解いただけると思います。
上図がPfCRTの実際の作用を示した図になります。
クロロキンはアミノ酸輸送を阻害する事で、マラリア原虫を栄養飢餓状態にしているのです。
2.追加説明
2020年8月6日、nature communicationに掲載された論文2)では、さらにこのトランスポーターが宿主由来の特定のペプチドの輸送を担っていることを明らかにしました。
また、このトランスポーターが、寄生虫の栄養源となるアミノ酸の供給を助け、オルガネラの浸透圧を調節する機能を持っていることが示唆されました。
これらの知見は、このトランスポーターを標的とした薬剤の開発や、既存の抗マラリア薬の有効性の回復に役立つことが期待されます。
3.参考ページ・医学ノート
コチラの記事でも紹介させていただいている参考書、『ただいま感染症内科診断中!』は海外で有名な感染症についても取り扱ってくださっているので、USMLEを受験する皆様にも本当におすすめです。興味があれば是非チェックしてみてください!👇
4.引用文献
Sarah H. Shafik, Simon A. Cobbold, Kawthar Barkat, Sashika N. Richards, Nicole S. Lancaster, Manuel Llinás, Simon J. Hogg, Robert L. Summers, Malcolm J. McConville & Rowena E. Martin
Nature Communications volume 11, Article number: 3922 (2020)
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