血液ガス分析の総まとめ〜5ステップから臨床介入まで、救急医が教える実践的アプローチ〜
📚 目次(クリックで該当箇所へジャンプ)
【イントロダクション】
【5ステップの復習】
- 10:00 – ステップ1:pHを確認する
- 14:00 – ステップ2:PaCO₂とHCO₃⁻を比較する
- 18:00 – ステップ3:アニオンギャップを計算する
- 28:00 – ステップ4:補正HCO₃⁻を計算する
- 35:00 – ステップ5:代償反応を確認する
【練習問題】
- 42:00 – 練習問題の答え合わせ
- 44:00 – Q1:80代女性、右腰部の叩打痛
- 50:00 – Q2:40代男性、めまい・嘔吐
- 55:00 – Q3:75歳女性、DKA治療翌日
- 60:00 – Q4:80代男性、意識障害
【臨床介入】
【まとめ・質疑応答】
- 0:00この1ヶ月、血液ガスと向き合ってきた皆さんへ
- 3:00血液ガス分析は「力」を解き明かす作業
- 6:00守破離で学ぶ血液ガス分析
- 10:00ステップ1:pHを確認する〜今、どこに立っている?〜
- 14:00ステップ2:PaCO₂とHCO₃⁻を比較する〜メインは呼吸性?代謝性?〜
- 18:00ステップ3:アニオンギャップを計算する〜隠れたやばい病態を見つける〜
- 28:00ステップ4:補正HCO₃⁻を計算する〜隠れた病態をあぶり出す〜
- 35:00ステップ5:代償反応を確認する〜急性?慢性?体の対応は適切か?〜
- 42:00練習問題の答え合わせ〜4つの症例を解釈してみよう〜
- 65:00臨床での介入〜救急医の視点で動く〜
- 80:00達人はどう考えているのか?〜型から離れる〜
- 85:00質疑応答〜腎臓内科の先生とのディスカッション〜
- 88:00まとめ〜今日のポイント〜
- 来月のテーマ:抗菌薬と感染症
- どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
0:00この1ヶ月、血液ガスと向き合ってきた皆さんへ
「血液ガス分析、めちゃくちゃ難しくないですか?」
正直に言うと、僕も研修医1年目の時、めちゃむずいなと思ったんですよ。
セミナーを受けたり、教科書を読んだりして、こう説明を聞いても、やっぱり何回聞いても難しいなと思うところがあって。
だからこそ、この1ヶ月は血液ガスについてしっかり考える時間にしようと思いました。
実際の症例をオンラインコミュニティで共有したり、練習問題を送らせてもらったり、皆さんの質問に答えたり。そして今日は、その総まとめとして、復習しながら、さらに深掘りしていきます。
🎯 今日のゴール
- 5ステップの復習:もう一度、基礎を固める
- 深掘り:前回のセミナーであえて避けていた「なぜ?」の部分を解説
- 練習問題の答え合わせ:実際に解釈してみる
- 臨床介入:救急医の視点で、どう動くかを学ぶ
血液ガスをマスターするゴールは、「なんとなくちょっと分かるようになったかな」と思えること。
難しかったところも、何度も聞くとある日突然「あ、なるほど!」と閃く時があります。だから今日分からなくても大丈夫。何度でも復習してください。
3:00血液ガス分析は「力」を解き明かす作業
まず、大前提の復習からです。
血液ガス分析における解釈とは、体の中で働いている「力」がいくつあるかを解き明かす作業のことでした。
⚖️ 体の中で働く4つの力
📉 アシドーシス(酸性に傾ける力)
- 呼吸性アシドーシス:CO₂が溜まる
- 代謝性アシドーシス:HCO₃⁻が減る、または酸が増える
📈 アルカローシス(塩基性に傾ける力)
- 呼吸性アルカローシス:CO₂が減る
- 代謝性アルカローシス:HCO₃⁻が増える
これらの力が、最大3つまで合併しうるんです。
複雑な病態の患者さんでも、この5ステップを使えば解釈できるようになります。
6:00守破離で学ぶ血液ガス分析
僕がこの1ヶ月ずっとお話ししてきた「型」の話。
柔道とか剣道とか茶道とか華道とか、いろんなものに型と呼ばれるものがありますよね。血液ガスも、この型に沿って勉強すると分かりやすいんです。
🥋 守破離のステップ
【守】型を徹底的に学ぶ
血液ガス分析の解釈の型を学び、その型通りに評価する。
→ まずは基本の5ステップで解釈できるようになる(今ここ!)
【破】自分なりに崩して使う
型を少し自分の解釈を加えて、患者さんに合わせて使っていく。
→ 病態ごとの介入をマスターする
【離】型にとらわれず自在になる
空手の組手のように、達人は型にとらわれず対応していく。
→ 究極のゴール
今日のセミナーでは、この「守」の段階をしっかり固めつつ、「破」の段階である臨床介入まで踏み込んでいきます。
10:00ステップ1:pHを確認する〜今、どこに立っている?〜
最初に確認するのはpHですね。
細胞外液の基準値は7.4。ここが中心になります。
📊 pHの評価
| pH | 状態 |
|---|---|
| pH < 7.35 | アシデミア(酸性に傾いている) |
| pH 7.35〜7.45 | 正常範囲 |
| pH > 7.45 | アルカレミア(塩基性に傾いている) |
ここで大事なのは、アシデミアとアルカレミアは「今の位置」を表しているということ。
一方で、アシドーシスとアルカローシスは「傾ける力」のこと。この違いをしっかり覚えておいてください。
🔑 キーナンバー
7.35 と 7.45
14:00ステップ2:PaCO₂とHCO₃⁻を比較する〜メインは呼吸性?代謝性?〜
次はPaCO₂とHCO₃⁻を確認して、どちらが酸塩基平衡を傾ける力になっているかを判断します。
🔍 キーナンバー
🫁 PaCO₂(基準値:40 mmHg)
- PaCO₂ > 40 → 呼吸性アシドーシス(CO₂が溜まっている)
- PaCO₂ < 40 → 呼吸性アルカローシス(CO₂が減っている)
🩺 HCO₃⁻(基準値:24 mEq/L)
- HCO₃⁻ > 24 → 代謝性アルカローシス
- HCO₃⁻ < 24 → 代謝性アシドーシス
ポイントは、変化の由来が肺(呼吸性)なのか、腎臓(代謝性)なのかを判断すること。
この「40」と「24」がキーナンバーです。
18:00ステップ3:アニオンギャップを計算する〜隠れたやばい病態を見つける〜
ここからちょっと難しくなってきます。でも、大丈夫。何度でも説明しますから。
🤔 なぜアニオンギャップが大事なのか?
実は、PaCO₂やHCO₃⁻の数字だけでは見抜けない物質があるんです。
それが「不揮発酸」と呼ばれるやつら。
🧪 不揮発酸とは?
呼吸によって体外に排出できない酸のこと。
- CO₂みたいにすぐ肺から出せるやつ → 揮発酸
- 代謝や病的な状態で生じて、腎臓などでしか処理できないやつ → 不揮発酸
臨床上重要な不揮発酸
- 乳酸(ショック、組織低灌流)
- ケトン体(糖尿病性ケトアシドーシス、飢餓)
- 硫酸、リン酸(腎不全)
この不揮発酸が体の中に蓄積すると、pHを酸性に傾ける力が働くわけです。
そしてこれらは、ステップ2のHCO₃⁻だけでは見えてこない。だからアニオンギャップを計算するんです。
22:00⚖️ アニオンギャップの原理
電気的中性の法則から、体の中の陽イオンと陰イオンの量は常に等しいんです。
⚡ イオンバランス
陽イオン(カチオン)
- Na⁺(ナトリウム)← 測定できる、最も多い
- K⁺、Ca²⁺、Mg²⁺など ← 微量で測定されない(Unmeasured Cation)
陰イオン(アニオン)
- Cl⁻(クロール)、HCO₃⁻ ← 測定できる
- 乳酸、リン酸、硫酸、ケトン体、アルブミンなど ← 測定されない(Unmeasured Anion)
アニオンギャップは、この測定されない陰イオンと陽イオンの差なんです。
この差が大きいということは、Unmeasured Anion(測定されない陰イオン)が多いということ。
つまり、乳酸やケトン体みたいなヤバい酸が体の中に溜まっているということなんです。
💡 アニオンギャップの計算式
AG = Na⁺ − (Cl⁻ + HCO₃⁻)
基準値:約12 mEq/L
25:00🔧 低アルブミン血症の時は補正を忘れずに
アルブミンは強い陰イオンの一つです。でも計算式には直接含まれていません。
だから低アルブミン血症の患者さんでは、アニオンギャップを低く見積もってしまう危険があります。
📊 補正アニオンギャップの計算
補正AG = 測定AG + 2.5 × (4.0 − アルブミン値)
補正AG > 12 mEq/L → アニオンギャップ開大性アシドーシスあり
🚨 アニオンギャップが開大する原因(すぐ介入が必要!)
- 乳酸アシドーシス(ショック、組織低灌流)
- ケトアシドーシス(DKA、飢餓、アルコール性)
- 腎不全(尿毒症性アシドーシス)
- 中毒(メタノール、エチレングリコール、サリチル酸など)
💡 ポイント|3つだけ覚えよう
- アニオンギャップは、隠れた代謝性アシドーシスを見抜くもの
- 低アルブミン血症の時は補正アニオンギャップを計算する
- 補正AG > 12 → アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスあり
28:00ステップ4:補正HCO₃⁻を計算する〜隠れた病態をあぶり出す〜
アニオンギャップが開大している時は、補正HCO₃⁻を計算します。
「補正」って何をしているのか、もう少し深掘りしますね。
🤔 補正HCO₃⁻って、結局何なの?
簡単に言うと、「もしアニオンギャップが通常の12よりも上昇しているこの分(ΔAG)がなかったとしたら、HCO₃⁻はどれくらいになっていたか?」を表す仮想の数字です。
📐 補正HCO₃⁻の計算式
補正HCO₃⁻ = 測定HCO₃⁻ + ΔAG
ΔAG = 測定AG − 12
基準値:24 mEq/L
この数字が24からどれだけ離れているかを見ることで、酸性とか塩基性の異常が重なっていないかを見抜くことができます。
📊 補正HCO₃⁻の解釈
補正HCO₃⁻ > 24 の場合
- 酸が増えているのに、HCO₃⁻が意外と多い
- → 代謝性アルカローシスが隠れている
- 例:嘔吐、利尿薬の影響でHCO₃⁻が過剰に蓄積
補正HCO₃⁻ < 24 の場合
- 本来あるべきHCO₃⁻がさらに消費されている
- → アニオンギャップ非開大性の代謝性アシドーシスが上乗せ
- 例:下痢、RTA(尿細管性アシドーシス)
35:00ステップ5:代償反応を確認する〜急性?慢性?体の対応は適切か?〜
最後のステップです。ここは質問が多かったところですね。
「急性の経過なのか慢性の経過なのか、どう判断するの?」
⏱️ 代償のスピードは呼吸性と代謝性で違う
ここで覚えておいてほしいのは、呼吸性と代謝性で代償のスピードが違うということです。
🫁 肺(呼吸)の代償は早い
- 酸(H⁺)が体の中で増えた時、肺はすぐに反応
- 数分以内に呼吸を早くしてCO₂を吐き出し、酸の量を減らそうとする
🩺 腎臓の代償はゆっくり
- HCO₃⁻を使って塩基性に傾けたい時、腎臓はゆっくり対応
- H⁺を体内に残したり、HCO₃⁻を尿に出したりして数時間〜数日かけてバランスを整える
だから呼吸性の変化がある時は、慢性的に代償しているのか急性なのかで予測のHCO₃⁻が異なります。
一方、代謝性の変化では、肺がすぐに代償するので「急性・慢性」の区別はあまり問題になりません。
38:00📊 代償反応の予測式
慣れないうちは、これを手元に置きながらやってみてください。
🧮 主要な代償反応の予測式
代謝性アシドーシス
予測PaCO₂ = 1.5 × HCO₃⁻ + 8 (±2)
または 予測PaCO₂ = HCO₃⁻ + 15
代謝性アルカローシス
予測PaCO₂ = 0.7 × HCO₃⁻ + 20 (±5)
呼吸性アシドーシス(急性)
HCO₃⁻は1〜2 mEq/L上昇(PaCO₂が10上昇するごと)
呼吸性アシドーシス(慢性)
HCO₃⁻は3〜4 mEq/L上昇(PaCO₂が10上昇するごと)
ポイント:実測値と予測値の差が±5以上あれば、別の病態が合併している可能性
42:00練習問題の答え合わせ〜4つの症例を解釈してみよう〜
皆さんに送った練習問題、答え合わせをしていきましょう。
44:00📋 Question 1:80代女性、右腰部の叩打痛
pH 7.25 / PaCO₂ 20 mmHg / HCO₃⁻ 14 mEq/L
Na 140 / Cl 106 / ラクテート 6.0
🔍 5ステップで解釈
ステップ1:pH 7.25 → アシデミア
ステップ2:HCO₃⁻ 14(基準値24より低い)→ 代謝性アシドーシスがメイン
ステップ3:AG = 140 − (106 + 14) = 20 → アニオンギャップ開大あり
ステップ4:補正HCO₃⁻ = 14 + (20 − 12) = 22 → やや低め → アニオンギャップ非開大性アシドーシスも若干あり?
ステップ5:予測PaCO₂ = 1.5 × 14 + 8 = 29
実測PaCO₂ = 20 → 予測より低い → 呼吸性アルカローシスも合併
🚨 病態の推定と介入
- ラクテート 6.0が高い → 代謝性アシドーシスの原因
- 80代女性、右腰部の叩打痛 → 尿路感染症、敗血症を疑う
- ラクテート高値 → 敗血症性ショックの可能性
- 呼吸性アルカローシスあり → 体が頑張って代償しようとしている
- でも代償しきれていない → 呼吸の補助も検討が必要かも
50:00📋 Question 2:40代男性、めまい・嘔吐
pH 7.56 / PaCO₂ 48 mmHg / HCO₃⁻ 38 mEq/L
Na 142 / Cl 94
🔍 5ステップで解釈
ステップ1:pH 7.56 → アルカレミア
ステップ2:HCO₃⁻ 38(基準値24より高い)→ 代謝性アルカローシスがメイン
(PaCO₂も高いが、HCO₃⁻のずれ幅が大きい)
ステップ3:AG = 142 − (94 + 38) = 10 → アニオンギャップ開大なし → スキップ
ステップ4:AGが正常なのでスキップ
ステップ5:予測PaCO₂ = 0.7 × 38 + 20 = 46.6
実測PaCO₂ = 48 → ほぼ一致 → 代償範囲内
✅ 病態の推定と介入
- 代謝性アルカローシス単独の病態
- 病歴の「嘔吐」が原因 → 胃酸(HCl)の喪失でアルカローシス
- クロール(Cl)が94と低いことにも注目!
- → クロール反応性の代謝性アルカローシス
- → 生理食塩水(NaCl)の輸液でクロールを補充
55:00📋 Question 3:75歳女性、DKA治療翌日
pH 7.35 / PaCO₂ 32 mmHg / HCO₃⁻ 18 mEq/L
Na 140 / Cl 112
🔍 5ステップで解釈
ステップ1:pH 7.35 → ほぼ正常(若干アシデミア寄り)
ステップ2:HCO₃⁻ 18(基準値24より低い)→ 代謝性アシドーシスがメイン
ステップ3:AG = 140 − (112 + 18) = 10 → アニオンギャップ開大なし
ステップ4:スキップ
ステップ5:予測PaCO₂ = 1.5 × 18 + 8 = 35
実測PaCO₂ = 32 → ほぼ代償範囲内
🤔 これはどういうこと?
DKAはアニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスなのに、今回はAGが正常…
クロールに注目! → Cl 112(正常は108くらい)→ 高クロール血症
原因:生理食塩水の大量投与
- 生理食塩水はNa 154 mEq/L、Cl 154 mEq/L
- 生体のCl濃度より高い → クロールが過剰に負荷される
- → アニオンギャップ非開大性の代謝性アシドーシス(高クロール性アシドーシス)
これが、敗血症の初期輸液で生理食塩水よりもリンゲル液が推奨される理由の一つです。
60:00📋 Question 4:80代男性、意識障害(GCS E1V1M3)
pH 7.20 / PaCO₂ 70 mmHg / HCO₃⁻ 26 mEq/L
Na 140 / Cl 104
🔍 5ステップで解釈
ステップ1:pH 7.20 → アシデミア
ステップ2:PaCO₂ 70(基準値40より高い)→ 呼吸性アシドーシスがメイン
ステップ3:AG = 140 − (104 + 26) = 10 → アニオンギャップ開大なし
ステップ4:スキップ
ステップ5:予測HCO₃⁻(急性)= 24 + 1〜2 × 3 = 27〜30
実測HCO₃⁻ = 26 → ほぼ代償範囲内
🚨 病態の推定と介入
なぜPaCO₂がこんなに高いのか?
- 意識障害があってPaCO₂が高い
- → 換気が問題
意識障害 + 換気不全の原因
- 呼吸が徐呼吸になっている → 中枢神経障害で呼吸中枢が障害?
- または 気道閉塞(舌根沈下など)
介入:気管挿管・人工呼吸の適応を考える
65:00臨床での介入〜救急医の視点で動く〜
血液ガスを解釈できたら、次は介入です。
救急の場面で頻度が高い介入について、自分なりの型を身につけておくことが大事です。
66:00🩸 高カリウム血症:K 8.4の患者さんが来たら
🚨 高カリウム血症は致死的不整脈を起こす!
カリウムの正常値は3.6〜4.5 mEq/L。8.4はめちゃくちゃ高い。
心電図異常(QRS幅広、テント状T波など)があれば、即座に治療開始!
📋 高カリウム血症の治療ステップ
1. グルコン酸カルシウム(最初にやる!)
- 心筋膜電位を安定化させる
- 致死的不整脈を予防
- カリウムを下げる効果はないので、次のステップが必要
2. GI療法(グルコース+インスリン)
- 細胞外から細胞内にカリウムをシフトさせる
- 50%ブドウ糖液 40mL + インスリン 4単位(低血糖予防のため4単位が推奨)
- 腎不全、糖尿病既往、体重60kg以下、女性は低血糖リスク高い → 注意
3. ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム)
- 内服でカリウムを体外に排出
- 10g × 3回/日がローディングドーズ
- 最近のガイドラインで推奨されている
💡 腎臓内科・平井先生からのコメント
「最近の日本腎臓学会からのプロトコルでも、カリウムバインダーはロケルマのみが記載されています。GI療法と併用しながら、古典的な体外排泄(利尿薬、透析など)も追加で検討していくのがよいでしょう。」
📚 参考文献:重症高カリウム血症の管理プロトコル
Clin Exp Nephrol. 2025 Jul 24;29(12):1699–1711.
Management of hyperkalemia: strategic clinical actions in real-world practice
→ 論文リンク(PMC)
🔷 重症高カリウム血症の管理フローチャート(Figure 2より)
Step 1:心筋膜の安定化
- グルコン酸カルシウム 8.5% 10mL を10分以上かけて静注
- ※ 5分後も心電図変化が持続または再発する場合は反復投与を検討
Step 2:カリウムの細胞内シフト
- GI療法:50%ブドウ糖 40mL + インスリン 4〜10単位 を静注
- ※ 必要に応じて2〜4時間ごとに投与
- 血糖値を測定し、高血糖でなければブドウ糖を投与
Step 3:カリウムの体外排泄
① 利尿薬
- フロセミド 40mg 静注
- ※ 生理食塩水が利用できない場合は、バランス輸液(リンゲル液など)が望ましい
- ※ DKA・HHSの場合は、等張炭酸水素ナトリウムではなく生理食塩水またはバランス輸液を選択
② カリウムバインダー
- ロケルマ(SZC)10g × 3回/日 経口
- ※ 必要に応じて48時間継続(非透析患者)
- ※ 透析患者では初回5g
③ 血液透析
- 末期腎不全(ESKD)または上記治療に反応しない場合
略語:DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)、HHS(高浸透圧高血糖状態)、ESKD(末期腎不全)、SZC(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム=ロケルマ)
72:00🍬 低血糖:1型DM患者が発汗・傾眠で呼ばれたら
病歴からまず疑うべきは低血糖ですよね。
意識障害の患者さんでは、ABCDの評価に加えて血糖チェックが必須でした。
📋 低血糖の治療
意識障害がある場合
- 50%ブドウ糖液 40mLを静注
意識障害がない場合
- 経口摂取でOK!
- 角砂糖、ビスケット、ジュースなど
ビタミンB1欠乏リスクがある場合
- アルコール多飲者、低栄養、妊婦(つわり)
- → ビタミンB1の補充も忘れずに(Wernicke脳症の予防)
76:00💨 一酸化炭素(CO)中毒:意外な場所で起きる
これ、僕が経験した実際の症例なんですけど…
30代女性、心窩部の不快感と下痢で来院。ST変化があって「ACS?」と思いながら血液ガスを取ったら…
🚨 COヘモグロビン 28%!
正常値は1〜2%(喫煙者でも5%程度)
原因:なんと、家の中でしがらき焼きのBBQをしていた!
- 窓は開けていたけど、奥の部屋だけCOが溜まっていた
- そこで休んでいた患者さんだけがCO中毒に
血液ガスを取らなかったら、診断できなかった症例でした。
💡 CO中毒を疑う場面
- 冬場の暖房器具(石油ストーブなど)
- 車内(雪で排気口が塞がれる、エンジンかけっぱなし)
- サウナ(換気不良)
- 火災現場
- 「なんかおかしい」と思ったら血液ガスでCOHbをチェック!
💡 前野先生からのコメント
「真夏でもCO中毒はあります。ガレージの中でエンジンを吹かしたまま、エアコンを内気循環で使っていた患者さんを経験しました。季節に関係なく疑うことが大事ですね。」
80:00達人はどう考えているのか?〜型から離れる〜
「上級医の先生は、血液ガスをどれくらいのスピードで読んでいるんですか?」
と聞いたことがあるんですよ。40代、50代の、前線でバリバリ活躍している救急指導医の先生たちに。
答えは、「結局は型通りで読んでいる」でした。
🧠 システム1とシステム2
システム1(直感)
- パッと見て「これは〇〇だな」と分かる
- 達人の「勘」
システム2(論理的思考)
- 型通りに一つ一つ確認していく
- 初学者がまずやる方法
達人も、どんな状況でも型通り読んでいる。でも、繰り返す中で洗練されてスピードが上がっていく。
「この病態の患者さんだったら、多分こういう血液ガス所見だな」という予測と、型通りで読んだ結果が、すり合わさっていくんです。
🔑 代償の式は本当に覚えないとダメ?
正直に言うと、代償の式を全部覚えている上級医は僕の知る限り2人くらいです(笑)
でも、どの先生も覚えているのがこれ:
💡 代謝性アシドーシスの予測PaCO₂
予測PaCO₂ = 1.5 × HCO₃⁻ + 8
または 予測PaCO₂ = HCO₃⁻ + 15
なぜこれだけは覚えているかというと、「呼吸性に代償できていないか」を知りたいから。
代謝性アシドーシスがある時に、呼吸努力が強いのに予測PaCO₂まで下げられていない場合…
→ 「体がもう限界。人工呼吸を考えよう」 という判断につながるからです。
85:00質疑応答〜腎臓内科の先生とのディスカッション〜
今回のセミナーでは、東京ベイの腎臓内科・平井先生からも貴重なコメントをいただきました。
💬 DKA治療後のアニオンギャップ非開大性アシドーシスについて
🩺 平井先生のコメント
「DKA治療後にアニオンギャップ非開大性アシドーシスが残る原因は、生理食塩水によるクロール負荷だけじゃないんですよね。
体内にケトンが蓄積していると、尿中にケトン酸を出そうとする時に一緒に重炭酸(HCO₃⁻)も排泄してしまうんです。だから輸液を切り替えた後もしばらくアニオンギャップ非開大性アシドーシスが残ることがあります。
これは腎臓がケトンの排泄を終えれば、自然に元に戻ってくるので、焦らず経過観察でOKです。重曹(メイロン)を補充する必要はありません。」
💬 血液ガスでイオン化カルシウムも見逃さないで
🩺 平井先生のコメント
「血液ガスを5ステップで読むのに集中すると、イオン化カルシウム(Ca²⁺)の異常を見逃すことがあります。
実際に、救急でガスを取っていたのに、Ca²⁺が0.6mmol/Lだったのに気づかれず、『お腹が痛い、手がしびれる』で内科外来に紹介されてきた患者さんがいました。
特に腎臓が悪い人へのビスホスホネート製剤(骨粗鬆症の薬)やランクル抗体の使用で、低カルシウム血症になることが多いです。イオン化カルシウムも必ずチェックしてくださいね。」
💬 尿検査のケトン体と血中ケトン体は別物
🩺 平井先生のコメント
「DKAの時に尿検査でケトン陽性を確認することがありますが、尿で測っているのはアセト酢酸です。
でも、DKAで本当に問題になっているのはβ-ヒドロキシ酪酸。これは血中で測らないと分かりません。
β-ヒドロキシ酪酸が測れる施設であれば、ぜひ血中で測ることをお勧めします。」
88:00まとめ〜今日のポイント〜
✨ 血液ガス分析の5ステップ
- pH → アシデミアかアルカレミアか(キーナンバー:7.35、7.45)
- PaCO₂とHCO₃⁻ → 呼吸性か代謝性か(キーナンバー:40、24)
- アニオンギャップ → やばい病態が隠れていないか(キーナンバー:12)
- 補正HCO₃⁻ → 隠れた病態をあぶり出す
- 代償反応 → 体の対応は適切か
🚑 臨床介入のポイント
- 高カリウム血症:グルコン酸Ca → GI療法 → ロケルマ
- 低血糖:50%ブドウ糖40mL(意識障害なければ経口でOK)
- CO中毒:血液ガスでCOHbをチェック!意外な場所で起きる
- 代謝性アシドーシスで代償不全:人工呼吸を検討
来月のテーマ:抗菌薬と感染症
来月は、皆さんからご要望の多かった「抗菌薬」を扱います!
- 感染症かどうかの判断
- 抗菌薬の選び方の基本
- 実際の症例でどう考えるか
どの職種にとっても関わってくるテーマなので、一緒に学んでいきましょう。
どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
この1ヶ月、血液ガスと向き合ってきた皆さん、本当にお疲れさまでした。
難しかったと思います。何度聞いても分からないところがあったかもしれません。
でも、こうやって「分からない」と思えること自体が、成長の証だと僕は思うんです。
分からないから、もっと知りたくなる。
そうやって一歩一歩進んでいけば、気づいた時には次の難敵にも自然と立ち向かえる力が身についています。
一緒に学び、一緒に悩み、そして一緒に成長していきましょう。





