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腹腔内圧亢進とACS〜ICUで見逃してはいけない病態を理解しよう

📌 この記事は、以下のスライドでまとめた内容を記事として再構成したものです。

スライドを埋め込みますので、併せてご覧ください。

腹腔内圧、あなたは測っていますか?

ICUで重症患者さんを診ているとき、こんな経験はありませんか?

  • お腹がパンパンに張っている
  • 尿量が減ってきた
  • 人工呼吸器の圧が上がってきた
  • 血圧が下がってきた

これらの症状、実は腹腔内圧亢進(IAH)腹部コンパートメント症候群(ACS)のサインかもしれません。

でも、正直なところ、腹腔内圧を日常的に測定している施設は多くないのではないでしょうか。

この記事では、IAP/ACSの基本から、測定方法、そして段階的な管理アプローチまでを整理していきます。


IAHとACSの定義〜まず用語を整理しよう〜

まずは、用語の定義から押さえていきましょう。

WSACS(World Society of the Abdominal Compartment Syndrome)のガイドラインに基づいた定義です。

📋 基本用語の定義

用語 定義
正常IAP 健常成人:0〜5 mmHg
重症患者:5〜7 mmHg
腹腔内圧亢進(IAH) IAP ≧ 12 mmHg が持続または反復する状態
腹部コンパートメント症候群(ACS) IAP > 20 mmHg が持続 + 新規臓器障害を伴う
腹部灌流圧(APP) APP = MAP − IAP
(目標:≧ 50〜60 mmHg)

ポイントは、IAH(12 mmHg以上)とACS(20 mmHg以上+臓器障害)は別物ということです。

IAHは比較的よく見られますが、ACSまで進行すると致死的な状態になりえます。

IAHの重症度分類(Grade)

IAHは、圧の程度によって4段階に分類されます。

Grade IAP
Grade I 12〜15 mmHg
Grade II 16〜20 mmHg
Grade III 21〜25 mmHg
Grade IV > 25 mmHg

ACSの分類

ACSは、原因によって3つに分類されます。

  • Primary ACS:腹腔内の病態が原因(腹部外傷、腹膜炎、後腹膜血腫など)
  • Secondary ACS:腹腔外の病態が原因(敗血症、大量輸液、熱傷など)
  • Recurrent ACS:治療後に再発したACS

特に注意すべきはSecondary ACSです。

「お腹の病気じゃないのに、お腹がパンパンになる」という状況、敗血症性ショックで大量輸液した後などによく見られますよね。

どんな時に腹腔内圧を測るべきか?〜リスク因子を知ろう〜

WSACSガイドラインでは、ICU入室時および新規/進行性の臓器不全出現時にリスク評価を行うことが推奨されています。

では、どんな患者さんがリスクが高いのでしょうか?

🔍 IAH/ACSのリスク因子

1. 腹壁コンプライアンス低下

  • 腹部手術後
  • 腹壁の外傷・熱傷
  • 腹臥位
  • 高BMI

2. 腸管内容物の増加

  • 胃拡張・イレウス
  • 大腸偽閉塞(Ogilvie症候群)
  • 腸管虚血

3. 腹腔内容物の増加

  • 腹水・血液貯留
  • 腹腔内膿瘍
  • 後腹膜血腫
  • 急性膵炎

4. 毛細血管漏出・輸液過剰

  • 敗血症
  • 大量輸液(24時間で > 5L)
  • 大量輸血
  • 低アルブミン血症(< 3 g/dL)

5. その他

  • 機械的人工換気(特にPEEP > 10 cmH₂O)
  • ダメージコントロール手術後

2つ以上のリスク因子があれば、IAP測定を考慮しましょう。

特に、敗血症性ショックで大量輸液を行った患者さんは、要注意です。

IAPの測定方法〜膀胱圧法をマスターしよう〜

「IAPってどうやって測るの?」

最も広く使用されているのが、尿道カテーテルを用いた膀胱内圧測定(膀胱圧法)です。

膀胱は腹腔内かつ腹膜外に位置する臓器であり、100mL未満の容量では受動的なリザーバーとして機能するため、腹腔内圧を正確に反映します。

この方法は、簡便・低コスト・低侵襲であり、ゴールドスタンダードとされています。

📏 測定手順(WSACSプロトコル準拠)

  1. 体位:完全仰臥位(腹筋の収縮がない状態)
  2. ゼロ点調整:腸骨稜・中腋窩線の高さでトランスデューサーをゼロ調整
  3. 生理食塩水の注入:膀胱を空にした後、25mLの生理食塩水を注入
    • 小児は1mL/kg、最大25mL
  4. 待機:排尿筋弛緩のため60秒間待機
  5. 測定呼気終末時の圧を読み取り、mmHgで記録
  6. 頻度
    • IAP ≦ 12 mmHg → 6時間ごと
    • IAP > 12 mmHg → 4時間ごと

測定時の注意点

⚠️ 偽高値の原因

  • ベッドヘッドアップ
  • 腹筋の緊張
  • 膀胱の過伸展(注入量過多)
  • 排尿筋収縮

⚠️ 偽低値の原因

  • 癒着・被包化
  • 体位不良

禁忌

  • 膀胱損傷
  • 神経因性膀胱

重要なのは、測定値だけでなく、臨床所見・臓器機能との総合評価です。

数字だけを見て判断するのではなく、患者さんの全体像を把握しましょう。

IAH/ACSの段階的内科的管理〜5つの柱〜

IAHと診断されたら、まず内科的治療を開始します。

WSACSガイドラインでは、5つの柱に沿って段階的に介入することが推奨されています。

一つずつ見ていきましょう。

1️⃣ 腸管内容物の除去

  • 経鼻胃管(NGチューブ)の留置・吸引
  • 浣腸・直腸チューブの使用
  • 腸管蠕動促進薬(エリスロマイシン、ネオスチグミン等)
  • 経腸栄養の減量・中止

2️⃣ 腹腔内容物の除去

  • 腹水・血腫に対する経皮的ドレナージ
  • 膿瘍ドレナージ
  • CT/USガイド下穿刺

3️⃣ 腹壁コンプライアンスの改善

  • 適切な鎮静・鎮痛(腹筋緊張の緩和)
  • 筋弛緩薬の使用(必要に応じて)
  • 腹帯・拘束具の除去
  • ベッドのヘッドアップは30度以下に

4️⃣ 輸液の最適化

  • 晶質液の過剰投与を避ける
  • 高張晶質液・膠質液の使用を考慮
  • 利尿薬の使用(利尿が得られる場合)
  • 血液浄化療法(除水目的)の検討
  • 目標:過剰な水分バランスを是正

5️⃣ 全身の組織・臓器灌流の調整

  • 適切な血圧管理(MAP・APPの維持)
  • 昇圧薬による循環サポート
  • 組織酸素化のモニタリング
  • pCO₂・乳酸値のフォロー

これらの介入を段階的に進め、反応を評価しながら次のステップに進むことが大切です。


外科的腹腔内減圧の適応〜最終手段としての開腹減圧術〜

内科的治療に反応しない難治性ACSでは、外科的腹腔内減圧(開腹減圧術)を検討します。

🚨 外科的減圧の適応

  • 内科的治療に反応しない難治性ACS
  • IAP > 25 mmHg で進行性の臓器不全
  • APP < 50 mmHg が持続

開腹減圧後の管理

  • Open Abdomen管理(TAC: Temporary Abdominal Closure)
  • 陰圧閉鎖療法(NPWT)の併用
  • 腸管浮腫改善後の段階的閉腹を目指す

開腹減圧術は、「最後の手段」です。

しかし、適応があれば躊躇せずに行うことが、患者さんの命を救うことにつながります。

IAH/ACSが臓器に与える影響〜なぜ危険なのか?〜

「お腹の圧が上がると、なぜ全身に影響が出るの?」

この疑問に答えるために、IAH/ACSが各臓器に与える影響を整理しておきましょう。

🫀 循環器系

  • 下大静脈の圧迫 → 静脈還流↓ → 心拍出量↓
  • 胸腔内圧上昇 → 心室コンプライアンス↓

🫁 呼吸器系

  • 横隔膜の挙上 → 肺コンプライアンス↓
  • 換気量↓、機能的残気量↓
  • 気道内圧↑、低酸素血症

🧪 腎臓

  • 腎静脈・腎動脈の圧迫 → 腎血流↓
  • GFR↓ → 乏尿、急性腎障害
  • IAP 15 mmHgで乏尿、30 mmHgで無尿の報告あり

🍽️ 消化管

  • 腸間膜血流↓ → 腸管虚血
  • 毛細血管透過性↑ → 浮腫悪化
  • バクテリアルトランスロケーションのリスク↑

🧠 中枢神経系

  • 頭蓋内圧上昇の可能性(静脈還流障害による)
  • 脳灌流圧の低下

つまり、IAH/ACSは全身の臓器に影響を及ぼすのです。

まとめ

腹腔内圧亢進とACS、理解できたでしょうか。

✨ この記事のポイント

  1. IAHはIAP ≧ 12 mmHg、ACSはIAP > 20 mmHg+臓器障害
    • 早期発見・早期介入が予後を改善する
  2. リスク因子を知り、適切にスクリーニング
    • 2つ以上のリスク因子があればIAP測定を考慮
  3. 膀胱圧法でIAPを測定
    • 25mL生食注入、60秒待機、呼気終末で測定
  4. 内科的治療は5つの柱で段階的に
    • 腸管内容物の除去 → 腹腔内容物の除去 → 腹壁コンプライアンス改善 → 輸液最適化 → 臓器灌流調整
  5. 難治性ACSでは外科的減圧を検討
    • 最後の手段だが、適応があれば躊躇しない
  6. APP ≧ 50-60 mmHgを維持
    • APP = MAP − IAP

参考文献

  1. Kirkpatrick AW, Roberts DJ, De Waele J, et al. Intra-abdominal hypertension and the abdominal compartment syndrome: updated consensus definitions and clinical practice guidelines from the World Society of the Abdominal Compartment Syndrome. Intensive Care Med. 2013;39(7):1190-206.
  2. De Laet IE, Malbrain MLNG, De Waele JJ. A Clinician’s Guide to Management of Intra-abdominal Hypertension and Abdominal Compartment Syndrome in Critically Ill Patients. Crit Care. 2020;24(1):97.
  3. Popowicz P, Newman R, Dominique E. Abdominal Compartment Syndrome. StatPearls. 2025.
  4. Malbrain MLNG, Cheatham ML, Kirkpatrick A, et al. Results from the International Conference of Experts on Intra-abdominal Hypertension and Abdominal Compartment Syndrome. I. Definitions. Intensive Care Med. 2006;32(11):1722-32.
  5. WSACS Consensus Guidelines Summary. https://www.wsacs.org/