学習

明日から役立つ!救急の原則ABCDアプローチを深堀り!

救急外来はつねに予測不能な状況にさらされています。

その現場で真っ先に身につけたい心構えが「ABCDアプローチ」です。

 

A(気道)→B(呼吸)→C(循環)→D(神経)の順序は、酸素を体内へ運ぶ流れの“上流から下流”にそった合理的な並びであり、国際的なガイドラインでも広く推奨されています(1)(2)。

この記事では、ABCDアプローチを“救急診療の原則”としてどう理解し、どう実践するかをまとめます。

【対象のおすすめ読者】

救急外来ローテ中の初期研修医
救急当直を担当する専攻医
現場で活躍する看護師などの医療従事者の皆さま

「ABCDは知っているけれど、自分の診療に落とし込めているか不安だ」

そんな方にこそ読んでいただきたい内容です。

1.ABCDアプローチを“救急診療の原則”として捉える

酸素はまず気道から取り込まれ、で血液に溶け込み、心臓のポンプで全身へ巡り、最終的にへ届きます。
どこか一か所でも途絶えれば、その下流は連鎖的に崩れていく――この生理学的な必然こそ、A→B→C→Dという順序の根拠です(3)。

さらに欧州・英国の蘇生ガイドラインは「最も致死的な問題を発見し次第ただちに処置し、適宜見直す」という原則を掲げ、ABCDをチーム全員が共有する重要性を強調しています(2)(4)。

2.第1印象評価とOMIで安全な場を整える

救急車のドアが開いた瞬間から、私たちは15秒程度で患者さんの重症度を直感的に把握していると言われます(6)(7)。

まず名前を呼び、発声で気道と意識を確認。言葉が途切れれば呼吸に注目し、握手で循環の手がかりを得ます。
そこから酸素(O₂)・モニター(M)・末梢ルート(I)

いわゆるOMIを整えることで、その場は「安全な舞台」へ変わります(5)。

OMIがそろわない場所で高度な処置を始めると、突発的な変化に対応できずリスクが跳ね上がります。重症と判断したら、処置室やICUに直行する勇気が大切です(9)。

3.チーム全体を動かす合言葉

ABCDが共通語になると、コミュニケーションは驚くほど滑らかになります。
「Bが怪しいです」の一言で、スタッフは酸素投与や換気補助に動き、「Cが落ちています」で輸液や昇圧薬が自然に準備されます。

教育研究でもABCDアプローチを正しく共有するチームは、画像検査回数が減り、ER滞在時間やアウトカムが改善傾向を示したと報告されています(8)(10)。

4.まとめ:明日から実践したい3ステップ

  1. 声に出して確認:診察室へ向かう途中に「A→B→C→D」とつぶやき、頭を整える。
  2. 15秒の第1印象+OMI:呼びかけと触診で重症度を判断し、酸素・モニター・ルートを先に確保。
  3. 合言葉で動くチーム作り:「Aが危険」「Bが安定」など短いフレーズを徹底し、全員が即応できる環境を整える。

ABCDアプローチは暗記項目ではありません。救急診療の原則として体に染み込ませ、チームで共有する――そこから安全で質の高い初期対応が始まります。

 


さらに深く学びたい方へ


『みんなの救命救急科』では、ABCDアプローチの実践例やイラスト付きの解説を収載しています。
興味がある方はぜひ試し読みをご覧ください。

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参考文献

  1. Initial assessment and treatment with the Airway, Breathing, Circulation, Disability, Exposure (ABCDE) approach. Open Access Emergency Medicine. 2012. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3273374/
  2. Resuscitation Council UK. The ABCDE Approach. Updated 2024. https://www.resus.org.uk/library/abcde-approach
  3. Brohi K et al. Advanced Trauma Life Support®—ABCDE from a radiological point of view. Injury. 2007. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1914302/
  4. European Resuscitation Council. ERC Guidelines 2021: Executive Summary. 2021. https://cprguidelines.eu/assets/guidelines/European-Resuscitation-Council-Guidelines-2021-Ex.pdf
  5. Society for Academic Emergency Medicine. Stabilization of the Acutely Ill Patient—OMI. 2023. https://www.saem.org/…/stabilization-of-the-acutely-ill-patient
  6. “What makes you say ‘That patient worries me’?” Indiana University School of Medicine Blog. 2019. https://medicine.iu.edu/…/what-makes-you-say-that-patient-worries-me
  7. Häseler-Ouart D et al. Physician’s first clinical impression in the ED and patient outcomes. Swiss Med Wkly. 2014. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4554174/
  8. Larsen L et al. Adherence to the ABCDE approach after different instruction methods. BMC Emerg Med. 2021. https://bmcemergmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12873-021-00509-0
  9. NICE Clinical Guideline 174. Intravenous Fluid Therapy in Adults in Hospital. 2020. https://www.nice.org.uk/guidance/cg174/chapter/1-recommendations
  10. NICE Clinical Guideline 50. Acutely Ill Adults in Hospital: Recognising and Responding to Deterioration. 2023 update. https://www.nice.org.uk/guidance/cg50