「このまま延命処置を継続すべきか、それとも患者さんの生活の質(QOL)を優先して治療を控えるべきか」
実際に終末期の場面に直面すると、若手医療従事者はこのような大きな悩みに突き当たることでしょう。
さらに、DNAR(心肺蘇生を行わない指示)や人工呼吸器の導入、意思決定を誰がリードするのかなど、議論すべきポイントは驚くほど多岐にわたります。
しかし「どこから学べばよいのか」「患者さんやご家族の思いをどう汲み取り、医療者同士で共有すればいいのか」など、具体的な解決策は学ぶ機会も少なく、モヤモヤが募るばかり…。自分自身今も葛藤がありますが、救急医1,2年目の頃は特にそんな悩みを抱えていました。
そんな急性期の意思決定について、深く学べる一冊である書籍を紹介させていただきます。
今回ご紹介するのは、「終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで 現場でともに考える」です。
本書は、そんな臨床の最前線でいま求められるエッセンスを、豊富な事例と実践的なフレームワークを通じてわかりやすく示しています。
大切な人を前に、苦しい決断を迫られる場面が少しでも和らぐように。
迷いがちな若手医師や研修医こそ、是非本書を一読してみていただきたいです。
1.本書のターゲット層と読了時間
ターゲットとしては、後期研修医からスタッフ医まで幅広くおすすめできます。もちろん、実習中の医学生や初期研修医も参考になると思いますが、実際に終末期ディスカッションに直面する機会が多い中堅以上の医師が最も活用しやすいでしょう。
読み進めるペースにもよりますが、全体で約284ページあるため、1日30分ほど読むと1週間程度で読了できる分量です。専門的な内容ではありますが、ケーススタディが豊富なので思ったよりスラスラ読みやすい印象を受けました。
2.本書の特徴
【書籍の特徴を一言で表すなら「難しいシチュエーションの意思決定のモヤモヤを解きほぐす指南書」】です。
実際の症例を交えながら、患者さん・家族との対話、DNARの意思決定、臨床倫理の基本を噛み砕いて解説している点が魅力的だと感じました。
「これでよかった」と患者さんやご家族が思えることを目指した医療を実践するための考え方が、対話形式でまとめられています。
終末期医療に限らず、普段の治療方針のすり合わせでも役立つアイデアが数多く掲載されていました。
- ケースを通して具体的に学べる
- 外来から病棟、ICUまでの幅広いシチュエーションに対応
- 「4分割表」などのフレームワークを活用
- 著者による丁寧な対話形式で読みやすい
- 患者・家族へのメッセージを巻末にまとめている
本書で学べることとしては、以下が挙げられます。
- 臨床倫理の基本的な考え方(医学的要素、患者要素、QOL要素、環境要素)
- DNARを含む治療方針のすり合わせの方法
- 医師が「プロとして提示すべき情報」と「患者の尊重すべき意思」の調整
- ICUや救急で予後が厳しい症例にどう向き合うか
- 終末期だけでなく、幅広い意思決定支援のヒント
3.個人的総評
私は救急医・集中治療医として重症患者さんの診療にあたっていますが、例えばICUで心停止後の患者さんを担当している際に、神経学的予後が非常に厳しいことが分かったとき、DNARの意思決定を家族や多職種チームと話し合う場面で本書がとても役立ちました。
患者ファーストな意思決定支援を実践するときに必要なプロフェッショナルの視点や、具体的な事例に基づく解説が充実しており、「こうすればよかったのか」と腑に落ちる経験を多くしました。
また、医療資源が制限されていない状況下では「自己決定を尊重すること」が最上位にくる、という指摘も印象的でした。
さらに「4分割表」をどう眼の前の患者さんに当てはめるかも、とてもわかりやすい。医学的要素・患者要素・QOL要素・環境要素に分けて考えると、抽象的な「モヤモヤ」が整理されやすくなると痛感しました。
DNAR周りで違和感や悩みを抱えていた方には特におすすめしますし、
「もう研修医ではなくなったからこそ迷う…」という後期研修医以上の先生方にもぜひ読んでいただきたいです。
むしろ一般の方にも読んでいただければ、日本の終末期医療が少しずつ前進していくかもしれない、とも感じる一冊でした。
【評価】
- 必要性:
- 本の薄さ:
- わかりやすさ:
- 面白さ:
- 継続使用度:
- オススメ度:
4.おすすめの使い方・読み進め方
- Part1→Part3の順番で流れを追う:臨床倫理の基本から始まり、コミュニケーション例、ACPの実践へと進んでいきます。
- 印象に残った事例は自分の経験と重ねて考える:ICUや救急外来での意思決定過程をシミュレーションしながら読むとさらに理解が深まります。
- 各パート末の「患者さんとご家族へのメッセージ」を要チェック:一般の方が持つ視点を学ぶことができるため、患者ファーストの姿勢の理解が深まります。
- 気になったポイントは実際に院内カンファレンスなどで共有:共通言語が増えることで多職種連携がスムーズになります。
5.まとめ
【基本情報】
タイトル:終末期ディスカッション 外来から急性期医療まで 現場でともに考える
著者:平岡 栄治 (著), 則末 泰博 (著)
出版社:メディカルサイエンスインターナショナル
発行年月日:2021/10/15
ページ数:284ページ
【ターゲット層】
研修医・専攻医・スタッフ医など、終末期医療の現場に携わる医師全般
また、看護師や多職種連携に関わる方にもおすすめ
【推定読了期間】
1日あたり30~60分ほど読み進めれば、1週間程度で読了可能
(集中して読めば週末の2日間程度でも読破できるボリューム)
【本書の特徴】
● 終末期に焦点を当てつつも、医療現場で起こる倫理的ジレンマを幅広い事例で解説
● 患者中心の意思決定支援を行うための具体的なステップが提示されている
● 「4分割表」など、意思決定を整理するフレームワークを丁寧に紹介
● DNARや予後予測ツールの活用例など、急性期医療にも即応用可能な情報
● 「患者さんとご家族へのメッセージ」を巻末に設置し、一般向けの視点もカバー
【評価】
必要性:
本の薄さ:
わかりやすさ:
面白さ:
継続使用度:
オススメ度:
【本書のまとめ】
本書は、終末期に限らず幅広い臨床倫理の場面で活用できる具体的手法と豊富な事例を提示しており、医療者なら必携の一冊です。
患者ファーストを実践し続けるには、曖昧な倫理観や「なんとなくの方針決定」を放置しない姿勢が欠かせません。そこを支える知識と事例が、この一冊に凝縮されている印象です。ぜひ研修医からベテラン医師まで多くの方に読んでいただきたいと思います。
購入前に出版社のホームページからサンプルページを読むのも良いでしょう。
いのちに関わるすべての医療者へ、ぜひ手に取ってみてください。