膝関節周囲の裂離骨折とは? 早期復帰を目指す治療のポイント
「膝周囲の裂離(剥離)骨折」と聞くと、整形外科専門医が対応する特殊なケース、というイメージを持たれるかもしれません。
「自分の専門領域じゃないし、あまり関係ないや…」と思う方も多いでしょう。
しかし実際には、外来やスポーツ現場で膝の痛みを訴える患者さんに遭遇する可能性は、医師・看護師問わず誰にでもあります。しかも、ただの打撲や靱帯損傷と思いきや、骨折(裂離骨折)が隠れているケースも少なくないのです。
「膝周囲の裂離骨折」にはどんな骨折があるのか、どんな治療法があるのか、そして非専門科の医師や看護師がどのように対応すべきかをわかりやすくまとめました。
少しでも興味を持っていただけると幸いです。
そもそも「裂離骨折」ってなに?
裂離骨折(avulsion fracture)は、靱帯や腱の付着部に強い牽引力がかかり、その付着部ごと骨片が引っ張られて生じる骨折を指します。日本語としては「裂離骨折」「剥離骨折」両方の呼び方が認められていて、整形外科学会用語集でも併記されています。
膝関節周囲では、ACL(前十字靱帯)やPCL(後十字靱帯)、膝蓋骨、脛骨粗面などの付着部で発生しやすく、スポーツ外傷としても比較的よく見られます。
成長期の小児や、骨脆弱性が高まる壮年期以降で起こりやすい点も特徴です。
主な膝周囲の裂離骨折の種類
1.ACL裂離骨折
- ACL実質部(靱帯自体)よりも付着部が相対的に弱い小児・成長期に多い。
- ほとんどは脛骨側に発生するが、骨片が小さいと見逃しやすい。
- 徒手検査(Lachmanテストなど)で前方不安定性を認めたら、X線やMRIで骨片を必ずチェック。
- 転位が大きければ観血的整復固定(関節鏡視下に骨片を糸やスクリューで固定)が一般的。
2.PCL裂離骨折
- PCLの脛骨付着部に生じることが多く、膝前面を強打する外傷機転で起こりやすい。
- Sagging兆候や後方引き出しテストで後方不安定を確認する。
- 骨片が小さく、痛みが軽度の場合は見逃されやすいので要注意。
- 転位が大きい場合は手術適応となり、関節鏡視下での整復固定などが行われる。
3.膝蓋骨裂離骨折
- 膝蓋骨上極や下極に起こる剥離骨折。膝蓋骨の上下に付着する腱(大腿四頭筋腱・膝蓋腱)の牽引力により発生。
- 伸展機構の破綻を伴う場合があり、膝伸展が困難になるケースもある。
- 骨片が大きく転位していれば、観血的整復でワイヤー締結やスクリュー固定を行うことが多い。
4.脛骨粗面裂離骨折
- 「オスグッド病」の延長でイメージしやすい外傷で、成長期の脛骨粗面付着部の骨折。
- ジャンプやダッシュの動作が多いスポーツ(バスケ、バレーなど)で発生しやすい。
- 転位が大きい場合は早期に整復固定を行わないと、将来的に膝伸展力が落ちてしまう可能性あり。
5.Segond骨折
- 脛骨前外側部の骨折で、ACL損傷に合併する代表的外傷。
- 近年は、外側関節包や腸脛靱帯、ALL(anterolateral ligament)の裂離によるものと考えられている。
- 保存療法・手術療法の適応は症例により異なるため、専門医の判断が重要。
今回の記事で学んだポイントをさらに深く理解したい方は、ぜひ書籍を手に取ってご覧ください。
非専門科や看護師の方が知っておくべきこと
「膝を打撲しただけ」と言って受診する患者さんの中にも、実は裂離骨折を起こしているケースは珍しくありません。痛みや腫脹、伸展や屈曲時の違和感などがある場合は、早めに専門科へ紹介することが大切です。
- 非専門医:膝周囲の強い腫脹や機能障害があれば、単なる打撲と判断せず画像検査を追加し、骨折の可能性を念頭に。
放置すると伸展不全や再建困難な変形治癒を招くおそれがある。 - 看護師:身体所見で強い疼痛や腫脹、あるいは荷重が困難な様子があれば、裂離骨折の可能性を考慮。
治療方針に応じた安静度や固定方法を把握して、患者さんへわかりやすく説明できると良いですね。
まとめ
- 裂離骨折(剥離骨折)は、靱帯・腱付着部が骨片ごと剥がされることで発生する外傷。
- 代表的なものとしてはACL裂離骨折、PCL裂離骨折、膝蓋骨、脛骨粗面裂離骨折、Segond骨折などが挙げらる。
- 成長期の小児や骨脆弱性がある壮年期以降に多く、見逃してしまうと後遺症や変形治癒のリスクが高まるため、早期診断と治療が大切。
- 特に複合靱帯損傷を伴うような重症例では、早期に整復・固定しておかないと、その後の再建手術に支障が生じるケースも。
- 非専門科の医師や看護師が「ただの打撲」と判断せず、疑わしい場合は迷わず整形外科へ紹介することが、患者さんの機能予後を改善するカギ。
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