【疑問】

今回は、臨床や医学の勉強をしていて感じる疑問の一つ、
動脈が触れればショックではないのか?収縮期血圧と動脈触知の関係
についてまとめました。
教科書で学んだ内容と臨床での判断は果たして妥当なのでしょうか??
1.動脈が触れれば大丈夫?
「橈骨が触れるからショックではありません!」
よく、臨床の現場でも聞かれることの多い一言かもしれませんね。
まずは、教科書で学ぶことが多い、脈拍の触知と血圧の推定についてまとめます。
脈拍の触知部位で収縮期血圧の予測ができる
●橈骨動脈触知可能であれば80mmHg以上
●大腿動脈触知可能であれば70mmHg以上
●頚動脈触知可能であれば60mmHg以上
引用)『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術』 (編著)江口正信/2015年3月刊行/ サイオ出版
皆さんはこれらの数字に見覚えがありますでしょうか?
上記の数字は、医療従事者の方々は医学生や看護学生の時にひたすら暗記した数字だと思います。
しかし、これらの数値はあくまでも目安であって、実際にマンシェットなどで測定した血圧との乖離を経験さた方も多いかとは思います。
たとえ橈骨動脈が触れたとしても、収縮期血圧は80mmHg以下である可能性もあるということです!
しかも、もし仮に80mmHgであったとしても、全身の体循環の目安である平均動脈圧MAPが65mmHg以下であれば、
必ずしも十分な血圧ではない可能性もあるので、動脈を触れる以外の方法でも循環の評価をする必要がありますね!
※血圧が正確に推定できないという理由で動脈触知は意味がないと主張しているわけではありません。
不整脈の認知や、ショックの患者さんにおいてそもそも心肺停止となっていないかを知るなど、様々なメリットがあるので必ず所見を取りましょう。
橈骨が触れてもショックは否定できない!
2.外傷患者における脈拍触知と血圧の文献レビュー
ここで、実際に外傷患者における脈拍触知と血圧の関係についてレビューした論文を紹介します。
【タイトル】
Accuracy of the advanced trauma life support guidelines for predicting systolic blood pressure using carotid, femoral, and radial pulses: observational study
高度外傷生命維持ガイドラインにおける頸動脈、大腿脈、橈骨脈を用いた収縮期血圧の予測精度の検証:観察研究
PMID: 10987771
【内容の要約】
調査方法と結果
倫理委員会の承認を得て、低血症性ショックに伴う低血圧で侵襲的動脈血圧モニタリングが確立されている患者を順次検討した。血圧を盲検化した観察者が橈骨、大腿、頸動脈を触診し、侵襲的収縮期血圧(Aライン)を記録した。
3年間に連続して調査された20人の患者の年齢は18~79歳であった。
データを、橈骨脈、大腿脈、頸動脈が存在する(第1群)、大腿脈と頸動脈のみが存在する(第2群)、頸動脈のみが存在する(第3群)、橈骨脈、大腿脈、頸動脈が存在しない(第4群)の4つのサブグループに分割した。
図は、これらの各群における収縮期血圧の分布を示したものである。
図中の80mmHg、70mmHg、60mmHgの基準線は、高度外傷生命維持ガイドラインによると、収縮期血圧が群1、群2、群3でそれぞれ超えると予想される値を示している。
第1群では、収縮期血圧が80mmHg未満(平均72.5mmHg(参考範囲55.3~89.7mmHg))の被験者が10/12例(83%)いた。
第2群では、10/12人(83%)の被験者が収縮期血圧<70mmHg(平均66.4mmHg(50.9~81.9mmHg))であった。
第3群では、4人の患者のうち、高度外傷生命維持ガイドラインで予測される収縮期血圧が60mmHgを超えていた患者は1人もいなかった。
また、4群では、2/3の患者が高度外傷生命維持ガイドラインで予測された収縮期血圧<60mmHgであった。
【解釈のコメント】
収縮期血圧を評価するための高度外傷生命維持管理ガイドラインは不正確であり、一般的に患者の収縮期血圧を過大評価している。
ガイドラインで予測された最低血圧を超えたのは 20 例中 4 例のみであった。
各群で得られた平均収縮期血圧と基準範囲は、ガイドラインが脈拍触知に関連した収縮期血圧を過大評価していることを示している。
(DeepL翻訳を使用し一部著者が意訳)
これらの論文をまとめると、以下のようになります👇

●橈骨動脈で平均72.5mmHg
●大腿動脈で平均66.4mmHg
●頸動脈は全例60mmHg未満
教科書でに記載されている脈拍触知と血圧の関係は、過大評価であると認識しておく必要がありますね◎
3.引用文献
Deakin CD,et al. BMJ. 2000 Sep 16;321(7262):673-4. PMID: 10987771
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