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【ここだけ押さえる】糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の診療まとめ【随時更新中】

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今回は、国家試験ではよく勉強したが実際にHHSと鑑別するのが難しく、経過に合わせてどう治療していくのかイメージするのが難しいDKAについてまとめました。

TwitterでDKAの治療について投稿させていただいた際にいただいた、各先生方のコメントや肌感覚についても一部追記させていただいております!

実際のツイートはコチラです。先生方のコメントもとても参考になりますので、ぜひのぞいてみてくださいね👇

エビデンスやガイドラインの推奨を踏まえたうえで、臨床では実際どのように対応されているかを知ることができる記事になれば幸いです◎

1.ポイント

●血糖が異常に高かった場合(300mg/dL以上)で必ず鑑別に
●治療介入の方針は、脱水補正、インスリン投与、電解質補正の3つ
●治療目標はケトン体をなくすこと(AGで評価)
※血糖の正常化ではない
●治療終了の目安を見て食事再開し、インスリン皮下注に

DKAの治療目標はケトアシドーシスの改善というのが大切なポイントです。高血糖の補正と勘違いしがちなので、ここは後輩へ始動するときにいつも強調しております。

治療終了の目安は具体的治療の項を参考にしてみてください◎

2.疫学・予後

●DKAの予後は基本的に良い(死亡率は1%程度)

●成人患者では脳浮腫の合併症は稀。小児は0.7-1.0%

脳浮腫の合併症は非常にまれと報告がある一方で、日本のガイドラインでは脳浮腫予防などを目的に、『50-75mg/dL/hrのスピードで血糖が低下することが期待される』と記載されています。

また、イギリスのガイドラインでは3mmol/L/hr(54mg/Dl/hr)未満での補正を推奨されています。

上記の通り、生理学的に考えると急激な血糖変動は浸透圧変動を考慮するとやはり危険な印象がありますよね。特に小児の場合は配慮した対応が必要なのかもしれません。

3.症状

DKAの3徴

●高血糖

●代謝性アシドーシス(AG開大)

●高ケトン血症

高血糖:多尿、脱水、口喝

ケトアシドーシス:吐き気嘔吐、腹痛、RR↑

ERでは、意識障害や意識変容、腹痛の病歴で来院されることが多い印象です。

DMの既往があるというプレゼンテーションが救急隊からない場合でも、単に病院に通院しておらず未治療のDMを放置されていた…という症例もしばしば経験するので鑑別として忘れないようにしましょう。

4.原因

【原因】
●3つのIに注目

Insulin, Infection, Infarction(stroke, ACS)

●薬剤も忘れずに

ステロイド、利尿薬、抗精神病薬など

【病態】
●循環血液量減少、脱水
●電解質異常(特にK↓)
●ケトアシドーシス

血液ガス分析所見で高血糖やアシデミアをみて、DKAだ!と想起した時、派手な血糖値やアシデミアに気を取られて治療に頭がシフトしてしまいそうですが、治療と同時並行で原因検索や、原因に対する治療介入を同時並行で進めることが大切です。

臭い物に蓋をして、対処療法ばかりをしていても、残念ながら病態は改善しないのです…。

5.鑑別疾患

【DKAとHHSの鑑別】

●病態

DKAはインスリンの絶対的不足、HHSは脱水。

DKAでは無制限に脂肪分解が起こるため、

ケトン体が過剰に産生される。

●検査所見から
血糖が600以下であればDKAを示唆する。

HHSの方が高くなりやすい。

pHが7.3以下のアシドーシスであればDKA

血糖値やアシデミアを参考にDKAとHHSの鑑別をすることは多いですが、実臨床ではこれらが合併している病態も多く経験します。

血液ガス分析のAGなども併せて参考にして、DKAとHHSのどちらがメインなのかを推察するのが大切です。どちらがメインなのかによって後述する治療の主な目的が変わってきます。

施設によっては血液中のケトン体を測定する項目もあると思いますので参考にしましょう。

6.検査・採血所見

【血液検査】
●高血糖
●AG開大性代謝性アシドーシス
●高ケトン血症(特にβヒドロキシ酪酸上昇)
●TG↑
●Na初期に↓(高血糖に伴う)、その後徐々に↑(脱水)
●K初期に↑(インスリン不足)、その後徐々に↓(体内の総量は低下)
●P初期に→(インスリン不足)、その後徐々に↓(体内の総量は低下)
●WBC、膵酵素↑

【尿検査】
尿検査でケトン体が陰性だからと言ってDKAは否定的と除外してはならない!

尿検査で検出されるケトン体というものについて誤解がないよう、理解しておくことが大切です。覚えるべき事項と注意点は以下の記事をチェックしてみてください👇

【疑問】ケトン体とは?ケトジェニックダイエットとDKAの検査で注意すべきこと臨床上はDKAの検査の際に登場することが多い『ケトン体』や、 巷で流行している『ケトジェニックダイエット』。みなさんはこのケトン体について深く学んだことがあるでしょうか?今回はDKAの検査での疑問や注意点に着目してケトン体について学んでいく記事です。...

7.具体的治療

【大まかな治療方針】
この3つを同時並行で進める
①輸液⇒脱水の補正
②インスリン⇒ケトン体の産生↓(血糖を下げるのではない)
③電解質補正⇒浸透圧利尿で失ったものを補う

↑投与量、薬剤・輸液選択は上記プロトコール3)に沿うとよいでしょう。
※ただし、日本には1/2生食がないので1号液で代用も可能です

①輸液
●初期輸液は細胞外液
※外液のチョイスは慣習的に生理食塩水(リンゲル液を使うと血糖の低下まで時間を要するというRCTあり7))

●初期の輸液療法は循環動態の評価に応じてフローチャートの対応は分かれている。
・Severe→1.0L/hr
・Mild→偽性低Na補正しNaの値に応じて1/2NSまたは外液を250ml-500ml/hr

●補正Na≧135mEq/Lになれば低張液へ
(100ml脱水ごとにNa1.6mEq/L変動)

●その後は低張液

②インスリン

●インスリン持続静注を0.14U/kg/hrで開始

●0.1U/kg/hrで持続投与する場合は0.1U/kgボーラス
●基本的にはケトン体がなくなるまで(AG正常になるまで)持続静注
●一時間あたり血糖が最高血糖の10%または50-75mg/dL低下しなければ増量
●血糖正常になったらグルコースを足しながら
※超速攻型と速攻型で治療を要する時間に有意差なし。コスト面を考慮すると速攻型 8)

③電解質補正
●細胞内移動に伴うK、Pを重点的に補正
●見た目のKが正常でも、絶対量はかなり欠乏(3-5mEq/kg)5)

●生理食塩水大量投与や、AGに含まれるケトン体の陰イオンの影響で将来的にAG正常代謝性アシドーシスになる
※HCO3の投与は効果ははっきりせず(pH>6.9で考慮)9)

繰り返しになりますが、DKAの治療目標はケトアシドーシスの改善です!

 

臨床現場ではAラインを留置して、1時間おきに血液ガスをフォローしながら密にトレンドを確認して微調整を続けるイメージです。あるあるなのは、高血糖の偽性低Naの補正を忘れてしまう場合、そして血糖やAGばかりに気を取られ気が付いたら外液を1号液に変え忘れて高Na血症を来してしまう場合、などです。

高血糖に伴う偽性低Na血症についてはこちらの記事をチェック👇

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メインの病態がDKAなのか、もしくはHHSなのかを考えつつ、以下のような感覚で治療を進めていくと良いでしょう。

【DKAがメインの場合】

目標がケトアシドーシスの改善なので、電解質の変動が大丈夫そうであれば、1時間おきに評価した血糖値に応じてボーラス投与をして持続投与速度も増やしながらAGの正常化を優先します。もちろん過剰な血糖低下は避けつつ、血糖変動幅とアシドーシスによる害を天秤にかけつつ判断しましょう。

【治療終了の目安】
●AG正常化(12≦mEq/L)
●HCO3≧15mEq/L
●pH≧7.3
⇒食事再開し、インスリン皮下注に
(インスリンの皮下注を開始しても2時間程度は持続注射終了しないように)

【HHSがメインの場合】

目的が高浸透圧の補正なので、Naや血糖値の補正速度に気をつけましょう。多くがHHSの病態が完成するまでに数日程度は要してる場合が多いです。血糖はゆっくり下げていくことを考慮して、初期インスリン速度は0.05U/kg/hrにすることも考慮してもよいでしょう。

8.論文・引用文献

1)英国 成人DKA治療ガイドライン(2023年1月revise)

2)Up To Date 『Diabetic ketoacidosis in children: Cerebral injury (cerebral edema)』

3)Up To Date 『Diabetic ketoacidosis and hyperosmolar hyperglycemic state in adults: Treatment』

4)Diabetes Care. 2009 Jul;32(7):1335-43. doi: 10.2337/dc09-9032.
Hyperglycemic crises in adult patients with diabetes.
Kitabchi AE他

5)Endocrinol Metab Clin North Am. 2006 Dec;35(4):725-51, viii.
Hyperglycemic crises in diabetes mellitus: diabetic ketoacidosis and hyperglycemic hyperosmolar state.
Kitabchi AE他

6)Diabetes Care. 2008 Apr;31(4):643-7. doi: 10.2337/dc07-1683. Epub 2008 Jan 9.
Can serum beta-hydroxybutyrate be used to diagnose diabetic ketoacidosis?
Sheikh-Ali M

7)QJM. 2012 Apr;105(4):337-43. doi: 10.1093/qjmed/hcr226. Epub 2011 Nov 22.
Fluid management in diabetic-acidosis–Ringer’s lactate versus normal saline: a randomized controlled trial.
Van Zyl DG

8)Diabetes Care. 2009 Jul;32(7):1164-9. doi: 10.2337/dc09-0169. Epub 2009 Apr 14.
Insulin analogs versus human insulin in the treatment of patients with diabetic ketoacidosis: a randomized controlled trial.
Umpierrez GE

9)Ann Intern Med. 1986 Dec;105(6):836-40.
Bicarbonate therapy in severe diabetic ketoacidosis.
Morris LR

 

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