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【Qラボ2026年9月リアルタイムセミナー】蘇生輸液の総まとめ!

9月は輸液をテーマに、輸液の基本、維持輸液、補充輸液と学んできました。最後のリアルタイムセミナーでは、ショックの患者さん、つまりABCDEのうちCの異常をきたしている方への蘇生輸液を扱いました。

蘇生輸液は、ひとつひとつの知識よりも「流れ」で理解することが大切な分野です。途中だけを切り取ると混乱しやすいので、今回はひとつの症例を軸に、最初から最後まで通して整理していきましょう。

今日の目標

  • 血圧ではなくショックを見抜く3つの窓で、輸液の「始め時」を判断できる
  • 輸液反応性がある ≠ 輸液が必要、の違いを説明できる
  • ボーラス投与の止め時を決め、漫然と点滴を続けない理由を説明できる

現場でよく聞く、次の3つの言葉を思い浮かべてみてください。

⚠ この3つ、本当に正しいでしょうか?

「血圧が下がっていないので、ショックではなさそうです」
「IVCが虚脱しているので、もう1L追加しましょう」
「低血圧になりそうなので、夕方から朝まで時間100 mLでいきましょう」

今日のセミナーを通して、それぞれ何が問題なのかが説明できるようになることがゴールです。

1. 症例:80代女性、体動困難

訪問看護師さんが発見して救急要請となった80代の女性です。数日前から食欲がなく、発熱があります。血圧は 96/52 mmHg で、一緒に診ていた先生からは「血圧が下がっていないので、ショックには至っていないようですね」という声が上がりました。

本当にそうでしょうか。この症例を、輸液という視点から最後まで追いかけていきます。

2. 輸液の基本をおさらい

1 Lの輸液は、血管内にどれくらい残るか

体液は細胞内・間質・血管内の3つに分かれていて、その比はおよそ 8:3:1 でした。

製剤 分布するところ 1 L入れて血管内に残る量(理論上)
細胞外液(生食・リンゲル液) 間質+血管内(3:1) 約250 mL(1/4)
5%ブドウ糖液 細胞内+間質+血管内(8:3:1) 約83 mL(1/12)
アルブミン(膠質液) 理論上は血管内にとどまる 理論上はほぼ全量…?

血管内に液体をとどめたいショックの場面では、細胞外液がファーストチョイスになります。

教科書の理論は、急性期にはそのまま当てはまらない

ICUの患者さん約7,000人で、アルブミンと生理食塩水を比べた大規模RCT(SAFE試験)があります。

SAFE試験のポイント

  • 死亡率に差はありませんでした
  • 外傷性脳損傷の患者さんでは、アルブミン群で死亡率が高くなりました
  • 必要だった輸液量の比は、理論上の4:1ではなく約1.4:1でした

つまり、重症の患者さんでは膠質液も理論ほど血管内には残らないということです。古典的な輸液理論は、急性期には必ずしも当てはまらない、と押さえておきましょう。

3. 輸液は「入れすぎ」にも副作用がある

CVPを目標にした時代(EGDT)

以前は、CVP 8〜12 mmHg、平均血圧65 mmHg以上、ScvO2 70%以上などを目標に管理するEGDTが行われていました。とても理にかなって見えますが、2014〜2015年に行われた複数の大規模RCTでは通常治療と差がなく、ガイドラインからも外れていきました。CVPを指標にすると、輸液が過剰になりやすかったことも背景にあります。

過剰輸液で起こること

輸液を入れすぎると静脈圧が上がり、臓器がむくんで、かえって臓器への血流が落ちてしまいます。

肺

肺水腫で酸素化が悪化します。

腎臓

腎うっ血で腎血流が落ち、AKIの発症や回復の遅れにつながります。

腸管・心臓・皮膚

腸管浮腫(イレウス、腹腔内圧上昇)、心筋浮腫(拡張障害)、創傷治癒の遅れなどが起こります。

⚠ 「尿が出ないから輸液」は要注意

腎臓を守るつもりの輸液が、腎うっ血を招いて腎臓を悪くすることがあります。尿が出ないときは、インアウトやエコーなども参考に、うっ血がないかを考えましょう。

輸液量と予後の関係は Jカーブ になります。少なすぎればショックが続き、多すぎれば浮腫や呼吸不全が起こります。目指すのは、その間の適正なボリュームです。ICU入室後、早い段階でマイナスバランスに持っていけた患者さんは予後がよいことも報告されています。

輸液も薬剤です。必要なときに、必要な分だけ使うという意識を持っておきましょう。

4. ショックは血圧では判断しない

ショックとは、循環不全に起因した酸素需給バランスの破綻です。血圧が低いことでも、脈が速いことでもありません。循環血液量の30%程度を失うまで、血圧は正常のことが多いとされています。先に動くのは脈拍、呼吸数、意識のほうです。

ショックを見抜く3つの窓

中枢神経

意識の変容はないか

腎臓

尿量は保たれているか

皮膚

蒼白、網状皮斑、CRT延長(5秒しっかり押して2秒以上)はないか

モニターの数字を見る前に、まず患者さんに触れましょう。頸静脈の怒張・虚脱や末梢の温かさは、ショックの鑑別にも役立つ所見です。

今回の症例は、意識の変容と尿量低下がありました。血圧が保たれていても、ショックと考えて対応するべき状態です。

蘇生輸液の第一歩は、太いルート

ゲージ数が小さいほど流量は大きくなります。ショックでは18Gを2本が目安です。輸液負荷用と薬剤投与用を分けておきましょう。取りにくいときは、超音波ガイドや骨髄路をためらわないことが大切です。

ショックの4分類と、輸液が効くショック

平均血圧 = 心拍出量 × 血管抵抗 / 心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数
1回拍出量は「前負荷・心収縮力・後負荷」で決まる

輸液が効くのは、前負荷が足りないときです。そのため、4分類のうち循環血液量減少性と血液分布異常性では輸液が有効ですが、心原性と閉塞性では輸液で悪化しうることを押さえておきましょう。急いでいても、心エコー・IVC・肺エコーを当てて鑑別することが大切です。

5. 敗血症性ショックの輸液戦略

敗血症性ショックは血液分布異常性ショックに分類されますが、実際には血管透過性亢進による循環血液量減少や、敗血症性心筋症が重なっていることもあります。「末梢が広がっているだけ」と決めつけないことが大切です。

製剤は何を選ぶか:腎不全の既往があっても、リンゲル液でよい

生理食塩水を大量に使うと、高クロール性代謝性アシドーシスをきたし、腎障害のリスクが高くなります。「リンゲル液にはカリウムが入っているから、腎不全では危ないのでは」と心配になりますが、大規模RCTのサブ解析では、高カリウム血症やAKIの患者さんでもリンゲル液で高カリウム血症が増えることはなく、新たな透析導入はむしろ生食のほうで多い傾向でした。

製剤選択のまとめ

  • 3号液(維持液)はショックには使いません
  • ある程度の輸液負荷が必要なら、リンゲル液(バランス液)が第一候補です
  • 頭部外傷では生理食塩水を選びます

輸液だけで粘らず、早めにノルアドレナリン

ガイドラインでは、初期輸液として30 mL/kgを3時間以内が目安です(60 kgで約1.8 L)。ただしこれはまず入れる量であって、入れ続ける量ではありません。

敗血症では入れた輸液が血管外に漏れやすいため、血管抵抗を上げるノルアドレナリンを早期から併用するのが理にかなっています。たとえば50〜60 kgの方にリンゲル液を1 Lほど入れても低血圧が続くなら、早めにノルアドレナリンを始めて、過剰輸液を避けるという考え方があります。

薬剤 使いどころ(セミナーでの目安)
ノルアドレナリン 第一選択。低用量・短時間なら、中心静脈を待たずに太い末梢ルートから始めてよい
バソプレシン ノルアドレナリンが0.2γ前後を超えてきたら併用を検討
ヒドロコルチゾン ノルアドレナリンがさらに増える場合に 200 mg/日 を検討
ドブタミン 心収縮力が落ちている(敗血症性心筋症)とき
ドーパミン 基本的に使いません

※実際の投与量・投与経路は、各施設のプロトコルに従ってください。

薬剤を増やしても離脱できないときは、「ノルアドレナリンをさらに上げる」前に、ショックの分類が本当に合っているかを見直しましょう。心機能低下、副腎不全、アナフィラキシー、出血の合併なども考えます。

6. MAP 65は保てたのに、尿が出ない。次はどうする?

症例に戻ります。ノルアドレナリン0.1γでMAP 65以上を保てるようになり、輸液もしました。それでも2時間尿が出ず、乳酸値は3.5〜3.6のままです。ここが今日一番の考えどころです。

DO2 = 心拍出量 × Hb × SaO2(× 1.34)

心拍出量を上げる

輸液負荷か、強心薬か。どちらが効くかは前負荷の評価(輸液反応性)で決まります。

Hbを上げる

Hb 7未満なら、貧血のせいでDO2が足りないのかもしれません。

SaO2を上げる/需要を下げる

酸素投与、人工呼吸で呼吸仕事量を減らすことも選択肢です。

7. 輸液反応性を理解する

蘇生輸液の目的は、前負荷を上げて心拍出量を増やし、ショックから離脱することです。前負荷を上げても心拍出量が増えないなら、その輸液は目的を果たしておらず、続けるほど害になります。

輸液反応性とは、一定量の輸液で1回拍出量が効率よく増えるかどうかのことです。Frank-Starling曲線の立ち上がり部分にいれば、同じ量の輸液で大きく増えます。低血圧の患者さんでも、輸液反応性があるのは約半数と言われています。

評価の指標

指標 評価 注意点
CVP 反応性の予測には役立たない —
IVCの径・呼吸性変動 反応性の予測は苦手 閉塞性・心原性ショックの鑑別には有用
PPV・SVV(Aライン) 精度は比較的良好 自発呼吸・不整脈があると不正確。人工呼吸・十分な1回換気量が前提
エコーのVTI 非侵襲で有用 技術が必要
PLR(受動的下肢挙上) ERで使いやすい 血圧だけで判定すると見落としがある

PLR(受動的下肢挙上)のやり方

  1. 上体45°挙上で測定

    頭側を上げた状態で、1回拍出量(VTIなど)を測ります。

  2. 上体を水平にし、下肢を45°挙上

    約300 mLを自己輸血したのと同じ効果で、1分ほどでピークになります。

  3. 1回拍出量の変化を見る

    おおむね10%以上増えれば反応性ありと考えます。

  4. 元の体位に戻して再評価

    1 mLも輸液を入れたくない方でも評価できるのが強みです。

輸液反応性がある ≠ 輸液が必要

⚠ 今日いちばん大切なポイント

輸液をするのは、輸液の必要性(低灌流の所見=ショックがある)と、輸液反応性(入れれば心拍出量が増える)の両方がそろったときです。反応性があっても、低灌流の所見がなければ蘇生輸液は必要ありません。

今回の症例は、輸液負荷ではあまり反応しませんでした。エコーで左室の動きを確認すると収縮が落ちていたため、ドブタミンを少量から開始しました。「MAPが出ないから輸液」「尿が出ないから輸液」と短絡的に考えないことが大切です。

8. フェーズで考える(ROSE)と、止め時

フェーズ 時間の目安 輸液の考え方
R:Rescue(蘇生) 数時間 ボーラス投与でショックを離脱させる
O:Optimization(最適化) 〜24時間 反応性を見ながら、必要な分だけ
S:Stabilization(安定化) 数日 最低限の維持輸液。バランスはゼロ〜マイナス
E:Evacuation(回復) その後 利尿薬なども使い、除水を進める

蘇生輸液を始める前に決めておく3つのこと

  1. 低灌流はあるか(始め時)

    3つの窓・乳酸値・バイタルサインで、ショックかどうかを判断します。

  2. 輸液で心拍出量は効率よく増えるか

    PLRなどの動的指標で評価します。

  3. どうなったら止めるか(止め時)

    低灌流の所見が改善した、過剰輸液の所見が出てきた、反応性がなくなった。いずれかで、ボーラス投与は止めます。

血圧が戻ったら、全開のままにせず絞っていきましょう。そして、輸液の調整と並行してソースコントロールを忘れないことも大切です。閉塞性腎盂腎炎なら、輸液をどれだけ整えても尿管ステントなどのドレナージが必要です。

⚠ 蘇生輸液のピットフォール

・ショックに3号液を使う
・CVPが低いから輸液する
・反応性があるから輸液する(必要性を見ていない)
・血圧が戻っても全開のまま、持続投与のまま漫然と続ける

まとめ

  • ショックは血圧ではなく、3つの窓(意識・尿量・皮膚)で見抜きます。
  • 急性期は教科書どおりに輸液が血管内に残りません。輸液も薬剤で、入れすぎには副作用があります。
  • 敗血症性ショックはリンゲル液+早めのノルアドレナリン。30 mL/kgは「まず入れる量」です。
  • MAPが保てても循環不全が続くときは、DO2の式に立ち返り、エコーで輸液か強心薬かを判断します。
  • 輸液反応性がある ≠ 輸液が必要。必要性と反応性の両方がそろったときに入れます。
  • 始める前に止め時を決め、ROSEのフェーズに合わせて絞り、除水へつなげます。
▶ 復習はこちらから:動画はこちら

難しかったところや、「こんな症例のときはどうするの?」という疑問は、オープンチャットやマシュマロからぜひ送ってください。10月には、エコーでうっ血を評価する VExUS を含めて、輸液をさらに深掘りする特別セミナーも予定しています。

参考文献

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