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【Qラボ2026年9月アーカイブセミナーその3】輸液製剤のうち_維持輸液と補充輸液を学ぼう

2026年9月のアーカイブセミナー、第3回は「輸液」がテーマです。ここまで輸液のセミナーをいくつか聞いてきた皆さまには、輸液は薬剤であるという考え方が、だいぶ馴染んできたのではないでしょうか。何のために輸液をするのか、その製剤は体のどこにどれくらい残るのか、そして量と期間をどう決めるのか、という順番でお話ししてきました。

今回はその中でも、日常で多く目にする維持輸液と補充輸液について、もう一段深掘りしていきます。1回で覚えきる必要はありませんので、動画と合わせて、少しずつ「輸液を処方する」感覚を身につけていきましょう。

 

今日の目標
  • 目の前の輸液を、維持・補充・蘇生の3つの目的に分類できるようになる
  • 維持輸液と補充輸液について、投与量と補充の速度を自分で設計できるようになる
  • 輸液を「とりあえず」ではなく、薬剤として処方し、毎日見直す習慣をつける

1. 輸液は「薬剤」として処方する

輸液のオーダーをするとき、「とりあえず生食を3本」のように決めてしまっていないでしょうか。輸液も薬剤ですので、処方するときには他の薬と同じように、次の項目を整理してから決めていきましょう。

 

  • 何のために輸液をするのか(目的)

    維持なのか、補充なのか、蘇生なのか。複数の目的が混ざることもありますが、何がメインかは決められます。

  • どの製剤を選ぶか(種類と分布)

    その製剤が体のどこに、どれくらい残るのか。前回のセミナーで学んだ「輸液製剤の種類と特徴」を、目的に合わせて使い分けます。

  • どれくらいの量を、どの速度で、いつまで(量・速度・期間)

    目的ごとに目安があります。あわせて、いつやめるのか、いつ速度を見直すのかも最初に決めておきます。

2. 目的で分ける3つの輸液

維持輸液

1日分の水分と電解質を補う輸液です。術前で絶食にしている方、消化管手術のあとで絶食管理が続く方など、口から摂れない分を補います。

補充輸液

足りない分を補う輸液です。脱水の補正、ナトリウムの補正などが該当します。「食べられないから足りなくなる分」ではなく、すでに崩れてしまったものを充填するイメージです。

蘇生輸液

ショックに準ずる循環(C)の異常に対する輸液です。前負荷を増やして心拍出量を増やす、低灌流を立て直す、といった目的で、細胞外液を急速に投与します。

前回のセミナーで、それぞれの輸液製剤にどんな種類があり、どんな特徴があるのかを学びました。今回はそれらを、この目的に合わせて使い分けるところがポイントになります。

3. 症例で考えてみましょう

次のAさんとBさんの輸液は、それぞれ何を目的にしているでしょうか。あわせて、「どこに留めたいから、その製剤を選ぶのか」「量と速度はどう決めるのか」「いつやめる、いつ見直すのか」も考えてみてください。

 

症例A 症例B
状況 今夜から術前で絶食になる方。バイタルサインは安定している。 ERに来院した、肺炎に伴う敗血症性ショックの方。低灌流の所見がある。
オーダー ソルデム3A を 2,000 mL/日 の速度で リンゲル液をまず 1,000 mL 全開で
目的 維持輸液 蘇生輸液
製剤の考え方 1日に必要な水分・電解質に近い組成の維持液(3号液) 血管内に留めたいので細胞外液
量と速度の目安 およそ 30 mL/kg/日(60 kgで約1,800 mL、80 mL/時前後で投与することが多い) 敗血症ガイドラインの目安として 30 mL/kg を3時間以内にボーラス投与
見直しのタイミング 翌日の採血・尿量・IN/OUTバランスで、過剰・不足を確認する 低灌流の所見(ショック)を離脱しているか。離脱していれば速度を緩める(続けると鬱血につながる)

組織低灌流の評価や蘇生輸液の詳細は、リアルタイムセミナーの方でより詳しく扱う予定です。今回押さえていただきたいのは、何を目的にしているかと、毎日の見直しのタイミングを最初から決めておく、という2点です。

4. 維持輸液を深掘りする

1日に必要な水分と電解質の目安

維持輸液では、1日にどれくらいの水分と電解質が必要か、という目安が決まっています。体重60 kgで計算すると、おおよそ次のようになります。

 

項目 1日の目安 60 kgの場合
水分 25〜30 mL/kg/日 約1,500〜1,800 mL
ナトリウム 約1 mmol/kg/日 約60 mmol
カリウム 約1 mmol/kg/日 約60 mmol
ブドウ糖 50〜100 g/日(飢餓性ケトーシス予防) 50〜100 g

ソルデム3Aのような3号液は、この「1日に必要な量」にかなり近い組成になっています。ですので、絶食のときの維持輸液としては、3号液がまず候補に挙がるわけです。ただし、この目安は安定した患者さんの基準値です。投与を続ける中で電解質がどう推移するかをチェックし、ずれていく場合は補正・調整が必要になります。漫然と続けないということですね。

「基準どおり」で済まない患者さんが多い

急性期の患者さんでは、採血を毎日取ってみると、電解質が思ったようにならない方がいらっしゃいます。発熱がある、水分を喪失する病態が背景にある、腎不全や心不全があって「ちょうど良い量」の安全域が狭い、といった方です。こうした患者さんでは、一人ひとりに合わせた調整が必要になります。

 

維持輸液を毎日見直すときに見るもの
  • 体重の推移
  • 尿量とIN/OUTバランス
  • 採血(ナトリウム・カリウムを中心とした電解質、腎機能)
  • その結果に応じて、投与量と製剤を調整する
維持輸液の落とし穴:低ナトリウム血症

維持液(3号液)は、細胞外液に比べるとナトリウム濃度がかなり低い低張液です。そこに疼痛・手術・敗血症といった侵襲が加わると、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が増え、腎臓で水が再吸収されます。ナトリウムの投与量は少ないのに水は体に残る、という状態になるため、低張液を漫然と続けると医原性の低ナトリウム血症を起こすことがあります。

侵襲のある患者さんでは、ナトリウムをフォローすること、そして維持液だけでなく細胞外液をある程度軸にすることも検討しましょう。

5. 補充輸液を深掘りする

補充輸液のポイントは、足りない分だけを補うことです。脱水であれば、IN/OUTバランスや体重の変化から、どれくらい不足しているのかを見積もります。そのうえで、電解質の補正には速度に気をつけないといけないポイントがあります。

ナトリウムの補正

速さが害になる:浸透圧性脱髄症候群(ODS)

低ナトリウム血症の補正では、血清ナトリウムの上昇を24時間でおよそ8 mmol/L までにとどめることが推奨されています。急速に上げると浸透圧性脱髄症候群(ODS)を起こし、不可逆な意識障害につながることがあります。

一方で、意識障害や痙攣を伴う重症の低ナトリウム血症では、症状を止めるために初期の急速な補正(高張食塩水など)が必要になります。「基本はゆっくり、重症の症状があるときは初期だけ急ぐ」と押さえておきましょう。

カリウムの補正

カリウム補正で確認すること
  • 末梢静脈から投与する場合、1 Lあたりの濃度と1時間あたりの投与速度に上限があります(一般に濃度は40 mEq/L まで、速度は20 mEq/時 まで。設定は施設のプロトコルに従ってください)
  • 速度を上げるときは心電図モニターのもとで行います
  • マグネシウムも一緒に確認します。低マグネシウム血症を合併していると、カリウムを補っても低カリウム血症が改善しないことがあります

電解質補正の詳細はリアルタイムセミナーでさらに深掘りする予定ですが、今回は「速さが害になることがある」という点を意識しておいていただければと思います。

 

まとめ
  • 輸液は薬剤です。目的・種類(分布)・量・速度・期間・見直しを整理してから処方します。
  • 目的は維持・補充・蘇生の3つ。複数混ざることはあっても、何がメインかは決められます。
  • 維持輸液の目安は約30 mL/kg/日。3号液は1日必要量に近い組成ですが、体重・尿量・採血で毎日見直し、漫然と続けないことが大切です。
  • 侵襲下で低張液を続けると医原性の低ナトリウム血症を起こすことがあります。ナトリウムのフォローと、細胞外液を軸にする選択肢を持っておきましょう。
  • 補充輸液は足りない分だけ。ナトリウム補正は24時間で約8 mmol/L まで、カリウム補正は濃度・速度の上限とモニター、マグネシウムの確認を忘れずに。
▶ 復習はこちらから:動画はこちら

参考文献

  1. Evans L, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Crit Care Med. 2021;49(11):e1063-e1143. doi:10.1097/CCM.0000000000005337
  2. Spasovski G, et al. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia. Eur J Endocrinol. 2014;170(3):G1-G47. doi:10.1530/EJE-13-1020
  3. National Institute for Health and Care Excellence. Intravenous fluid therapy in adults in hospital (Clinical guideline CG174). 2013(2017年更新). nice.org.uk/guidance/cg174