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前回(その1)では、体内の水分がどこにどれくらい分かれているのか(体液区画)を「8:3:1」のキーワードで整理しましたね。今回はその続きとして、輸液製剤そのものの正体と、「この場面ではこれを選ぶ」という根拠をエビデンスを交えて学んでいきます。
「とりあえずルートを取って細胞外液で」「維持液だから3号液で」「ショックだから生食全開で」——現場でよく飛び交うオーダーですが、それぞれにはちゃんと理由と根拠があります。今日はそこを意識できるようになるのが目標です。
今日の目標
- 生理食塩水とリンゲル液(バランス型晶質液)の組成の違いと、使い分けの根拠を説明できる
- 1号液・3号液の正体を理解し、「血管内に残る量」の視点で輸液を選べる
- アルブミン製剤が「理論どおりに残らない」理由と、ガイドライン上の位置づけを説明できる
1. 生理食塩水は本当に「生理的」なのか?
まずは晶質液の代表格である生理食塩水(生食)とリンゲル液の違いから見ていきましょう。
生理食塩水は「生理」と名前についているくらいですから、何かしら生理的なはずですよね。ここで言う生理的とは「張度(浸透圧)」のことです。血漿とほぼ等しい浸透圧なので等張液と呼ばれています。ただし、組成そのものは血漿とはかなり違うという点を押さえておきましょう。
| (mEq/L) | Na | Cl | K | Ca | 緩衝材(HCO₃⁻相当) |
|---|---|---|---|---|---|
| 血漿 | 約140 | 約100 | 約4 | 約2.5 | 約24 |
| 生理食塩水 | 154 | 154 | 0 | 0 | なし |
| 乳酸リンゲル液(ラクテック等) | 130 | 109 | 4 | 3 | 乳酸 28 |
| 酢酸リンゲル液(ソルアセト等) | 130 | 109 | 4 | 3 | 酢酸 28 |
| 重炭酸リンゲル液(ビカーボン等) | 130〜135 | 109〜113 | 4 | 3 | 重炭酸 25〜28 |
※製剤ごとに細かい数値は異なります。傾向をつかむための代表値です。
生食のクセ:クロールが多く、緩衝材がない
表を見ると一目瞭然ですが、生食はクロール(Cl)が血漿の約1.5倍入っていて、しかも緩衝材(HCO₃⁻になる成分)が入っていません。そのため、たくさん投与すると高クロール性の代謝性アシドーシスになってしまいます。血液ガスの回で勉強した内容ですね。
クロールの負荷は、腎の輸入細動脈を収縮させて腎血流を落とし、AKI(急性腎障害)の一因になると指摘されています。「等張ではあるけれど、組成は血漿と違う」——これが生食の正体です。
リンゲル液(バランス型晶質液)は血漿に寄せた設計
その視点で見ると、リンゲル液をはじめとするバランス型の晶質液は、NaやClの値がある程度血漿に近づけてあり、さらに緩衝材が入っています。乳酸・酢酸・重炭酸は代謝されてHCO₃⁻になるので、生食に比べてアシドーシスになりにくいんですね。少量のカリウムやカルシウムも含まれていて、「血漿に似せた設計」になっている、と覚えておきましょう。
緩衝材の種類によって、ラクテック(乳酸)/ソルアセト(酢酸)/ビカーボン(重炭酸)といった製剤名が変わってくる、というわけです。
2. 生食 vs バランス液:エビデンスは何と言っているか
ここは実際に、たくさんのRCT(ランダム化比較試験)が行われてきた領域です。代表的なものを見てみましょう。
ICUでクロールの多い輸液を制限すると、AKIや腎代替療法の頻度が減ったという報告(Yunos 2012)。「クロール負荷→輸入細動脈収縮→AKI」の根拠のひとつです。
ICU・救急外来の大規模試験。バランス液群のほうが死亡・透析・持続する腎障害の複合アウトカムがわずかに少ないという結果でした。
プラズマライト(バランス液)と生食の比較。90日死亡に有意差なし。バランス液の優位性は「あっても小さい」というのが現在の落としどころです。
まとめると、バランス液と生食は「ほとんど差がない、ただしどちらかといえばバランス液の分がよい」というのが今のエビデンスです。差があっても小さいので、生食を使ってはいけないわけではありません。ただし、大量に輸液する患者さんでは差が出る可能性があり、とくに敗血症ではバランス液のほうがベターと考えられています。
蘇生輸液の使い分け(まずはこれ)
- 蘇生輸液の第一選択は、リンゲル液などのバランス型晶質液
- 生理食塩水を選ぶのは「理由があるとき」:頭部外傷(脳浮腫の管理)、低クロール性アルカローシス(Clの補充が必要) など
頭部外傷では、炎症で頭蓋内が腫れて脳浮腫が問題になります。高張食塩水で脳圧管理をするくらいですから、血管内のNa濃度を高めに保てる生食のほうが理にかなっている、というわけです。低クロール性アルカローシスでは、Clそのものを補わないといけないので、こちらも生食が選択肢になります。
3. 「1号液」「3号液」の正体は?
「維持液は3号液で」とよく言いますよね。この「◯号液」の正体をひとことで言うと、生理食塩水と5%ブドウ糖液の「混ぜもの」です。生食を100%とすると、1号液は生食:ブドウ糖液=1:1、3号液は1:3くらいの割合だと思ってもらえるとイメージしやすいです。
| (mEq/L) | Na | Cl | K | ブドウ糖 | イメージ |
|---|---|---|---|---|---|
| 生理食塩水 | 154 | 154 | 0 | 0 | 生食100% |
| 1号液(開始液) | 約77 | 約77 | 0 | 約2.5% | 生食1:糖液1 |
| 3号液(維持液) | 約35 | 約35 | 約20 | 約4.3% | 生食1:糖液3 |
| 5%ブドウ糖液 | 0 | 0 | 0 | 5% | 代謝されると「ただの水」 |
※製剤(ソルデム、KN、フィジオ等)により数値は前後します。
3号液は「自由水をたくさん入れている」輸液
ブドウ糖は代謝されると水になるので、3号液は自由水を大量に入れていると考えないといけません。ご飯が食べられない患者さんに自由水を補う、という目的にはある程度理にかなっています。でも、血管内ボリュームを増やす目的にはまったく向かないことは、この表を見れば一目瞭然ですよね。
3号液はNaが血漿の1/4程度しかありません。急性期の患者さんはSIADHをはじめNaが下がりやすい病態にあることが多く、「絶食だからとりあえず3号液を1日2〜3本」を漫然と続けると、医原性の低ナトリウム血症をきたすことがあります。Naの視点で見ると、病棟の「とりあえず維持液」としてはイマイチな選択肢と言わざるを得ません。
もうひとつ、3号液はK 20 mEq/Lと、意外とカリウム負荷になります。腎機能が悪くてカリウム負荷を避けたい患者さんでは、Kを含まない1号液を使うのも選択肢のひとつです。
4. 同じ1Lでも「血管内に残る量」はぜんぜん違う
ここで前回の「8:3:1」を思い出しましょう。体の水分は細胞内:間質:血管内=8:3:1に分かれていて、細胞外液(間質+血管内)の中では血管内が1/4です。輸液は、その組成に応じて「どこまで広がるか」が決まります。
Naが多いので細胞外液にとどまり、そのうち血管内に残るのは1/4。つまり約250 mLです。
代謝されて水になり、細胞内まで含めた全体(8:3:1)に広がるので、血管内に残るのは1/12、約80 mLだけです。
生食1/4+糖液3/4の混ぜものなので、250×1/4 + 80×3/4 ≒ 約125 mL。1L入れておよそ1/8しか血管内に残りません。
ショックのときに3号液を入れるのが、いかに効率の悪い点滴かが分かりますよね。「同じ1Lを投与しても、血管内に残る量は製剤によって違う」——ここを押さえておきましょう。
5. アルブミン製剤は「理論どおり」には残らない
では膠質液の代表、アルブミンはどうでしょうか。理論上、アルブミンは毛細血管の膜を通らないので、8:3:1の「1」の部分(血管内)にすべてとどまるはずです。そう考えると「蘇生輸液はアルブミンが一番いいのでは?」と思いがちですよね。
ところが、蘇生輸液の第一選択はあくまで晶質液(バランス液)です。アルブミンが出てくるのは、晶質液をたくさん投与してもまだ血管内ボリュームが足りないときに考慮する、という位置づけになります。
人工的に作った膠質液であるHES製剤は、腎障害や出血のリスクがあるため、敗血症の蘇生輸液では基本的に使わないとされています。
SAFE試験:アルブミンの優位性は示されなかった
「本当に全部残るのか?」を検証したのがSAFE試験(2004)です。ICU患者を4%アルブミン群と生食群に分けて比較したところ、28日死亡に差はなく、アルブミンの優位性は示されませんでした。しかもサブ解析では、外傷性脳損傷(TBI)ではアルブミン群で死亡が多かったという結果でした。
なぜ理論どおりにいかないのか:答えは「グリコカリックス」
その答えが、毛細血管の内側にあるグリコカリックスです。血管内皮の表面に、毛が生えたようにモヤモヤと存在する糖タンパクの層で、血管内から外への「漏れやすさ」を規定しています。
血管内皮が守られていて、アルブミンなどの血管外漏出が起きにくい状態です。理論どおり血管内に残りやすくなります。
グリコカリックスが壊れると、血管外漏出が起きやすくなります。急性期はまさにこの状態なので、アルブミンを入れても全部は残りません。
ガイドライン(SSCG)でのアルブミンの位置づけ
敗血症のガイドラインSSCG 2021では、生食やバランス晶質液を大量に投与しても、まだ輸液が必要そうなとき——たとえば肺うっ血など過剰輸液の害が出そうなとき——に、アルブミン併用の推奨度が上がってくる、という位置づけになっています。
ただし、「どのくらい入れたらアルブミンに切り替える」という明確な基準はありません。症例ごと、病態ごと(急性期なのか、など)に考えていくのがポイントです。
敗血症での輸液の考え方(実際の流れ)
- まずは晶質液を30 mL/kgを目安に投与してみる
- 反応が乏しければ早めにノルアドレナリンを開始する
- それでもボリュームが足りず、バソプレシン併用を考えるような段階で、アルブミン投与も検討する
- 実際には酸素投与量が上がってきた(肺うっ血が心配になってきた)タイミングで考慮することが多い
まとめ
- 輸液製剤は「目的」で選ぶ。「とりあえず」ではなく、なぜその製剤かを説明できるようになりましょう。
- 生理食塩水は等張だが、Clが多く緩衝材がないため大量投与で高Cl性アシドーシス・AKIのリスクがある。
- 蘇生輸液の第一選択はバランス型晶質液(リンゲル液)。生食は頭部外傷・低Cl性アルカローシスなど理由があるときに。
- 3号液は生食1:糖液3の混ぜもので自由水が多く、Naは血漿の1/4。漫然と続けると医原性低Na血症に。腎機能が悪ければKを含まない1号液も選択肢。
- 血管内に残る量は生食1L→約250 mL、3号液1L→約125 mL、5%糖液1L→約80 mL。ショックに3号液は非効率。
- アルブミンは理論上すべて血管内に残るはずだが、急性期はグリコカリックスの破綻で漏れる。晶質液を十分に入れてもまだ必要なときに考慮する。HES製剤は敗血症では使わない。
参考文献
- Yunos NM, et al. Association between a chloride-liberal vs chloride-restrictive intravenous fluid administration strategy and kidney injury in critically ill adults. JAMA. 2012;308(15):1566-1572.
- Semler MW, et al. Balanced crystalloids versus saline in critically ill adults (SMART). N Engl J Med. 2018;378(9):829-839.
- Self WH, et al. Balanced crystalloids versus saline in noncritically ill adults (SALT-ED). N Engl J Med. 2018;378(9):819-828.
- Zampieri FG, et al. Effect of intravenous fluid treatment with a balanced solution vs 0.9% saline solution on mortality in critically ill patients (BaSICS). JAMA. 2021;326(9):818-829.
- Finfer S, et al. Balanced multielectrolyte solution versus saline in critically ill adults (PLUS). N Engl J Med. 2022;386(9):815-826.
- SAFE Study Investigators. A comparison of albumin and saline for fluid resuscitation in the intensive care unit. N Engl J Med. 2004;350(22):2247-2256.
- SAFE Study Investigators. Saline or albumin for fluid resuscitation in patients with traumatic brain injury. N Engl J Med. 2007;357(9):874-884.
- Caironi P, et al. Albumin replacement in patients with severe sepsis or septic shock (ALBIOS). N Engl J Med. 2014;370(15):1412-1421.
- Evans L, et al. Surviving Sepsis Campaign: International guidelines for management of sepsis and septic shock 2021. Crit Care Med. 2021;49(11):e1063-e1143.





