コメント失礼致します。開心術後のCALSについて知りたいです。開胸になった際の看護師の外回りについてできることや観察するポイントを知っておきたいです。
ご質問ありがとうございます。外回りの動きについてのご質問でしたので、その部分を中心にまとめました。
はじめに|まず、ここだけ押さえておきましょう
開心術後の心停止は、通常のACLSとは対応の順序が変わります。
ただ、細かいプロトコルをすべて覚えていなくても、次の3点を知っておくだけで実際の場面での動きが変わります。
-
胸骨圧迫より先に行うことがある、と知っておく
開心術後の心停止では、まず除細動(VFのときは連続3回)とペーシング(心静止・徐脈のとき)を行い、それでも回復しなければ胸骨圧迫、という順序になります。通常のBLS・ACLSとは順序が入れ替わるため、その場で「まだ胸骨圧迫をしていない」と感じても問題ありません。プロトコルどおりの順序です。ただし、この順序は除細動器とペーシングがすぐに使える体制が前提になります。機器の置き場所と設定は、普段のうちに確認しておきましょう。
-
目標は「5分以内の再開胸」だと知っておく
術後の心停止で多い原因は、タンポナーデと出血です。この2つは胸骨圧迫では循環を保ちにくいとされており、治療は再開胸そのものになります。そのため、5分以内に開胸できるかが目安になります。外回りが行うことは、すべてこの5分を守るための準備だと考えると、動きが整理しやすくなります。あわせて、「心停止から何分経過したか」を声に出して共有する役割は、外回りが担える重要な仕事のひとつになります。
-
血圧が下がったら「CVP」と「ドレーン」の2つを見る
CVPが上がって、ドレーンの排液が急に止まったらタンポナーデ。CVPが下がって、ドレーンが大量に出ていたら出血。この2つを確認して医師に伝えるだけで、次の対応が決まります。とくにそれまで出ていたドレーンが急に止まったという変化は見落とされやすく、看護師の方が最初に気づける所見です。排液の量は、そのときの数値だけでなく時間ごとの推移で見ておくと、変化に気づきやすくなります。
上の3点を知っていれば、実際の場面で戸惑わずに動けると思います。
ここから先は、CALSのプロトコルの詳細と、外回りの具体的な動きを順に整理していきます。自施設の体制を見直したい方、勉強会の資料を作りたい方は、続けて読んでいただけますと幸いです。
開心術後の心停止では、開胸が始まるまでの数分間に周囲がどう動けているかが結果に関わります。ここは看護師の方が担う場面が多い部分です。
- 開心術後の心停止が、通常のACLSと異なる理由
- CALSで変わる3つの対応と、事前に割り当てておく6つの役割
- 外回りが開胸前・開胸決定後に行うことと、観察の優先順位
1. 通常のACLSと異なる理由
開心術後早期(多くの施設で術後10日以内を目安に運用されています)の心停止は、CALS(Cardiac Advanced Life Support)と呼ばれる専用のプロトコルで対応します。一次資料は、EACTSの2009年ガイドライン、STSの2017年エキスパートコンセンサス、ERC 2021(特殊な状況における心停止)です。
理由は、術後心停止の原因がある程度限られていることにあります。タンポナーデ、出血、緊張性気胸、グラフト閉塞・虚血、ペーシング不全、不整脈。多くはこの6つに含まれます。
このうちタンポナーデと出血では、胸骨圧迫による循環の維持が期待しにくいとされています。心臓が外から圧迫されている状態、あるいは循環血液量が不足している状態では、胸骨圧迫を行っても脳灌流が得られにくいためです。そのため、5分以内の緊急再開胸そのものが治療として位置づけられています。
2. 通常のACLSと変わる3つの対応
-
VFでは、胸骨圧迫より先に連続3回の除細動を行う
除細動器がすぐに使用できる状況であれば、まず3回続けて実施します。モニター下で発見された心停止で、原因が電気的なものであれば、この段階で回復することが期待できます。
-
心静止・高度徐脈では、胸骨圧迫より先にペーシングを行う
ペーシングワイヤーが留置されていれば、まずそれを使用します(DDDで高めのレート・出力最大とすることが一般的ですが、設定は施設のプロトコルに従ってください)。ワイヤーが入っているのに使われないまま時間が経つのは、避けたいところです。
-
アドレナリン1mgのルーチン投与は行わない
可逆的な原因が解除された時点で高血圧となり、吻合部の破綻につながる可能性があるためです。使用する場合も少量ずつ、医師の指示のもとで行います。
これらで回復しない場合とPEAでは、5分以内に再開胸へ進みます。
3. 6つの役割を、事前に割り当てておく
EACTSとSTSの文書では、役割をあらかじめ割り当て、定期的に訓練しておくことが推奨されています。その場で決めていては、5分という目安に間に合いにくくなります。
上記の対応で回復しなかったときに開始します。
用手換気に切り替え、呼吸が原因となる病態を確認します。
機器の設定まで含めて、迷わず操作できる担当。
方針の決定と時間の管理を担います。
いわゆる外回りの調整役。この記事の中心になる役割です。
清潔側。器材の展開と術者の介助を担当します。
4. 開胸が決まる前に、外回りでできること
実際には、⑤のICUコーディネーターと、清潔以外のメンバーの動きが結果に関わってきます。
応援要請
心臓外科医、集中治療・麻酔科、臨床工学技士(人工心肺・ECMO・IABP)、輸血部への連絡を行います。誰に連絡したかを声に出して共有すると、重複と連絡漏れを減らせます。
時間の管理
「心停止 ○時○分」「除細動1回目」「3分経過、再開胸の目安まであと2分」。
蘇生の場面では、時間の感覚が保ちにくくなります。経過時間を声に出す役割がいるかどうかで、5分という目安を守れるかが変わってきます。
モニターの確認
- 動脈圧波形:実際に無脈か。ラインのなまりやアーチファクトではないか
- CVP:急上昇していないか(タンポナーデ・右心不全を示唆します)
- EtCO₂・SpO₂:換気が入っているか
- ペースメーカー本体:モード・出力・感度・電池・接続の外れ
ドレーンの観察
急な大量排液は、出血を示唆します。あわせて確認したいのが、それまで流出していたドレーンが急に止まった場合です。凝血塊による閉塞の可能性があり、タンポナーデを疑う根拠になります。
排液が減ったことを「落ち着いた」と解釈しないよう、量そのものではなく時間ごとの推移で評価します(ミルキングの可否は施設のルールに従ってください)。
気道・呼吸の確認
片側の呼吸音消失、気道内圧の上昇、皮下気腫がそろう場合は、緊張性気胸を考えます。人工呼吸器から外して用手換気に切り替えると、回路のトラブルやauto-PEEPもあわせて確認できます。FiO₂は1.0とします。
ラインと薬剤の確認
鎮静薬、降圧薬、血管拡張薬は中止します。あわせて確認したいのが、昇圧薬が実際に投与されているかです。シリンジ交換の直後、三方活栓の向き、ラインの閉塞など、投与されていないことが原因となる場面があります。ポンプの表示だけでなく、ライン自体をたどって確認します。
輸血の準備
クロスマッチ済みの血液の有無と保管場所を、すぐに答えられる状態にしておきます。大量輸血プロトコルの起動、加温装置と急速輸液装置の準備まで進めておくと、その後の対応が進めやすくなります。
5. 再開胸が決まってからの動き
-
開胸セットを出す
ワイヤーカッター、開胸器、剪刀、吸引×2、内部除細動パドル(内部は外部より低いエネルギーで、一般に20J程度が用いられます。設定は施設のプロトコルに従ってください)。どこに置いてあるかをメンバー全員が把握していることが前提になります。定位置・封印・定期点検を決めておきましょう。
-
清潔操作は、可能な範囲で行う
消毒は手早く行い、メンバーはマスク・帽子・手袋を着用します。ただし、完全な滅菌手順に時間をかけないというのがガイドラインの立場です。感染対策は蘇生後に立て直します。
-
場所を確保する
ベッド周囲の物品を移動する、ベッドヘッドを外す、壁から離す、照明を最大にする、術者に合わせてベッドの高さを調整する。あわせて、同室の患者さんとご家族への声かけと誘導も外回りの役割になります。
-
記録を残す
時刻、除細動の回数とエネルギー、投与薬剤、開胸時刻、心内マッサージ開始時刻。事後のデブリーフィングと、ご家族への説明の根拠になります。
-
次の対応を準備しておく
ヘパリン、プロタミン、カルシウム、抗不整脈薬、止血製剤の準備。ECMOやIABPの導入、手術室への搬送を見越した臨床工学技士・手術室への事前連絡。ここは外回りが担う部分です。
緊急再開胸の所要時間は、器材を探している時間で大きく変わります。セットの定位置、封印の有無、期限切れの確認は、平時の点検項目に入れておきたいところです。
新しく配属されたメンバーが、その日のうちに場所を答えられる状態になっているかを、ひとつの目安にできます。
6. 判断に迷う場面での、確認の順序
情報が多く判断に迷う場面では、まずCVPの変化とドレーンの状態を確認します。この2つで、原因の見当がある程度つきます。
| 所見の組み合わせ | 考えること | 次の対応 |
|---|---|---|
| CVP上昇 + ドレーンが止まった | タンポナーデ | 再開胸 |
| CVP低下 + ドレーン大量 | 出血 | 輸血と再開胸 |
| CVP上昇 + 片側呼吸音消失 + 気道内圧上昇 | 緊張性気胸 | 脱気 |
| 心電図変化 + 新規の壁運動異常 | グラフト閉塞・虚血 | 外科・カテーテル室へ連絡 |
| 徐脈・ペーシング波形の異常 | ペーシング不全 | まず設定と接続を確認 |
通常のACLSに慣れているほど、心停止と聞いた時点でアドレナリンの準備に動きたくなります。開心術後では、可逆的な原因が解除された瞬間に高血圧となり、吻合部に負荷がかかる可能性があるため、ルーチン投与は行わないこととされています。
準備そのものは進めておき、投与は医師の指示を待つ、という形にしておくと、現場で迷いにくくなります。
7. 平時に準備しておきたいこと
- 6つの役割の割り当てカードを、ベッドサイドに掲示しておく
- 月1回のシミュレーションを行う(ガイドラインでも定期的な訓練が推奨されています)
- 5分以内に開胸できるかを、実際に時間を測って確認する
- 開胸セットの場所と内容を、新人チェックリストに入れておく
予期しない合併症に遅れず対応するというのは、原因がある程度限られていることを知ったうえで、その確認の順序をチームで共有しておくことだと考えています。そして、その順序を実際に進めていくのが、外回りからの声かけになります。
- 開心術後早期の心停止は、CALS(EACTS 2009/STS 2017/ERC 2021)に沿って対応する
- タンポナーデと出血では胸骨圧迫による循環維持が期待しにくく、5分以内の再開胸が治療として位置づけられている
- VFは3回連続除細動が先、心静止・徐脈はペーシングが先、アドレナリン1mgのルーチン投与は行わない
- 6つの役割は事前に割り当て、定期的に訓練しておく。外回りはICUコーディネーターにあたる
- 開胸前は、応援要請、時間の管理、モニター確認、ドレーン、気道、ライン、輸血の準備
- ドレーンが急に止まった場合は、タンポナーデを疑う。排液が減った=落ち着いた、ではない
- 判断に迷う場面では、CVPの変化とドレーンの状態の2つから確認する
- 本番の速さは、平時の掲示・訓練・機材の定位置で決まってくる
- Dunning J, et al. Guideline for resuscitation in cardiac arrest after cardiac surgery (EACTS). Eur J Cardiothorac Surg. 2009;36(1):3-28. doi:10.1016/j.ejcts.2009.01.033
- The Society of Thoracic Surgeons Expert Consensus for the Resuscitation of Patients Who Arrest After Cardiac Surgery. Ann Thorac Surg. 2017;103(3):1005-1020. doi:10.1016/j.athoracsur.2016.10.033
- Lott C, et al. European Resuscitation Council Guidelines 2021: Cardiac arrest in special circumstances. Resuscitation. 2021;161:152-219. doi:10.1016/j.resuscitation.2021.02.011





