心エコーレポートの見方について、特に心臓血管外科手術患者さんを受け持つ際に、確認しておく必要のある項目について分かりやすく教えていただきたいです。
ご質問ありがとうございます。お答えしたい内容が多くなりましたので、記事としてまとめました。
はじめに|まず、ここだけ押さえておきましょう
心エコーのレポートは専門的な用語が多く、すべてを理解しようとすると負担が大きくなります。
まずは、心臓血管外科術後の患者さんを受け持つ日に、これだけ確認しておけば動きやすくなるという3点に絞ってお伝えします。
-
術前と術直後のレポートを、並べて確認しておく
術後の数値が異常かどうかは、教科書に載っている正常値では判断できません。その方の術前・術直後の値と比べて、上がったのか下がったのかで判断します。受け持ちの前に術直後のレポートの数値を控えておくと、夜間に何かあったときの比較材料になります。とくに人工弁の圧較差や右心の指標は、一般的な正常値と比べると異常に見えても、その方にとっては想定内ということが少なくありません。
-
「この方は輸液に強いか、弱いか」を読み取っておく
左室が小さくて壁が厚い方(大動脈弁狭窄症の術後や高齢の方に多くみられます)は、少量の出血や利尿で血圧が下がりやすい傾向があります。反対に、左室が大きく拡大している方は、輸液を入れすぎるとうっ血に傾きます。レポートのLVDd(左室拡張末期径)と壁厚を見て、どちらのタイプかだけでも把握しておくと、血圧が下がったときの初期対応を考えやすくなります。医師に報告するときにも、「もともと輸液に弱いタイプの方です」と一言添えられると、次の指示が出しやすくなります。
-
「心嚢液が見えない=タンポナーデではない」を知っておく
術後のタンポナーデは、心エコーで心嚢液がほとんど見えない状態でも起こります。血の塊が心臓の裏側の一部分だけを圧迫することがあるためです。エコーで心嚢液を認めないと言われていても、CVPが上がってきた、尿量が減ってきた、ドレーンの排液が急に止まったという変化があれば、医師に伝えてください。経胸壁エコーは心臓の前面からの観察が中心になるため、背側にできた血腫は写りにくいという事情があります。
上の3点を押さえておけば、術後の患者さんを受け持つ日の準備としては十分だと思います。
ここから先は、レポートの各項目をもう少し細かく見ていく内容になります。ご自身でエコーのレポートを読み込みたい方、集中治療の領域を深めたい方は、続けて読んでいただけますと幸いです。
心エコーのレポートは項目が多く、どこから見ればよいのか分かりにくいと感じる方は多いと思います。私自身も、研修医の頃はLVEFの数値だけを確認して閉じてしまうことがよくありました。
ただ、心臓血管外科術後の管理では、レポートの使い方が少し変わります。検査結果として読むのではなく、術後にどのような変化が起こりやすいかを予測する材料として読むと、夜間に血圧が下がったときの初期対応を考えやすくなります。
- 心エコーレポートを、術後に起こりうる変化の予測に使うための手順
- 心臓血管外科術後で見落としやすい3つの所見(右心指標の見かけ上の低下・SAM・局所のタンポナーデ)
- 読み取った内容を、チームで共有できる形にまとめる方法
0. 前提:レポートは3枚を並べて確認する
細かい項目に入る前に、ひとつだけ準備をしておきたいことがあります。術後管理では、次の3枚をあわせて確認しておくと判断がしやすくなります。
もともとの心機能。何がどの程度悪くて手術に至ったのかが分かります。
人工心肺離脱時に難渋した点。術後の弱点が記載されていることが多い部分です。
その方の新しい基準値。以後の異常は、ここからの変化で判断します。
術後の所見が異常かどうかは、教科書的な正常値よりも、その方の術前・術直後からどう変化したかで判断するほうが確実です。とくに人工弁や右心の指標は、一般的な正常値と比べると異常に見えても、その方にとっては想定内ということが少なくありません。
1. 左室:LVEFと、壁運動異常の部位
まずLVEFを確認します。ただ、術後管理では数値そのものよりも、局所壁運動異常(asynergy)がどの壁にあるかのほうが使いやすい情報です。CABG後であれば、グラフト閉塞が起きたときにどの壁の動きが落ちるか、その比較の基準になります。心電図変化とあわせて新しい壁運動異常が出たときに、虚血を疑う根拠にできます。
ひとつ注意しておきたいのが、LVEFが負荷依存の指標であるという点です。カテコラミンが投与され、末梢血管抵抗が下がっている術直後のLVEFは、本来の収縮能より高めに出ることが多いとされています。術前のLVEFと薬剤の投与量をあわせて確認しておきましょう。
2. 左室の大きさ・壁厚・拡張能:輸液への反応を予測する
LVDd/LVDs、壁厚、E/e’、左房容積係数。目立たない項目ですが、輸液に対してどのように反応しやすいかを考える材料になります。
| レポートの所見 | 術後に起こりやすいこと | 初期対応の方向 |
|---|---|---|
| 求心性肥大+小さい左室 (AS術後・高齢の方に多い) |
前負荷依存。少量の出血、利尿、PEEP上昇で血圧が下がりやすい | まず容量を確保する。血管拡張薬や深い鎮静は慎重に |
| 拡大した左室・E/e’高値 | 容量負荷に弱い。輸液でうっ血・肺水腫に傾きやすい | 少量ずつ反応を見ながら。早めに強心薬を検討する |
3. 右心:術後の変化が読み取りにくい部分
TAPSE、S’、FAC、右室径とRV/LV比、三尖弁逆流の最高流速から推定した右室収縮期圧、そしてIVC。
術前から右心機能が低下している方や肺高血圧のある方では、術後の低酸素・高CO₂・アシドーシス・高いPEEPをきっかけに、右心不全に至ることがあります。左心の破綻と比べて聴診や胸部X線での変化が乏しく、CVPの上昇だけが先行することも少なくありません。
開心術後は、心膜切開の影響で TAPSE や S’(長軸方向の指標)が、右室機能そのものは低下していなくても下がることが知られています。術後のTAPSE単独で右心不全と判断すると、対応の方向を見誤ることがあります。
術前値と比較したうえで、FACや右室の形態、中隔の動き、CVPやIVCの所見とあわせて判断します。ASEの右心評価ガイドライン(2025)でも、右心は単一の指標ではなく複数の指標で評価することが推奨されています。
4. 弁:人工弁は、正常に機能していても圧較差があります
確認するのは、弁の種類(機械弁/生体弁/形成)とサイズ、平均圧較差、最大流速、有効弁口面積(EOA)、DVI(ドプラ速度指数)です。
押さえておきたいのは、術直後のこれらの数値が、その後の経過を判断するときの基準値になるという点です。人工弁は正常に機能していても圧較差が生じます。数年後に他院の救急外来で平均圧較差18mmHgと言われたとき、術直後が16mmHgだったのか8mmHgだったのかで解釈が変わります。退院サマリに残しておきたい項目です。
そのうえで、術後に確認したい3つ
-
弁周囲逆流(paravalvular leak)の新規出現・増悪
溶血、感染性心内膜炎、縫合部の離開を示唆する所見です。LDH、遊離ヘモグロビン、網赤血球、ハプトグロビンとあわせて確認すると解釈しやすくなります。
-
AVR後のPPM(患者-人工弁ミスマッチ)
EOA index が0.85以下で中等度、0.65以下で高度とされています。弁のサイズに対して体格が大きい場合、手術自体に問題がなくても術後に圧較差が残り、左室肥大の退縮が進みにくいことがあります。息切れが改善しない理由がここにある場合もあります。
-
僧帽弁形成後のSAM/左室流出路狭窄
次に述べるとおり、対応の方向が通常と逆になります。レポートに「SAMあり」「LVOT PG ○mmHg」の記載がないか、確認しておきましょう。
僧帽弁形成後にSAMを認める方で血圧が下がったとき、輸液を絞ってドブタミンを追加するという対応をとりたくなる場面があります。ただ、SAMではこの対応で狭窄が強くなることが知られています。
流出路が狭くなっている状態で前負荷を減らし、収縮力と心拍数を上げると、閉塞はさらに進みます。原則としては、輸液負荷、β遮断薬による徐脈化、血管収縮薬(フェニレフリンなど)を選択します。
5. 周辺の構造:心嚢液は「量」と「局在」を確認する
心嚢液(量と局在)、胸水、上行大動脈径とアテローム、シャント(PFO)、心内血栓、IVC径。省略されやすい項目ですが、術後の急変に関わる部分です。
術後のタンポナーデは、心尖部からの観察で全周性の心嚢液がほとんど見えない状態でも成立します。右房や右室自由壁の背側にできた局所の血腫が、その部分だけを圧迫するためです。経胸壁で心嚢液を認めないことは、除外の根拠にはなりません。
CVPの上昇、尿量低下、脈圧の低下、頻脈、そしてドレーン排液の急な減少がそろう場合は、経食道心エコーやCTを早めに検討します。
6. 読み取った内容を、1文にまとめて申し送る
ここまで確認したら、最後にひと手間だけ加えます。読み取った内容を、次の形の1文にまとめてみてください。
- 「この方はLVEF○%で、左室は(拡大/小さめ)です。右心機能は(保たれています/低下しています)。人工弁の平均圧較差は○mmHgです。
血圧が下がるとすれば、(前負荷不足/後負荷/右心不全/タンポナーデ/虚血)が考えやすいです」
この1文を申し送りに入れておくと、夜間に血圧が下がったときに、その場にいるメンバーが同じ前提で対応を考えられます。術後に起こる変化の多くは、レポートの段階である程度まで予測できるものです。予測を共有しておくことが、初期対応の速さにつながります。
7. レポートは、撮影した時点の情報です
レポートを読めるようになっても、それは撮影した時点の情報です。急変の場面で必要になるのは、その時点の心臓の状態になります。
- ベースラインの数値(人工弁の平均圧較差、TAPSE、LVEF、平時のCVP)を、数値のまま申し送っておく
- 自分でPOCUS(FoCUS)を行えるようにしておく。傍胸骨長軸・短軸/心尖部四腔/剣状下/IVC、あわせて肺エコー(Bライン・肺スライディング)まで
- 術後は創部・ドレーン・皮下気腫の影響で画質が得られにくいことを前提に、剣状下アプローチを優先し、描出が難しければ経食道心エコーへ切り替える
- レポートは検査結果としてではなく、術後に起こりうる変化を予測する材料として読む。術前・術中TEE・術直後の3枚をあわせて確認する
- 左室はLVEFの数値だけでなく、どの壁の動きが落ちているかを確認する。LVEFは負荷依存で、術直後は高めに出ることが多い
- 左室の大きさ・壁厚・拡張能から、輸液への反応をある程度予測できる
- 開心術後のTAPSE低下は心膜切開の影響のことがあり、単独では右心不全と判断しない
- 人工弁は正常に機能していても圧較差がある。術直後の数値が、その後の基準値になる
- 僧帽弁形成後のSAMでは、輸液制限とβ刺激薬で悪化する。原則は輸液負荷・β遮断・血管収縮薬
- 術後のタンポナーデは局所の血腫でも成立する。全周性の心嚢液がないことは、除外の根拠にならない
- 読み取った内容は1文にまとめて申し送り、予測をチームで共有しておく
- Lang RM, et al. Recommendations for cardiac chamber quantification by echocardiography in adults: an update from the ASE and the EACVI. J Am Soc Echocardiogr. 2015;28(1):1-39. doi:10.1016/j.echo.2014.10.003
- Zoghbi WA, et al. Guidelines for the Evaluation of Prosthetic Valve Function With Cardiovascular Imaging: A Report From the American Society of Echocardiography. J Am Soc Echocardiogr. 2024;37(1):2-63. doi:10.1016/j.echo.2023.10.004
- Mukherjee M, et al. Guidelines for the Echocardiographic Assessment of the Right Heart in Adults and Special Considerations in Pulmonary Hypertension. J Am Soc Echocardiogr. 2025;38(3):141-186. doi:10.1016/j.echo.2025.01.006
- Monaco F, et al. Management of Challenging Cardiopulmonary Bypass Separation. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2020;34(6):1622-1635. doi:10.1053/j.jvca.2020.02.038





