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今回のテーマは、閉塞性ショックの中でも心タンポナーデを正しく診断し、治療(心嚢穿刺)ができるようになることです。心嚢穿刺は頻度の高い手技ではありません。だからこそ、いざという時に慌てないよう、「頭で理解しておく」ことが大切です。
- 心タンポナーデの病態と診断のポイントを理解する
- 心嚢穿刺の適応・手順・合併症を説明できるようになる
1. 外傷のショック ― 閉塞性ショックの位置づけ
外傷におけるショックの約90%は出血性ショックです。ただし閉塞性ショックの2つの原因である緊張性気胸と心タンポナーデは、出血性ショックとは治療がまったく異なるため、必ず区別して覚えておく必要があります(緊張性気胸は以前のセミナーで学習済み。今回は心タンポナーデにフォーカスします)。
2. 心タンポナーデの病態
心嚢内に貯留した液体または空気によって心臓の拡張が拘束され、静脈灌流(前負荷)が妨げられることで循環障害が生じます。心室が十分に充満できないことが本態です。
外傷では60〜100mL程度の少量でも心タンポナーデになりえます。エコーやCTで「あまり溜まっていない」と見えても、急性に貯留すれば発症します。逆に慢性的に500mL貯留していても、心臓が慣れていれば血圧は下がらないことがあります。少ないからといって安心してはいけません。
3. 診断① 身体所見 ― ベックの三徴
心拍出量の低下による
心嚢液により心音が遠くなる
静脈灌流の障害を反映
三徴が揃わないことも多く、どれか1つでもあれば心タンポナーデを疑うべきです。エコーが普及した日本のER・外傷診療では、「血圧が低い+心嚢液貯留」があれば心タンポナーデとして対応すると考えてよいでしょう。
4. 診断② エコー(FAST)でのポイント
- 心嚢液の貯留 ― FASTの心窩部アプローチで評価する
- 右房の収縮期虚脱 ― 長軸像で見た虚脱は感度が高い
- 拡張期の虚脱 ― 循環が破綻するサイン
- IVC(下大静脈)の拡張・呼吸性変動の消失 ― 閉塞性ショックらしさ
出血性ショックではIVCは虚脱することが多いのに対し、IVCが張っている場合は心原性または閉塞性ショックを疑います。心窩部からのアプローチが基本ですが、見えにくい時は傍胸骨などいろいろなウィンドウから当てて、心臓を細かく評価しましょう。
5. 心嚢穿刺 ― 準備
目的は心嚢内の液体を排除して閉塞を解除すること。エコーで診断したら穿刺に進みます。禁忌は基本的にないと考えてよいです。
- 消毒薬、長い留置針、シリンジ、ドレープ
- 心電図モニター ― 針が心筋に触れるとPVCが出るため、モニタリングしながら進める
- 除細動器・抗不整脈薬 ― 不整脈が出た場合に備えて準備
- エコー ― 穿刺をモニタリングしながら行う方法もある
6. 心嚢穿刺 ― 手技の実際
剣状突起の下(またはやや左)から、左肩前方(烏口突起)を目指して穿刺する。
皮膚に対して45度、正中から左へ45度振る。陰圧をかけながらまっすぐ進める。
ドレープで烏口突起は見えないため、角度を決めたらドレープの上から肩を触れて方向を意識する。深さの目安を持っておかないと、深く行きすぎて心筋を貫くリスクがある。
液体が引けたらショックの解除を確認。改善が見られたらドレナージチューブを留置する。
刺入点が尾側にずれると、針が腹腔内を通って肝臓などを損傷するリスクがあります。剣状突起のすぐ下から、なるべく頭側に向かうことを意識しましょう。
拍動が伝わるのは針が心筋に達しているサインです。深すぎるので少し引きます。誤って心腔内に入っても血液は引けてくるため、深さの感覚を持っておくことが重要です。
より正確に行うコツ:可能であれば清潔プローブを使う、またはドレープの下から同僚にエコーを当ててもらい、針が心臓に達するかをリアルタイムで確認しながら刺すと安全性が高まります(エコーがなくても手技自体は可能です)。
7. 合併症と穿刺後の評価
| 主な合併症 | 対応・注意点 |
|---|---|
| 不整脈(PVCなど) | 心電図モニター必須。除細動器・抗不整脈薬を準備 |
| 心筋損傷 | 拍動が伝わったら深すぎる → 少し引く |
| 気胸・血管損傷 | 穿刺の角度・深さを守る |
| 肝損傷 | 刺入点が尾側に寄りすぎない |
| タンポナーデの増強 | 抜針時にも起こりうる。モニタリング必須 |
- ベックの三徴が改善しているか、ショックから離脱しているか
- 正常なバイタルになるまで吸引しきる必要はない ― 目的はショックの解除
- 改善が見られたらドレナージチューブを留置
- 改善が乏しければ心膜開窓(剣状突起下から外科的にアプローチ)や開胸へ。まずは専門家につなぐことが大事
8. 穿刺がうまくいかない時
- 穿刺法の問題 ― 角度や刺入点が適切か見直す
- 針の閉塞 ― 刺し直す、水を通してみる
- 体位 ― バイタルが許せば上半身を挙上すると心嚢液が下方に溜まり穿刺しやすくなる(ショックでは仰臥位のまま動かせないことが多い)
- 外科的治療への移行 ― 到達できずタンポナーデが進行するなら、開胸や心膜開窓へ切り替える
心嚢穿刺はとても大事なスキルですが、うまくいかない時に固執せず、外科的治療への移行・専門家へつなぐ判断も同じくらい重要です。
まとめ
- 外傷のショックの90%は出血性。ただし閉塞性ショック(緊張性気胸・心タンポナーデ)は治療が別
- 心タンポナーデは「量」ではなく「急性の圧」。外傷では60〜100mLでも発症する
- ベックの三徴が揃うのは約3割。「血圧低下+心嚢液」で疑って対応する
- 穿刺は剣状突起下から左肩方向へ、45度・45度、深さ4〜6cm、陰圧をかけながら
- 拍動が伝わったら深すぎる → 少し引く。モニタリングは必須
- 目的はショックの解除。吸引しきる必要はなく、改善したらドレナージ留置・専門家へ





