外傷のFASTから、ショックを鑑別する心エコー(FOCUS)まで。実際の症例エコーを見ながら整理した回のアーカイブです。
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※ Qラボ会員限定のアーカイブです。
6月はショックの各論を扱ってきましたが、その締めくくりとして取り上げたのが「エコー」です。ベッドサイドでリアルタイムに観察でき、診断から治療方針までつながる検査として、ショック診療で活きる場面が多いと感じています。
前半は外傷のFAST、後半はショックを鑑別する心エコー(FOCUS)。今回は臨床検査技師の方にもご協力いただき、実際のショック・意識障害の症例エコーを9例、一緒に読み解きました。
前半|外傷を診る、FAST と eFAST
外傷診療のゴールは「防ぎ得た外傷死を回避すること」。受傷から時間が経つほど、凝固障害・低体温・アシドーシスという“死の三徴”が揃ってしまうので、それが揃う前にどれだけ早く出血源を捉えられるかが勝負になります。ABCDアプローチの中でも、外傷では出血性ショックが致死的病態の9割。だからこそ循環(C)の評価でエコーが活きてきます。
FAST:腹腔内出血を見る4点
- ① 心窩部:心嚢液の貯留がないか(→ 心タンポナーデ)
- ② 肝腎境界(モリソン窩):肝臓まわりのエコーフリースペース
- ③ 脾腎境界:脾臓まわりの液体貯留。やや背側を意識して当てる
- ④ 膀胱周囲(ダグラス窩):縦切り・横切りの両方で確認
これに胸腔の観察を足したのが eFAST。気胸は前胸部・鎖骨中線の第2〜4肋間を当てて、Bモードのラングスライディング、Mモードのシーショアサインを見ます。気胸ではスライディングが消え、Mモードはバーコードサインに。押さえておきたいポイントです。
わずかな液体貯留でも油断しない
FASTでモリソン窩などにうっすら液体が見えたとき、最低どのくらい出血しているか。実は 約668mL あるとされています。わずかな黒い帯に見えても、すでにまとまった出血があると考えて動く。胸水でも同様で、エコーで見える液体貯留は想像より多いことが少なくありません。
FASTは特異度は高いですが、描出が難しい症例では腹水を見逃すことがあります。陰性でも除外はできない。繰り返し当て直す、CTにつなぐ、という判断を常に持っておきましょう。逆に陽性だと思った瞬間にギアを上げる──太い末梢ルート、Aライン、輸血の準備、CTの優先度アップ。バイタルが保たれていても、急変に備えた動きに切り替えます。
後半|ショックを鑑別する心エコー(FOCUS)
救急で出会うショックは、やはり心臓に急性の問題が起きているケースが多い。そこで使うのが FOCUS(Focused Cardiac Ultrasound) です。検査室でくまなく評価する「フルスタディ」とは役割が違います。FOCUSは検査室の外=救急外来でやる、短時間のスクリーニング。きれいな画像に固執せず、立ち止まらずに「今この瞬間の血行動態の破綻=ショックの原因は何か」を捉えにいきます。
Basic FOCUS:3か所・主要5断面でまず見る
- 心窩部から下大静脈(IVC):虚脱しているか・張っているか
- 傍胸骨:左室長軸像/短軸像(短軸では壁の動き=アシナジーを確認)
- 心尖部:四腔像で右室・左室のバランスを評価
見る項目はシンプルに ―― 心膜液の有無、右室と左室のバランス、左室の収縮(Visual EF)、IVCの虚脱・拡大。
ここにカラードプラと、二腔像・三腔像などの断面を足したのが Advanced FOCUS。局所の壁運動異常(アシナジー)、弁膜症やシャント、異常構造物などを拾いにいきます。コツのひとつは、短軸像で気になる壁を手で隠して、他の壁と動き(厚みの増し方)を比べること(臨床検査技師の方に教わった方法です)。局所の動きの差が見やすくなります。Visual EFは当てた印象を10%刻みで見積もって、あとで返ってくるフルスタディの数値とどれだけズレるか──これを繰り返すと精度が上がっていきます。
症例ハイライト|9つのエコーを読む
後半は、実際のショック・意識障害の症例を一緒に読みました。バイタルとエコーから「何を疑い、次にどう動くか」。詳細は動画をご覧ください。以下は要点のみ。
心タンポナーデ(閉塞性ショック)
IVC拡大+大量の心膜液。右室が拡張期にペコペコ凹む=コラプス。脈圧が小さい点もヒントに。
左主幹部病変(“セブンイレブン”LMT)
収縮が広く低下し、7時〜11時方向しか動かない。PCI+IMPELLA留置後の画像も。心原性ショックは介入が一段変わる。
心室中隔穿孔(VSP)
左室の中隔が断裂し、左室→右室へシャント血流。MI後の機械的合併症のひとつ。自由壁破裂や乳頭筋断裂も鑑別。
左室内血栓 → 塞栓源
壁運動が悪く血流がうっ滞、可動性のある血栓が。飛べば脳塞栓に。エコーが意識障害の原因に迫ることもある。
急性大動脈解離(AR合併)
大動脈弁とは別の線状エコー=フラップ。ARがしっかり吹くときは解離区・心嚢液まで見にいく。脈圧・左右差も合わせて。
Stanford B 型解離(ロイス・ディーツ症候群)
下行大動脈に線状エコー、カラーが一部にしか乗らない。若くても家族歴があれば“らしさ”が上がる。違和感→造影CTへ。
胸部下行大動脈瘤
左房を圧排するほど拡大した下行大動脈。偶発的に見つかることも。未然に拾えれば突然死を防げる。
肺塞栓症(マッコネルサイン)
右室が左室と同じ大きさに拡大、左室は圧排されて扁平化(Dシェイプ)。短軸のペコペコが“らしさ”を高める。
感染性心内膜炎(IE)
初日はMAC(弁の石灰化)と区別がつきにくいが、2日後の経食道で巨大な疣腫がくっきり。閾値をどこに置くかが問われる。
*さらに大動脈弁置換後のIE(弁輪部膿瘍合併)の症例も。経胸壁で見えにくいときは経食道へ。
まとめ|エコーは「次の一手」を変える
FASTにしてもショックの心エコーにしても、「CTを撮れば分かるじゃないか」という所見は確かにあります。それでもエコーを当てる意味は、CTに行く前のアクションが変わること。FASTが陽性、心嚢液+AR、右室拡大……こうした所見をベッドサイドで拾えると、専門家への相談やルート確保、手術室の調整といった動き出しが一段早くなります。
正常像を見慣れておくほど、わずかな違和感を拾えるようになります。今回の9例を日々の診療の引き出しに加えていただければ幸いです。次回7月は心原性ショックをもう少し掘り下げ、IMPELLA・ECMOといった補助循環のあたりまで取り上げられればと考えています。ご参加・ご視聴いただき、ありがとうございました。





