「当院のMTPの開始基準は、出血性ショックの外傷でフィブリノゲン<190mg/dL、D-ダイマー>38µg/mL、頭蓋内出血や肺挫傷、骨盤骨折の疑いなどを1つ以上認めたときに考慮、となっています。フィブリノゲンは初療室で血ガスとほぼ同時に出ます。皆さんのご施設の基準はどうなっていますか?」
とても良い質問をありがとうございます◎
ご施設のように「検査値+損傷部位」で発動を考慮する基準はとても理にかなっています。一方で、「採血結果が出るより前に、バイタルと現場情報だけでMTPを回し始めたい」という場面も外傷ではよくありますよね。実は、その“発動の引き金”を客観化するためのスコアリングがいくつも研究されています。
今回はその代表格を、過去のQラボ記事ともつなげながら整理してみました💪
1. そもそも、なぜ「スコア」で発動するのか
外傷の出血性ショックでは、初療医ひとりの主観でMTPの発動が決まりがちです。
早すぎれば血液製剤を無駄にし、遅すぎれば「外傷死の三徴(アシドーシス・低体温・凝固障害)」が完成してしまう。この“発動が遅れると一気に手遅れになる”という性質こそ、客観的な引き金=スコアが求められる理由です。
スコアは大きく2タイプに分かれます。ご施設の基準は ① に近い形です。
| タイプ | 特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| ① 検査値あり | Hb・BE・乳酸など採血を含む。精度は高いが、結果が出るまで時間がかかる | TASH スコア (+ご施設のFib/Dダイマー基準) |
| ② 検査値なし | バイタル・身体所見・FASTのみ。来院直後〜病院前で即計算できる | ABC スコア / Shock Index |
2. 代表的な3スコアを一覧で比較
| スコア | 使う項目 | 発動の目安(カットオフ) | 感度 / 特異度 | 長所・短所 |
|---|---|---|---|---|
| ABC スコア 採血不要 |
4項目を各1点 ・穿通性外傷 ・FAST陽性 ・収縮期血圧 ≤90 ・心拍数 ≥120 |
2点以上でMTP発動を考慮 | 感度 75%/特異度 86% (≥2点) |
計算が一瞬。病院前でも使える/重み付けがなく精度はTASHにやや劣る |
| TASH スコア 採血あり |
7項目を重み付け (収縮期血圧・Hb・FAST・骨盤/長管骨骨折・心拍数・BE・性別) 0〜28点 |
≥16点でMT確率>50% ≥27点でほぼ100% |
AUC 0.72–0.82 (特異度が高い) |
3スコア中もっとも識別能が高い/項目が多く、Hb・BEの結果待ちが要る |
| Shock Index 即計算 |
心拍数 ÷ 収縮期血圧 の1指標のみ |
≥1.0を危険域として警戒 | 感度 0.68/特異度 0.84 AUC 0.85† |
暗算で出せる最速の指標/単独では大量輸血の確定に弱い |
† 35研究・約67万人を統合したメタアナリシス(Carsetti 2023)での大量輸血予測の統合値。
ABC=「速さ重視のふるい分け」、TASH=「精度重視の確認」と覚えると使い分けが整理できます。来院直後はABC/SIで当たりをつけ、採血が返ってきたらTASHやご施設のFib基準で裏取りする、という二段構えが現実的です。
3. ABCスコア ― 採血を待たずに回す
もっともシンプルで、救急隊からの情報+来院時のひと目で完結するのが強みです。4項目すべて「あり=1点/なし=0点」、重み付けはありません。
| 項目 | 該当すれば |
|---|---|
| 穿通性の受傷機転 | +1点 |
| FAST 陽性(腹腔内液体貯留) | +1点 |
| 来院時 収縮期血圧 ≤ 90 mmHg | +1点 |
| 来院時 心拍数 ≥ 120 bpm | +1点 |
合計2点以上で大量輸血の可能性が高い = MTP発動を考慮。採血結果を一切待たずに判断できるため、「とりあえず血を回し始める」初動の根拠として使い勝手が良いスコアです。
4. TASHスコア ― 精度で勝負する
ドイツ外傷登録(約17,200例)から導かれた7項目・重み付けスコアで、3スコアの中で識別能がもっとも高いとされます。ご施設のFib・Dダイマー基準と同じく「検査値を組み込む」発想で、Hbやbase excessが効いてくるのが特徴です。
| 項目 | 配点 |
|---|---|
| 収縮期血圧 | <100 → 4点 / <120 → 1点 |
| ヘモグロビン (Hb) | <7 → 8点 … <9 → 6点 … <10 → 4点 … <11 → 3点 … <12 → 2点 |
| FAST(腹腔内液体貯留) | 3点 |
| 複雑な長管骨/骨盤骨折 | AIS 3–4 → 3点 / AIS 5 → 6点 |
| 心拍数 >120 | 2点 |
| Base Excess | <−10 → 4点 / <−6 → 3点 / <−2 → 1点 |
| 性別(男性) | 1点 |
16点以上で大量輸血の確率 >50%、27点以上でほぼ100%。高得点ほど「迷わず全力でいくべき」サインです。骨盤骨折・低Hb・強い代謝性アシドーシス(BE低値)が重なると一気に点が伸びる構造になっています。
5. 過去のQラボでは
スコアはあくまで「いつ蛇口をひねるか」を決める引き金です。実際に回し始めたあとの中身は、6月のアーカイブセミナー その1(外傷ショック)でじっくり扱った内容そのものですね。あわせて振り返ると、診療の流れが一本につながります◎
- 出血源の見つけ方とピットフォール(FASTはABC・TASH両方の鍵)
- 外傷死の三徴(アシドーシス・低体温・凝固障害)を”揃えさせない”動き方
- permissive hypotension(許容的低血圧)の考え方
- 大量輸血プロトコル(MTP)・トラネキサム酸(TXA)
- カルシウム補正と体温管理
つまり スコアで発動 → permissive hypotension を意識しつつ MTP・TXA → Ca と体温で三徴を断つ、という流れ。
今日のスコアの話は、この入口の部分を客観化するピースだと捉えてもらえると◎
① 採血を待てない初動は ABCスコア(≥2点)/Shock Index(≥1.0) でふるい分け。
② 採血が返ってきたら TASH(≥16点) やご施設の Fib・Dダイマー基準 で裏取り。
③ どのスコアも”完璧”ではないので、最終的には臨床的ゲシュタルト+トレンドで。スコアは背中を押す道具として使うのがちょうどいい温度感です。
ご施設では「採血値で発動」派ですか?それとも「バイタルや病歴で先行で発動」派ですか?
引用文献
- Nunez TE, Voskresensky IV, Dossett LA, et al. Early prediction of massive transfusion in trauma: simple as ABC (assessment of blood consumption)? J Trauma. 2009;66(2):346–352. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19204506
- Yücel N, Lefering R, Maegele M, et al. Trauma Associated Severe Hemorrhage (TASH)-Score: probability of mass transfusion as surrogate for life threatening hemorrhage after multiple trauma. J Trauma. 2006;60(6):1228–1236. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16766965
- Carsetti A, Antolini R, Casarotta E, et al. Shock index as predictor of massive transfusion and mortality in patients with trauma: a systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2023;27(1):85. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9985849
※ 本資料はQラボ内での学習・議論用のまとめです。記載のカットオフ値・性能指標は原著および統合解析の代表値であり、実際の運用は各施設のプロトコルと最新ガイドラインに従ってください。





