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重症度の高い肺塞栓の閉塞性ショックと出会った時、どう対応すればいい?

先日の当直明けに、ショックバイタルでPEを疑う患者さんをCT室まで運ぶのが怖い、という話題になりました。確定診断はCTPAなのに、その確定を取りに行くための移動がいちばん危ないという、よくあるジレンマですよね。では、どこまで分かった段階で治療に踏み切ればよいのでしょうか。

血行動態が破綻している急性肺血栓塞栓症(PE)は、文字どおり数分を争う病態です。

 

診断の教科書的なゴールドスタンダードは造影CT(CTPA)とされていますが、昇圧薬を全開にしても血圧が保てないような患者さんを、モニターごとCT室まで運ぶのは、正直なところかなり勇気がいりますよね。

そこで近年のガイドラインやレビューが一貫して示しているのが、ベッドサイドの心エコーで右心負荷を確認し、PEらしいと判断できた段階で、確定を待たずに抗凝固(ヘパリン)を開始してよい、という考え方です。

今回は2025年に出たレビュー(Guarnieri ら, Int J Cardiol)を軸にして、CTの前に動き出すための初期対応の流れを整理してみたいと思います。


高リスクPEとは何か ── 血行動態不安定の3つの型

この流れが当てはまるのは、高リスク(massive)PE、つまり血行動態が不安定な患者さんに対してです。

ここでいう不安定とは、なんとなくショックらしく見えるという印象的なものではなく、ガイドライン上は次の3つのいずれかとして明確に定義されています。

💡 血行動態不安定 = 高リスクPE の3つの型

定義のイメージ
① 心停止 蘇生を要する状態
② 閉塞性ショック 収縮期血圧が90mmHg未満、または昇圧薬を要し、かつ末梢低灌流(意識低下・冷感・乏尿・乳酸上昇)を伴う
③ 持続性低血圧 収縮期血圧が90mmHg未満、または15分以上続く40mmHg以上の低下(不整脈・脱水・敗血症などで説明できないもの)

逆に言えば、ここに当てはまらない、つまり血圧が保たれている患者さんは、高リスクではなく中等リスク以下に分類されます。その場合は落ち着いてCTPAを撮影し、リスクを層別化してから治療方針を決めるという、通常のルートに乗せていきます。

この記事で扱うエコー先行の流れは、あくまで血行動態が不安定な場合に限った話ですので、ここを混同しないことが大切な第一歩になりますね。


フローチャートの肝

今回いちばんお伝えしたいのが、この流れです。大事なところは2つあります。ひとつは、抗凝固を疑ったその場で始めてしまうこと、もうひとつは、不安定でCTに行けないのであれば心エコーが確定診断の代わりになってくれること、この2点になります。

🫀 重症(高リスク)PE 初期対応フロー
血行動態が不安定 + PEを疑う
★ Point その1
この時点で、ただちに抗凝固を開始
ヘパリンを静注します。出血の絶対禁忌がなければ、確定診断を待ちません
CTPAをすぐに安全に撮れる状態?
はい(搬送できる)
CTPAで確定します
高リスクPEとして治療へ進みます
いいえ(不安定で運べない)
★ Point その2
ベッドサイド心エコー
POCUSを行います
右室負荷の所見はありますか?
所見なし → 別のショックの原因を探します(心タンポナーデ・大動脈解離・緊張性気胸など)
所見あり → 高リスクPEに準じて治療します(CTを待たずに踏み切ります)
再灌流療法へ
第一選択は全身性血栓溶解です。
禁忌や無効のときはカテーテル治療(CDT・血栓吸引)や外科的血栓摘除を検討します。
難治性ショックではVA-ECMOで橋渡しを行い、抗凝固は並行して継続します。

※ESC 2019ガイドラインの高リスクPE疑い時の診断アルゴリズムをもとに、2025年の総説(Guarnieri ら)の整理を反映して作図


エコーで当たりをつけるには?

右室負荷の所見と一口に言っても、実際に何を見れば治療に踏み切れるのか、迷うところですよね。重症PEでは、急に詰まった肺動脈のせいで右室が急性に圧負荷を受けて、パンパンに張ってきます。ベッドサイドで比較的拾いやすいサインを挙げておきたいと思います。

📋 急性右室負荷を示唆するエコー所見

  • 右室拡大:心尖部四腔像で右室と左室の径比が1.0を超える(右室が左室と同じか、それより大きく見える)
  • D-shape:圧負荷を受けた右室に押されて、左室が短軸でD字状に見える
  • McConnell徴候:右室自由壁は無収縮なのに、心尖部だけは動いている(急性PEに比較的特異的とされる)
  • 60/60徴候:肺動脈加速時間が60ms未満で、かつ三尖弁圧較差が60mmHg未満
  • TAPSEの低下:右室収縮の指標が低下している
  • 右房・右室内の可動性血栓:これが見えれば、ほぼ決まりと考えてよい

ここで大事なのは、エコーはPEを確定させるために使うのではなく、いま起きている血行動態の破綻がPEで説明して矛盾しないかどうかを確かめるために使う、という割り切りです。

 

右心負荷がはっきりとあって、なおかつ他のショックの原因、たとえば心タンポナーデや大動脈解離、気胸などが否定的であれば、それが治療に踏み切る十分な根拠になります。逆に、これだけ不安定なのに右室がまったくきれいに見えるのであれば、その血圧低下はPEが原因ではない可能性が高いと考えられます。

これもまた、不要な再灌流療法を避けるうえで同じくらい大切な情報になるんですよね。


なぜ疑った時点で抗凝固を始めるのか

先ほどのフローの肝のひとつ目、確定を待たずにヘパリンを始めるという点について、もう少しだけ補足させてください。

📊 抗凝固を先行させる理由

  • PEの臨床的可能性が中等度から高度であれば、検査結果を待っているあいだにもヘパリンを開始してよい、というのがガイドラインの推奨です
  • 高リスクや不安定の例では、半減期が短く調節しやすい未分画ヘパリン(UFH)の静注が基本になります(体重換算のボーラスに続けて持続投与します)※海外
  • 血栓溶解や外科的処置へ切り替える可能性があるため、効果を素早くオン・オフできるUFHが扱いやすいのです
  • もちろん前提となるのは、出血の絶対禁忌がないことです。ここはあくまで個別の判断になります

確定してから動くのでは間に合わない、という感覚は、急性期の現場の肌感覚にもよく合いますよね。詰まっているあいだも血栓は育っていきますので、疑った瞬間にその進展を止めにいくという考え方が、この流れ全体の背骨になっています。


右室負荷を確認したら、再灌流まで一気に進む

エコーで右室負荷を確認できたら、抗凝固だけで粘っているフェーズではありません。高リスクPEは、再灌流療法のはっきりとした適応になります。

✅ 再灌流のステップ

  • 第一選択は全身性血栓溶解です(アルテプラーゼなど)。最も速く、どの施設でも実施できます
  • 血栓溶解が禁忌、あるいは無効のときは、カテーテル治療(カテーテル直接血栓溶解CDT、機械的血栓吸引)や外科的血栓摘除を検討します
  • 難治性ショックや心停止のときは、VA-ECMOで循環を支えながら、確定的な治療へとつなぎます
  • これらと並行して、抗凝固はそのまま継続します

施設によって、すぐに切れる手札、たとえばカテーテル治療ができるのか、ECMOを回せるのかといった条件は大きく異なります。だからこそ、自分の施設ではどこまでをこの流れの中で完結でき、どこからが転送や応援要請になるのかを、平時のうちに決めておくことが効いてくるのだと思います。


どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

重症PEの初期対応は、CTを取りに行くべきか、それともその前に踏み切るべきかで、いつも一瞬迷ってしまう領域だと思います。けれども、不安定であれば枕元のエコーが確定診断の代わりになってくれること、そして疑った段階で抗凝固を始めてよいこと、この2つを腹に落としておくだけで、最初の数分間の動き方はかなり変わってくるはずです。

皆さんの施設では、高リスクPEを疑ったとき、どこまでをベッドサイドで判断して踏み切っていますか。UFHを流すタイミングや、ECMOを回す閾値など、現場での工夫があれば、ぜひオープンチャットやマシュマロで教えてくださいね。

 

参考文献

  • Guarnieri G, et al. Contemporary management of acute pulmonary embolism. Int J Cardiol. 2025;436:133422. DOI: 10.1016/j.ijcard.2025.133422
  • Sifuentes AA, et al. Mechanical Circulatory Support and Critical Care Management of High-Risk Acute Pulmonary Embolism. Card Electrophysiol Clin. 2025;17(3):311-326. DOI: 10.1016/j.ccep.2024.12.008
  • Roy PM, et al. Risk stratification of acute pulmonary embolism. Presse Med. 2024;53(3):104243. DOI: 10.1016/j.lpm.2024.104243
  • Konstantinides SV, et al. 2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of acute pulmonary embolism. Eur Heart J. 2020;41(4):543-603.(フローチャートの原典です)