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📚 目次(クリックで該当箇所へジャンプ)
【導入】
【まずVC/PCのおさらい】
【酸素化に関する設定】
【換気に関する設定】
【流量・トリガー・吸気時間】
【まとめ】
0:00第3回テーマ:人工呼吸の初期設定を学ぼう
2026年5月のQラボ第3回アーカイブセミナーは、「人工呼吸の初期設定を学ぼう」というテーマでお話ししました。
前回はグラフィック波形そのものを読み解くお話でした。今回はその一歩先──実際に自分で人工呼吸器を立ち上げるところに踏み込んでいきます。
💡 なぜ”初期設定”が大事なのか
どれだけ人工呼吸器の知識があっても、いざ気管挿管直後に自分で初期設定を組めないと、管理は始まりません。設定後の微調整はもちろん大切ですが、まずは”立ち上げ”を自分の手でやれるようになる──ここが大きな到達点です。今回の初期設定さえ押さえれば、あとは応用で他の設定にも自然と手が伸びるようになります。
0:56VCとPCで”何を設定するんだっけ?”
まずは前回の復習から。VCV(ボリュームコントロール)とPCV(プレッシャーコントロール)、覚えていますか?
「ちょっと忘れちゃったな…」という方は、第2回の波形セミナーを先に見直すと、この回がぐっと入ってきやすくなります。
📊 VCVとPCV:何を固定するモードだったか
| モード | 固定するもの | 波形の特徴 |
|---|---|---|
| VCV | 1回換気量(流量) | フローが四角くフラット/圧はなだらかに上昇 |
| PCV | 吸気圧 | 圧が台形で頭打ち/フローは減速波 |
このモードの違いが、「初期設定で何を入力するか」に直結します。
1:49初期設定で決めるパラメータ全体像
モードが決まったら、いよいよ数値を入れていきます。共通項目と、モード固有の項目があります。
📋 初期設定で触る主なパラメータ
- 共通:FIO2(吸入酸素濃度)
- 共通:PEEP(呼気終末陽圧)
- 共通:呼吸回数
- VCV固有:1回換気量(これを決めると流量が自ずと規定される)
- VCV固有:吸気流量(どれぐらいのスピードで吸わせるか)
- PCV固有:吸気圧(最高気道内圧 − PEEP の差分)
- PCV固有:吸気時間(その圧をどれだけかけ続けるか)
🔑 ここから先の組み立てかた
この記事では、上のパラメータを「酸素化(FIO2 ・ PEEP)」「換気(1回換気量・呼吸回数)」「流量・トリガー・吸気時間」の3グループに分けて、ひとつずつ”いくつから始めて、どう調整するか”を整理していきます。
2:48FIO2は”必要最低限”が原則
FIO2は吸入酸素濃度のこと。「とりあえず100%でいいや」と置いてしまいたくなる気持ちは分かるんですが、これは原則NGです。
⚠️ 高濃度酸素が招く弊害
- 吸収性無気肺:純酸素に近いガスが肺胞に入ると、すぐに血中に取り込まれて肺胞がしぼむ
- 活性酸素による組織障害:高濃度酸素はARDS的な肺損傷を引き起こす可能性が報告されている
だからこそ、SpO2をモニターしながらFIO2を下げていくのが基本姿勢。「酸素化が許す範囲で、なるべく低く」を念頭に置いて設定します。
✅ FIO2の初期値の考えかた
- 気道確保メイン(肺は正常)→ 0.25〜0.4 から開始
- 低酸素血症あり(肺炎・肺水腫など)→ 0.5〜1.0 から開始し、SpO2を見て下げる
- 方針:酸素化が落ち着いたら、できるだけ早く下げる
3:45PEEPは肺胞を守る、ただし上げすぎは血圧を下げる
PEEP(呼気終末陽圧)は、呼気が終わった時にも一定の陽圧をかけ続けることで、肺胞がしぼまないようにする設定。肺の膨らみやすさを保つ、いいことずくめのようにも見えます。
⚠️ PEEPの上げすぎに注意
PEEPを高くしすぎると、胸腔内圧が上がって静脈灌流が減ります。結果として、心臓に戻ってくる血液が減り、血圧が下がることがあります。
“肺のため”と思って上げたPEEPが、循環の足を引っ張ることがある──ここがPEEP調整の難しさです。
📊 PEEPの初期値の目安
| 状況 | 初期PEEPの目安 |
|---|---|
| FIO2が低めで済みそう/血圧が気になる | 5 cmH2O から |
| FIO2が高めから始まる(酸素化が悪い) | 8 cmH2O から |
| 中等症〜重症ARDS | FIO2-PEEPテーブルに沿って段階的に上げる |
🔑 PEEPは”設定して終わり”じゃない
5〜8 から始めて、その後は「肺の膨らみやすさ/血圧/酸素化」の3点を見ながら、徐々に最適点を探していきます。最初の数字は出発点でしかない、と覚えておきましょう。
5:411回換気量は”理想体重×6〜8 mL”で
次は換気量。1回換気量×呼吸回数 = 分時換気量、というシンプルな掛け算で換気量が決まります。
ここで大事なのが、「実体重」ではなく「理想体重」で計算すること。肥満の方の実体重で換気量を決めてしまうと、肺のサイズに対して過剰換気になってしまうからです。
📊 理想体重(IBW)の計算式
| 性別 | 計算式 |
|---|---|
| 男性 | 50 + 0.91 ×(身長cm − 152.4) |
| 女性 | 45.5 + 0.91 ×(身長cm − 152.4) |
✅ 1回換気量の決め方
- 1回換気量 = 理想体重 × 6〜8 mL
- 例:理想体重 60 kg → 360〜480 mL
- ARDSなど肺保護換気が必要な場面では、6 mL/kg 寄りに設定
呼吸回数は、ここに掛け算して分時換気量を作る役割。ただし、回数を増やしすぎると呼気の時間が短くなるのがポイントです。
たとえば1分間に30回呼吸させるのと10回呼吸させるのとでは、1呼吸あたりの「吐く時間」が全く違います。喘息やCOPDのように吐ききれない病態では、回数を抑えて呼気時間を確保することが大事になってきます。
6:38挿管理由別:初期設定はこう変わる
ここまでの数値の話を踏まえて、いよいよ「なぜ挿管したのか」によって初期設定が変わるという核心に入ります。
📊 挿管理由 × 初期設定の方針
| 挿管理由 | 設定の方針 |
|---|---|
| 気道確保メイン(急性喉頭蓋炎など) | 肺は基本的に正常。ミニマム設定でOK(PEEP 5、FIO2 0.25〜0.4) |
| 肺炎・肺水腫 | VQミスマッチ+換気不全。分時換気量を増やす+酸素化の設定もしっかり |
| 喘息・COPD | 息が吐きにくい病態。呼吸回数を抑えて呼気時間を確保 |
| ARDS | 肺保護換気。1回換気量は6 mL/kg寄り+プラトー圧を抑えめに |
| 敗血症・発熱 | CO2産生が増える。分時換気量を多めに設定 |
💡 設定で迷ったら、いつもこの問いに戻る
「そもそも、何が原因でこの患者さんを挿管したんだっけ?」──ここに立ち戻るだけで、初期設定の方向性は8割決まります。
8:35吸気流量(VCV):1 L/理想体重から始める
ここからはVCVに特有の話です。VCVでは「どれぐらいのスピードで吸わせるか」=吸気流量を設定する必要があります。
吸気流量に時間を掛け算したものが、1回換気量になる──これが基本のロジックです。
✅ 吸気流量の初期値
- 初期値の目安:1 L / 理想体重(kg) あたり(L/min ベース)
- 例:理想体重 60 kg → 約 60 L/min から
- その後、患者さんの呼吸努力やフローの形を見て調整
9:29トリガー感度:ミストリガー/オートトリガーを避ける
トリガー感度は、「患者さんが息を吸おうとした”努力”を、人工呼吸器がどれぐらい鋭く感知するか」を決める設定。圧の変化で感知するか(圧トリガー)、流量の変化で感知するか(フロートリガー)の2種類があります。
ここがズレると、いわゆる非同調が起きます。
⚠️ 2つの非同調パターン
| パターン | 何が起きるか |
|---|---|
| ミストリガー(感度が鈍すぎる) | 患者さんが吸おうとしているのに、呼吸器が気づかず送気されない |
| オートトリガー(感度が鋭すぎる) | 体動やルートの揺れに反応してしまい、患者さんが吸う気がないのに勝手に送気される |
🔑 トリガー感度の調整は”波形を見て”
数値だけ眺めても感度の善し悪しは分かりません。フロー波形・圧波形を見ながら、ミストリガーやオートトリガーが起きていないかチェックしていきましょう。
10:00吸気時間(PCV):流量が”ゼロに戻る”ところまで
PCVに固有の話。吸気圧をどれぐらいの時間かけ続けるか──これが吸気時間の設定です。
ここで活きてくるのが前回学んだフロー波形のゼロ点。フロー波形が立ち上がってから減衰し、ゼロに到達したタイミングが「もう肺に入りきった」状態でしたよね。
⚠️ 吸気時間が短すぎ/長すぎだとどうなるか
- 短すぎる:フローがゼロに戻る前に呼気に転じる → まだ吸いたいのに息を奪われる感覚で患者さんがしんどい
- 長すぎる:フローがゼロになった後も吸気相が続く → 吐きたいのに吐けない時間が発生
✅ 吸気時間設定のコツ
- フロー波形を見て、立ち上がり→減衰→ゼロのところまでを吸気時間にする
- そこから少し短すぎる/長すぎると思ったら、波形を見ながら微調整
- 初期値は 1.0 秒前後(呼吸回数によって変わる)から始めることが多い
11:54まとめ:理由に立ち戻って、波形を見ながら微調整する
✨ 今日のポイント
- 初期設定が組めることが、人工呼吸管理の出発点
- 立ち上げを自分の手でやれるようになると、その後の管理が一気に立体的になる
- FIO2は”必要最低限”が原則
- 無気肺・活性酸素障害を避けるため、SpO2を見ながら下げていく
- PEEPは肺胞を守るが、上げすぎは循環を抑制する
- 5〜8 cmH2O から始めて、肺・血圧・酸素化を見ながら調整
- 1回換気量は”理想体重×6〜8 mL”
- 実体重ではなく理想体重で計算するのを忘れずに
- 挿管理由ごとに初期設定の重心が変わる
- 気道確保/肺炎・肺水腫/喘息・COPD/ARDS/敗血症・発熱で全く違う
- VCV特有:吸気流量とトリガー感度
- 1 L/IBW から開始/非同調を波形で確認
- PCV特有:吸気時間はフロー波形のゼロ点を狙う
- 前回のフロー波形の知識がここで効いてくる
🎯 第3回のゴール(再掲)
挿管直後、自分の手で人工呼吸器の初期設定を組めるようになる
💡 吹き出し|あつし
「設定の話って、教科書を読んでも頭に入ってこないんだよね。だから、次に当直やICUで人工呼吸器を立ち上げる場面が来たら、ぜひこの記事を片手に“自分で初期設定を組んでみる”をやってみてほしい。一度通しで設定すると、次からは波形を見るだけで微調整の方向性が見えるようになるよ。」
どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
人工呼吸器の初期設定って、結局のところ「なぜ挿管したのか」を言語化できているかに尽きるところがあります。気道確保で挿管したのか、肺の問題で挿管したのか、循環のために挿管したのか──その違いが、FIO2やPEEP、1回換気量の出発点を決めます。
5月はここからさらに、同調しないときの対応/離脱(ウィーニング)の進め方へと進んでいきます。一緒にステップアップしていきましょう。
「自分のところはこう設定してる」「うちはちょっと違うんですよね」みたいな声があれば、
ぜひQラボのチャットやマシュマロで聞かせてください。





