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クローヌスと痙攣(けいれん)は何が違う?

📩 マシュマロでいただいた質問

セロトニン症候群のHunter criteriaで、「誘発なく起こるクローヌス」とあるのですが、これはけいれんとは違うのでしょうか?

中毒セミナー第2回の配信後に、マシュマロでご質問をいただきました。

「クローヌスとけいれん、似ているけれど何が違うのか?」

これ、すごく良い着眼点だと思うんですよね。

臨床の現場でも、この2つの用語がなんとなく混同されていることは少なくありません。

今回はこの違いを丁寧に整理してみたいと思います。


まず用語を整理しよう

「痙攣」「てんかん発作」「クローヌス」

最初にお伝えしたいのは、「痙攣(けいれん)」という言葉自体が、実はかなり広い意味を持っているということです。

日本救急医学会の用語集では、痙攣(convulsion)は「全身または一部の筋肉の不随意な収縮」を指す症候名とされています。

つまり、痙攣=てんかん発作、ではないんですよね。痙攣はあくまで「筋肉が不随意に収縮している」という見た目の記述であって、その原因は脳の異常放電(てんかん発作)のこともあれば、代謝異常や薬物によるものなど、さまざまです。

今回のご質問の核心は、「セロトニン症候群で見られるクローヌスは、てんかん発作(seizure)とどう違うのか」ということだと思います。

以下では、この2つを比較しながら解説していきますね。

💡 用語の整理

用語 英語 意味
痙攣(けいれん) convulsion 筋肉の不随意な収縮の総称(症候名)。原因は問わない
てんかん発作 seizure 大脳皮質の異常な電気活動(異常放電)によって起こる発作
クローヌス clonus リズミカルで反復的な筋の不随意収縮。主に脊髄の伸張反射回路の過剰興奮による上位運動ニューロン徴候

てんかん発作(seizure) 大脳皮質が発生源

てんかん発作は、大脳皮質のニューロンが異常に同期して放電することで起こります。全般性強直間代発作(GTC)がイメージしやすいかもしれません。

📋 てんかん発作の特徴

  • 発生源:大脳皮質の異常な電気活動
  • 検査:脳波(EEG)でてんかん性放電が検出される
  • 意識:全般発作では意識消失を伴うことが多い(ただし焦点起始発作では保たれることもある)
  • 発作後:postictal state(もうろう状態、Todd麻痺など)を伴うことがある
  • 誘発:関節の他動運動では誘発されない

ここでは主に全般性強直間代発作との比較で話を進めますが、焦点起始意識保持発作(かつての単純部分発作)のように意識が保たれるタイプもあるので、「意識が保たれているからてんかん発作ではない」と一概には言えない点は押さえておきたいですね。


では「クローヌス」とは何か

一方、クローヌス(clonus)は脊髄レベルの反射回路の異常によって起こるとされています。

通常、脊髄の伸張反射は上位運動ニューロン(脳から脊髄に下りてくる経路)からの下行性抑制によってコントロールされています。

この抑制が何らかの原因で弱まると、伸張反射が過剰に繰り返されて、リズミカルな不随意運動として出現する。これがクローヌスの本態と考えられています(StatPearls: Clonus, 2024)。

その発生機序には「末梢の伸張反射回路が自己再興奮する」という説と「中枢からの信号が収縮の持続を命じる」という説の2つがあり、いずれも下行性の抑制経路(特に背側網様体脊髄路)の障害が根底にあるとされています。

見た目は痙攣に似ることもありますが、メカニズムが根本的に異なるんですよね。

✅ クローヌスのポイント

  • 発生源:脊髄の反射回路(上位運動ニューロンからの下行性抑制が低下し、伸張反射が過剰に繰り返される)
  • 検査:脳波では異常を認めないことが多い
  • 意識:脊髄レベルの現象であるため、クローヌス自体が意識に影響することは通常ない
  • 誘発:足関節の急速背屈などで誘発できる
  • 好発部位:下肢(特に足関節)に出やすい
  • 動きの特徴:規則的でリズミカルな律動的収縮

なぜセロトニン症候群で「クローヌス」が起きるのか

セロトニン症候群でクローヌスが起こる機序について、もう少し掘り下げてみます。

脳幹にある尾側縫線核群(raphe magnus, raphe obscurus, raphe pallidus)からは、セロトニン作動性の下行経路が脊髄の前角に投射しています。

セロトニン症候群では、薬剤の相互作用などにより体内のセロトニン活性が過剰になることで、この経路を介して脊髄の運動ニューロンが過剰に興奮するとされています(Boyer EW, Shannon M. N Engl J Med. 2005)。

特に関与が指摘されているのが5-HT1A受容体と5-HT2A受容体です。Boyer & Shannon(2005)のレビューでは、5-HT2A受容体の過剰刺激がセロトニン症候群の神経筋症状に大きく寄与すると報告されています。

また、5-HT1A受容体は脊髄の中でも腰髄レベルに高密度に発現していることが報告されており(Khalatbari H, et al. Cell Death Dis. 2011)、これがセロトニン症候群で下肢にクローヌスが出やすい理由の一つと考えられています。

だからこそ、Hunter Serotonin Toxicity Criteria(以下、Hunter Criteria)では「痙攣」ではなく「クローヌス」という用語をあえて採用しているんですね。

病態の主座が「大脳皮質の異常放電」ではなく「脊髄レベルの神経筋の過活動」にあるからです。

💡 Hunter Criteriaにおけるクローヌスの位置づけ

Hunter Criteriaは、セロトニン作用薬の投与歴を前提条件として、以下のいずれかを満たす場合にセロトニン症候群と診断する基準です(Dunkley EJC, Isbister GK, Sibbritt D, Dawson AH, Whyte IM. QJM. 2003;96(9):635-642)

5つの判定ルートのうち、3つにクローヌスが含まれていることがわかります。

  • 自発クローヌス(これだけで診断可能)
  • 誘発クローヌス + 興奮(agitation)or 発汗(diaphoresis)
  • 眼球クローヌス + 興奮(agitation)or 発汗(diaphoresis)
  • 振戦(tremor) + 深部腱反射亢進(hyperreflexia)
  • 筋強剛(hypertonia) + 体温 > 38℃ + 眼球クローヌス or 誘発クローヌス

クローヌスの3分類  Hunter Criteriaの中での整理

Hunter Criteriaでは、クローヌスを以下の3つのタイプに分けて扱っています。

それぞれ診断基準における重みが異なるので、整理しておきましょう。

📊 クローヌスの3分類

分類 特徴 Hunter Criteriaでの扱い
誘発クローヌス
(inducible clonus)
足関節の急速背屈などの刺激で誘発される、リズミカルな律動的収縮 + 興奮 or 発汗で診断
自発クローヌス
(spontaneous clonus)
外的刺激なしに自然に起こるもの(今回のご質問はこちら) 単独で診断可能
眼球クローヌス
(ocular clonus)
眼球がリズミカルに水平方向へ緩徐に動く現象 + 興奮 or 発汗で診断

注目したいのは、自発クローヌスはセロトニン作用薬の投与歴があれば、他の所見がなくてもそれだけでセロトニン症候群の診断基準を満たすとされている点です(Dunkley et al. 2003)

誘発クローヌスや眼球クローヌスでは興奮や発汗の併存が求められることと比較すると、自発クローヌスの診断的な重みの大きさがわかりますね。


ベッドサイドで見分けるポイント

では、臨床の現場でクローヌスとてんかん発作をどう見分けるか。

ここでは主に全般性強直間代発作との比較で整理します。

📋 ベッドサイドでの鑑別ポイント

観察項目 クローヌス てんかん発作(全般性強直間代発作)
好発部位 下肢に出やすい(特に足関節) 全身性のことが多い
動きのパターン 規則的でリズミカルな律動 強直相→間代相と変化する
誘発 足関節の急速背屈で誘発可能 関節の他動運動では誘発されない
意識 通常は保たれている 消失・発作後のもうろう状態を伴いやすい
発生源 脊髄レベルの反射弓 大脳皮質の異常放電
脳波(EEG) 通常は異常を認めない 異常波形(てんかん波)を認める

「足関節を急速に背屈させてみて、リズミカルな律動が誘発されるかどうか」は、ベッドサイドですぐにできる簡便な方法ですので、ぜひ覚えておきたいですね。


注意  セロトニン症候群でも「てんかん発作」は起きうる

ここは重要なポイントなので、強調しておきたいと思います。

セロトニン症候群の主たる神経筋症状はクローヌスですが、重症例ではてんかん発作(seizure)も起こりうることが報告されています。

ある文献レビューでは、セロトニン症候群患者さんにおける痙攣発作の頻度は最大29%に上るとする報告もあります。

⚠️ クローヌスだけじゃない てんかん発作の併存にも注意

てんかん発作の場合は、前頭前皮質に豊富に分布する5-HT受容体を介した皮質レベルの興奮が原因と考えられており、クローヌスの脊髄レベルの機序とは異なるとされています。

つまり、セロトニン症候群では「クローヌス(脊髄レベル)」と「てんかん発作(皮質レベル)」が併存しうるということです。

「クローヌスだからてんかん発作ではないはず」と安心するのではなく、特に重症例では両方が起きている可能性を意識しておきたいですね。


重症例では「クローヌスが隠れる」こともある

もう一つ、注意しておきたいことがあります。

セロトニン症候群が重度になると、筋強剛(rigidity / hypertonia)が強くなり、クローヌスが見えにくくなる、あるいはマスクされてしまうことがあると報告されています。Boyer & Shannon(2005)は、重症例では筋強剛がクローヌスに取って代わる(”rigidity usually replaces clonus”)と述べています。

筋肉の緊張が高まりすぎると、リズミカルな反射運動であるクローヌスが物理的に出にくくなるんですよね。

⚠️ 重症例でのピットフォール

重度のセロトニン症候群では、筋強剛によりクローヌスが出現しにくくなることがあります。そのため、Hunter Criteriaでは「筋強剛(hypertonia) + 体温 > 38℃ + 眼球クローヌス or 誘発クローヌス」という別の判定ルートが用意されています(Dunkley et al. 2003)。

四肢のクローヌスが明らかでなくても、セロトニン作用薬の投与歴があり、高体温と筋強剛を認めた場合は、眼球クローヌスの有無を確認するとともに、セロトニン症候群の可能性を考えておきたいところです。


補足:「クローヌス」と「ミオクローヌス」は異なる概念です

前野先生がオープンチャットで「ミオクローヌス」という言葉を使ってくださいましたが、実はクローヌス(clonus)とミオクローヌス(myoclonus)は厳密には異なる現象です。混同しやすいポイントなので、ここで整理しておきますね。

📊 クローヌスとミオクローヌスの違い

クローヌス(clonus) ミオクローヌス(myoclonus)
動きのパターン 規則的・リズミカルな律動的収縮 突然の短い電撃様の収縮(不規則なことが多い)
持続時間 比較的持続する(刺激が続く限り) 一瞬のジャーク(jerk)
発生源 脊髄の伸張反射回路 皮質性・皮質下性・脊髄性・末梢性とさまざま
誘発 関節の受動的伸展で誘発可能 自発性のことが多く、刺激感受性のものもある

歴史的には、旧来のSternbach基準(1991)ではセロトニン症候群の所見として「ミオクローヌス」が使われていました。

しかし、2003年にDunkleyらが提唱したHunter Criteriaでは、より診断的特異度の高い「クローヌス」に置き換えられています(Isbister GK, Buckley NA. The pathophysiology of serotonin toxicity in animals and humans. Clin Neuropharmacol. 2005;28(5):205-214)

実際の臨床現場では「ミオクローヌス」という表現も広く使われていますし、両者が混在して出現することもあります。

ただ、Hunter Criteriaの文脈においては「クローヌス」が正確な用語であることを押さえておくと、文献を読むときにも役立つかと思います。


実際の症例動画 ── 百聞は一見にしかず

前野先生がオープンチャットで、実際のセロトニン症候群の動画や参考資料を共有してくださいました。

教科書の文字だけでは掴みにくいクローヌスの「リズミカルな動き」が、動画で見ると一目でわかります。百聞は一見にしかず、ですね。

💡 前野先生

「セロトニン症候群において、ミオクローヌスは非常にポイントになる兆候なので、こうして深掘りして覚えてほしいところです。神経内科系で困ったら杉田先生の『醫學事始』を読めばたいがい解決します。」

(※前野先生のコメントでは「ミオクローヌス」と表現されていますが、Hunter Criteriaの文脈では上述のとおり「クローヌス」が正確な用語です。臨床現場では両方の表現が使われることがあります。)

前野先生が紹介してくださった参考リンクも、ぜひチェックしてみてくださいね。

✅ 参考リンク

  • ミオクローヌスの解説(醫學事始・杉田先生)こちら
  • セロトニン症候群の実際の動画(YouTube)こちら
  • Q-LABポータルサイト(過去のセミナー・文献まとめ)こちら

私自身の経験から ── セロトニン症候群は稀だけど忘れられない

正直に言うと、セロトニン症候群を実臨床で経験したのは2度しかありません。

1例は最終的に「疑い」にとどまりました。

でも、もう1例はかなり典型的な症状が出ていて、今でもよく覚えています。下肢のクローヌスが明らかで、意識は保たれているのに足がリズミカルに動いている。あの光景は、一度見ると忘れないんですよね。

セロトニン症候群は頻度が高い疾患ではないかもしれませんが、「知っているかどうか」でベッドサイドでの気づきが大きく変わる疾患の一つだと思います。こうして質問をきっかけに深掘りしておくことが、いつか現場で役立つ瞬間が来るはずです。


どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

クローヌスと痙攣の違い、今回の記事で少しでもクリアになっていたら嬉しいです。「こういう患者さんを経験したことがある」「このあたりがまだモヤモヤする」など、ぜひオープンチャットやマシュマロで共有してくださいね◎

皆さんの疑問が、Q-LABの学びをどんどん深くしてくれています。引き続き、一緒に学んでいきましょう。


参考文献

  • Dunkley EJC, Isbister GK, Sibbritt D, Dawson AH, Whyte IM. The Hunter Serotonin Toxicity Criteria: simple and accurate diagnostic decision rules for serotonin toxicity. QJM. 2003;96(9):635-642. (PMID: 12925718)
  • Boyer EW, Shannon M. The serotonin syndrome. N Engl J Med. 2005;352(11):1112-1120. (PMID: 15784664)
  • Isbister GK, Buckley NA. The pathophysiology of serotonin toxicity in animals and humans: implications for diagnosis and treatment. Clin Neuropharmacol. 2005;28(5):205-214. (PMID: 16239759)
  • Clonus. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024. (PMID: 30521283)
  • Serotonin Syndrome. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024. (PMID: 29493999)
  • Khalatbari H, et al. Anatomical study of serotonergic innervation and 5-HT1A receptor in the human spinal cord. Cell Death Dis. 2011;2:e226. (PMID: 21993394)