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急性期栄養療法の基本【48時間以内に始める理由】

「先生、この患者さん、いつから栄養始めますか?」

ICUで看護師さんからこう聞かれたとき、自信を持って答えられますか?

「状態が落ち着いてから」「もう少し様子を見てから」

そう答えていた時期が、僕にもありました。


急性期栄養療法って、そもそも何?

急性期栄養療法という言葉、聞いたことはあっても、具体的に何をするのかイメージしにくい方も多いんじゃないかなと思います。

簡単に言うと、重症疾患や手術直後の患者さんに、できるだけ早い時期から適切に栄養を投与して、予後を改善する治療戦略のことです(1,2)

📋 なぜ早期の栄養が大切なのか

  • 疾患自体の侵襲が高い:カロリー消費量が増えている
  • 体力低下のリスク:筋肉の萎縮、免疫力の低下
  • 社会復帰への下支え:治療だけでなく、回復を支える基盤

急性期というと、どうしても疾患の治療や手術に注目されがちなんですけど、患者さんを実際に立ち上がらせていくためには、栄養療法という下支えがすごく大事になります。


なぜ48時間以内なのか

「早期経腸栄養」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。この「早期」というのは、具体的には48時間以内を指すことが多いです(1,2,3)

✅ 48時間以内の経腸栄養で期待できる効果

  • 腸管粘膜の形態を維持する
  • バクテリアルトランスロケーション(BT)を予防する
  • 感染症のリスクを減らす

バクテリアルトランスロケーションって難しい言葉ですよね。簡単に言うと、腸管を介して感染症を引き起こしてしまう現象のことです。

💡 イメージしてみてください

腸を使わないでずっといると、腸の粘膜が弱くなったり、感染に弱くなったりしますよね。だから、腸管粘膜を守る意味でも、48時間以内に栄養を投与しましょう、というわけです(1)


昔は「待つ」のが当たり前だった

実は昔は、肺炎や感染症、心不全の患者さんには、「状態が悪い時に栄養するなんて、患者さんにとって負担になるからやめよう」という時代もあったと言われています。

でも近年は、なるべく早めに、少しずつでも栄養を投与することが推奨されているんです(2,3)

もちろん、ただ闇雲に始めればいいというわけではありません。注意しないといけないリスクがあります。


経腸栄養を始めるときの2つのリスク

1. NOMI(非閉塞性腸管虚血)

NOMIは「Non-Occlusive Mesenteric Ischemia」の略で、日本語では非閉塞性腸管虚血といいます(3)

⚠️ NOMIとは

血管が血栓で詰まったりという明らかな原因がないのに、腸管が虚血で壊死してしまう状態。ショックの患者さんのように、全身の循環が悪い患者さんに起こりやすいと言われています。

特に注意:ノルアドレナリン 0.1γ以上を使用している場合は、経腸栄養によるNOMIのリスクがある

💡 NOMIを疑うサイン

  • カテコラミンが増えてきている
  • お腹が張ってきている
  • 血液ガスで乳酸(ラクテート)が上昇してきている
  • 経腸栄養の胃残量が多い

ゴールドスタンダードな診断方法はないのですが、これらの異常があれば疑って、造影CTなどの検査につなげていくことが大切です。

2. リフィーディング症候群

これまで食事を摂取していなかった低栄養の患者さんに、急に栄養が投与されることで、様々な電解質やビタミンB群が急速に消費され、臓器障害を起こす状態です(4)

💡 豊臣秀吉の兵糧攻めの逸話

長期間食事ができなかった人たちに、急にたくさんご飯を食べさせたら、みんな体調を崩してしまった。これがまさにリフィーディング症候群のイメージです。

📊 リフィーディング症候群のリスク因子

  • 慢性的に栄養不足な患者さん
  • 普段より10kg以上体重が落ちている患者さん
  • 7〜10日以上、経腸栄養が不十分な患者さん

⚠️ 特に注意すべきは「リン」

電解質の中でも特に重要なのがリン(P)です。低リン血症は致死的な不整脈を起こすことがあります(4)

リスクのある患者さんでは:

  • 電解質(特にリン)をモニタリングする
  • カロリーをかなり少ない量から少しずつ上げる

持続投与 vs 間欠投与

経腸栄養を始めるとき、「持続投与」と「間欠投与」のどちらがいいか、悩むことがあると思います(2,3)

✅ 持続投与 vs 間欠投与

投与法 特徴 適応
持続投与 1時間あたり一定量を連続的に投与 重症患者、循環不安定な場合
間欠投与 1日3回など、食事のタイミングで投与 状態安定後、最終的にはこちらを目指す

急性期で重症な患者さんでは、少量を持続投与から始めて、状態が安定してきたら間欠投与に切り替えるのが一般的です。


カロリー設計:Permissive Underfeeding

今日一番覚えて帰ってほしいのが、この言葉です。

💡 Permissive Underfeeding(許容的低栄養)

本来必要なカロリーよりも、あえて少なめに栄養を投与する戦略(2,5)

なぜこの治療方針が大切なのでしょうか?

栄養を投与するということは、循環動態や腸管に負担をかけることになるからです。だから、48時間以内になるべく少なめでもいいので始めて、だいたい1週間ぐらいかけて徐々に増やして、目標に持っていく

📋 カロリー増量の目安

時期 目標カロリー
開始時 少量から
ICU 4日目頃 20-25 kcal/kg/日
1週間かけて 目標量へ

タンパク質も「多ければいいわけじゃない」

カロリーと同様、タンパク質も多すぎても少なすぎてもダメです(2,3)

昔は「筋肉の萎縮を予防するために、タンパクをガツガツ投与しよう」という時期もありました。でも、過剰なタンパクは腎臓や消化管への合併症を引き起こすことが分かっています。

💡 タンパク質投与の目安

  • 1〜1.3 g/kg/日が妥当
  • 4〜7日間かけて目標に到達させる
  • 2 g/kg/日を超えると予後が悪化する可能性

ただし、重症熱傷や重症外傷の患者さんは、より多くのタンパク質が必要。逆に、腎機能が悪い患者さんでは注意が必要です。


まとめ

✅ 急性期栄養療法のポイント

  1. 48時間以内に経腸栄養を開始:腸管粘膜を守り、感染リスクを減らす
  2. NOMIに注意:ノルアドレナリン0.1γ以上はリスクになりえる
  3. リフィーディング症候群に注意:リンをモニタリング
  4. Permissive Underfeeding:少なめから始めて1週間かけて増量
  5. タンパク質は1〜1.3 g/kg/日:多すぎても害がある

引用文献

  1. Reintam Blaser A, et al. Early enteral nutrition in critically ill patients: ESICM clinical practice guidelines. Intensive Care Med. 2017;43(3):380-398. [PubMed]
  2. Singer P, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019;38(1):48-79. [PubMed]
  3. McClave SA, et al. Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: SCCM and A.S.P.E.N. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016;40(2):159-211. [PubMed]
  4. NICE Guideline CG174: Intravenous fluid therapy in adults in hospital. 2013; updated 2017.
  5. Moritz ML, Ayus JC. Maintenance Intravenous Fluids in Acutely Ill Patients. N Engl J Med. 2015;373:1350-1360. [PubMed]
  6. 日本集中治療医学会. 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン. 2016.

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急性期栄養療法って、最初は難しく感じるかもしれません。でも、基本的な考え方を押さえておくと、目の前の患者さんにどう栄養を投与するか、少しずつ見えてくるんじゃないかなと思います。

48時間以内に始める。でも、リスクを評価してから。少なめから始めて、徐々に増やす。

この考え方を、ぜひ明日からの臨床に活かしてもらえたら嬉しいです。一緒に頑張りましょう。