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血ガスで「SHg検出」と出たら?【スルフヘモグロビン血症を文献的に深掘りする】

Qラボに届いた、とても貴重な症例共有

Qラボのオープンチャットに、こんな貴重な症例共有が届いたんです。

📩 Qラボメンバーからの症例共有

日、血ガスで「SHg検出されました」というメッセージが出ました。初めて見たメッセージで戸惑いましたが…スルフヘモグロビン血症、硫化水素中毒疑いということでした。

この方は□□周囲膿瘍で、血培からE.coliが出まして、初めは広域の抗生剤を使用していましたが、血培結果からCEZにde-escalationしました。

これを読んで、私も興奮しました。

「SHg検出」なんて、血ガスで見たことがない。

E.coliによる膿瘍で硫化水素が産生されて、それがヘモグロビンと結合して…という機序なんだろうなと思うのですが、正直なところ、ちゃんと調べたことがなかったんです。

だからこそ、この機会に文献的に深掘りして、臨床でどう生かせるかまで考えてみたいと思います。

スルフヘモグロビン血症とは何か?

まず、基本から整理しましょう。

スルフヘモグロビン血症(Sulfhemoglobinemia)は、血液中にスルフヘモグロビン(SulfHb)が過剰に存在する稀な病態です。

💡 スルフヘモグロビンとは?

1984年のNew England Journal of Medicineの総説によると、スルフヘモグロビンは「硫黄原子がヘモグロビンのヘム構造に直接取り込まれた」異常ヘモグロビンです。

ここが重要なポイントなんですが、この結合は不可逆なんです。

メトヘモグロビン血症のように還元して元に戻すことができません。

一度スルフヘモグロビンになってしまったら、その赤血球が寿命を迎えるまで(約120日)、元に戻ることはありません。


なぜ危険なのか?〜酸素運搬能の障害〜

スルフヘモグロビンは、酸素と結合する能力を失っています。

でも、興味深いことに、メトヘモグロビン血症とは違う特徴があるんです。

メトヘモグロビン血症との違い

メトヘモグロビン血症 スルフヘモグロビン血症
酸素解離曲線 左方シフト(組織への酸素放出↓) 右方シフト(組織への酸素放出↑)
チアノーゼが出る濃度 1.5 g/dL以上 0.5 g/dL以上
解毒剤 メチレンブルー なし(不可逆)
回復 数時間〜数日 約120日(赤血球の寿命)

✅ 臨床的に重要なポイント

スルフヘモグロビン血症は酸素解離曲線を右方シフトさせるということ。

これは、組織への酸素放出は促進されるということを意味します。

だから、同じ濃度であれば、メトヘモグロビン血症よりも臨床的な影響は少ないとされているんです。

でも、チアノーゼはわずか0.5 g/dLで出現します。

メトヘモグロビン血症の3分の1の濃度です。

つまり、「見た目のチアノーゼはひどいけど、意外と酸素化は保たれている」という状況が起こり得るんですね。


原因は何か?〜薬剤と細菌〜

スルフヘモグロビン血症の原因は、大きく分けて2つあります。

📋 スルフヘモグロビン血症の原因

1. 薬剤性(最も多い)

  • フェナゾピリジン(尿路感染症に使われる鎮痛薬)
  • サルファ剤(ST合剤など)
  • スルファサラジン(潰瘍性大腸炎の治療薬)
  • メトクロプラミド(制吐剤)
  • リドカイン

2. 細菌による硫化水素産生

  • E.coliによる尿路感染症・膿瘍
  • Morganella morganiiなどの硫化水素産生菌
  • 慢性便秘に伴う腸内細菌叢の変化

今回の症例のように、細菌感染による硫化水素(H₂S)産生が原因となることがあります。これが、E.coliによる膿瘍でスルフヘモグロビン血症が起きた理由なんです。

💡 

「細菌が硫化水素を産生するって、意外と知られていないよね。E.coliやMorganella morganiiなどが原因になることがあるんだ。膿瘍や尿路感染症で『SHg検出』と出たら、この機序を思い出してほしい。」


血ガスで「SHg検出」と出る理由〜コオキシメトリーの仕組み〜

ここで、今回の症例の核心に迫りましょう。なぜ血液ガス分析で「SHg検出」というメッセージが出たのでしょうか?

コオキシメトリー(CO-oximetry)とは

現代の血液ガス分析装置には、コオキシメトリーという機能が搭載されています。これは、複数の波長の光を使って、ヘモグロビンの種類を識別する技術です。

コオキシメトリーで測定できるもの

  • 酸素化ヘモグロビン(O₂Hb)
  • 脱酸素化ヘモグロビン(HHb)
  • 一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)
  • メトヘモグロビン(MetHb)
  • スルフヘモグロビン(SulfHb)※最新の装置

最新の装置では、スルフヘモグロビンも測定可能なんです。

⚠️ 注意:メトヘモグロビンとの混同

スルフヘモグロビンとメトヘモグロビンは、吸光波長が近い(614 nmと630 nm付近)んです。

そのため、古い装置では、スルフヘモグロビンがメトヘモグロビンとして誤って報告されることがあります。

「メトヘモグロビン血症だと思ってメチレンブルーを投与したのに、全然効かない…」そんな時は、スルフヘモグロビン血症を疑う必要があるのかもしれません。

シアン化物試験による鑑別

スルフヘモグロビンとメトヘモグロビンを鑑別する方法として、シアン化物試験があります。

  • メトヘモグロビン:シアン化物と反応して、鮮やかな赤色(シアンメトヘモグロビン)になる
  • スルフヘモグロビン:シアン化物と反応しない、色は変わらない

ただし、この検査ができる施設は限られているのが現状です。


臨床的に疑うべきシチュエーション

では、どんな時にスルフヘモグロビン血症を疑うべきでしょうか?

🚨 スルフヘモグロビン血症を疑うサイン

  1. 酸素投与に反応しないチアノーゼ
    • SpO₂が低いのに、酸素を投与しても改善しない
    • PaO₂は正常なのに、SpO₂だけが低い(Saturation gap > 5%)
  2. メチレンブルーが効かないメトヘモグロビン血症
    • メトヘモグロビン血症と診断してメチレンブルーを投与したのに、改善しない
  3. 特定の薬剤を使用している患者
    • フェナゾピリジン、サルファ剤、メトクロプラミドなど
  4. 細菌感染症(特に膿瘍や尿路感染症)を合併している患者
    • E.coliやMorganella morganiiなどの感染
  5. 慢性便秘のある患者
    • 腸内細菌叢の変化による硫化水素産生

💡 

「『酸素を上げてもSpO₂が上がらない』『メチレンブルーが効かない』これらは、スルフヘモグロビン血症を疑うサインだよ。血ガスでSHgを測定できるか、検査室に確認してみてね。」


治療はどうするのか?

残念ながら、スルフヘモグロビン血症には特異的な解毒剤がありません

メトヘモグロビン血症にはメチレンブルーが使えますが、スルフヘモグロビンには効きません。なぜなら、硫黄原子の結合が不可逆だからです。

✅ 治療の原則

1. 原因の除去

  • 原因薬剤の中止
  • 感染症の治療(今回の症例では抗菌薬によるde-escalation)

2. 支持療法

  • 酸素投与
  • 必要に応じて輸血

3. 重症例では交換輸血

  • スルフヘモグロビン濃度が高く、症状が重篤な場合

4. 経過観察

  • 赤血球の寿命(約120日)で自然に改善する
  • 外来でフォローし、3ヶ月後にスルフヘモグロビンが検出されなくなることを確認

2025年のEmergencias誌に報告された症例では、メトクロプラミド中毒によるスルフヘモグロビン血症が、薬剤中止と酸素投与のみで3ヶ月後に完全回復しています。


今回の症例から学ぶこと

さて、今回共有いただいた症例に戻りましょう。E.coliによる膿瘍で、血液ガス分析で「SHg検出」と出た。この症例から、私たちが学べることは何でしょうか?

📚 この症例から学ぶ4つのポイント

1. 血ガスの「異常メッセージ」を見逃さない

「SHg検出」というメッセージは、日常的に見るものではありません。でも、見慣れないからといって無視してはいけない。このメッセージが出たら、スルフヘモグロビン血症という稀な病態を思い出してください。

2. 細菌感染と硫化水素産生の関連を知る

E.coliなどの細菌は、硫化水素を産生することがあります。膿瘍や尿路感染症で「SHg検出」と出たら、細菌由来の硫化水素がスルフヘモグロビンを形成した可能性を考えましょう。

3. 感染症治療(de-escalation)の重要性

今回の症例では、血培結果に基づいてCEZにde-escalationされています。スルフヘモグロビン血症の治療は「原因の除去」が基本です。感染症が原因なら、適切な抗菌薬治療が最も重要な治療になるんです。

4. 点と点がつながる学び

投稿者の方が「Qラボで勉強したことがつながった」と書いてくださいました。de-escalationという言葉を知っていたからこそ、カルテの記載が理解できた。これこそが、学びの醍醐味だと思うんです。


参考文献

  1. Park CM, Nagel RL. Sulfhemoglobinemia: Clinical and Molecular Aspects. N Engl J Med. 1984;310(24):1579-1584.
  2. Flexman AM, Del Vicario G, Bhardwaj A. Pseudomethemoglobinemia: a case report and review of sulfhemoglobinemia. JAMA Pediatr. 1998;152(9):883-886.
  3. Gille B, et al. A case of sulfhemoglobinemia in a child with chronic constipation. Pediatrics. 2017;139(3):e20160866.
  4. Lu HC, et al. Sulfhemoglobinemia in a 53-Year-Old With a History of Phenazopyridine Misuse. Cureus. 2023;15(7):e41668.
  5. Santos-Velázquez CS, et al. Insights into Sulfhemoglobin Detection: UV-Vis and Fluorescence Spectroscopy Correlations. J Chem. 2023;2023:8854277.
  6. A Case of Sulfhemoglobinemia Secondary to a Urinary Tract Infection. J Pediatr Hematol Oncol. 2020;42(8):e749-e751.
  7. Sulfhemoglobinemia: A case report. Emergencias. 2025.

どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

スルフヘモグロビン血症、私も今回初めてちゃんと調べました。

一緒に学び、一緒に驚き、そして一緒に成長していきましょう。