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重症頭部外傷の初期治療とICU管理〜二次的脳損傷を防ぐために〜

📌 この記事は、以下のスライドでまとめた内容を記事として再構成したものです。

スライドを埋め込みますので、併せてご覧ください。

重症頭部外傷、あなたは自信を持って対応できますか?

救急外来やICUで頭部外傷の患者さんを診る機会、多いですよね。

でも、ふと立ち止まって考えてみてください。

「重症頭部外傷」とは具体的にどのような状態を指すのか、明確に説明できますか?

初期対応で何を優先すべきか、ICUでの管理目標は何か、最新のエビデンスではどうなっているのか…。

この記事では、重症頭部外傷の管理について、最新のガイドラインとエビデンスをもとに整理していきます。


重症頭部外傷とは?〜まず定義を押さえよう〜

📋 重症頭部外傷の定義

GCS(Glasgow Coma Scale)≦ 8点

蘇生後のGCSで評価し、8点以下であれば重症頭部外傷として対応します。

重症頭部外傷の管理で最も重要なのは、二次的脳損傷を防ぐことです。

一次的脳損傷(受傷時の直接的なダメージ)は、私たちには介入できません。

しかし、低酸素・低血圧・脳圧亢進といった二次的脳損傷は、適切な管理で予防できるのです。

ここが、私たちの腕の見せ所なんですね。


JATECに基づく初期評価〜「まいど」で覚えよう〜

外傷初期診療では、ABCDアプローチに準拠して評価を進めます。

D(Dysfunction of CNS:意識障害)の評価では、「まいど」という語呂合わせが便利です。

💡 「まいど」で意識評価

  • :麻痺(片麻痺の有無)
  • :意識レベル(GCS)
  • :瞳孔所見(大きさ、対光反射)

関西弁の「まいど!」と覚えると、忘れにくいですよね。

⚠️ 「切迫するD」を見逃すな!

以下の所見があれば、「切迫するD」として緊急対応が必要です。

🚨 切迫するDの基準

  • GCS 8点以下 / JCS Ⅱ-30点以上
  • 経過中にGCS 2点以上低下
  • 脳ヘルニア徴候(+)

対応

  • ABCを安定化させながら、すぐに脳外科コール
  • 気管挿管の適応を考慮
  • Secondary Surveyの前に頭部CT撮影

「切迫するD」を見逃すと、手術のタイミングを逃してしまうかもしれません。

常にアンテナを張っておくことが大切です。


手術適応を示唆する危険な所見

以下の所見は、緊急手術の適応を示唆します。

🔴 危険な所見

  • 瞳孔不同 / 散大
  • Cushing徴候(高血圧・徐脈)
  • 明らかな片麻痺
  • 除脳硬直 / 除皮質硬直

緊急対応

  • 治療介入までpCO2 25-30mmHgの一時的な過換気を考慮
  • 換気設定をFiO2 100%に
  • マンニトール / 高張食塩水の使用

これらの所見があれば、「脳ヘルニアが進行している」と考えて、一刻も早い対応が求められます。


トラネキサム酸の役割〜CRASH-3試験から学ぶ〜

「頭部外傷にトラネキサム酸は有効なの?」

この疑問に答えてくれるのが、2019年に発表されたCRASH-3試験です。

📚 CRASH-3試験の結果

対象:受傷後3時間以内の頭部外傷患者(12,737名)

投与方法

  • ①1g を生食に混注し10分で投与
  • ②1g を生食に混注し8時間で投与

結果

  • 軽症〜中等症(GCS 9-15点)で有効:頭部外傷関連死亡が減少(RR 0.78)
  • 重症(GCS ≦8点)では効果が見られず(RR 0.99)

ここがポイントなんです。

トラネキサム酸は「軽症〜中等症」の頭部外傷で有効であり、GCS 9点以上の患者で受傷後3時間以内に投与することが推奨されます。

一方、重症例(GCS ≦8点)では効果が限定的です。重症例では出血以外の要因による死亡が多いため、TXAの効果が見えにくいと考えられています。

「重症だからこそTXA!」ではなく、「軽症〜中等症こそTXA!」と覚えておきましょう。

ICP・CPPを理解する〜脳灌流の生理学〜

ICU管理において最も重要な概念が、ICP(頭蓋内圧)CPP(脳灌流圧)です。

この2つの関係を理解することが、重症頭部外傷管理の基本中の基本です。

🧠 CPPの計算式

CPP = MAP − ICP

脳灌流圧 = 平均動脈圧 − 頭蓋内圧

正常値(mmHg)

パラメータ 正常値
ICP 10-15 mmHg
MAP 70-90 mmHg
CPP 60-80 mmHg

つまり、脳を守るためには「ICPを下げる」か「MAPを上げる」ことが必要なんです。

ICP亢進の治療閾値

ガイドラインでは、以下の閾値が推奨されています。

  • 米国BTFガイドライン(2016):ICP ≧ 22 mmHg
  • 日本重症頭部外傷ガイドライン:ICP ≧ 15-20 mmHg

ただし、重要なのは、ICP閾値は絶対的なものではないということ。

臨床所見・CT所見と組み合わせて、総合的に判断することが大切です。

ICP亢進の段階的治療〜Staircase Approach〜

ICP亢進に対しては、段階的に治療を進めていくアプローチが推奨されています。

いきなり最終手段に飛びつくのではなく、階段を一段ずつ登るように治療を進めていきます。

📈 基本的な管理(まず徹底すべきこと)

  • 頭位30度・正中位
  • 適切な鎮静・鎮痛
  • pCO2:35-40 mmHg(ルーチンの過換気は避ける)

段階的治療の進め方

段階 治療内容 ポイント
気管挿管 ルーチンでの過換気は推奨されず
鎮静・鎮痛↑ BZ系より非BZ系(プロポフォール等)を推奨
脳室ドレナージ 圧:10-15cmH2O、量:100-200mL/日
浸透圧療法 高張食塩水、マンニトール
過換気療法 一時的な緊急避難のみ
体温管理 予防的低体温は推奨されない(発熱防止が重要)
バルビツレート療法 低血圧に注意
減圧開頭術 Large DC(≧15cm)を推奨

低体温療法に関する最新の知見〜実は推奨されていない〜

「低体温療法は脳保護に有効」と思っていませんか?

実は、最近の大規模RCTでは否定的な結果が出ているんです。

📊 主要な臨床試験の結果

EUROTHERM3235試験(2015年)

387例・18カ国の多施設RCT

結果:低体温群で死亡率と不良な神経学的転帰が増加

POLAR-RCT(2018年)

511例・6カ国の多施設RCT

結果:予防的低体温療法は6ヵ月後の予後を改善せず

これらの結果を受けて、現在のエビデンスでは:

✅ 予防的低体温療法は推奨されない

✅ 発熱防止(平温療法:36-37.5℃の維持)が重要

「冷やせばいい」という単純な話ではないんですね。

ICU管理の目標〜各臓器系別の管理ポイント〜

ICUでの管理目標を、臓器系別に整理しておきましょう。

✅ 循環(血圧管理)

  • 50-69歳:SBP > 100 mmHg
  • 15-49歳・70歳以上:SBP > 110 mmHg

✅ 呼吸(人工呼吸管理)

  • 低酸素を避ける:PaO2 > 60 mmHg
  • pCO2:35-40 mmHg(過換気を避ける)
  • PEEP 15-20 cmH2O程度はICPに有意な影響なし

✅ 神経

  • ICP亢進に対する段階的治療
  • 抗痙攣薬:受傷後1週間以内の早期痙攣予防に有用
    • レベチラセタム or フェニトイン(同等の効果)
    • 7日を超える投与は晩期てんかん予防に無効

✅ その他

  • Hb:> 7 g/dL
  • 電解質:低Na血症を避ける(脳浮腫予防)
  • 栄養:早期経腸栄養を推奨
  • 血糖:140-180 mg/dL目安、低血糖を避ける
  • 体温:高体温(38℃以上)を防ぐ

まとめ

重症頭部外傷の管理、いかがでしたか?

✨ この記事のポイント

  1. 重症頭部外傷はGCS ≦ 8点
    • 早期認識と適切な初期治療が鍵
  2. 二次的脳損傷の予防が最重要
    • 低酸素・低血圧・脳圧亢進を防ぐ
  3. 「切迫するD」を見逃さない
    • 「まいど」で評価、危険な所見は緊急対応
  4. トラネキサム酸は軽症〜中等症で有効
    • GCS ≦8点の重症例では効果が限定的
  5. ICP亢進は段階的に治療
    • 基本的管理を徹底した上で、Staircase Approach
  6. 予防的低体温は推奨されない
    • 発熱防止(平温療法)が重要

参考文献

  1. Carney N, Totten AM, O’Reilly C, et al. Guidelines for the Management of Severe Traumatic Brain Injury, Fourth Edition. Neurosurgery. 2017;80(1):6-15.
  2. CRASH-3 Trial Collaborators. Effects of tranexamic acid on death, disability, vascular occlusive events and other morbidities in patients with acute traumatic brain injury (CRASH-3). Lancet. 2019;394(10210):1713-1723.
  3. Cooper DJ, et al. Effect of Early Sustained Prophylactic Hypothermia on Neurologic Outcomes Among Patients With Severe Traumatic Brain Injury: The POLAR Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018;320(21):2211-2220.
  4. Andrews PJ, et al. Hypothermia for Intracranial Hypertension after Traumatic Brain Injury. N Engl J Med. 2015;373(25):2403-12.
  5. Frontera JA, et al. Guidelines for Seizure Prophylaxis in Adults Hospitalized with Moderate-Severe Traumatic Brain Injury. Neurocrit Care. 2024;40(3):819-844.
  6. 外傷初期診療ガイドライン JATEC 改訂第6版
  7. ACS Best Practices Guidelines: Management of Traumatic Brain Injury. 2024.