Qラボ

PVループで理解する敗血症性ショック

「過収縮に見える」理由を生理学から紐解く

「血液分布異常性ショックの時は心エコーは正常or過収縮になるとのことで…これは後負荷の式 Ea=R×HRより代償でHRが上がれば、後負荷も上昇、正常心であればそれとともに収縮性も上がるため過収縮になる、との認識であってますでしょうか🙇?」— 臨床検査技師・井伊さん

  今回のQラボでは、臨床検査技師の井伊さんから、敗血症性ショックとPVループ(圧-容積ループ)に関する深い質問が寄せられました。 「なぜ敗血症性ショックで心エコー上”過収縮”に見えるのか?」 この疑問を、生理学の基礎に立ち返って一緒に考えていきましょう。

井伊さんからの質問:PVループで循環を理解したい

井伊さんは、手書きの図を添えて丁寧に質問を整理してくれました。

「図は手書きですみません(すみません) ここで質問なのですが…以前、心エコーの教育についての質問時に三谷先生に教えていただいた簡易版RASHプロトコル(みんなの救急救命科p247)にありますように、血液分布異常性ショックの時は心エコーは正常or過収縮になるとのことで… これは後負荷の式 Ea=R×HRより代償でHRが上がれば、後負荷も上昇、正常心であればそれとともに収縮性も上がるため過収縮になる、との認識であってますでしょうか🙇?」— 井伊さん
「全身に血液を送ろうとして過収縮になるのだと思うのですが…PV loopや循環の理解を深めたく、一つ一つ考えるようにしようと思っていまして…」— 井伊さん

PVループで考えるというアプローチ、素晴らしいですね。循環動態を理解する上で、圧-容積関係から考えることはとても重要です。

後負荷(Ea)の理解:HRが上がっても後負荷は”下がる”

井伊さんの質問に対して、私から解説させていただきました。

「コメントありがとうございます!昨日ちょっと忙しい日勤のため少し連絡がおそくなりましたごめんなさい(–;) PV loopで考えるの大切ですよね!ショック+前負荷の代償なので、おっしゃる通り心臓が頑張ってるというイメージを持っていました!そこまでたち戻って考えてみたことがなかったです…! 新しい視点をありがとうございます◎ 今日も少し仕事でバタバタしているので、またゆっくり自分も考えてみます◎ この辺りは生理学を習いたての学生さんも得意な領域かもしれませんね◎ みなさんの仮説や考察を教えてもらえるとうれしいです~!私も考えるヒントにさせていただきます!💡」— 三谷
「お忙しい中、お返事ありがとうございます🙇 臨床検査技師は、ガイトン理論を習ってこないのですが(今の若い子は習ってくるのか…?)そのあたりは、ECMOやImpellaなど、機械的循環補助(MCS)の理解にも重要だと思います。」— 井伊さん

数日かけて調べ直し、改めて解説をまとめました。

「お世話になっております!ちょっと遅くなりました…!改めて、本日調べ直してみました◎ とても丁寧に整理してくださっていて、本当にありがとうございます! 図がわかりやすすぎますね…! 血液分布異常性ショックで起こる前負荷↓、血管抵抗↓、そして HR↑ で代償する、という流れは完璧だと思いますし、治療の方向性もその通りです。そして「心エコーで過収縮に見える」という点も、とても良い視点ですね。 ひとつだけ、私の方で解説できる点があるとすれば後負荷についてです。後負荷(Ea)について少し整理しておくと、Ea は「0.9 × SVR / HR」で決まります。血液分布異常性ショックではSVR が大きく下がり、HR が上がりますが、SVR の低下の方が圧倒的に大きいため、結果として Ea(後負荷)は”低下”します。つまり、HR が上がることで後負荷が増えるわけではなく、 後負荷が下がることで心室が血液を送りやすくなり → 収縮末期容積が小さくなる → 過収縮に見える、という流れになります!ちなみに後負荷はPVループではこのように変動します!」— 三谷

【図:後負荷とPVループの関係】

ここがポイントです。Ea(後負荷)= 0.9 × SVR / HRという式で考えると、敗血症性ショックでは ・SVR(全身血管抵抗)が大幅に低下 ・HRは代償的に上昇 しかし、SVRの低下の方が圧倒的に大きいため、結果として後負荷は”低下”します。

敗血症で後負荷が下がる生理学的メカニズム

さらに、敗血症で後負荷が下がる理由を生理学の流れに沿って整理しました。

「敗血症性ショックで「後負荷が下がる理由」を、生理学の流れに沿って少し丁寧に整理してみますね✏ 敗血症では、炎症性サイトカインが一気に増えることで、一酸化窒素(NO)の産生が亢進します。この NO が末梢血管を広げる作用を持っているため、全身で”血管がゆるむ”状態が起き、全身血管抵抗(SVR)が大きく下がります。   この SVR の大幅な低下 が、そのまま心臓にとっての「後負荷の低下」につながります。圧–容積ループでいうと、左室が血液を押し出すときに必要な圧力が下がるので、同じ収縮力でもスッと血液が出ていくようになるんですね。 その結果、収縮末期容積(ESV)は小さくなり、心エコーでは”過収縮(hyperdynamic)”のように見えることが多くなります。実際、敗血症性ショック初期にみられる低血圧 × 高心拍出 × 低SVRという組み合わせは、この後負荷低下の影響が大きいです。 また、後負荷が低い状態では、心筋の本来の収縮力が隠れてしまうことがあります。バソプレッサーで血管を引き締め、後負荷が”正常域”に戻った時に初めて、潜在的な心収縮力の低下が見えてくることもあるのは、このためです。敗血症性心筋症が、ショックの治療過程で顕在化するのはこのためなのでしょう! つまり、敗血症性ショックで後負荷が下がるのは「炎症 → NO → 血管拡張 → SVR低下 → 後負荷低下」という一本の流れで説明できます。こうしてみると、敗血症で”過収縮に見える”理由も腑に落ちやすいと思います! 参考文献はこちらです▼ https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra032401 — 三谷

敗血症性ショックで「過収縮に見える」理由をまとめると: 炎症 → NO産生亢進 → 血管拡張 → SVR低下 → 後負荷低下 → ESV減少 → 過収縮に見える という一本の流れで理解できます。

敗血症性心筋症が「治療中に顕在化する」理由

もう一つ重要なポイントがあります。 後負荷が低い状態では、心筋の本来の収縮力が隠れてしまうことがあります。バソプレッサーで血管を引き締め、後負荷が”正常域”に戻った時に初めて、潜在的な心収縮力の低下が見えてくることがあります。 敗血症性心筋症が、ショックの治療過程で顕在化するのはこのためです。 つまり、最初は「過収縮」に見えていても、治療が進むにつれて心機能低下が明らかになることがある。この現象もPVループで理解できるんですね。

「とても分かりやすく解説して下さってありがとうございます(ありがとう) 「SVR の低下の方が圧倒的に大きいため、結果として Ea(後負荷)は”低下”します。」この部分がとてもとてもわかりやすく、すごくしっくりきました🙇」— 井伊さん

井伊さんの「しっくりきました」という言葉、とても嬉しいですね。一つ一つ丁寧に考えていく姿勢が、この深い理解につながっています。

今回のディスカッションから学べること

  • 後負荷(Ea)= 0.9 × SVR / HRで決まる
  • 敗血症性ショックではSVRの低下がHR上昇よりも圧倒的に大きいため、後負荷は低下する
  • 敗血症で後負荷が下がるメカニズム:炎症 → NO → 血管拡張 → SVR低下 → 後負荷低下
  • 後負荷が下がると収縮末期容積(ESV)が小さくなり、心エコーで「過収縮」に見える
  • 敗血症性心筋症は治療過程で顕在化することがある(後負荷が戻ると隠れていた心機能低下が見えてくる)
  • PVループで考えることで、循環動態の変化を生理学的に理解できる

Qラボで学ぶ意義:質問から深い理解が生まれる

今回のディスカッションは、まさに「質問から深い学びが生まれる」典型例でした。 井伊さんの「PVループで一つ一つ考えたい」という姿勢が、私自身にとっても新しい視点を与えてくれました。正直、私も数日かけて調べ直してようやく理解できた内容です。 「ちょっと難しすぎた…?」と感じた方も大丈夫です。わからないことを質問すること自体が、学びの第一歩です。   あなたも、気になる疑問があれば、ぜひQラボで共有してみてください。 匿名の質問箱(マシュマロ)もありますので、ハードルを感じる方はそちらからでも大丈夫です。一緒に学び、一緒に成長していきましょう。